物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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643話 まとめるために

 宮殿から出ると、そこらじゅうが静まり返っていた。人影も、特に見えない。まあ、あからさまに大規模な戦いがあったのだから当たり前ではあるが。

 とりあえず周囲を見回っていると、物陰から獣人が出てきた。恐る恐るといった様子で、こちらに顔をのぞかせている。

 

「終わった、のか……? あんたたちが、やってくれたのか!?」

 

 犬っぽい獣人の男は、詰め寄るような勢いでこちらに近寄ってくる。察するに、エリナの知り合いたちを倒したことなのだろうか。

 いや、まだ分からない。いったい、何を指している?

 

「待て待て。終わったとは、いったい何のことだ?」

「盟主も、傭兵団も! 私たちから奪おうとするばかりだったのよ!」

 

 今度は、猫っぽい女の獣人が飛び出してきた。俺の手を取って、熱っぽい目を向けてくる。言葉からするに、盟主は別に善人ではなかったということか? そして、虎の獣人が関わっていたらしき傭兵団も民を虐げていたと。

 

 となると、お互いがお互いに足の引っ張り合いをしていた可能性すらあるな。首都に好意的かどうかで街の明るさが違ったのも、そのあたりと関係していそうだ。

 盟主と傭兵団、どちらの取った手段かは分からないが。関係者の多くが闇に葬られてしまったので、真実にはたどり着けないかもしれない。

 

「ああ、そういうことか。だから、物流が乱れていたのか……。エリナ、どう思う?」

「エリナ!? 獣人の希望の、エリナか!?」

「新しい盟主に、なっておくれよ!」

 

 獣人たちは、エリナに詰め寄っている。他の獣人たちも飛び出してきて、もみくちゃになりそうだ。

 

「いや、私はただの剣士だ。そこにいるレックスの方が、ふさわしいのではないか?」

「獣人じゃない相手に、連邦の未来を託すのか……?」

 

 俺のことを指すエリナに、獣人の男は怪訝そうな顔をしている。まあ、感情としては当たり前だ。アリエス連邦は獣人の国。ならば、人間が主になるのを避けたいと思うのは不思議でもなんでもない。

 

 とはいえ、誰かが盟主の代わりになるしかない。エリナが乗り気でない以上、少なくとも候補は必要だ。

 民衆から手を上げる気配は感じ取れないし、ひとまずは俺が立つというのも選択肢になる。

 

 それもこれも、獣人が俺を受け入れるかどうか次第ではあるが。帝国の時は、力で押し切れた。聖国の時は、良くも悪くもニッカが表に立っていた。

 さて、今回はどうなることやら。

 

「余計なことを言わないでちょうだい! また盟主みたいなのが現れたら、どうするの!」

 

 女が男を睨んで、男も睨み返す。このままだと、喧嘩になりかねない。ひとまず、割って入る。

 

「落ち着け。ひとまず、状況を確認しよう。盟主と傭兵団によって、連邦は搾取されていた。それで良いのか?」

「ええ! だから、元の生活に戻してほしいのよ!」

 

 勢いよく、女は叫んでいる。さて、今日明日に解決する問題ではなさそうだが。そもそも、俺は獣人たちがどんな生活をしていたかを知らないんだよな。

 輸入に頼りつつ、金属の生産が盛んだったという情報は聞いている。それで生活の状況が分かるはずもない。

 

 もっと言えば、連邦の様子は混乱が起こってからのものしか知らない。普通の生活というのがどういうものか、体感できていないことになる。

 さて、その状況で元に戻そうとして、何から始めれば良いのだろうな。

 

 獣人というのは、贅沢な暮らしができればいいのか。それとも、伝統を大事にするタイプなのか。もちろん個人の価値観はあるにしろ、全体の傾向は知っておきたい。

 

「エリナ。この人たちの言う元の生活というのは、どういうものなんだ?」

「普通に生きていれば、普通に生活できる。そういうことではないか?」

「……仮説。物流の乱れや高圧的な支配から解放されたい」

「そういうことよ! 元の生活に戻るのなら、誰が盟主でも構わないわ!」

 

 なるほど。生活に困ることがないようにとの考えらしい。それなら、外部の人間でも実現できるかもしれない。

 獣人らしい生活を完全に取り戻すのは、元を知らない俺ではどう考えても不可能だからな。

 

 まあ、いずれにせよ周囲の意見を聞くつもりではあるが。獣人にとって良い案がどのようなものか、客観的な指標が必要だろう。

 

「だが、レックスとやらは獣人では……。いや、待て。そこのエルフは……」

「フィリス・アクエリアス!? 賢者が、どうして……?」

 

 フィリスの顔を見て、獣人たちは困惑しているようだ。とんでもない有名人だからな。特徴も知られていたらしい。

 

「私もフィリスも、レックスを支えるために着いてきただけだ」

「……肯定。レックスの力になることが、私たちの役割」

「つまり、つまりだ……。レックスが盟主になれば、剣聖と賢者が俺たちを導いてくれるってことか!?」

「なんでも良いわ! とにかく、私たちに元の暮らしを!」

 

 ひとまず、この場にいる人達は俺が盟主になることに乗り気らしい。なら、断った方が面倒だろうな。どの道、アリエス連邦を安定させなければ混乱は必至なのだから。

 連邦が崩れて多くの難民が出るだけでも、周囲の国への影響は大きい。それを避けるためにも、とにかく土台固めが必要だ。

 

「……ひとまず、何をするにしても代表は必要だ。首都の民が認めてくれるのなら、少なくとも当面の間は盟主の役割をこなそう」

「レックスでは足りないと思うのなら、代理を出せば良い。簡単な話だろう?」

「そうね! 盟主や傭兵団を倒してくれただけでも、私たちの運命は変わったんだもの!」

「剣聖や賢者に認められているってことは、レックスも有能なんだろう?」

 

 完全に、俺が新しい盟主になる流れになった。とりあえず、現状を知らないことには手を打てない。もちろん調査をするつもりではあるが、獣人側の意見も必須。

 そう考えると、まずは民心を得ているものに話を聞くのが早いか。

 

「ひとまず、話はまとまったようだな。首都の中で代表者を数名決めて、俺たちに話を通してくれ」

「なら、私がやるわ! 見ているだけだった男たちなんて、信じられないもの!」

「とりあえず、名前を聞かせてくれるか?」

「ピリカよ! 意見をまとめておくから、聞いてちょうだいね!」

「おいおい、俺たちの意見も無視しないでくれよ!」

 

 ピリカと名乗った猫の獣人に、詰め寄っている男もいる。さて、どこまで任せたものか。とにかく誰が適正を持っているのかも、何も分からない。

 最低限俺がやるべきことは、選出のために混乱が起きないように手を出すことだろうか。

 

「殴り合いにまでなったら、こちらも動かざるを得ない。落ち着いて話し合いをしてくれよ」

 

 ひとまず、ピリカたちは頷いていた。どんな問題が待っているのか、まずは状況を整理してもらわないとな。

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