物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

633 / 633
632話 剣技の先に

 俺達は、訓練を続けながらまた進んでいた。街に滞在し続けるにも、限度がある。それを意識しながら、ある程度の成果が見込めた段階で。

 少なくとも、俺の剣技に関しては進歩が見られたと思う。まだ全力で剣を振ってはいないが、いくつかの感覚を刻みつけられたはず。

 

 フィリスも何度か頷いている場面はあったので、少しは進んでいるのだろう。成果を話してこないあたり、ミレアルに隠しているのか完成していないのか。

 

 そんなこんなで、またアリエス連邦の道を進む。壁も何もない、ただの道を。精神を、ひたすらに研ぎ澄ませながら。

 

 案の定、敵が現れた。

 

「また、来たか。フィリス、対策は実行できそうか?」

「……無理。まだ、実戦で使える段階になっていない」

 

 フィリスは淡々と語る。おそらく、言い回しからして発動だけはできる状態なのだろう。使いこなせないから、実戦で使うとむしろじゃまになるという段階。

 成果を確かめられたのはありがたいが、これでは戦力として数えることはできない。まあ、やることは同じだ。落ち着いて、敵を殺し続けよう。

 

「なら、俺に任せてくれ。少しは、剣の腕も上がったつもりだ」

「そうか。フィリス、私が守った方が良いか?」

「……天秤。レックスの安全を優先して。それだけ」

 

 今は、エリナはフィリスのそばにいる。だが、俺が危険になったのなら。そういうことだ。

 

「だが……。いや、問答している時間はないな。ひとりでも、早く多くを……!」

「いけ、レックス!」

 

 迷っている時間はない。俺は、一気に敵に向かって駆け出した。剣を、全力で握りしめながら。足先で地面を踏みしめる感触を確かめて、それが膝から腰から肘へ、最後には指先に伝わっていくのを感じて。

 ただ、一心を込めた。必ず、敵を切り裂くとだけ。

 

神速(ディレイドキル)! これは……!」

 

 剣の鋭さが、明らかに違う。流れるように、敵を斬っていける。相手は、斬られたことにすら気付いていない様子。

 ただ剣を振り続けるだけで、あっけなく敵たちは片付いていく。俺の前に、武器を構えることすらできないまま。

 

 一方的な蹂躙が、そこにはあった。誰一人として、抵抗すらできなかった。

 

 それでも、分かる。この剣には、まだ先があると。足先と膝のわずかなズレ、手首を返すタイミングの制御。そして何より、剣を振ることそのものへの集中。

 何かが噛み合えば、俺は世界すら切り裂けるのではないだろうか。そんな感覚すらあった。

 

「ふぅ、思ったよりは楽に片付いたな」

「……警戒。やはり、戦力が変わらないまま。ミレアルなら、もっと強力にできてもおかしくない」

「レックスが成長しているのに、前と同じだものな。意図として考えられるのは……」

 

 言われてみれば、確かにそうだ。特に苦戦することが、何もなかった。まるで、魔力を封じられる前みたいに。

 まさかとは思いたいが、警戒しておくべきだ。もし何もなかったとしても、不意打ちを食らうよりはマシなのだから。

 

 これ以上追い込まれて、何ができるのかは分からない。もしかしたら、剣技が完成してしまえばという希望はあるにしろ。

 ミレアルの意図は、どこにある。よく、考えなければ。

 

「油断を誘っているのか、また次の策があるのか。あるいは、フィリスの対策が完成するのを待っているのか」

「……仮説。レックスの成長に、戦場を利用している」

「なるほど。私から見ても、レックスの剣技は順調に成長している。追い詰めるより効果的だと判断したと?」

「……同意。ミレアルの試練は、きっとレックスの成長した先にある」

 

 つまり、俺の成長そのものがミレアルの狙い通りだということ。おそらく、フィリスを餌にした。今回は、エリナも。

 何をすれば俺が動くのか、嫌というほどに理解されている。ある意味では、最大の理解者なのではとすら思うほどに。

 

 フィリスを死なせないように状況をコントロールしている意図もあるのかもしれない。だって、誰かが犠牲になれば、俺はきっと。

 

 いや、そんな事を考えても仕方ない。いま取れる対策を、どう考えるかだ。

 

「なら訓練をやめれば……とは言えないのが、厄介なところだな。みんなを全力で守らないと、危険だ」

「レックスだけを見ているのなら、私やフィリスは平気で殺してもおかしくはない」

「……追加。そもそも、レックスを認めなくなる可能性もある」

 

 ミレアルが俺に試練を与えているのは、歪んでいようとも俺に対する何らかの関心があるから。それこそ、狂った愛情のような。

 実際に話したこともないが、状況からして当たっているはずだ。そもそも、俺個人に対してやることが大きすぎる。邪魔だというのなら、もっと楽に殺せる手段はいくらでもあった。

 それこそ、皇帝との戦いの時にでも魔力を封じた上で誰かを転移させて俺を暗殺すればよかった。

 

 やはり、今は俺を殺そうとしていない。だが、その愛情が失望に変わったら。何をするかなど、想像すらできない。

 ……俺の選ぶべき道は、ミレアルが俺を愛するように動くことなのだろうな。

 

「やはり、そうなるよな。俺にできることは、全力を尽くすことだけか」

「フィリスの対策も、鍵になるのかもしれないな。私も、か」

「……思索。女神の打つ手は、私の対策を逆利用することかもしれない」

「だからといって、対策を止めれば……とは言えないよな。そうすれば、ミレアルは……」

「ならば、逆利用の内容を考えればよいのではないか?」

「……共感。とはいえ、内容は単純。エリナの、魔力を切り裂く剣」

 

 ふむ。やはり、フィリスは魔力を封じられた局面でも、何らかの形で魔法を使えないかを考えているみたいだ。

 だとすると、それを敵が使ってきても殺せるように対策するべきということ。

 

 どの道、剣技を極めることは必要だった。今の段階で極めるのは、正しい判断のはず。

 

「なるほど。フィリスのやろうとしていることは、見えてきたな。レックス、どうだ?」

「そういうことなら、俺もフィリスと似たような対策も……」

「……疑念。問題は、剣技の習熟と同時にこなせるのかということ」

「一理ある。やはり、私の剣技を優先するのが無難か」

 

 確かに、そうだな。フィリスですら苦戦しているものを、1日や2日で覚えられると思わない方が良い。なら、一つのことに集中するのは妥当だ。

 やはり、俺だけで考えないことに意義がある。そういう面でも、ふたりがいてくれたのは良かった。

 

「……同意。ミレアルの意図を考えても、それは正しい」

「ああ、そういうことか。魔力を使えない状況での戦いを、俺に身につけさせようとしている……」

「だとすると、フィリスの対策は逆効果になりかねないな。いけるか、レックス?」

 

 できるもできないもない。やらなければいけないのなら、やるしかない。

 幸い、何かをつかめそうな感覚はあった。このまま、もっと先に進んでみせるさ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1701/評価:8.76/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報

お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。(作者:歌うたい)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 なおメスガキ以外にもバグみたいな弟子は増え、それぞれ脳をこんがり焼かれる模様。▼以下弟子共(順次公表)▼・弟子その1『持ち上げムーブは描く未来予想図の為の確信犯。激重感情搭載型の小悪魔系チートメスガキ』▼弟子その2『──現在閲覧不可──』▼弟子その3『──現在閲覧不可──』▼弟子その4『──現在閲覧不可──』▼※本作品はカクヨム様にて別タイトルで公開してお…


総合評価:9493/評価:8.47/連載:31話/更新日時:2026年02月06日(金) 12:11 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:3811/評価:8.08/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

剣聖「騎士団の教官になったから、気合い入れて厳しめに鍛えたら教え子全員殺意マシマシのガンギマリ集団になった」(作者:アスピラント)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

かつて“歴代最強”と謳われた剣聖レクスディア。▼しかしある任務を境に、彼は第一線を退くことを余儀なくされる。全盛期の力を失い、戦場に立てなくなった彼が選んだ第二の道――それは騎士団の教官として、後進を育てることだった。▼「俺の代わりになる騎士を育てる」▼その一心で、かつて自分が受けてきた以上の厳しい鍛錬を課すレクスディア。▼だがその指導は、想像以上の成果を生…


総合評価:4143/評価:8.15/連載:14話/更新日時:2026年05月01日(金) 07:05 小説情報

人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者(作者:せぞんのう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

その世界には人間の輝きが大好きな悪魔が無数にいた。▼死を経験したことで生存本能に意識を極振りした転生者のルセラは、悪魔を利用してでも生き残ることを画策する。▼しかしその姿は悪魔たちにとって、性癖ど真ん中をぶち抜く行為だった。▼しかも生き残るためにあらゆることをやってのけるこの異常者の行動は悪魔の想像の遥か斜め上を行く所業ばかり。▼やがて、生存本能極振り転生者…


総合評価:9557/評価:8.88/連載:10話/更新日時:2026年05月08日(金) 07:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>