物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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631話 心に刻むべきこと

 俺たちは、首都に向かって進み続けていた。何度か襲われることもあったが、今は乗り越えられている。とはいえ、厳しさを感じるのは事実。

 休憩も兼ねて、道中にある街で物資を集めながら進む。そんなことを繰り返すうちに、分かってくることもあった。

 

「ひとまず、街中では落ち着けそうだな。引き伸ばしにも限界はあるが」

 

 エリナもフィリスも頷いている。街の人達は素直に質問に答えてくれるし、物も売ってくれる。今のところ、悪意をぶつけられたことはない。

 ということで、少しずつ情報を集めていた。そこで分かったのが、物流の停滞に関しては、本当に脈絡もなくランダムな商品が欠乏するらしいということ。

 気づけば復活していたり、何なら以前より増えていることすらあるらしい。

 

 ということは、即座に対応策を打って成功しているか、あるいはミレアルが何かの働きかけをしているか。おそらくは、後者。

 

 もっと言うと、首都では物資の不足が起きていないらしいと愚痴をこぼしている民もいた。やはり、怪しい。

 

 そこで、完全に目標を首都とすることにした。そこで、次に繋がる何かがあるはず。

 

 もう一つの大きな問題は、今後の戦闘について。もちろん、俺はもっと強くなる。だが、気合いだけでどうにかなるほど甘くはない。

 だから、どうするべきかを何度も何度も話し合った。

 

「……対策。うまくいけば、少しは楽になる」

 

 フィリスはそう言いながら、何かを考えている様子。休憩ができる時には、瞑想のようなこともしていた。

 おそらく、集中が必要な何かなのだろう。俺には、想像しかできないが。

 だからこそ、街中に滞在することには意味がある。フィリスの策が成立すれば、少しは安全になるかもしれないのだから。

 

 そうなってくると、俺とエリナの時間は空く。そこでどうするか。

 

「訓練でもするか、レックス? あまり激しく動きはせずにだが」

 

 激しく動かずというのは、俺の負担を考えてのことだろう。実際、皮がめくれたり関節が痛んだりと大変だからな。

 それに、訓練で体力を消費しすぎてもダメだ。俺たちは、これからも戦いの日々を送るのだから。

 

「そうだな。確かにありだ。少しでも剣技を磨けば、フィリスを守りやすくなるはずだ」

「……感謝。でも、無理はしないで」

「分かっている。訓練で体を壊しては、元も子もないからな」

「フィリス、私たちに付き合ってくれ。離れ離れは、良くないだろう」

「……了解。私も、対策の構成に集中する」

「分かった。行くぞ、レックス」

 

 ひとまず、剣を振れそうな広い場所を探す。人里外れた場所だと危険だから、公園のような場所を。

 幸い、自然公園のようなところが見つかった。そこで、俺達は模擬剣を構える。ちょうど、近くの店で売っていたものを。

 いくらなんでも、街中で抜剣はできない。それもあって、必要な出費だったはずだ。

 

「今できることは、細かい動きの確認だろう。レックス、ゆっくりと見せてくれ」

「ああ。こんな感じか?」

 

 ひとまず、神速(ディレイドキル)と同じ振り方をしていく。エリナはじっと俺を見ていた。

 真剣な目が、強く突き刺すかのよう。それだけ本気なのだと、剣を握り直す。

 

「とても細かい指摘をするが、よく聞くんだ。良いな、レックス」

「もちろんだ。少しでも強くなれるのなら、どんなことでもしよう」

「その意気だ。まずは、足の踏み込みだ。親指から小指まで、すべてを使って蹴るんだ」

 

 なるほど。これまで、細かいフォームまで意識することは少なかった。なんとなくで剣を振って、それだけで再現できてきたから。

 だが、今となっては足りないということ。やはり、エリナは素晴らしい師匠だ。

 

「分かった。……これでどうだ?」

 

 言われたことを意識しながら、もう一度剣を振る。だが、エリナは難しい顔をしたまま首を振っていた。

 

「まだ甘い。地面に力がしっかり伝わるように、神経を研ぎ澄ませ」

 

 そう言われて、地面の感触を意識していく。何度か繰り返して、少し分かったことがあった。

 

「ああ、なるほど。地面の具合によっても、力の伝え方が違うのか」

「察しが良いな。だが、口で言うほど簡単じゃない。しっかりと、体に覚え込ませるんだ」

「もちろんだ。……今回は、どうだ?」

 

 地面の傾きを意識しながら、足を踏み込んでいく。確かに、踏み込みが鋭くなった感覚があった。

 

「悪くない。だが、一回できるだけでは論外だ。無意識でもできるように、繰り返すんだ」

「ああ。なかなか、難しいものだな……。気を抜けば、すぐにズレてしまう」

 

 もっと言えば、地面を見ないとうまくいかない。だが、実戦で細かく地面を見ている余裕なんてない。足先の感覚だけで、地面に力を伝えきらないといけないんだ。

 なら、一度や二度だけできる程度では論外。エリナの言うように、無意識でないと話にならない。

 

 本当に、難しいことを言われている実感がある。だが、やり遂げてみせる。できるかできないかで、守れる確率が大きく変わるのだから。

 

「当たり前のことではあるが、レックスは納得しないだろう? なら、やるべきことはひとつだ」

「そうだな。限界まで、繰り返さないと」

「焦りは禁物だ。体を壊しては元も子もないと、自分で言ったはずだろう、レックス」

 

 肩に手を置いて、たしなめられる。その通りだ。つい最近、決意し直したばかりだというのにな。

 やはり、不安なのだろう。だから、訓練にのめり込むことでごまかそうとしている。

 本当に、良くない。俺が優先すべきは、勝つという結果だ。自分を慰めることじゃない。

 

「……ああ、そうだったな……。すまん。また、焦っていたみたいだ」

「気にするな。弟子を導いてこそ、師匠というものだろう?」

 

 朗らかに笑うエリナを見て、少しだけ剣が軽くなったような気がした。何度も何度も、助けられてしまっている。

 だが、焦りは禁物だ。さっき言われたことを、忘れるな。エリナに頼ってでも勝つ。それが、俺に必要なことだろう。

 闇魔法が使えなくなっても、変わらないことだ。そうだ、焦るな。

 

「ありがとう。また、何かあったら言ってくれ」

「素直なことは、レックスの大きな長所だ。師匠として、楽で助かる」

「はは、褒められているのか……? いや、ありがとうだな」

「礼は良い。レックスが成長してくれるのが、私の喜びなんだ」

「なら、しっかりと強くならないとな。もちろん、体を壊さない範囲で」

「私が止めたら、すぐに止めること。それだけは、約束してくれ」

「もちろんだ。じゃあ、続けるか」

 

 エリナの訓練は、ずっとフォームを確かめるものだった。足の指先から、膝も、肘も。剣の握りから何まで、とにかくすべてを確認される。

 一歩一歩、体に刻み込む。だが、うまくいくことばかりじゃない。

 そうしているうちに、いつの間にか空は茜色になっていた。

 

「そこまで。レックス、体を休めろ」

「あと、もう少し……。いや、そうだな……」

 

 エリナに言われたことを、思い出した。止められたら、すぐに止めること。逆らっても、何も良いことはない。

 もう少し繰り返せば、感覚を掴めそうな気がする。だが、確かに自分で言ったはずだ。無理をしては元も子もないと。

 震えそうになる体を抑えて、伸びをする。エリナは、ただ頷いていた。

 

「……休憩。私も、疲れた。レックス、付き合って」

「分かった、フィリス。いったん、休むか……」

 

 おそらく、フィリスにも気を使われている。だから、逆らわなかった。

 やはり、ずっと俺は支えられっぱなしだ。だからこそ、無理はしないこと。肝心な時に、ふたりを守れるように。

 空を見ると、赤が澄み渡っている。それを見て、誓った。

 

 必ず、新しい技を見出してみせる。決して無理はしないが、それでも、必ず。

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