物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

635 / 635
634話 大きな転機

 少しずつ、俺達は首都に向けて進んでいる。敵の妨害もありながら、それでも確かに。

 剣技に関して、確かに成長している感覚はある。だが、大きな壁の手前で少しだけ進んでいるというか、ゴムみたいな柔らかい壁をちょっと押しているだけというか。

 本格的に壁を打ち破るには、まだ足りない。そんな感覚があった。何が足りないのかも、分かってはいなかったが。

 

 首都への道を歩みながら、いつ敵が来るかを警戒しながら進む。そんな時間が続くのに、少しの疲れもあった。

 とはいえ、弱音を吐いている余裕はない。敵は、こちらの都合など考えてくれないのだから。

 

「……完成。今回から、少しは足手まといにならずに済む」

 

 フィリスが、満足気に頷いていた。つまり、これからはフィリスをある程度の戦力として数えられるということ。

 とはいえ、いくらなんでもいきなり頼り切るのはまずい。検証も含めて、しっかりとフィリスの役割を探っていかなくては。

 

「それは助かる。だが、無理はするなよ。みんなで勝たなきゃ、意味がないんだ」

「レックスこそ、な。私たちを想うのなら、余計にだ」

「ああ。……来たか。さて、いくぞ!」

 

 いつものように、多くの獣人たちが転移してくる。さあ、ここからだ。ミレアルが何を仕掛けてこようが、かならず勝つ。

 剣を握り直しながら、敵のもとへと駆け出していく。その後ろで、フィリスが動いた。

 

「……開幕。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 俺にすら追いつけるのではないかという速度で、フィリスは駆け出す。そして、敵に向けて杖をかざした。

 魔力が霧のように広がっていき、多くの敵を覆っていく。同時に、そいつらが苦しみだした。

 

 何かから逃れるように、敵はもがき続けている。おそらく、フィリスの魔法の効果。霧状の魔力が、敵の体内を破壊しているのだろうか。

 

「これは……。いや、続くぞ! 神速(ディレイドキル)!」

 

 まだ動いている敵から順に、切り裂いていく。反撃のスキも与えないように、確実に一刀両断。倒れるのを確認することもなく、次に。また次に。

 ただ、近くにいる敵をひたすらに切り続ける。誰ひとりとして、フィリスに近づけないように。

 

「私も、負けていられないな! 神速(ディレイドキル)!」

 

 エリナも続き、フィリスも霧を撒き続けている。それらに合わせながら、俺も敵を斬り続ける。

 ほとんど殺し終えた頃に、気配が増えた。そちらを見ると、やはり敵が転移してきていた。

 

「まだまだ、おかわりが来るみたいだな! やはり、ここからが本番か!」

「……強化。敵は、魔力を体に浸透させている」

 

 フィリスは霧を撒きつつ、解説してくれる。察するに、フィリスは魔力を体に浸透させることで自分を加速し、敵に浸透させることによって苦しめていたのだろう。

 つまり、次からはフィリスの対策が効きにくくなるかもしれない。もっと言えば、魔力が浸透しているということは、敵は身体能力を強化しているということ。おそらく、防御力も。

 

「俺の侵食と同じような技術か……。だが、やることは変わらない! 神速(ディレイドキル)!」

 

 敵に向けて剣を振ると、一瞬だけかわそうとされた。それに追いつき、体に剣を潜り込ませる。抵抗があり、剣の勢いをいくらか殺されてしまった。

 エリナも近くで敵を切り裂いており、納得したように頷いている。

 

「魔力を切り裂く時と同じで良さそうだな。なら、私も! 神速(ディレイドキル)!」

「……対応。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 エリナもフィリスも、割とあっさりと対応している。エリナの方は普通に魔力ごと敵を切り裂いているし、フィリスは同じように霧で敵を苦しめ続けている。

 合わせるように、俺も動き続ける。とはいえ、ふたりほど順調とも言い切れなかった。

 

 魔力の流れを読むのに、俺は闇の魔力を通していた。それが使えなくなったせいで、前ほどの精度が出せない。

 やはり、エリナはとんでもない。魔力を持たないままで、魔力を切り裂く剣技を編み出してしまったのだから。

 

 だからこそ、俺も負けていられない。少しでも剣を鋭く振るために、全身の力を込める。力技ではあるものの、敵を切ること自体はできた。

 

 ただ、切り裂くそばから敵が追加されていく。剣を握る指が固まるのを感じながら、ひたすらに剣を振っていた。

 

「くっ、いつまで出てくる? やはり、フィリスの予想は正しかったか……」

「……散逸。一手、当てる。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 フィリスが前に出て、敵に魔力の霧を当てていく。それで、魔力による強化も緩む。合わせて、俺も動く。

 

神速(ディレイドキル)! まったく、一気に斬らせてくれないものだ!」

 

 フィリスのサポートがあってすら、敵を斬った勢いそのままに次の敵を斬ることはできない。どうしても、剣の速度が緩んでしまう。

 そのせいで、少しずつ敵を殺す速度が足りなくなっていく。嫌な感覚が、背中を走る。

 

「魔力の流れは、敵の体内にもある! そこに食い込ませるんだ、レックス! 神速(ディレイドキル)!」

 

 エリナは順調に敵を斬り続けている。とはいえ、敵もただで殺されてはいない。体をずらして妨害しようとしたり、剣で受けてそれごと斬り捨てられていたり。

 とにかく、敵によって負担を押し付けられている。だんだん、俺やエリナの剣に反応しだす敵が増えてきた。

 

「また、強化の度合いが増してきたのか! ミレアル……!」

「このままでは、押し切られるか? レックス、一度集まるぞ!」

 

 とにかく、数が多い。なら、バラバラになっていても各個撃破されるだけ。納得して、フィリスのもとに集まろうとする。

 だが、当然のように敵は妨害を仕掛けてくる。俺にもエリナにもフィリスにも、剣を叩きつけようとしてくる敵ばかり。

 

「……誘導。私に任せて。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 フィリスは、霧をとにかく広範囲に展開していく。それこそ、見える範囲すべてを包み込もうとするほどに。

 確かに、敵の動きは妨害されている。苦しんでいる敵も、かなり多い。だが。

 

「フィリス、無茶をするな! お前の魔力も、限界に近いだろう!」

「レックス、今だ! 神速(ディレイドキル)!」

「くっ、邪魔だ! 神速(ディレイドキル)! 神速(ディレイドキル)!」

 

 目に映る範囲の敵を、ただ斬り続ける。何度も何度も転移で現れるのを、ひたすらに。フィリスの霧のおかげで、敵の動きそのものはにぶい。

 だから、数で押されていても被害は出さずに済んでいる。だが、これはいつまで続く?

 

「……収束。これで、一通りを。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 フィリスは、また霧を深める。そして、敵たちは動きを妨害されていく。

 だが、次に出てきた敵は霧をものともせずに動き出す。フィリスに向かって、まっすぐに。

 俺もエリナも、わずかに反応が遅れてしまった。

 

「なっ……! フィリス!」

 

 フィリスの目の前で、敵が剣を振り下ろしていく。俺はただ、フィリスを守れるように剣を振った。届かないと、どこかで分かっていながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1703/評価:8.76/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報

お荷物追放された俺に、バグキャラみたいなメスガキの弟子が出来ました。(作者:歌うたい)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 なおメスガキ以外にもバグみたいな弟子は増え、それぞれ脳をこんがり焼かれる模様。▼以下弟子共(順次公表)▼・弟子その1『持ち上げムーブは描く未来予想図の為の確信犯。激重感情搭載型の小悪魔系チートメスガキ』▼弟子その2『──現在閲覧不可──』▼弟子その3『──現在閲覧不可──』▼弟子その4『──現在閲覧不可──』▼※本作品はカクヨム様にて別タイトルで公開してお…


総合評価:9492/評価:8.47/連載:31話/更新日時:2026年02月06日(金) 12:11 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:3840/評価:8.07/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者(作者:せぞんのう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

その世界には人間の輝きが大好きな悪魔が無数にいた。▼死を経験したことで生存本能に意識を極振りした転生者のルセラは、悪魔を利用してでも生き残ることを画策する。▼しかしその姿は悪魔たちにとって、性癖ど真ん中をぶち抜く行為だった。▼しかも生き残るためにあらゆることをやってのけるこの異常者の行動は悪魔の想像の遥か斜め上を行く所業ばかり。▼やがて、生存本能極振り転生者…


総合評価:9562/評価:8.87/連載:10話/更新日時:2026年05月08日(金) 07:05 小説情報

拾ったのは、外伝ゲームの主人公でした(作者:異星人アリエン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

『リベリオン/戦禍の夜明け』。▼かつてダークファンタジーの先駆けとして、人気を博したアニメタイトル。ネームドでもサブキャラでもない、単なる無名の一般人としてそこへ転生したゲドウ・マルドラークは生きていく上で、仕方なく悪の帝国であるカエレスティス帝国の兵士として働いていた。▼知っている作品なのにそれを活かす頭脳がなく燻りながらも、日々を過ごすゲドウ。▼ある日、…


総合評価:8909/評価:8.2/連載:44話/更新日時:2026年06月08日(月) 18:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>