物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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630話 追い詰められて

 基本方針を立てた俺たちは、また動き出した。住民に話を聞く限り、どうにも物流に違和感があるらしい。特定の物資が足りないようなことが、脈絡もなく起きているのだとか。

 つまり、その流れを探っていけばいいということ。だからこそ、物流の中心である首都を目指すことになった。

 

 ただ、決して楽な道のりではない。まあ、ミレアルが何も手出しをしてこなければ話は別だが。

 理由は簡単で、首都は国の中心に近いところ。国境から入ったばかりの俺たちにとって、国の半分を移動するに等しい。

 つまり、相当な距離を進んでいかないといけないということ。

 

 だからこそ、以前に考えた方針通りに、戦場を制限できる場所を選んで進んでいく。入り組んでいたり、崖を背にできたりするような場所を。

 それでも、どうしても平原を歩かなければならない状況は訪れる。より警戒を深めながら足を進めていくと、案の定敵が現れた。

 

「こいつらを殺せば、俺たちは魔法を取り戻せるんだ! やるぞ!」

 

 当然のように、俺たちは囲まれている。敵は転移を使い放題らしい。せめてもの救いは、魔力までは感じないところだろうか。

 だが、剣技だけで数十人を殺さなければならない。しかも、フィリスをかばいながら。

 剣を握る手が、少しだけ震えた。

 

「レックス、やれるか? 今の状況なら、私がほとんどを倒せば……」

 

 エリナの提案は、確かに正しいのだろう。俺がフィリスを守ることに集中して、エリナが敵を殺し切る。

 戦力的に考えても、今はエリナの方が上だ。だったら、そちらが中心になるのが当然。

 

 俺が、戦力として足りない方になる時が来るとは。胸のあたりに、変な苦さがある。

 

「そう、だな。不確実な手段は、避けるべきか」

「……否定。レックスは、心のままに動いて」

「だが……」

「問答をしている時間はない。代わるぞ、レックス」

 

 エリナがフィリスをかばえる位置に入る。実際、問答をしている時間はない。剣を握り直して、俺は敵に向けて駆け出した。

 

神速(ディレイドキル)! 神速(ディレイドキル)!」

 

 エリナの動きを思い出しながら、ただ剣を振る。少しでも鋭く、少しでも速くなるように。剣の握りは。足の動きは。腰の回し方は。

 ひとつひとつを確かめながら、目の前の敵に叩きつける。

 

 ひとり切り、ふたり切る。視界に入る敵を、ただひたすらに。数えることすら捨てて、剣の振りに没頭していく。

 エリナなら、必ずフィリスを守り抜いてくれる。そう信じて、手応えを確かめていった。

 

 気付いたら、目に敵が入ってくるより先に剣を振り抜いていた。そして、敵は真っ二つになっている。ただ、剣が敵に潜り込んでいく感覚。

 その先にたどり着きそうな気がした頃に、剣が止まる。周囲を見回すと、敵は誰一人として生きていない。

 

 気付いたら、膝をついていた。遅れて、信じられないほどの汗が吹き出す。全身が、焼けるように痛かった。

 

「はぁ、はぁ……」

「ひとまず、フィリスは無傷だ。よく頑張ったな、レックス」

 

 声が聞こえて、そちらを見る。エリナは剣を払っていて、そのそばでフィリスは目を閉じている。息すらしていないんじゃないかというほどに、微動だにせず。

 まさか。嫌な予感がして、声をかける。

 

「フィリス……? 目を閉じて、どうしたんだ……?」

 

 すぐに、フィリスは目を開く。ほっと、息がこぼれた。深く、深く。肺の中身を、すべて吐き出すほどに。

 

「……確認。私にもできることはないか、探していた」

「まさか、的として敵を誘導するとか言わないよな……?」

「……否定。そうしようとしても、レックスは反対する」

 

 淡々と、語られる。いつも通りのフィリスのはずなのに、どうしてか遠く感じた。手を伸ばしそうになって、止めた。

 腕が、だらりと落ちていった。

 

「そういう理由で、やらないだけなのか……?」

「落ち着け、レックス。ここで大事なのは、結果だろう」

 

 何か強い言葉が出そうになって、一度息を吸う。それでも頭のもやもやが収まらなかったので、もう一度深呼吸をした。

 それでようやく、人に向けて話して良い言葉を出せるような気がした。

 

「そう、か……。そう、だな……。ありがとう。フィリス、エリナ」

「……対策。このまま、足手まといのまま終わるつもりはない」

「私には分かる。フィリスは、フィリスなりに頑張っているんだ。女の面目を、立たせてやってくれ」

 

 エリナはフィリスをちらりと見た。フィリスは、ただ透明な目をしている。きっと、決意は固い。俺が何を言っても、変わらないのだろうな。

 何かを飲み込むように、また息を吸う。そして、フィリスに向き合った。

 

「危なくなったのなら、無理矢理にでも止めるからな」

「……了解。でも、問題ない。必ず挽回してみせる」

「無理はしないでくれ……とも言える状況ではないか……」

「レックスが言うと、説得力がないな。自分がしていることだろう?」

「それは……そうなんだが……」

 

 フィリスにも、エリナにも、決して無理はしてほしくない。ただ、俺が心配を感じているから。そう、ただのエゴだ。

 分かっていて、出すべき言葉が出てこない。本当に、分かっているんだ。受け入れるべきだってことは。

 

「責めているわけではない。状況が状況だ。どうしようもないことだ」

「……同感。だからこそ、私も何かをしないといけない」

 

 フィリスの目は、どこまでもまっすぐだ。迷いなど、少しも見えやしない。今の俺とは、大違い。

 重ねて言うが、分かっているんだ。自分を責めたところで、何も変わりはしない。ただ状況が悪くなるだけ。本当に、くだらない自己満足でしかない。

 だから、こんな感情なんて消えてくれよ。

 

「確かに、フィリスが少しでも戦力になれば……」

「そういうことだ、レックス。止めても無駄だということは、よく分かるだろう」

「俺の周りは、どいつもこいつも意地っ張りばかりだ。仕方ない、な……」

「……同類。だからこそ、レックスの周りには多い」

「ふふふ、言われているぞ。私も同感ではあるが」

「否定は……できないな……」

 

 からかうような言葉にも、いつものように返せない。元気づけようとしてくれている。それは、頭では理解できていた。どうしても、感情がついてこない。

 魔法が使えなくなるだけで、これか。俺は、どれだけ魔法に依存していたのだろうな。

 

「……愉悦。やはり、レックスは今みたいな顔がいい」

「ああ。可愛らしいものだ。私たちすら超える才能の持ち主とは、とても思えない」

「その才能に見合うだけの結果を、出さないとな……」

「レックス、思い詰めすぎるなよ。迷いは、剣を鈍らせるぞ」

「そうか……。そうだな……」

「……期待。レックスなら、また新しい景色を見せてくれる。だから、大丈夫」

 

 そう言って、そっと頭を撫でられる。暖かさが、じんわりと染み渡っていく。

 温もりに誘われるように、俺はうなずくことができた。

 

「うん……。フィリスやエリナの弟子なんだ。俺は、やってみせる」

「その意気だ。安心しろ。私たちは、必ずお前を見ている」

 

 そうだな。俺は、フィリスとエリナの弟子なんだ。最高の師匠が育ててくれて、認めてくれたんだ。

 なら、ちょっと苦しい程度の状況で立ち止まれるはずもない。

 

 やってやる。やってやるさ。ミレアルの目を、ひん剥かせてやる。

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