物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
俺達は、訓練を続けながらまた進んでいた。街に滞在し続けるにも、限度がある。それを意識しながら、ある程度の成果が見込めた段階で。
少なくとも、俺の剣技に関しては進歩が見られたと思う。まだ全力で剣を振ってはいないが、いくつかの感覚を刻みつけられたはず。
フィリスも何度か頷いている場面はあったので、少しは進んでいるのだろう。成果を話してこないあたり、ミレアルに隠しているのか完成していないのか。
そんなこんなで、またアリエス連邦の道を進む。壁も何もない、ただの道を。精神を、ひたすらに研ぎ澄ませながら。
案の定、敵が現れた。
「また、来たか。フィリス、対策は実行できそうか?」
「……無理。まだ、実戦で使える段階になっていない」
フィリスは淡々と語る。おそらく、言い回しからして発動だけはできる状態なのだろう。使いこなせないから、実戦で使うとむしろじゃまになるという段階。
成果を確かめられたのはありがたいが、これでは戦力として数えることはできない。まあ、やることは同じだ。落ち着いて、敵を殺し続けよう。
「なら、俺に任せてくれ。少しは、剣の腕も上がったつもりだ」
「そうか。フィリス、私が守った方が良いか?」
「……天秤。レックスの安全を優先して。それだけ」
今は、エリナはフィリスのそばにいる。だが、俺が危険になったのなら。そういうことだ。
「だが……。いや、問答している時間はないな。ひとりでも、早く多くを……!」
「いけ、レックス!」
迷っている時間はない。俺は、一気に敵に向かって駆け出した。剣を、全力で握りしめながら。足先で地面を踏みしめる感触を確かめて、それが膝から腰から肘へ、最後には指先に伝わっていくのを感じて。
ただ、一心を込めた。必ず、敵を切り裂くとだけ。
「
剣の鋭さが、明らかに違う。流れるように、敵を斬っていける。相手は、斬られたことにすら気付いていない様子。
ただ剣を振り続けるだけで、あっけなく敵たちは片付いていく。俺の前に、武器を構えることすらできないまま。
一方的な蹂躙が、そこにはあった。誰一人として、抵抗すらできなかった。
それでも、分かる。この剣には、まだ先があると。足先と膝のわずかなズレ、手首を返すタイミングの制御。そして何より、剣を振ることそのものへの集中。
何かが噛み合えば、俺は世界すら切り裂けるのではないだろうか。そんな感覚すらあった。
「ふぅ、思ったよりは楽に片付いたな」
「……警戒。やはり、戦力が変わらないまま。ミレアルなら、もっと強力にできてもおかしくない」
「レックスが成長しているのに、前と同じだものな。意図として考えられるのは……」
言われてみれば、確かにそうだ。特に苦戦することが、何もなかった。まるで、魔力を封じられる前みたいに。
まさかとは思いたいが、警戒しておくべきだ。もし何もなかったとしても、不意打ちを食らうよりはマシなのだから。
これ以上追い込まれて、何ができるのかは分からない。もしかしたら、剣技が完成してしまえばという希望はあるにしろ。
ミレアルの意図は、どこにある。よく、考えなければ。
「油断を誘っているのか、また次の策があるのか。あるいは、フィリスの対策が完成するのを待っているのか」
「……仮説。レックスの成長に、戦場を利用している」
「なるほど。私から見ても、レックスの剣技は順調に成長している。追い詰めるより効果的だと判断したと?」
「……同意。ミレアルの試練は、きっとレックスの成長した先にある」
つまり、俺の成長そのものがミレアルの狙い通りだということ。おそらく、フィリスを餌にした。今回は、エリナも。
何をすれば俺が動くのか、嫌というほどに理解されている。ある意味では、最大の理解者なのではとすら思うほどに。
フィリスを死なせないように状況をコントロールしている意図もあるのかもしれない。だって、誰かが犠牲になれば、俺はきっと。
いや、そんな事を考えても仕方ない。いま取れる対策を、どう考えるかだ。
「なら訓練をやめれば……とは言えないのが、厄介なところだな。みんなを全力で守らないと、危険だ」
「レックスだけを見ているのなら、私やフィリスは平気で殺してもおかしくはない」
「……追加。そもそも、レックスを認めなくなる可能性もある」
ミレアルが俺に試練を与えているのは、歪んでいようとも俺に対する何らかの関心があるから。それこそ、狂った愛情のような。
実際に話したこともないが、状況からして当たっているはずだ。そもそも、俺個人に対してやることが大きすぎる。邪魔だというのなら、もっと楽に殺せる手段はいくらでもあった。
それこそ、皇帝との戦いの時にでも魔力を封じた上で誰かを転移させて俺を暗殺すればよかった。
やはり、今は俺を殺そうとしていない。だが、その愛情が失望に変わったら。何をするかなど、想像すらできない。
……俺の選ぶべき道は、ミレアルが俺を愛するように動くことなのだろうな。
「やはり、そうなるよな。俺にできることは、全力を尽くすことだけか」
「フィリスの対策も、鍵になるのかもしれないな。私も、か」
「……思索。女神の打つ手は、私の対策を逆利用することかもしれない」
「だからといって、対策を止めれば……とは言えないよな。そうすれば、ミレアルは……」
「ならば、逆利用の内容を考えればよいのではないか?」
「……共感。とはいえ、内容は単純。エリナの、魔力を切り裂く剣」
ふむ。やはり、フィリスは魔力を封じられた局面でも、何らかの形で魔法を使えないかを考えているみたいだ。
だとすると、それを敵が使ってきても殺せるように対策するべきということ。
どの道、剣技を極めることは必要だった。今の段階で極めるのは、正しい判断のはず。
「なるほど。フィリスのやろうとしていることは、見えてきたな。レックス、どうだ?」
「そういうことなら、俺もフィリスと似たような対策も……」
「……疑念。問題は、剣技の習熟と同時にこなせるのかということ」
「一理ある。やはり、私の剣技を優先するのが無難か」
確かに、そうだな。フィリスですら苦戦しているものを、1日や2日で覚えられると思わない方が良い。なら、一つのことに集中するのは妥当だ。
やはり、俺だけで考えないことに意義がある。そういう面でも、ふたりがいてくれたのは良かった。
「……同意。ミレアルの意図を考えても、それは正しい」
「ああ、そういうことか。魔力を使えない状況での戦いを、俺に身につけさせようとしている……」
「だとすると、フィリスの対策は逆効果になりかねないな。いけるか、レックス?」
できるもできないもない。やらなければいけないのなら、やるしかない。
幸い、何かをつかめそうな感覚はあった。このまま、もっと先に進んでみせるさ。