物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
基本方針を立てた俺たちは、また動き出した。住民に話を聞く限り、どうにも物流に違和感があるらしい。特定の物資が足りないようなことが、脈絡もなく起きているのだとか。
つまり、その流れを探っていけばいいということ。だからこそ、物流の中心である首都を目指すことになった。
ただ、決して楽な道のりではない。まあ、ミレアルが何も手出しをしてこなければ話は別だが。
理由は簡単で、首都は国の中心に近いところ。国境から入ったばかりの俺たちにとって、国の半分を移動するに等しい。
つまり、相当な距離を進んでいかないといけないということ。
だからこそ、以前に考えた方針通りに、戦場を制限できる場所を選んで進んでいく。入り組んでいたり、崖を背にできたりするような場所を。
それでも、どうしても平原を歩かなければならない状況は訪れる。より警戒を深めながら足を進めていくと、案の定敵が現れた。
「こいつらを殺せば、俺たちは魔法を取り戻せるんだ! やるぞ!」
当然のように、俺たちは囲まれている。敵は転移を使い放題らしい。せめてもの救いは、魔力までは感じないところだろうか。
だが、剣技だけで数十人を殺さなければならない。しかも、フィリスをかばいながら。
剣を握る手が、少しだけ震えた。
「レックス、やれるか? 今の状況なら、私がほとんどを倒せば……」
エリナの提案は、確かに正しいのだろう。俺がフィリスを守ることに集中して、エリナが敵を殺し切る。
戦力的に考えても、今はエリナの方が上だ。だったら、そちらが中心になるのが当然。
俺が、戦力として足りない方になる時が来るとは。胸のあたりに、変な苦さがある。
「そう、だな。不確実な手段は、避けるべきか」
「……否定。レックスは、心のままに動いて」
「だが……」
「問答をしている時間はない。代わるぞ、レックス」
エリナがフィリスをかばえる位置に入る。実際、問答をしている時間はない。剣を握り直して、俺は敵に向けて駆け出した。
「
エリナの動きを思い出しながら、ただ剣を振る。少しでも鋭く、少しでも速くなるように。剣の握りは。足の動きは。腰の回し方は。
ひとつひとつを確かめながら、目の前の敵に叩きつける。
ひとり切り、ふたり切る。視界に入る敵を、ただひたすらに。数えることすら捨てて、剣の振りに没頭していく。
エリナなら、必ずフィリスを守り抜いてくれる。そう信じて、手応えを確かめていった。
気付いたら、目に敵が入ってくるより先に剣を振り抜いていた。そして、敵は真っ二つになっている。ただ、剣が敵に潜り込んでいく感覚。
その先にたどり着きそうな気がした頃に、剣が止まる。周囲を見回すと、敵は誰一人として生きていない。
気付いたら、膝をついていた。遅れて、信じられないほどの汗が吹き出す。全身が、焼けるように痛かった。
「はぁ、はぁ……」
「ひとまず、フィリスは無傷だ。よく頑張ったな、レックス」
声が聞こえて、そちらを見る。エリナは剣を払っていて、そのそばでフィリスは目を閉じている。息すらしていないんじゃないかというほどに、微動だにせず。
まさか。嫌な予感がして、声をかける。
「フィリス……? 目を閉じて、どうしたんだ……?」
すぐに、フィリスは目を開く。ほっと、息がこぼれた。深く、深く。肺の中身を、すべて吐き出すほどに。
「……確認。私にもできることはないか、探していた」
「まさか、的として敵を誘導するとか言わないよな……?」
「……否定。そうしようとしても、レックスは反対する」
淡々と、語られる。いつも通りのフィリスのはずなのに、どうしてか遠く感じた。手を伸ばしそうになって、止めた。
腕が、だらりと落ちていった。
「そういう理由で、やらないだけなのか……?」
「落ち着け、レックス。ここで大事なのは、結果だろう」
何か強い言葉が出そうになって、一度息を吸う。それでも頭のもやもやが収まらなかったので、もう一度深呼吸をした。
それでようやく、人に向けて話して良い言葉を出せるような気がした。
「そう、か……。そう、だな……。ありがとう。フィリス、エリナ」
「……対策。このまま、足手まといのまま終わるつもりはない」
「私には分かる。フィリスは、フィリスなりに頑張っているんだ。女の面目を、立たせてやってくれ」
エリナはフィリスをちらりと見た。フィリスは、ただ透明な目をしている。きっと、決意は固い。俺が何を言っても、変わらないのだろうな。
何かを飲み込むように、また息を吸う。そして、フィリスに向き合った。
「危なくなったのなら、無理矢理にでも止めるからな」
「……了解。でも、問題ない。必ず挽回してみせる」
「無理はしないでくれ……とも言える状況ではないか……」
「レックスが言うと、説得力がないな。自分がしていることだろう?」
「それは……そうなんだが……」
フィリスにも、エリナにも、決して無理はしてほしくない。ただ、俺が心配を感じているから。そう、ただのエゴだ。
分かっていて、出すべき言葉が出てこない。本当に、分かっているんだ。受け入れるべきだってことは。
「責めているわけではない。状況が状況だ。どうしようもないことだ」
「……同感。だからこそ、私も何かをしないといけない」
フィリスの目は、どこまでもまっすぐだ。迷いなど、少しも見えやしない。今の俺とは、大違い。
重ねて言うが、分かっているんだ。自分を責めたところで、何も変わりはしない。ただ状況が悪くなるだけ。本当に、くだらない自己満足でしかない。
だから、こんな感情なんて消えてくれよ。
「確かに、フィリスが少しでも戦力になれば……」
「そういうことだ、レックス。止めても無駄だということは、よく分かるだろう」
「俺の周りは、どいつもこいつも意地っ張りばかりだ。仕方ない、な……」
「……同類。だからこそ、レックスの周りには多い」
「ふふふ、言われているぞ。私も同感ではあるが」
「否定は……できないな……」
からかうような言葉にも、いつものように返せない。元気づけようとしてくれている。それは、頭では理解できていた。どうしても、感情がついてこない。
魔法が使えなくなるだけで、これか。俺は、どれだけ魔法に依存していたのだろうな。
「……愉悦。やはり、レックスは今みたいな顔がいい」
「ああ。可愛らしいものだ。私たちすら超える才能の持ち主とは、とても思えない」
「その才能に見合うだけの結果を、出さないとな……」
「レックス、思い詰めすぎるなよ。迷いは、剣を鈍らせるぞ」
「そうか……。そうだな……」
「……期待。レックスなら、また新しい景色を見せてくれる。だから、大丈夫」
そう言って、そっと頭を撫でられる。暖かさが、じんわりと染み渡っていく。
温もりに誘われるように、俺はうなずくことができた。
「うん……。フィリスやエリナの弟子なんだ。俺は、やってみせる」
「その意気だ。安心しろ。私たちは、必ずお前を見ている」
そうだな。俺は、フィリスとエリナの弟子なんだ。最高の師匠が育ててくれて、認めてくれたんだ。
なら、ちょっと苦しい程度の状況で立ち止まれるはずもない。
やってやる。やってやるさ。ミレアルの目を、ひん剥かせてやる。