物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ミレアルの戦術に疑問を抱きながらも、俺達はアリエス連邦を進んでいく。どこに向かえば良いのかも、分からないまま。
総統に会うことを目標にしても良かったのだが、どうもしっくり来ていなかった。
とにかく、少しでも情報を集めていくしかない。そうしないと、答えなど出ない。俺達は、まずは隠れて連邦の様子をうかがうことにしていた。
そんな中、また索敵に魔力を持った獣人が引っかかる。今回も、2桁後半程度は居るみたいだ。
俺達を見ながら、粘りつくような笑顔をしている。どうにも、不愉快だった。
「なんだ、弱そうな獲物じゃないか。これを狩るだけで良いなんて、やはり俺は選ばれし存在……!」
「また来たのか……。まったく、困ったものだ」
剣を引き抜いて、魔力を収束していく。エリナやフィリスも、同様に戦闘態勢に入っていた。
「そんな態度をしていられるのも、今のうちだけだ!
その言葉とともに、敵の魔力が霧散していく。それだけではなく、俺が練り上げた魔力も散っていく。フィリスの方を見ると、顔をしかめていた。
「なっ!? これは……」
「合わせろ、レックス!
即座に、エリナが敵に斬りかかる。敵は、動揺した顔のまま切り裂かれていった。俺も剣を握り締めて、敵に向けて剣を振り上げる。
「ああ!
一瞬で、数名の敵を切り裂いていく。まだ生き残っている敵は、こちらに手を向けて魔力を練ろうとしている様子。
敵の動揺が収まらないうちに、なるべく多くの敵を叩き切る。首をはね、唐竹割りにし、胴を薙いだ。
「なぜだ!? なぜ、魔法が使えない!? ぎゃあああぁ!」
「ミレアルに、選ばれたんじゃなかったのかよお!」
まだ、敵はただ嘆くだけ。その隙に、一人でも多くの敵を殺していく。冷静さを取り戻して、数で押し切られないように。
敵を圧倒してこそいるものの、決して余裕を持てる状況ではなかった。
「レックス、真似できるか!?
エリナは目にも止まらぬ速度で剣を振る。なんとか認識できた範囲では、足からの力だけでなく、腰の振りまで含めて、すべてを腕に集中するような動き。
それを頭に思い浮かべながら、ただ目の前の敵に剣を振り払う。
「やってみる!
エリナは頷きながら、続けて敵を切り捨て続ける。俺も、全力で剣を振り抜く。足も手も止めずに、ただ流れるように。
「……不覚。これでは、足手まとい」
フィリスは、ただひとりで敵と距離を取っている。何人かの敵が、そこに近寄っていくのが見えた。
「絶対に俺が守ってやる!
とにかく、フィリスのもとに向かう敵を叩き切る。決して、何もさせないように。フィリスは落ち着いた顔をしているが、だからといって落ち着いた心地であるはずがない。
俺はただ、目の前にいる敵を切る。重くなっていく腕に、ムチを打ちながら。
「せめてひとりだけでも……!」
フィリスに向けて駆け寄っていく奴らが、何人も居る。目の前が、赤く染まっていくようだ。
ただ足に力を入れて、踏み出す。痛みそうなくらいに、体をひねる。そして、俺は剣を振り抜いた。
「させるわけないだろ!
フィリスのもとに向かう敵は、殺せた。だが、まだ敵はいる。それらを前に、関節が痛むのを感じていた。
「まったく、よそ見をするほど甘く見られるとはな。私も、軽く見られたものだ。
フィリスを見ている敵たちを、エリナも切り捨てていた。俺も合わせて、剣を振り続ける。肘も膝も、手首も痛むのを押し隠しながら。
全力で地面を蹴り、腰をひねり、指先にまで力を伝える。手のひらが擦り切れるのを感じながら、ただ敵を殺し続けた。
なんとか全員を殺し終えた頃には、俺は肩で息をしていた。手のひらでは、皮が何重にもめくれていた。全身が、ただ震えてもいた。
「これで、終わりか……?」
「……不明。魔力探査は、まだできない」
魔力を練り上げようとしても、まだ霧散していく。今もまだ、魔法は使えない。当然、傷を癒やすこともできない。
フィリスは、自分の肌着を破り捨てて俺の手のひらを包み込んでくれた。見えてはいけないものが見えそうになったが、全力で気をそらした。
「私が感じる気配は、ないが……。油断はできないな」
「まさか、魔力を封じられるとは……。これで、戦力は激減したぞ……」
本当に、ため息でもつきたいくらいだ。だが、そうしたところで何も解決しない。本格的に、対策を練らなければならない。
このままでは、物量で当たられるだけで詰みかねない。本当に良くない状態だ。
「……理解。獣人を選んだ理由は、分かった」
「そうだな。私ほどではないが、身体能力で押し切るための策だろう」
「今回は数が少なかったから良かったものの……。くそっ!」
「落ち着け、レックス。まだ、誰も傷ついてはいない。深呼吸をするんだ。良いな?」
「分かった。すーっ、はーっ」
深呼吸をしたら、多少はマシになった。それでも、地面を叩きたいほどの感情が胸の中で渦巻いている。
ミレアルの策が、こんなものだったとは。手ぬるいと感じたのも、誘導だったわけか。
本当に、手のひらの上で転がされている。それどころか、勝ち筋が見えない。最悪、獣人はどうにかなるかもしれない。だが、ミレアル本人にどうやって勝つというんだ?
「……泰然。そうしなければ、勝てるものも勝てない」
「フィリスは、流石だな……。俺ひとりなら、さっきの戦いも勝てたかどうか……」
「当面の方針を考えるぞ、レックス。この状況なら、逆に街の方が好ましいか?」
エリナは落ち着いた様子で話を進めてくれる。そうだな。未来のことを怖がるより、今できることをしなくては。この状況が乗り越えられなければ、俺はフィリスやエリナを失うかもしれないのだから。
頭を巡らせろ。いま必要なものはなんだ? 勝つためにできることは、なんだ?
「……長短。全員が敵なら、逃げられない。そうでなければ、物資も集められる」
「闇魔法が使えないとなると、食料の問題も出てくるか……」
「私としては、一度は街の様子を見た方が良いと思う。もっと悪い状況で裏切られるのが、最悪だからな」
「……同感。今ならまだ、飢えながら戦わなくて済む」
確かに、ふたりの言う通りか。もし追い詰められてから街に逃げて、その時に住民が敵だったら確実に終わる。
エリナの案は、最善ではないのかもしれない。それでも、最悪を避けるための一手として練られている。
「分かった。なら、近場にある街を探そう。エリナ、道は分かるか?」
「任せておけ、レックス。必ず、お前たちを街まで送り届けよう」
「……苦渋。私には、ほとんど何もできない」
フィリスは相変わらず無表情だが、何となく沈んでいるように見える。当たり前だ。特技をすべて奪われたようなものなのだから。
だが、だからといって足手まといなわけじゃない。それだけは、信じてほしい。
「いや、策を考えてくれただけでも助かる。そんなことを言わないでくれ」
「……感謝。なら、もっと有効な手段を考えないと」
フィリスの目には、どこか力が入っているように見えた。俺も、少しでもできることを見つけていかないとな。