物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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638話 師匠の想い

 少しずつ、首都へ近づいている実感を得てきた。そう遠くないうちに、たどり着く。ようやく、手応えとして進捗が見えてきたところだ。

 近づくにつれて感じるのは、活気のある場所とない場所の差が極端だということ。以前得た情報からして、不足している物資の影響がモロに出ているかどうかの違いだろう。

 

 そして、落差はとても大きい。もっと言えば、首都に友好的かどうかで活気に明らかな差があった。

 つまるところ、首都に黒幕がいる可能性が高い。逆に、首都を疑わせるために暗躍している可能性も否定はできないが。

 

 いずれにせよ、首都にたどり着けば答えは明らかになる。その瞬間は、もうすぐ目の前。

 

 だからこそ、修行にも戦闘にも力が入った。最大限の成果を出せなければ、厳しい戦いになる。そんな予感は、俺たちの誰もが感じていたのだから。

 

深層浸透(ユビキタスエアー)! ようやく、成功できたか……」

 

 訪れた街での修行で、ついに目に見えた成果が出た。もちろん、本番はここからではある。剣技と魔法を組み合わせた先にこそ、必要なものがあるのだから。

 それでも、前提条件を突破できたことには大きな意味がある。もし習得できていなければ、習得と応用を同時にこなさなければならなかった。

 

 少なくとも、今の段階で基礎はできていると判断して良い。油断こそできないものの、達成感はある。

 

「……見事。私が想定していたよりも、よほど早い」

「普段なら、もっと気楽に覚えられたんだがな。やはり、焦りはあった」

「仕方ない。私でも焦りはある。おそらくは、フィリスにも。当然のことだ」

「……同意。だからこそ、心の持ちようが大事。それが、結果につながる」

 

 エリナもフィリスも落ち着いて俺を誘導してくれたからこそ、冷静になれた。俺ひとりだったのなら、修行のしすぎで体を壊していたかもしれない。

 やはり、まだまだ未熟だな。そこから、しっかりと認めなければ。

 

 今の俺は、きっと誰かの支えがなければまっすぐに立てない。情けないと思う部分も、間違いなくある。

 だからといって、嘆くのも違う。みんなが支えたいと思う俺だからこそ、支えてくれる。それだって、確かな事実なのだから。

 

 もっと言えば、何より大事なのは結果だ。俺は、仲間を守れている。それを誇れば良い。誇れるように、勝ち続ければ良い。

 以前、ふたりにも言われたことだ。どんな内心を抱えていようと、結果がすべてだと。

 

 だとすれば、こうも言えるはずだ。たとえ誰かに支えられようと、結果がすべて。俺ひとりで勝てないのだとしても、構わない。少なくとも、今はまだ。

 

「そうだな。フィリスが深層浸透(ユビキタスエアー)を編み出したように。俺も、見習いたいところだ」

「実を言うと、私も次の成果が欲しいとも。もどかしい気持ちは、否定できない」

 

 エリナも、頬をかきながら言っていた。俺だけが不安なわけじゃない。そう思えるだけで、胸が軽くなるような気がする。

 俺が精神的に支えることは難しいかもしれないが、できることはある。

 結局、俺は強くなれば良いんだ。それが、結果的にみんなを支えることになる。そうだよな。

 

「そういえば、エリナは俺の剣を再現しようとしていないよな。理由があるのか?」

「同じ役割を複数人が持っても仕方ない。なら、私なりの形を選んだ方が良い」

 

 役割分担という意味でも、技との相性という意味でも正しい。エリナが空間を切る剣を使いこなせるとは限らない。もちろん、時間さえあれば使えるようになると信じているが。

 だが、俺達に必要なのは短期での成果。なら、自分にあった型を追求する方が効果的だ。それが自然と役割分担を生む。

 

 エリナがどんな剣技を目指しているのかは分からない。だが、きっとすごいものができる。そんなワクワクが、胸の中にあった。

 

「確かに、技の特性を考えれば妥当か。空間ごと斬るのなら、数は問題ではないのだし」

「……同感。結果的に、レックスの成長にもつながる」

「今回、深層浸透(ユビキタスエアー)を覚えたようにか。まあ、まだ魔力を斬る剣は再現できていないが……」

「私たちの役割が分かれていた方が、対処できる局面は多いはずだ。無理はしなくて良い」

 

 俺が空間を斬って、エリナが魔力を斬る。俺が同時に斬れるのが一番ではあるものの、できるとは限らない。

 そもそも、時間には限りがある。やりたいことを全部するのは不可能で、何かを捨てなければならない。

 なら、エリナにできることをしても仕方ないのはあるな。

 

「……課題。おそらく、レックスの剣技にも対策は打たれる。ただ、魔力を斬る剣が最適とは限らない」

「本心としては、あまり同意はしたくないが……。私も、同じ見解ではある」

 

 エリナはむくれたような顔をしている。師匠として、俺に剣技を教えたいと思ってくれているんだよな。編み出した技を、全部託したいと。

 ミレアルの試練さえ乗り越えられれば、時間はいくらでもある。その間に、必ず覚えてみせる。

 俺は、フィリスもエリナも、師匠に託されたものをすべて受け取りたい。技術も、想いも。

 

 それでも、今は自分なりの技を編み出すべき時だ。ふたりが大事だからこそ、決して間違えてはならない。

 

「おそらく、深層浸透(ユビキタスエアー)と剣技の融合の方が優先順位は高い。そういうことだな」

「……肯定。レックスの成長という観点では、それが一番重要」

「ミレアルとて、私と同じ剣技を再現させたいわけではないはずだ。今回、新しい技を生み出したように」

「なるほどな。寂しくはあるが……。納得はできる」

「それに、レックスに追い抜かれるばかりも立場がないからな。師の顔を立ててくれるのも、悪くない」

 

 そう言って、エリナは不敵に笑った。やはり、余裕いっぱいの顔をしているのが似合う人だ。

 また、いずれを楽しみにしておこう。エリナが編み出した技を、教えてもらう瞬間を。そのためにも、かならず勝つのが大前提。ミレアルに、誰ひとりとして傷つけさせるものか。

 

「……異論。私は、レックスにすべての技術を覚えさせたい」

「立場が違えば、見るものも変わる。レックスの闇魔法は、フィリスの魔法とは根本的に性質が違うからな」

「それは、ちょっと気になっていたんだよな……。あくまで、似たような技でしかない」

「……図星。私の影響はあっても、私の魔法ではない」

 

 少しだけ、フィリスがむくれているように見えた。なんというか、嫉妬のような感情だろうか。

 それだけ大事に思ってくれている証だと思うと、笑顔になってしまいそうだ。余計にむくれさせそうだから、できないが。

 

「なら、深層浸透(ユビキタスエアー)はちょうどいいつながりだな」

「……驚嘆。そんな視点があるとは、思いもしていなかった」

「私は、もう音無し(サイレントキル)神速(ディレイドキル)を教えているからな。別の道を、楽しませてもらおう」

 

 フィリスは薄く微笑んで、エリナは堂々と笑っていた。さあ、あともう少し。一歩一歩確実に進んで、乗り越えてみせるさ。

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