物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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640話 待っているもの

 もう目の前に、首都が見えてきた。これで、答えが分かる。息を呑みたくなるような感覚を覚えながら、進んでいく。

 街道を進んでいく中で、俺たちに近づいてくる獣人の男がいた。軽薄そうな、虎の獣人。エリナを見て相好を崩し、こちらにやってくる。

 

「エリナ! エリナじゃないか!」

「知り合いか? 国から離れて長いんじゃなかったか?」

「顔を知っているという程度だ。まあ、私は有名人だからな」

 

 さて、どう判断したものかな。エリナは興味がなさそうにしているし、そこまで親しいわけではないのは確かだ。

 とはいえ、エリナが有名人なのも事実。知っていれば声をかけたくなるというのは、必然でもある。人気者になれば、遠い親戚でも声をかけてくるという話はよく聞くからな。

 

 だが、疑わしいのも確か。この状況で偶然エリナの顔見知りがやってきて、声をかけてくるものか?

 いずれにせよ、気をつけて対応する必要がありそうだ。わざわざ敵を増やすのも問題だし、いきなり敵対するのはまずいか?

 

「ひどいじゃないか。同じ街で生まれた仲だろう?」

「気安く私に触れようとするな。身の程をわきまえることだ」

 

 エリナと肩を組もうとして、払われている。うんざりとした顔のエリナからは、本当に親しくもなんともないことが分かる。

 さて、どうすべきか。肩を組もうとした程度なら、流石に暴力を振るう理由にはならない。腹立たしいのは確かだが、守るべき一線というものはある。

 

 そもそも、エリナが望まないのに俺が攻撃してもな。先走るのは、本当に良くない。

 

「……関係。一方的な執着」

「そんなところだ。レックス、気にしなくて良い」

「いい情報を持ってきたんだけど、知りたくないかい?」

 

 エリナの顔を気にした様子もなく、ニヤけ面で話しかけ続けている。なんというか、空気を読まない能力は一人前と言わざるを得ないな。

 本当に有力な情報を持っているのなら聞きたいが、俺たちを騙そうとしている可能性もある。敵である可能性が高いのはもちろんだし、エリナの気を引くために適当なことを言っている場合もある。

 いずれにせよ、相手のペースに飲まれないのは大事だな。

 

「交渉を考えているのなら、諦めることだ。私はそこまで安くない」

 

 エリナはけんもほろろとしか言いようがない態度を取っている。知り合いだということだし、そこまで信用していないのかもしれない。

 だとすると、本当に有用な情報を持っていない可能性が高いな。それもこれも、エリナの判断次第ではあるが。

 

「そうか……。最近急に強くなった傭兵団がいてね。盟主を狙っているらしい」

「エリナ、本当のことを話していると思うか?」

「さあ、な。私には、信じるだけの理由がない」

 

 腕を組みながら、相手と取り合おうともしない。なら、傭兵団という話や盟主の話も話半分で聞いておいた方が良いだろうな。

 とはいえ、まったくのウソとも考えづらい。何もないところから急に出てくるたぐいの情報ではないので、ウソだとしても俺たちを誘導しようとしているはずだ。

 

 つまり、傭兵団と盟主のどちらかには、何らかの鍵があるということ。敵がどちらであるかはさておき。

 いや、そのふたつに意識を向けさせておいて、別の何かを隠そうとしている可能性もあるか?

 だとすると、逆に遠いものを探る理由になる。ひとまず、情報が得られたことは間違いない。

 

「つれないことを言うなよ。もっといい情報だってあるぜ?」

「……材料。ひとまず、話を聞けば良い」

「まあ、そうか。この間合いなら、私の方が早い」

 

 フィリスもエリナも冷静だ。俺も、早まって妙な判断をしないようにしないとな。

 ひとまず、この男が何を話すのかは聞いておく価値がある。他の誰かから情報を集める時にも、手がかりになるはずだ。

 

「警戒してくれちゃって、まあ。情報が聞けなくなっても、良いのか?」

「二度も言わせるな。私がお前を信じるだけの理由はない」

「はいはい。なら、聞かせてやるよ。どうにも、盟主の警備が弱まっているらしくてね」

「エリナ、どう思う? ひとまずは、お前の意見を参考にしようと思うのだが」

「どちらでも、答えは同じだ。私たちは、盟主に会いに行く必要がある」

 

 エリナの意見は正しい。盟主が敵でも味方でも、とにかく首都が異変の中心になっている状況だ。なら、盟主から手がかりを得るのは必然になる。

 問題は、どうやって会うのか。エリナの知名度が利用できるのなら、話は早いのだが。

 

「それもそうか。で? こいつを連れて行くのか?」

「同道するにしても、先導させるのが前提になる」

「後ろに立たせたくないって? 獣人の希望も、不意打ちは怖いのか?」

 

 挑発するような物言いをしている。俺たちの後ろに立ちたいのなら、一番疑わしいのはこの男になる。

 いずれにせよ、あまり信用できない相手というのは確かだな。これで本当に善意なら、もっと誠実に接してほしいとすら思う。

 まあ、まだ攻撃を仕掛けるには早い。それに関しては、ふたりも同じ見解のようだ。

 

「どうとでも取れば良い。貴様ごときにどう思われようが、知ったことではない」

「……対策。私の方で手は打った。どちらを選んでも構わない」

 

 フィリスは、薄く魔力を動かしていた。どうも、深層浸透(ユビキタスエアー)を浸透させていたようだ。

 男はフィリスの方を見ているので、その隙に俺も同じことをする。ひとまず、これでいざという時には即座に殺せるはずだ。

 

 何もしないのなら、それはそれで構わない。どう転んだところで、損はないな。

 

「ああ、なるほど。というわけだ。貴様の好きにすれば良い」

「俺が役に立つって、ちゃんと分かってくれたか。これも、色男の力ってやつ?」

「……時間。問答をする必要もない。動き出すのは、早い方が良い」

「ふたりの意見が決まったのなら、従わせてもらおう。裏切ったところで、知れている」

「言ってくれるじゃないの。それも、子供の強がりってやつ?」

 

 俺の方をにらみながら言ってくる。ハッキリ言って、まるで実力は感じ取れない。立ち振る舞いからして、素人よりはマシという程度でしかない。

 その程度だとしても、ミレアルの加護があれば強くなれるのが厄介なところではあるが。借り物の力でうぬぼれているのだとすれば、そう遠くないうちに報いを受ける。

 

 たとえ俺に勝ったとしても、ミレアルが使徒をどう扱っているかは明らかだ。所詮は捨て駒。本気で重用する未来など、あり得ない。飽きたら捨てられて終わりだろうな。

 

「貴様ごときに理解できるはずもない。いくぞ、レックス」

「ああ、分かった。フィリスも、問題ないか?」

「……肯定。レックスに必要なことを、正しく行う」

 

 フィリスは俺を見ながら頷いていた。なんとなく、意図が見えた気がする。男が試練に関わっているとすると、この場で殺すのはミレアルの意図に反する可能性が高い。

 とにかく、ミレアルが俺を成長させようとしているのは明らか。つまり、逃げの一手を打つことは避けたい。

 

「そういうことか。確かに、今ここでではなさそうだ」

「レックスのためにも、さっさと終わらせないとな」

「エリナ、置いていくぜ? 早い方が都合が良いのは、お互い様ってことで」

 

 そう言って、男は歩き出した。俺達は頷きあって、次の試練に向けて動き始めた。

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