物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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641話 敵の狙い

 エリナの知り合いらしい男に案内されながら、俺たちは首都にたどり着く。賑やかに多くの人々が行き交っているものの、なぜか暗い空気を感じた。

 少し集中して声を聞いてみると、誰も彼もが平坦。顔に気を配ってみると、笑顔の人がまるで見当たらない。

 

 これでは、まるで監獄か何か。そう思わせられるほどの淀みが、一帯に漂っていた。

 

 気にした様子もなく、男は俺たちに手を上げる。

 

「ここらで、いったんお別れだ。俺にも、やることがあるんでね」

 

 それだけ言い残して、振り返りもせずに去っていく。あれだけエリナに執着していた割に、とてもあっけなく去っていった。

 

「おい……! まったく、勝手なやつだ。さて、どうしたものか……」

「ひとまずは、当面の方針を守ろう。私の名前があれば、盟主には会えるはずだ」

 

 エリナの提案に、ひとまず従っておいた方が良いはずだ。あの男は、明らかに怪しい。着いていくにしても、面倒なことが待っているのは明らかだ。

 それに、おそらくは先手を打って叩き潰すことをミレアルは望んでいない。今の俺が演じるべき役割は、新しい力を使って劇的に勝利すること。

 

 おそらく、どんな手段を使ってでもフィリスやエリナを守ろうとすれば、それが余計に危険を招く。

 効率的に思える手段を取れないことは、どうにも腹に溜まるものがある。だが、焦りは禁物だ。フィリスの命が危うかった時以上に厳しい状況にされかねないのだから。

 

 相手の策が分かっていて、それでも真正面から食い破る。ある意味、物語の英雄のようだな。なんて、ミレアルの作った物語そのものに支配されている現状、笑い話にもならない。

 

「……対応。あの男は、潜みながら動いている」

 

 フィリスは、浸透させた魔力を経由して男の動きを探っているようだ。なら、俺が干渉する必要はないな。ひとまず、任せておくのが正解だ。変にお互いの魔法が邪魔し合うのが、最悪の展開なのだから。

 

 それよりも、相手の狙いを考えた方が有益か。策が起こる前に叩き潰すことはできなくとも、戦術を練ること自体はできる。

 とはいえ、結局は出たとこ勝負になりそうだが。男の策がなんであれ、ミレアルが盤面からひっくり返してくる可能性が最大の問題なのだから。

 

 ハッキリ言ってしまえば、ミレアルが何もしないなら無策でも勝てそうなんだよな。どの道ミレアルが手出しすることもあって、油断は論外ではあるが。

 

「やはり、なにか企んでいるみたいだな。俺たちのやることは、変わらなさそうだが」

「敵になるのなら、斬るだけだ。故郷が同じだっただけで、親しくもない。そもそも、レックスより優先する相手などいない」

「その気持ちはありがたいが……。大事な人を無理して斬ったりしないでくれよ」

「心配は不要だ。傭兵というのは、斬って斬られての関係だ。友人だろうとな」

 

 エリナは平然と語っているが、俺なら耐えられそうにない。大切な相手を切り捨てるなんてことになれば、俺は二度と笑えないだろう。

 もしもエリナと敵対したとして、きっとまともに剣も握れない。俺は、大切な人を殺す覚悟だけは絶対にできない。

 おそらく、弱さなのだろうな。だが、捨てることなんてできるはずもない。

 

「なら、エリナを傭兵になんて戻させたりしないさ。エリナと斬り合うのなんて、絶対にゴメンだ」

「ふふっ、悪くないものだな。傭兵だった頃には、想像もしていなかった」

「……共感。私は傭兵ではないけれど、感じるとすら思っていなかった気持ちがある」

 

 エリナもフィリスも、穏やかな顔をしている。俺が、ふたりにそんな顔をさせている。ありがたいことだ。大切な技術も想いも受け取っているのだから、少しでも返せているのは。

 ふたりには、最高の技を見せることで恩返しするとは決めている。だが、他のところでも返していけるのなら、それが一番だ。

 

「なら、さっさと勝ちたいところだな。ふたりとの時間を、もっと大事にしたい」

「ふふ、そうだな。行こうか、レックス」

 

 頷きあって、俺たちは盟主の居場所である宮殿に、すなわち連邦の王宮とも言える場所に向かっていった。

 近づくごとに、淀みが深まっていく感覚がある。人々が、まるで機械のように動くだけに見えるほど。嫌な感覚を覚えながら、とにかく歩き続けた。

 

「……懸念。進行方向に、あの男がいる」

 

 あの男は、盟主に対して何かをしようとしている。本人が言っていたように、盟主を守ろうとしているのか。あるいは、殺そうとしているのか。はたまた、人質のような何かにしようとしているのか。

 いずれにせよ、何らかの狙いがあるのは明らか。さて、どうなることやら。

 

「つまり、盟主と一緒にいるということか?」

「……肯定。どういう理由かは、まだ判断できないけれど」

「私たちに声をかけた理由は、どちらだろうな。フィリス、どんな動きをしているか分かるか?」

「……探知。剣のようなものを振っている気配がある」

 

 それで、状況は分かった。

 

「つまり、戦闘が起こっているということか。急ごう!」

 

 宮殿に向けて、駆け出していく。その先に、倒れている男たちがいた。宮殿を守るような形で、武器を構えていた様子。

 つまり、何者かによって殺害されたということ。もっと言えば、宮殿を攻めようとする相手に。

 

「これは……。警備兵か? だとすると、やはりあの男は……」

「……非常。考察よりも、急いだ方が良い」

「それもそうか。フィリス、俺たちに合わせられるか?」

「……肯定。深層浸透(ユビキタスエアー)

 

 勢いよく、フィリスは駆け出す。自分自身に魔力を浸透させ、身体能力を強化したようだ。車なんて比較にならないような速度で走っている。

 

「さて、私たちも急ごう。行くぞ、レックス」

 

 そのまま、宮殿の奥深くに向けて駆けていく。倒れている兵士たちが、だんだん増えていく中を。

 敵とは遭遇しないまま、中心へと向かい続けた。

 

 そして入った部屋で、豪華な服を着た獣人が倒れているのが見えた。そのすぐ傍で、エリナの知り合いが剣を持っている。つまり、そういうこと。

 

「あの格好……。察するに、盟主か?」

「手遅れだったということか……。私たちに、先回りされたようだな」

 

 男は振り向いて、いやらしい笑みを浮かべてくる。

 

「遅かったじゃねえか。なあ、盟主殺しの犯人さんよ」

 

 どうも、この男は俺たちに罪をなすりつけたいらしい。俺たちが死んでしまえば、盟主の敵討ちをした英雄になれるということだろうか。

 そんな未来は、無いのだが。周囲に敵が増えていくのを感じながら、俺は剣を構えた。

 

「なるほど、そういう狙いか。ミレアルの力を得た程度で、ずいぶんと粋がっているらしい」

「この数に囲まれているのが、分かんねえか? それとも、震えを隠しているのか?」

「答える義理が、あるとでも?」

「エリナ。そんな奴らは見捨てて、こっちにつかねえか? 良い思いをさせてやるぜ?」

 

 そう言って、男はエリナに手を伸ばす。やはり、執着は本物だったらしい。いずれにせよ、もう俺たちの敵だ。遠慮なく殺せる。

 

「お断りだ。お前のような小物に従うほど、私は安くないのでな」

「その言葉、後悔しても遅いぜ?」

 

 そう言って、敵はこちらに向けて駆け出してきた。

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