物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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627話 予想できないもの

 敵たちは、こちらに近寄ってきていやらしい笑みを浮かべている。パッと見では、2桁後半くらいか? 集団で囲んで、優位を取ったつもりなようだ。

 だが、感じる魔力からすると脅威ではなさそうなんだよな。ミレアルの加護は、最悪途中で強化されかねない怖さがあるとはいえ。

 

 明らかに力に溺れているという感じの、緩んだ顔をしている。敵たちは、エリナとフィリスを見て品定めをするような目をした。

 正直に言って、今の段階で殺して良い気すらしている。いや、本当は良くないのだが。それくらいには不愉快だ。

 

「そのガキを見捨てて俺達に付けば、楽しませてやるぜ?」

 

 そう言いながら、敵たちは魔力を収束させていく。完全に、敵対するつもりのようだ。

 俺は攻撃できるように魔力を練りつつ、敵の動きをよく見ていく。攻撃を仕掛けてきたのなら、即座に殺せるように。

 

「……不要。五曜剣(チェインブレイド)

「私も続くとしよう。神速(ディレイドキル)!」

 

 フィリスが敵のド真ん中に魔力を放ち、爆発させていく。それだけで、複数の敵が形を失う。

 慌てたようにフィリスに魔法を撃とうとする敵たちを、エリナが目にも止まらぬ斬撃で切り裂く。あっけなく真っ二つになっていった。

 

 まだ生きている敵は、明らかに動揺している。まともに魔力を練れていない敵すらいる有様。もう、勝負はついたようなものだな。増援がなければ、ではあるが。

 

「なっ、お前たち! なんで、こんな強い奴らが……!」

無音の闇刃(サイレントブレイド)。相手が悪かったな」

 

 魔力を剣にまといながら、残りの敵を切り裂いていく。反応して防御した敵もいたが、それごと叩き切ってやった。

 結局、殺すことになってしまったか。まあ、どの道結果は同じだっただろうが。敵意は感じ取れたからな。

 

 周囲を探っても、増援がやってくる気配はない。どうも、聖国の時と比べて手ぬるい気がする。

 

「他愛もないものだ。もっと苦戦するかと思っていたのだが……」

「……疑問。これでは、むしろ以前より弱いくらい」

 

 エリナもフィリスも、拍子抜けしたような顔をしている。実際、おかしいんだよな。この程度の戦力で、俺達が苦戦するはずもない。ミレアルなら、分かっていて当然のことだ。ハッキリ言って、準備運動にもなっていない。

 

 一体どういう狙いがあるのか、本当に分からない。

 

「一応は、五属性(ペンタギガ)みたいだが……」

「この程度なら、私ひとりでも勝てただろう。レックスたちが苦戦するほどとは、思えないな」

「なぜ、前回よりも弱い敵を出してくる? 獣人には、魔力が植え付けづらいのか?」

「……推測。実際に植え付けづらいはず。だとしても、違和感がある」

「私も同じ意見だ。負けることが分かっている程度の戦力を、わざわざぶつけるか?」

 

 あり得るとすれば、戦力の調査か? だが、とっくに知っていてもおかしくはない。もっと言えば、エリナしか調査対象はいない。これもピンとこないな。

 

「……索敵。今度は、転移してきたみたい」

 

 俺の魔力探知にも、同様に引っかかった。獣人たちがぞろぞろと現れて、こちらを見ている。さて、何人だろうか。10や20ではないようだが、前回とそう差は感じない。数でも、魔力でも。

 

「エルフなんぞに、大きな顔はさせねえ!」

無音剣(サイレントキラー)がどうした! 魔法も使えねえ程度の存在だろ!」

 

 剣を抜いて、こちらに向けている相手もいる。もう、遠慮する理由はない。さっそく、俺は魔法を放っていく。

 

「まったく、困ったものだ。闇の刃(フェイタルブレイド)!」

「……追撃。五曜剣(チェインブレイド)

「私も合わせる! 神速(ディレイドキル)!」

 

 俺とフィリスが続けて魔力の刃を飛ばし、ぶつかった先を爆発させていく。それだけで、敵の多くは吹き飛んでいく。

 エリナは爆発の範囲外から敵を切り裂いており、合わせる間もなく、なます切りになっていった。

 

 一通りの敵を殺し終えて、周囲を索敵する。また、増援は来ない。ミレアルの狙いは、どこにある?

 嫌な引っ掛かりが、胸の奥でざわめくばかりだ。

 

「やはり、弱いな。同じ程度の戦力が、続けてか。剣の錆にも物足りない」

「俺達を物量で消耗させたいのなら、もっと立て続けに出してきても良いはずだが」

「……同感。やはり、ミレアルには何かの狙いがある」

 

 フィリスにも、分からない様子。まあ、手がかりが少なすぎるからな。これで当てられたら、もはや超能力者だ。

 とはいえ、何も考えないというのも違う。少しでも、答えに近づきたいところ。

 

「最大の問題が、意図が分からないということだよな。ふたりは、何か想像がつくか?」

「……検証。ミレアルは、次の一手のために準備をしている?」

「獣人の特性を活かす方向性か、あるいは……。身体能力を高めただけなら、私ならどうとでもできるが」

 

 フィリスの言葉を受けて、エリナが考えを深めている。実際、カミラのような爆発的な速度にすら対応できていたのがエリナだからな。雷みたいな速度の敵に剣術だけで対応できてしまうのは、どう考えても異常だ。やはり、俺の師匠はとんでもない。

 

 だからこそ、ミレアルの狙いが分からない。ちょっと強い程度の敵を出してきたところで、障害になりはしないのだから。

 

「エリナの剣技を覚えさせることも、ミレアルには厳しいのかもしれない」

「……楽観。とはいえ、限界があることも確かに思える」

 

 今のところ、フィリスの魔法を帝国の皇帝が使っていたくらいか。それにしたって、仕組み自体は単純だからな。俺なんて、初日で似たようなことができたのだし。

 もっと言えば、同じ魔法でも天と地の差がある。九九と10桁の掛け算を、同じ掛け算だと言っているレベルの差。

 

 そもそも皇帝とは一対一だったのだし、俺はフィリスにも勝ったことがある。ミレアルが本気で俺を追い詰めるつもりなら、もっと練度を高めても良かった。

 となると、やはりできない可能性の方が高い。ゼロとは確信できないのが、厄介なところではあるが。

 

「これで、いきなり合一でも出てきたら恐ろしいことこの上ないが……」

「できるのなら、私以前にフィリスを相手にぶつけていそうではある」

「……不明。魔力を植え付けるだけなら、エルフの方が効率がいい。順番が逆である理由は、何?」

 

 フィリスの疑問も、確かに分かる。ミレアルの与えたいものが試練だというのは、外れていたとしても見当違いというほどではなさそうだ。

 だから、普通は順番に難易度を上げていくもの。俺を殺したいのなら、それこそ帝国より前にエルフを動かすべきだったのだし。初手で最強を出すのが鉄則なのだから。

 

 つまり、この順番にも何かしらの意図がある。その意図が分からないというのが、最大の問題なのだが。

 

「獣人の特性と言えば、やはり身体能力ではある。私も、レックスよりは単純な力では上だ」

「とはいえ、魔力で補える程度……。いや、だからこそか?」

「ふむ。私たちを押し切るほどの身体能力にまで強化する……。体が持つのか?」

「……同意。おそらく、壊れる。やはり、警戒するに越したことはない」

 

 獣人を使い捨てにするのか、あるいは俺たちの想定していない手段を取ってくるのか。いずれにせよ、ミレアルにはほぼ確実に策がある。

 それは、きっと俺たちを追い詰めるものだろう。嫌な予感が、どうしても拭いきれなかった。

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