物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
少しずつ、俺達は首都に向けて進んでいる。敵の妨害もありながら、それでも確かに。
剣技に関して、確かに成長している感覚はある。だが、大きな壁の手前で少しだけ進んでいるというか、ゴムみたいな柔らかい壁をちょっと押しているだけというか。
本格的に壁を打ち破るには、まだ足りない。そんな感覚があった。何が足りないのかも、分かってはいなかったが。
首都への道を歩みながら、いつ敵が来るかを警戒しながら進む。そんな時間が続くのに、少しの疲れもあった。
とはいえ、弱音を吐いている余裕はない。敵は、こちらの都合など考えてくれないのだから。
「……完成。今回から、少しは足手まといにならずに済む」
フィリスが、満足気に頷いていた。つまり、これからはフィリスをある程度の戦力として数えられるということ。
とはいえ、いくらなんでもいきなり頼り切るのはまずい。検証も含めて、しっかりとフィリスの役割を探っていかなくては。
「それは助かる。だが、無理はするなよ。みんなで勝たなきゃ、意味がないんだ」
「レックスこそ、な。私たちを想うのなら、余計にだ」
「ああ。……来たか。さて、いくぞ!」
いつものように、多くの獣人たちが転移してくる。さあ、ここからだ。ミレアルが何を仕掛けてこようが、かならず勝つ。
剣を握り直しながら、敵のもとへと駆け出していく。その後ろで、フィリスが動いた。
「……開幕。
俺にすら追いつけるのではないかという速度で、フィリスは駆け出す。そして、敵に向けて杖をかざした。
魔力が霧のように広がっていき、多くの敵を覆っていく。同時に、そいつらが苦しみだした。
何かから逃れるように、敵はもがき続けている。おそらく、フィリスの魔法の効果。霧状の魔力が、敵の体内を破壊しているのだろうか。
「これは……。いや、続くぞ!
まだ動いている敵から順に、切り裂いていく。反撃のスキも与えないように、確実に一刀両断。倒れるのを確認することもなく、次に。また次に。
ただ、近くにいる敵をひたすらに切り続ける。誰ひとりとして、フィリスに近づけないように。
「私も、負けていられないな!
エリナも続き、フィリスも霧を撒き続けている。それらに合わせながら、俺も敵を斬り続ける。
ほとんど殺し終えた頃に、気配が増えた。そちらを見ると、やはり敵が転移してきていた。
「まだまだ、おかわりが来るみたいだな! やはり、ここからが本番か!」
「……強化。敵は、魔力を体に浸透させている」
フィリスは霧を撒きつつ、解説してくれる。察するに、フィリスは魔力を体に浸透させることで自分を加速し、敵に浸透させることによって苦しめていたのだろう。
つまり、次からはフィリスの対策が効きにくくなるかもしれない。もっと言えば、魔力が浸透しているということは、敵は身体能力を強化しているということ。おそらく、防御力も。
「俺の侵食と同じような技術か……。だが、やることは変わらない!
敵に向けて剣を振ると、一瞬だけかわそうとされた。それに追いつき、体に剣を潜り込ませる。抵抗があり、剣の勢いをいくらか殺されてしまった。
エリナも近くで敵を切り裂いており、納得したように頷いている。
「魔力を切り裂く時と同じで良さそうだな。なら、私も!
「……対応。
エリナもフィリスも、割とあっさりと対応している。エリナの方は普通に魔力ごと敵を切り裂いているし、フィリスは同じように霧で敵を苦しめ続けている。
合わせるように、俺も動き続ける。とはいえ、ふたりほど順調とも言い切れなかった。
魔力の流れを読むのに、俺は闇の魔力を通していた。それが使えなくなったせいで、前ほどの精度が出せない。
やはり、エリナはとんでもない。魔力を持たないままで、魔力を切り裂く剣技を編み出してしまったのだから。
だからこそ、俺も負けていられない。少しでも剣を鋭く振るために、全身の力を込める。力技ではあるものの、敵を切ること自体はできた。
ただ、切り裂くそばから敵が追加されていく。剣を握る指が固まるのを感じながら、ひたすらに剣を振っていた。
「くっ、いつまで出てくる? やはり、フィリスの予想は正しかったか……」
「……散逸。一手、当てる。
フィリスが前に出て、敵に魔力の霧を当てていく。それで、魔力による強化も緩む。合わせて、俺も動く。
「
フィリスのサポートがあってすら、敵を斬った勢いそのままに次の敵を斬ることはできない。どうしても、剣の速度が緩んでしまう。
そのせいで、少しずつ敵を殺す速度が足りなくなっていく。嫌な感覚が、背中を走る。
「魔力の流れは、敵の体内にもある! そこに食い込ませるんだ、レックス!
エリナは順調に敵を斬り続けている。とはいえ、敵もただで殺されてはいない。体をずらして妨害しようとしたり、剣で受けてそれごと斬り捨てられていたり。
とにかく、敵によって負担を押し付けられている。だんだん、俺やエリナの剣に反応しだす敵が増えてきた。
「また、強化の度合いが増してきたのか! ミレアル……!」
「このままでは、押し切られるか? レックス、一度集まるぞ!」
とにかく、数が多い。なら、バラバラになっていても各個撃破されるだけ。納得して、フィリスのもとに集まろうとする。
だが、当然のように敵は妨害を仕掛けてくる。俺にもエリナにもフィリスにも、剣を叩きつけようとしてくる敵ばかり。
「……誘導。私に任せて。
フィリスは、霧をとにかく広範囲に展開していく。それこそ、見える範囲すべてを包み込もうとするほどに。
確かに、敵の動きは妨害されている。苦しんでいる敵も、かなり多い。だが。
「フィリス、無茶をするな! お前の魔力も、限界に近いだろう!」
「レックス、今だ!
「くっ、邪魔だ!
目に映る範囲の敵を、ただ斬り続ける。何度も何度も転移で現れるのを、ひたすらに。フィリスの霧のおかげで、敵の動きそのものはにぶい。
だから、数で押されていても被害は出さずに済んでいる。だが、これはいつまで続く?
「……収束。これで、一通りを。
フィリスは、また霧を深める。そして、敵たちは動きを妨害されていく。
だが、次に出てきた敵は霧をものともせずに動き出す。フィリスに向かって、まっすぐに。
俺もエリナも、わずかに反応が遅れてしまった。
「なっ……! フィリス!」
フィリスの目の前で、敵が剣を振り下ろしていく。俺はただ、フィリスを守れるように剣を振った。届かないと、どこかで分かっていながら。