物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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639話 決戦に向けて

 修行も戦いも進めながら、俺達は首都に向けて足を進める。やはり、違和感のようなものが膨らんでいく。

 物流の歪み以外にも、人の笑顔が明らかに減っていたりする。経済的に活気のある場所だとしても。何かがおかしいのだが、その正体にまではたどり着けない。

 

 まあ、どうせすぐに答えは分かる。俺が考えるべきことは、どうやって勝つかだろうな。

 

「さて、もうすぐ首都か……」

「何が出てくるのやら。私は全力を尽くすだけではあるが」

 

 エリナはいつも通りに堂々としている。そういう姿に、俺は確かに勇気をもらっている。俺はよく不安になるし、焦りもするからな。

 苦しい時でも、周囲を鼓舞できる。そんな存在に、俺もなりたいものだ。

 

「……試練。それは、間違いない」

「結局、俺の新技は完成しなかったからな……。どうにかなると良いが」

 

 剣技と魔法の融合には、まだたどり着けていない。とはいえ、それぞれを別々に使うだけでも有効な手札であることは間違いない。

 単純な話、身体能力を強化しながら剣技をぶん回すだけでも成果とは言える。

 

 ただ、明確に新しい技と言えるだけの何かがないというだけ。必ずしも、欠点とまでは言えない。

 それでも、ミレアルの試練がどれほど厄介かを思うと、どうしても不安にはなる。

 

「私は、十分な手応えを持っている。いざとなれば、私に任せるといい」

「……対策。ミレアルの打つ手を読むのは、現実的には不可能」

「そうだな。魔法まで奪えるとなると、それこそなんでもありだ」

 

 極端な話、今ここで俺たちに隕石を落として殺すくらいはできそうだ。だから、ある意味では対策は無意味なんだよな。

 いきなり詰ませてくるような行為はしないと信じるしかない。仮に裏切られたところで、だからといって何ができるというわけでもないのだから。

 

 つまり、俺たちに乗り越えられる試練を与えるという前提で立ち回るだけ。とても簡単で、とても難しいこと。

 

「私たちにできることは、持てる力のすべてを発揮すること。単純だな」

「まあ、それしかないか……。おそらくは、剣技の集大成を見せろということだろうな」

 

 ミレアルが俺たちの魔法を封じたのは、魔法が使えない状況での立ち回りを試練とするため。つまり、俺の剣技を磨くためだった。そこに関しては、当たっていると思う。

 かなり一貫して、俺たちの成長につながる課題を出してきている。聖国の時は、魔法を極めないと勝てない相手だった。今回は、おそらく剣技を極めないと勝てない相手。

 

 その辺に関しては、かなり分かりやすいんだよな。実際に使ってくる手段が、なんでもありすぎて読めないだけで。

 

「……同感。参考になるかは怪しいけれど、前回の山場は最後じゃなかった」

「フィリスとの合一を身に着けてからは、比較的楽ではあったか。安心まではできないが……」

 

 実際、一番苦労したのはフィリスとの合一を出す前くらい。聖都での戦いは、そこまで厳しくはなかった。

 フィリスとの合一だけであっけなく終わることも、かなり多かった。ニッカが国を治める際も、大きな妨害は受けなかった。

 

 それらを考えると、やはり主題を達成できればそれでいいというスタンスなのだろう。

 

「レックスの成長を目標としているのは、ほぼ間違いない。であれば、見えてくるものもある」

深層浸透(ユビキタスエアー)空破断界(アブソリュートブレイド)を潰そうとはされない、か?」

「ああ。おそらくは、それらを活かしやすい戦場になるはずだ。私の推測ではあるが……」

 

 となると、剣技の達人でも相手にするのか? だが、技術までは再現できないという仮説には反する。

 実際のところ、どうなのだろうな。実現する能力がないのか、やる気がないだけか。おそらくは、前者か。

 

 なにせ、その推測は魔法を封じられる前のもの。ミレアルは、俺たちが想像していたよりもよほど万能だった。もしかしたら、合一を使う敵が出てきてもおかしくはない。

 いずれにせよ、剣技が有効な対処である敵を出してくる可能性は高い。そこに関しては、信じるしかない。

 

 どの道、魔法を封じられたまま敵だけが五属性(ペンタギガ)を使えるのなら、厳しい。それが千人いれば、詰みでしかない。

 獣人たちも魔法を封じられていたが、次の段階では身体強化をしていた。魔法が使えない保証は、どこにもない。

 

 整理すればするほど、ミレアルの戦力は絶望的だ。だからといって、諦めはしないが。

 

「……同意。あるとしても、私たちを潰そうとすること」

 

 フィリスは淡々と言っているが、とてもじゃないが納得はできない。ふたりに何かあったとして、その先の未来で俺は笑えない。

 ウェスが右腕を失って殺されそうになっていたのを助けた時から、ずっと同じまま。カミラを助けた時も、リーナの問題を解決した時も、ミュスカを見捨てられなかった時も。それ以外も、俺が戦ってきた理由は同じ。

 

 ミレアルにだって、決して奪わせるものか。

 

「それは安心できる材料じゃないな……。まったく、困ったものだ……」

「こうも考えられる。狙う対象がハッキリしているのなら、守りやすいのではないか?」

「……否定。レックスはひとり。こちらはふたり。絞りきれないのが弱点」

「なら、1ヶ所に固まれば……なんて、そんな余裕を持てるとは限らないか……」

「少なくとも、レックスが私たちを助けに来るまでの時間は稼いでみせる。安心しろ」

「……対策。私たちが決着をつけても良い。手段の幅とは、そういうこと」

 

 エリナは胸を張って、フィリスは落ち着いた顔で宣言している。そうだな。むしろ、俺が助けられる場面だってあるかもしれない。

 フィリスを新しい剣技で助けたから、また俺の力でどうにかすることを考えていた。ふたりも、また成長しているんだ。俺だけが強くなったわけじゃない。

 

 同じことで何度も何度も間違えるのは、本当に恥ずかしい限りだ。だが、大丈夫。みんながいてくれる限り、致命的な間違いなんてせずに済む。

 それで、良いんだよな。

 

「ははっ、そうだな。なにも、俺だけしか戦えないわけじゃないんだ」

「レックスの気持ちは、もちろん嬉しい。だが、私たちにも積み重ねてきたものがある」

「……同感。ミレアルにただ負けるようなことは、しない」

「なら、頼む。お前たちさえ無事でいてくれるのなら、俺は何とだって戦えるんだ」

「ふふ、私を誰だと思っている? お前に剣を教えたのは、誰だ? なあ、フィリス」

「……強調。私たちだって、弱者ではない。それを見せるだけ」

 

 ふたりは、俺の師匠なんだ。輝く姿を、きっと見せてくれるはず。俺は決してひとりじゃない。頼れる存在に、ずっと支えられているんだ。

 だからこそ、安心して全力を出せる。目の前に現れる敵を、叩き切ってやるだけだ。

 

「俺も、負けていられないな。ふたりに教わったことで、ミレアルの試練に打ち勝ってやるさ」

「その意気だ。レックスなら、どんな敵にだって勝てる」

「……肯定。自分自身を、私たちの弟子であるあなたを信じて」

 

 そうだよな。俺は、最高の師匠ふたりに認められているんだ。女神なんかより、よほど価値のある存在に。

 だから、負けたりしない。どれほどの試練だろうと、絶対に。

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