物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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637話 目標を定めて

 あれから、また首都に向かって進み続けている。何度か戦いもあったが、新しい剣技さえ使えれば苦戦することはなかった。

 余裕があるのを利用して、体が勝手に動く感覚を少しでも操縦できないかを確かめたりもした。脱力を意識しながら戦うこともあった。

 本来は実戦での実験は避けるべきではあるのだが、余裕があるうちに少しでも何かをつかんでおかないと、ミレアルの次の一手が怖い。

 

 実戦で得た感覚を街での訓練に活かしつつ、そのフィードバックをまた実戦で試す。何度か繰り返すうちに、つかめたものもあった。

 最近では、修行の際にも安定してくるようになってきた。

 

「狙って出せる割合は、かなり増えてきたな」

「順調に進んでいるな。さすがだ、レックス」

 

 エリナもエリナで、剣を振りながら色々と試している様子。まだ斬撃を飛ばすことには成功していないものの、それも時間の問題だろう。

 俺よりすごい剣士だということは、他ならぬ俺が一番知っている。エリナの顔には焦りも見えないし、安心して見ていられる。

 

「……確認。そろそろ、私の技を教えても良いかもしれない」

 

 フィリスに、そんな提案をされる。

 確かに、剣技の成長に関しては大きな区切りに近いだろう。いま以上に強い剣技というのは、形すらイメージできない。

 もっと言えば、フィリスの魔法があれば身体強化や敵の弱体化もできる。つまり、さらに剣技を強化することもできるということ。

 

「剣技の安定を取るか、さらなる戦力を取るか……。私は、フィリスに賛成だ」

「たとえ剣技に集中できないリスクを背負ってでも、進歩するべきということだな」

「……同意。レックスが納得するのが、一番大事ではあるけれど」

 

 エリナの意見は、素直に飲み込める。フィリスが言うことは、正直に言えば反対したい。だが、フィリスの提案には必ず深い意味がある。脊髄反射で拒否することだけは、ありえない。

 ひとまず、どういう意図があるかを聞いてからだな。

 

「俺の納得より、正しい選択かの方が大事じゃないか?」

「どちらの選択にも長所と短所がある。ならば、レックスの納得こそが最大の結果を生むはずだ」

 

 エリナの補足に、フィリスも頷いている。メリットとデメリットに関しては、先ほどエリナが言ったことと同意見だ。剣技を安定させるだけじゃ、もっと厄介な試練には対処できない。少しでも、より強化できる道を探るべきだ。

 

 ああ、分かったかもしれない。

 こうして道が見えていると、そこに向けてまっすぐに進める。迷いがあれば、振り返りたくなることもあるはずだ。

 つまり、どんな困難な道でも乗り越える覚悟が必要だということ。そのためには、自分で決めるのが大事なんだ。

 

「なるほど……。なら、俺はふたりを信じる。それが、俺の道だ」

 

 これは、ふたりの意見に何も考えず従うわけじゃない。これまで俺が積み上げてきたものは、みんなを信じることだったはず。俺が貫き通すべきものは、決まっているんだ。

 だから、俺はふたりの意見を信じる。俺自身が、信じ抜くと決意する。それで、良いんだよな。

 

「……了解。では、深層浸透(ユビキタスエアー)について教える」

「ああ、よろしく頼む。エリナは聞いていくのか?」

「私は剣でも振っているさ。レックスの魔力で、負担を癒やしてもらおうか」

 

 軽い調子で、俺の肩に手を置く。確かに、それを目標にするのが良いか。傷や負担を癒やせるのなら、戦いにも修行にも良い効果がある。

 闇の魔力を使えば、治療そのものは簡単なこと。だから、適切に魔力を扱えさえすればできるはずだ。

 

「なら、確実に身に着けないとな。聞かせてくれ、フィリス」

「……単純。この技には、属性の数による影響はない」

 

 ふむ。魔力を霧のようにして浸透させていくだけだから、属性が多い少ないに関係がない。そういうことだろうな。

 となると、要求されるのは魔力操作の技術だけ。あるいは、魔力量も関係するかもしれないが。

 

 いずれにせよ、かなりの人が使えそうだ。俺が覚えて誰かに教えることができたなら、仲間たちの戦力強化にもなる。そういう意味でも、覚える意味は大きい。

 また、やる気が増えてきたな。よし、頑張っていこう。

 

「なら、カミラやフェリシアみたいな人にも使えると。当然、俺にも」

「……肯定。そして、仕組みそのものは単純。魔力が広がることを、あえて利用する」

「ああ、そういうことか。粒子レベルにまで拡散して、浸透しやすくすると」

「……正解。一度浸透させてしまえば、魔力は大きく霧散しない」

 

 当たっていたようだ。イメージとしては、皮膚に入るくらいに細かく分散させること。つまり、空気のように薄くすること。霧のような見た目とも、矛盾しない。

 そして、一度体の内側に入った魔力を、もう一度結合させていくという流れ。だから、治療もできるし相手を苦しめることもできる。

 

 極端な話、霧だけで相手を殺すこともできそうだ。即座に、霧の中にいる仲間の傷を癒やすことも。

 

「体と結合するような感じか? なら、身体強化だけならそう難しくはないのか?」

「……否定。霧散した魔力への干渉は、相当精密な制御が必要」

「ああ、そういうことか。身体強化だけでもできるなら、もっと早くやっていたはずだものな」

「……課題。まずは、魔力を出して」

 

 言われてすぐに、体の外側に魔力を放出していく。その瞬間に、魔力の制御が乱れる。一気に手のひらからこぼれ落ちていくような感覚があった。

 集めようとしても、どうにもならない。もっと広げることすら、できなかった。

 

「くっ……奪われていく感覚には、慣れないものだな……」

「……一手。その広がった魔力を、少しでも良いから制御する。まずは、そこから」

 

 言われて、もう一度体から放出していく。なんとか引っ張ろうとするのを、するりするりと抜けられていく感覚。

 イメージでしかないが、うなぎをつかもうとして、力を入れるほどに逃げられるような。

 

 とにかく、魔力が制御下に置けない。ひたすらに、ただ逃げられる。乱れるように、散り散りになるように。

 

「これ、どうやって制御していたんだ……? まるで、雲をつかむようだ」

「……対策。体内にあるうちに、なるべく結合させておく。そこから、ほどける感覚を追いかける」

「分かった。もう一度やってみる」

「……制御。それができれば、一歩進む」

 

 言われたコツを意識しながら、魔力を体内で練り上げようとする。それすらも、散り散りになっていきそう。

 無理矢理押し固めるような感じで、一度結合させる。そして、体の外へと出していった。

 

 魔力の結合が、溶けていくよう。無理矢理散らされるのではなく、まさにほどけるという感じ。それを解き直そうとすると、少しだけ手応えがあった。

 完全に散らばりもせず、かといって魔力同士が結ばれるわけでもない。霧状の何かになる。ほんの、手のひらの上くらいだけ。

 

「一か所だけなら、できたな。だが、これを広範囲にか……」

 

 感覚としては、紐を結ぶようなイメージ。一か所の魔力の感覚をつかむので、一本のような。

 これを霧にするのは、数百本の紐を同時に結ぶような難易度がある。フィリスは、よくできていたな。頭も何も追いつかないんだが。

 

「……難題。だからこそ、高い効果がある」

「なあ、フィリス。俺に魔法をかけてくれないか? そこから、何かがつかめるかもしれない」

「……了解。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 フィリスの霧を、体の中に受けていく。その魔力がどんな動きをしているのか、全神経を集中する。

 俺の体内で、魔力は溶け合っていく。そんな言葉が、思い浮かんだ。

 

「なるほど、そういうことか……! 合一の流れを、応用すれば……!」

 

 俺と魔力を合一させて、それを溶かし込んでいた。同じような流れを実現すれば、きっとできる。

 

 大きな手応えを得て、笑みが浮かぶのが実感できた。

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