物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
フィリスのもとに、敵の剣が振り下ろされる。俺の剣は、どう考えても間に合わない。それでも、俺は敵に剣を向けていた。切り下ろすための動きに入っていた。
気付いたら、俺は剣を振り抜いていた。同時に、敵の腕が落ちていく。もう一度剣を振ると、今度はフィリスの頭に落ちようとしていた剣が吹き飛ぶ。
「これは……なぜ……? いや、そうじゃない! やれるのなら、このまま!」
とにかく、体が勝手に動く。斬りたいと思った瞬間。いや、敵の存在に気がついた瞬間。それすらも違う。なにか、導かれるままに動いているよう。
いつか感じたものより、深い。かつては、剣と一体になれそうな感覚があった。今は、本当に剣が気付いたら動いているとしか言いようがない。
それなのに、当たってもいない敵の体がふたつにブレていく。何が起きているのか。答えは明らかだった。
「……感嘆。まさか、魔力も使わずに遠くを斬るなんて」
「私も、負けていられないな! フィリス、合わせてくれ!」
「……了解。
魔力の霧は、だんだん深まっていく。密度が高まると同時に、敵の動きが鈍りだした。
「やはり、濃度を変えれば通じるか。なら、私も!
エリナも目にも止まらぬ早さで動いて、敵を切り捨てている。流れるように、連続で。
俺はただ、感覚に身を委ね続ける。剣を振ろうとすらしない。いつの間にか腕が動いていて、そして敵は当たってもいないのに寸断される。
だが、俺の体が何かに操られているわけではない。もっと言えば、何よりも自由に生きているという感覚すらあった。何かの鎖から、解き放たれたかのようですらある。
まだ、敵は転移してくる。フィリスの方へ向かう姿が、見える。どうすれば、まとめて殺せるか。体が、自然と答えを導き出したような気がした。
つま先から指の先まで、すべてが一体となっていく。それどころか、剣の先まで。
斬るべき流れが、見える。魔力でもなく、体の弱いところでもない。ただ、寸断すべき何かとだけ分かる。
導かれるままに、俺は全身に力を込めた。
「今なら、やれる……。まとめて、消えろ!
ただ、横に剣を振り抜く。それだけで、目の前にいる敵はすべて真っ二つになった。空間の姿がブレて、一瞬で元通りになっていく。
全身から伝わる感覚が、俺に教えてくれる。今、俺は世界を斬ったのだと。
敵の全てが倒れて、転移しようとしてくる敵を感じる。そこにつながる何かに向けて、俺は剣を振った。
それだけで、敵は転移してこなくなった。
数秒ほど、周囲の気配を探る。転移の感覚は、どこにもなかった。一度息を吐いて、仲間の方を向く。フィリスの穏やかな顔が、そこにはあった。
「終わったか……! フィリス、良かった……!」
気がついたら、フィリスを抱きしめていた。自分でも制御できないほどに、強く。フィリスの温もりを、確かめるように。
「……驚嘆。レックスが、そこまで踏み込むなんて」
「微笑ましい光景ではあるが、少しは移動しながらにするぞ。なあ、レックス」
エリナは、少し咳払いをした。フィリスが身動ぎしたのを感じて、急いで離れる。
フィリスはじっと、俺を見ていた。
「あっ……! 悪い、フィリス」
「……平気。レックスが私を大事にしてくれている証」
「私も本気で焦ったからな……。やはり、ミレアルは油断ならないようだ」
俺が新しい剣技に目覚めなければ、フィリスは死んでいたかもしれない。そこまでのことを、するということ。
試練だからといって、気を抜くことはできない。改めて、強く理解できた。
「……確信。やはり、ミレアルはレックスの成長を目指している」
「だろうな。私から見ても、レックスの剣技は凄まじかった。私とは別の技を編み出すとは……」
エリナの対策は、魔力の流れを切り裂くというもの。俺の剣は、遠くを斬るというもの。結果だけを見れば、何もかもが違う。
「自分でも、よく分からないんだよな。無我夢中のままに剣を振っていたというか……」
「……空間。それを切り裂いていた。魔力も込めない、ただの剣技で」
やはり、世界を斬ったという感覚は正しかったようだ。前にも、世界すら切れそうだと思ったことはある。半歩くらい、踏み込んでいたのだろう。
ただ、狙って出せたとは言い難い。次に同じような状況があったとして、同じ事ができるかどうか。
なんとなく、体が勝手に動くんじゃないかという気もする。だが、油断はできない。しっかりとものにするのが、大事になってくる。
「私も、反省すべきかもしれない。剣技では、魔法のようなことはできない。そう思い込んでいた」
「エリナが俺を鍛えてくれたおかげだ。だから、エリナが師匠だからこそ編み出せたんだ」
もっと言えば、俺の編み出した剣技の根底にはエリナの技がある。何かが噛み合った結果、とんでもない方向に進化したという感覚だ。
エリナは軽くうつむいているが、もっと自分を誇っていいとすら思う。エリナが師匠でなければ、絶対に今の剣技を生み出すことはできなかったのだから。
「今度は、私がレックスに剣技を教わる番かもしれないな。それも、悪くはない」
「魔力を切り裂く剣技は、まだまだ教わり足りない。するにしても、教え合うという程度だろう」
エリナは朗らかな顔をしていた。なんというか、何かが吹っ切れたような。俺の剣技を見て、思うところがあったのだろう。さっきの言葉からするに、剣技の限界に線を引いていたみたいな感じか。
とはいえ、俺もやろうとしてやったわけじゃない。何かに導かれるように、体が勝手に動いただけ。むしろ、俺の方ができるわけがないと思っていたくらいだろう。闇魔法が使えなくなって、結果的に実現できただけで。
「……進歩。ひとまず、皆の傷を癒やす。そうすれば、訓練にも力が入れられる。
魔力の霧が、俺やエリナの体に浸透していく。そして、傷がだんだんと癒やされていった。
霧を染み込ませて、戦いの時は敵の体を破壊していた。フィリス自身の強化もしていた。そして今回は、治療も。
魔力を体に送り込むことで、体内で魔法を発動させるような感じ。だから、魔法の効果を変えれば体への影響も変わるということ。
「そこまで応用が効く技なのか……。凄まじいな……」
「レックスの剣技に一区切りがついたら、今度はフィリスの技を覚えるべきだろうな」
「……興味。レックスの剣と魔法が噛み合ったら、どれほどのものが生まれるのか」
それどころか、ミレアルの妨害がない状況なら組み合わせることすらできるはずだ。
「私も、ぜひとも見たいものだ。楽しみにしているぞ、レックス」
「そのためにも、まずは近くの街に向かわないとな……。一度、落ち着いて訓練したいところだ」
「……同意。おそらく、街で襲われることはない。今回の成果があるから、余計に」
「レックスの成長には、実戦だけでは足りない。そう証明したことになるのか」
確実な意見とまでは言えないが、ミレアルの意図からして正しいとは思う。今回フィリスを危険にさらしたのも、おそらくは俺の剣技を進化させるため。
だからこそ、わざわざ成長を奪うということはしない。そういう考えをしているはず。
「なら、
フィリスもエリナも、頷いていた。さて、俺の剣技はどこまで進化させられるのか。しっかりと、確かめていこう。