物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ひとまず街に向かって、食料を買い揃えながら宿に入る。そこまでの動きで、特に襲われることはなかった。
闇魔法を使えない中で食事をするのには、フォークが三回ほど止まったが。もし毒でもあれば、終わりかもしれない。そんな恐怖を、久々に味わっていた。
その晩には俺が寝ずの番をして、朝になって軽く寝る。昼頃に起きても、問題は起こらないまま。
俺達は、泊まった宿屋の一室で話をしていた。
「今回は、襲われないんだな……。ミレアルも、戦術を変えてきたのか……?」
「……想像。やはり、レックスを本気で殺そうとはしていない」
「だろうな。聖国では村人に襲われたという話は聞いている。だからこそ、私は先に確かめたかった」
実際、聖国では毒も盛られたし物理的に襲われもした。それで追い詰められることになって、結果的にはフィリスとふたりでの合一に繋がったわけだ。
同じ事が起こるのではないかという警戒は、正直に言えばあった。だからといって、獣を狩るだけでは行き詰まることは分かりきっていた。食料を輸入に頼っている国というのは、森の中だった聖国とは比べ物にならない。
つまり、リスクを冒してでも街で食料を確保するのは必須だった。失敗すれば、どの道死んでいただろう。
「今回に関しては、正解だったわけだ」
「まだ、完全に気を抜ける段階ではない。ただ、私たちの方針としても大事なことだ」
「確かにな。連邦で何かおかしなことが起きていないか、人に聞く必要がある。……だからか?」
「……推定。今回の私たちへの課題として、交流を求めている可能性はある」
さながら、RPGのフラグ立てと言ったところか? 住人から情報を集めて、黒幕にたどり着く。そのための手順として、街はセーフポイントとして設計した。ありえる話だ。
ミレアルが俺を本気で殺そうとしていないのは、ここに至っては明らかだと判断して良い。俺の魔法を奪えるのなら、いつでもどこでも殺せたということなのだから。
つまり、俺に試練を与えて、それを乗り越える姿を見たいということだろう。神様らしい、人間をおもちゃとしてしか見ていない行い。
だが、だからこそ希望はある。俺が試練を乗り越える姿を見たいというのなら、絶対に勝てない勝負は起こり得ない。それこそ、気付いたら死んでいるみたいな理不尽な攻撃には警戒しなくて良い。もっと言えば、俺と同レベルの強さの敵が数百人現れるような展開も。
これだけは言える。ミレアルは俺にこのゲームをクリアさせたいんだ。本気で失望したら、見捨てられるかもしれないが。
だが、挑んでやろうじゃないか。ミレアルが俺を本気で認めたのなら、逆に神が味方になるのかもしれないのだから。そうなってしまえば、後は平和な日常を過ごせる。大切な人たちと、穏やかに。
そもそもの問題として、ミレアルを殺して良いのかも分からない。もしミレアルの死と同時に世界が滅ぶのならば、絶対に勝てないのだから。
なら、ミレアルの思惑に乗るしかないんだ。どれほどの屈辱にまみれようとも、絶対に。
「誰が怪しいかを疑い続けながら、か。正しいのなら、ミレアルも悪趣味なものだ」
「私たちにできることは、そう多くない。フィリスをどうするかも、考えねば」
「帰すのは、論外だと思う。もし誰かに襲われても、フィリスは抵抗できない」
聖国の時点で、転移は封じられていたからな。魔力が使えるようになったところで、帰すという手段は使えない。
そうなってくると、どうやって守るかというのが焦点になってくるはずだ。
「……肯定。ただ、それではレックスたちの足を引っ張るだけ」
「だからって、お前を犠牲にする道を選べるわけもないだろう。絶対に、守ってみせる」
「同感だ。それに、私たちよりもミレアルの意図を読めているように思える」
絶対に守り抜くつもりではあるが、具体的な手段も考えないとな。剣士ふたりだけでフィリスを守るのは、かなりの難題だ。
とにかく素早く動く、常に壁を背後に置きながら戦う、裏道なんかを利用して振り払いながら戦う。そのあたりが思いつくが。
どういう状況で襲われるかで、取れる手段も変わってくる。少なくとも、根性論は論外だ。
もちろん、限界まで命を振り絞るつもりではある。だが、それでどうにかなるほど単純な話じゃない。戦力にならない存在を、たったふたりで守らなきゃいけないんだ。それも、百を超える敵から襲われるかもしれない状況で。
だからこそ、しっかりと考え抜かなくては。とはいえ、さっきの三択以上のものは思い浮かばない。
基本的には、地形を利用するというのが手段になるか。だだっ広い平原は、なるべく避けて移動する。それしかないだろうな。
「……理解。当面は、あなた達の世話になる」
「任せてくれ。困ったことがあったら、なんでも言ってくれよ」
「……返答。レックスこそ。怪我は、まだ治ったわけじゃない」
「いくらレックスに傷があるからといって、戦力としては数えざるを得ない。心苦しいが……」
「気にするな。お前たちを守れるのなら、安いものだ」
とは言うものの、状況は良くない。剣の握りや技を放てる回数にも悪影響がある。最悪の場合、剣を振れなくなりかねない。
もちろん、体が動く限りはどんなことでもするつもりだ。だが、足が折れても剣が振れるのか、腕ならどうか。そこに関しては、壁があるとしか思えない。
……やはり、厳しいな。追い詰められているというのが、どこまでも突きつけられている。
「ふふ、気合十分だな。こんな状況で言うのもなんだが……。ようやくレックスに頼れる師匠としての姿を見せられそうで、たぎっている部分もある」
「……理解。私も、聖国の時には同じようなことを考えた」
「危機的状況だというのは分かっているのだが、レックスが弱っているのを見るとな……」
「……同意。うずく感覚は、否定できない」
なんか、獣のような目で見られている気がする。エリナにも、フィリスにも。エリナなんて、ちょっと震えているようにすら見えた。
これは、どこまで冗談なんだ?
「そ、そうか……。心強いと思えば良いのか……?」
「……疑問。レックスは、私たちに怯えている?」
「そ、そんなことはないぞ? 余裕な姿を見せてくれると、少しは安心できるからな」
「ふふ、可愛らしいものだ。こういう姿を見られただけでも、価値があるな」
「……同感。ミレアルの試練も、悪いことばかりではない」
少し声を弾ませて、笑顔で俺のことを見ている。ふたりの心が軽くなったのなら嬉しい。嬉しいが、なんか変な気分だな。むずがゆいというか、小っ恥ずかしいというか。
俺が弱っている姿を見て喜ぶのは、ちょっとドSみたいな感じじゃないか? いや、それで好感度が下がるほどの関係ではないが。
「やっぱり、俺をおもちゃか何かだと思っていないか!?」
「……否定。大切な弟子だと思っている」
「ふふ、まあそうだな。レックスのことは、大事に大事に思っているとも」
ふたりとも、頷きながら俺のことを見ていた。フィリスは薄く、エリナは唇を釣り上げる形で笑いながら。
なんか、声にも妙な力が入っている気がするんだよな。いったい、どういう目で俺を見ているんだよ。
「はぁ……。前向きになれたのは、良いことなのか……?」
俺の言葉に、ふたりは笑い声をこぼす。そのおかげで、少しは前向きになれた気がする。ちょっと、背中に寒気が走りもしたが。
また、こんなくだらない会話をしてみせる。そのためにも、必ず試練を乗り越えないとな。