物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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633話 幾度目の迷い

 戦いも何度かありつつ、俺達は安全圏をなるべく経由しながら移動していた。剣技が成長しそうな感覚はあるものの、疲れも負担もある。少しでも楽をしなければ、いずれ潰れるというのは3人の共通見解だった。

 

 街ではよく食べよく眠り、その中で余裕があるときに訓練をする。そうするのが最善という結論になっていく。

 俺も、かなり手応えを手に入れられたからな。ここで焦っても逆効果だというのは分かるつもりだ。

 

「……順調。そろそろ、対策が完成しそう」

 

 朝の宿で、フィリスはそんな事を言う。対策の内容は、3つくらいの候補だとは思う。魔力が霧散するので、それを力技やあるいは高度な技術で抑えること。

 体内で使える魔力だけだと割り切って、身体強化や体にまとうくらいに抑えること。まあ、それも体外に出した瞬間に霧散するので、かなり技術がいるのだが。

 そして、霧散することを逆に利用して波動のような形で魔力を放つこと。それにしたって、霧散の特性に合わせて魔力を制御するくらいの技術は必要ではある。

 

 いずれにしても、魔力が霧散することを乗り越えられるほどの高度な魔力制御が必要だ。そして同時に、霧散のクセみたいなものと合わせる必要もある。

 

 総じて、起死回生の一手と言うほどではないだろうな。フィリスが無力ではなくなるという程度だろう。

 

 だからこそ、逆利用されても程度は知れているという安心感もある。良し悪しだな。

 

「となると、ミレアルの大規模な襲撃も近いかもしれないな。俺たちの正念場になりそうだ」

「私も、もっと剣技を磨かなくては。足手まといには、なれない」

 

 エリナは固い顔をしている。やはり、厳しい状況であるとは感じているのだろう。今の段階では、かなり重要な戦力になってくれているが。

 とはいえ、やはり限界も感じるところだ。今の戦いが成立しているのは、相手が弱いからでしかないのだから。

 

「……同意。力になれないことは、想像以上に心苦しい」

 

 無表情ではあるものの、少し沈んで見える。声が淡々としているのはいつものことだが、張りがない気もする。

 あまり表には出さないにしろ、自分の無力を嘆いているんだ。

 

「フィリスでも、そんな気持ちになるんだな。なんて、失礼か」

「……平気。レックスの言いたいことは、分かる。それは、大事な気持ち」

 

 穏やかな顔で、俺のことを見ている。共感みたいな感覚を抱いたのは事実だ。いつも冷静で頼りになるフィリスですら、暗い感情を表に出す瞬間はあるのだと。

 

「私にも、分かるところはある。劣等感のような、焦りのような」

「そう言葉にされると、ちょっと情けない気もするな……」

「……否定。持っていて当然の感情。どう付き合うかが大事」

「その通りだ。レックスは、内心すら律しようとしている。それは、茨の道だぞ」

 

 ならば、フィリスやエリナを少しでも軽く見てしまう瞬間があっていいというのだろうか。今はまだ、共感だったと思う。これが憐れみや見下しにならないと、なぜ言える。

 そうなってしまえば、俺は終わりだ。大切な人すら大事に思えなくなったのなら、生きている価値なんてない。

 

「だが、それでは……」

「……説教。いい? 大事なのは、行動と結果。どんなに理想的な内心を抱えていても、関係ない」

「まさにフィリスの言う通りだ。仮にレックスの内心がどれほど醜くても、小さなことだ」

 

 例えば、俺がフィリスをバカにしながら助けたとして。それは本当に正しいことなのだろうか。

 正直に言えば、フィリスを尊敬できなくなった俺なんて許せない。だが、助けられた方からすれば関係がないということも分かる。

 こんな悩みを感じている状況ではないことだけは、確かなのだが。

 

「そう、なのだろうか……」

「……断言。レックスは、十分に善性の存在。少なくとも、私たちにとっては」

 

 自分では、とても善人とまでは思えない。悪だとも、思いたくはないが。

 まあ、これだけ多くの人間を殺しておいて善人面なんてできるはずもない。せいぜい、ダークヒーローが限界ラインだろう。真っ当なヒーローとは、とても言えない。

 もっと言えば、悪役である可能性すらある。だからといって行動を変えられないのが、よりらしいとすら。

 

「お前たちを、助けているからか?」

「……肯定。命がけで、私たちのために戦う。その行動がすべて」

「私も同感だ。レックスは、仲間たちを何度も助けてきた。それを誇るんだ」

 

 みんなが生きているのには、確かに俺も関わっている。リーナなんかは、明らかに原作では死んでいた。ミュスカも似たようなもの。そういう人達を救えただけでも、生きている価値はある。

 前も、同じようなことを考えていたな。同じ人間が考えることは、同じようなことなのだろう。

 

 精神的には、そこまで大きく成長はできていないのかもしれない。それでも良いと、フィリスたちは言ってくれている。

 ……俺のこだわりより、フィリスたちの気持ちの方が大事だ。そんなこと、最初から分かりきっていたことのはず。

 

「確かに、仲間の存在は俺の誇りだ。なら、みんなが好きでいてくれる俺で……」

「その意気だ。だが、自分を殺しすぎるなよ。私たちは、ずっとレックスを見てきた。その上で、大切に思っているんだ」

「……同意。レックスの長所も短所も、知っている。分かっていて、付き合っている」

 

 二人の言葉に、鼻の奥がツンとするような感覚があった。息を吸って、それを抑える。

 本当は、泣きわめいても受け入れてくれるような気がしていた。だからこそ、泣きたくなかった。

 

「ははっ、そうか。そうだな……。何の魅力もない人を、好きになるような人たちじゃないな……」

「……肯定。私たちは、無価値な存在には見向きもしない。仮に、才能があったとしても」

「そうだとも。レックスが私たちの教えを大切にしているからこそ、大事な弟子なんだ」

 

 穏やかな顔で、俺を見てくれている。そうだな。俺は、ふたりが大切に思う弟子なんだ。それを悪く言って、気分が良くなるはずもない。

 俺が俺を誇るのは、みんなのため。それで、良いんだよな。みんなが好きでいてくれる俺を、俺も好きでいる。きっと、そういうこと。

 

「悪い。また、自分を見失っていたみたいだ。きっと、また……」

「構わないとも。レックス。私たちがお前を導いてみせる。フィリスも、だろう?」

「……当然。だから、レックスは自分の道を進んで。新しい技術で、支えてみせる」

「ありがとう。お前たちにふさわしい俺でいられるように、必ず守り抜いてみせる」

「ふふっ。私たちとて、ただ守られるだけじゃないとも。なあ、フィリス」

「……同意。レックスの力になる。導いてみせる。そのために、弱者のままでは終わらない」

 

 ふたりの目は、どちらも強い決意を秘めていた。だからこそ、俺だって強くならないとな。もっと、どこまでも。

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