物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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628話 恐るべき策

 ミレアルの戦術に疑問を抱きながらも、俺達はアリエス連邦を進んでいく。どこに向かえば良いのかも、分からないまま。

 総統に会うことを目標にしても良かったのだが、どうもしっくり来ていなかった。

 

 とにかく、少しでも情報を集めていくしかない。そうしないと、答えなど出ない。俺達は、まずは隠れて連邦の様子をうかがうことにしていた。

 

 そんな中、また索敵に魔力を持った獣人が引っかかる。今回も、2桁後半程度は居るみたいだ。

 俺達を見ながら、粘りつくような笑顔をしている。どうにも、不愉快だった。

 

「なんだ、弱そうな獲物じゃないか。これを狩るだけで良いなんて、やはり俺は選ばれし存在……!」

「また来たのか……。まったく、困ったものだ」

 

 剣を引き抜いて、魔力を収束していく。エリナやフィリスも、同様に戦闘態勢に入っていた。

 

「そんな態度をしていられるのも、今のうちだけだ! 五重反発陣(ペンタマジ)……」

 

 その言葉とともに、敵の魔力が霧散していく。それだけではなく、俺が練り上げた魔力も散っていく。フィリスの方を見ると、顔をしかめていた。

 

「なっ!? これは……」

「合わせろ、レックス! 神速(ディレイドキル)!」

 

 即座に、エリナが敵に斬りかかる。敵は、動揺した顔のまま切り裂かれていった。俺も剣を握り締めて、敵に向けて剣を振り上げる。

 

「ああ! 音無し(サイレントキル)!」

 

 一瞬で、数名の敵を切り裂いていく。まだ生き残っている敵は、こちらに手を向けて魔力を練ろうとしている様子。

 敵の動揺が収まらないうちに、なるべく多くの敵を叩き切る。首をはね、唐竹割りにし、胴を薙いだ。

 

「なぜだ!? なぜ、魔法が使えない!? ぎゃあああぁ!」

「ミレアルに、選ばれたんじゃなかったのかよお!」

 

 まだ、敵はただ嘆くだけ。その隙に、一人でも多くの敵を殺していく。冷静さを取り戻して、数で押し切られないように。

 敵を圧倒してこそいるものの、決して余裕を持てる状況ではなかった。

 

「レックス、真似できるか!? 神速(ディレイドキル)!」

 

 エリナは目にも止まらぬ速度で剣を振る。なんとか認識できた範囲では、足からの力だけでなく、腰の振りまで含めて、すべてを腕に集中するような動き。

 それを頭に思い浮かべながら、ただ目の前の敵に剣を振り払う。

 

「やってみる! 神速(ディレイドキル)! ……これで、どうだ?」

 

 エリナは頷きながら、続けて敵を切り捨て続ける。俺も、全力で剣を振り抜く。足も手も止めずに、ただ流れるように。

 

「……不覚。これでは、足手まとい」

 

 フィリスは、ただひとりで敵と距離を取っている。何人かの敵が、そこに近寄っていくのが見えた。

 

「絶対に俺が守ってやる! 神速(ディレイドキル)!」

 

 とにかく、フィリスのもとに向かう敵を叩き切る。決して、何もさせないように。フィリスは落ち着いた顔をしているが、だからといって落ち着いた心地であるはずがない。

 俺はただ、目の前にいる敵を切る。重くなっていく腕に、ムチを打ちながら。

 

「せめてひとりだけでも……!」

 

 フィリスに向けて駆け寄っていく奴らが、何人も居る。目の前が、赤く染まっていくようだ。

 ただ足に力を入れて、踏み出す。痛みそうなくらいに、体をひねる。そして、俺は剣を振り抜いた。

 

「させるわけないだろ! 神速(ディレイドキル)!」

 

 フィリスのもとに向かう敵は、殺せた。だが、まだ敵はいる。それらを前に、関節が痛むのを感じていた。

 

「まったく、よそ見をするほど甘く見られるとはな。私も、軽く見られたものだ。神速(ディレイドキル)!」

 

 フィリスを見ている敵たちを、エリナも切り捨てていた。俺も合わせて、剣を振り続ける。肘も膝も、手首も痛むのを押し隠しながら。

 全力で地面を蹴り、腰をひねり、指先にまで力を伝える。手のひらが擦り切れるのを感じながら、ただ敵を殺し続けた。

 

 なんとか全員を殺し終えた頃には、俺は肩で息をしていた。手のひらでは、皮が何重にもめくれていた。全身が、ただ震えてもいた。

 

「これで、終わりか……?」

「……不明。魔力探査は、まだできない」

 

 魔力を練り上げようとしても、まだ霧散していく。今もまだ、魔法は使えない。当然、傷を癒やすこともできない。

 フィリスは、自分の肌着を破り捨てて俺の手のひらを包み込んでくれた。見えてはいけないものが見えそうになったが、全力で気をそらした。

 

「私が感じる気配は、ないが……。油断はできないな」

「まさか、魔力を封じられるとは……。これで、戦力は激減したぞ……」

 

 本当に、ため息でもつきたいくらいだ。だが、そうしたところで何も解決しない。本格的に、対策を練らなければならない。

 このままでは、物量で当たられるだけで詰みかねない。本当に良くない状態だ。

 

「……理解。獣人を選んだ理由は、分かった」

「そうだな。私ほどではないが、身体能力で押し切るための策だろう」

「今回は数が少なかったから良かったものの……。くそっ!」

「落ち着け、レックス。まだ、誰も傷ついてはいない。深呼吸をするんだ。良いな?」

「分かった。すーっ、はーっ」

 

 深呼吸をしたら、多少はマシになった。それでも、地面を叩きたいほどの感情が胸の中で渦巻いている。

 ミレアルの策が、こんなものだったとは。手ぬるいと感じたのも、誘導だったわけか。

 本当に、手のひらの上で転がされている。それどころか、勝ち筋が見えない。最悪、獣人はどうにかなるかもしれない。だが、ミレアル本人にどうやって勝つというんだ?

 

「……泰然。そうしなければ、勝てるものも勝てない」

「フィリスは、流石だな……。俺ひとりなら、さっきの戦いも勝てたかどうか……」

「当面の方針を考えるぞ、レックス。この状況なら、逆に街の方が好ましいか?」

 

 エリナは落ち着いた様子で話を進めてくれる。そうだな。未来のことを怖がるより、今できることをしなくては。この状況が乗り越えられなければ、俺はフィリスやエリナを失うかもしれないのだから。

 頭を巡らせろ。いま必要なものはなんだ? 勝つためにできることは、なんだ?

 

「……長短。全員が敵なら、逃げられない。そうでなければ、物資も集められる」

「闇魔法が使えないとなると、食料の問題も出てくるか……」

「私としては、一度は街の様子を見た方が良いと思う。もっと悪い状況で裏切られるのが、最悪だからな」

「……同感。今ならまだ、飢えながら戦わなくて済む」

 

 確かに、ふたりの言う通りか。もし追い詰められてから街に逃げて、その時に住民が敵だったら確実に終わる。

 エリナの案は、最善ではないのかもしれない。それでも、最悪を避けるための一手として練られている。

 

「分かった。なら、近場にある街を探そう。エリナ、道は分かるか?」

「任せておけ、レックス。必ず、お前たちを街まで送り届けよう」

「……苦渋。私には、ほとんど何もできない」

 

 フィリスは相変わらず無表情だが、何となく沈んでいるように見える。当たり前だ。特技をすべて奪われたようなものなのだから。

 だが、だからといって足手まといなわけじゃない。それだけは、信じてほしい。

 

「いや、策を考えてくれただけでも助かる。そんなことを言わないでくれ」

「……感謝。なら、もっと有効な手段を考えないと」

 

 フィリスの目には、どこか力が入っているように見えた。俺も、少しでもできることを見つけていかないとな。

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