物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ミレアルの試練は、やはり段階が変わったらしい。魔力が霧散しないようになっていた。つまり、魔法を使って復興や統治を進めていけということ。
その意図をくんで、俺たちはまず首都の建物や土地を立て直すところから始めていた。フィリスにも手伝ってもらい、種を集めて一時的に生育を早めたりも。闇魔法の侵食も使って、とにかく当座を乗り切るために全力を使った。
明確に建物が壊れていたり、土地が死んでいたりする相手は話が早かった。手を打たなければどうしようもないので、俺のやることを素直に受け入れてくれる。
問題は、半端に損傷しているような建物を持っていたりする相手。自分の居場所に手出しされるのが気に食わないと、強めの拒否を受けたりもした。
ただ、大半は成果が出ると飛びついてくる。ひどいところでは、拒否した当の本人から、なぜ自分は無視したのかと責められることもあった。
まあ、その頃には俺を慕う相手も増えていたので、なんか周囲に除け者にされていたりもしたのだが。
結局のところ、実利さえ見せれば多くの人はついてくる。それが分かる一幕だった。首都に関しては、かなり俺の意見が通る環境になったと言えるだろう。
ということで、今後に向けての会議を進めていた。いつの間にか代表になっていたピリカも交えながら。
「やはり、闇魔法が使えると話が早いな」
「レックス様さえいれば、私たちの生活は安泰じゃない。選んで、良かったわ」
あれからそう時間も経っていないが、すでに様付けをされている。最初は、もう少し雑な扱いだったのだが。
慕われている分には話が早いので、特にツッコミを入れたりはしない。とはいえ、現金さを感じる変わり身の速さだ。まあ、よくあることか。
とにかく、ピリカはよく働いてくれている。俺の指示に従わない相手に、集団で圧力をかけたりとか。どうにも、井戸端会議のような形での根回しが得意らしい。
なんというか、ピリカに嫌われたら集団から拒絶されるような印象がある。立ち回りのうまさは、参考にしたいところだ。
やっていることとしては、利益の割り振りをちらつかせて自主的に仕事をするように仕向けている様子。成果を出した相手には、実際に便宜を図る。
それでいて、噂話を利用して相手の評判をコントロールしたり、実際に集団から排斥させたりしている。
とにかくやりたい放題で、恨みを買っていないか心配になったほどだ。念のために闇の魔力を侵食させて、防御自体はできるようにしておいた。
そんなこんなで、今はピリカが相当な実権を握っている。俺がいなかったら盟主になっていたのではないかとすら思うほど。
「いや、俺がすべてを解決するのは良くない。俺が戦いに出れば物流が死ぬのなら、戦争を仕掛けられた時点で詰む」
「……安定。そのためには、連邦の民が動く必要がある」
「そもそも、連邦の盟主が人間であれば歪みを生むだろう。言い出した私が言うことではないが」
獣人の国を人間が支配していると、良からぬことを考える相手も出てきそうだよな。内でも外でも。俺としても、あくまで当座しのぎのつもりでしかない。
ピリカがうまくやるのなら、任せてしまいたいところだ。まだ、判断には早そうではあるが。
「確かにそうね……。うまい話は、無いってことだねえ」
「ただ、まだ首都の問題が解決しただけだ。今後は、連邦全体を安定させる必要がある。俺がいなくても回るくらいに」
「なら、その剣は良くないわ。仮にも国の主が持っている剣とは言えないのだもの」
ピリカはじっと、俺の剣を見ている。パッと見ただけで目利きができるあたり、詳しいのかもしれない。普通の町人にしか見えないが、鍛冶の国ということだろうか。
「確かに、数打ちの剣に闇魔法を込めただけだからな。見方によっては、安物とも言える」
「この国にいた頃、鍛冶屋との付き合いはあった。まだ生きているのなら、彼女が良いだろう」
「それって、イルミナよね。私も噂で聞いたわ。確か首都にいたはずだけども……」
エリナが腕を信頼するほどであれば、文句はない。生きているのなら、俺の剣を打ってもらうのも悪くないはずだ。受けてくれるかどうかはさておき。
まあ、交渉よりも何よりも、まずは生きているかと居場所の確認だな。会うことができなければ、話にならない。
「なら、ピリカ。調査については、任せていいか? エリナも、頼む」
「私が言い出したことだもの。レックス様が認められれば、私の生活も安定するはずだよ」
「そうだな。付き合いもあることだし、私が話を通した方が早いか」
そう言って、ふたりは動き出した。とりあえず、イルミナとやらの調査が終わるまでは待つ必要がある。
時間は開くが、だからといって大きな動きをすれば報告は受けられない。なら、会議あたりが妥当か。進捗報告を受けるまでは、それでいいだろう。
「俺たちは、その間にもう少し首都に手を入れておきたいところだな」
「……同意。
霧みたいに魔力を広げることで、一気に広範囲に侵食できるようになったからな。効率の面では、段違いと言って良い。
そうでもなければ、首都の食料事情を明確に改善するほどに農地に魔力を侵食することはできなかったはずだ。
「ひとまずは、転移で物流が乱れる原因を潰すことからか。農地に影響があれば、それもだな」
「……課題。どれだけの間首都から離れるか」
「それも確かに大事だな。転移で向かうことはできないし……」
魔法が使えなかったから、当然魔力の侵食もできなかった。だから、これまでの道のりに転移することもできない。
現場に向かうだけでも、かなりの時間を持っていかれるはずだ。
「……対策。おそらく、ミレアルはこれも予見していた」
「侵食の便利さを潰しておいて、統治の段階で悩むようにってことか? 困ったな……」
「……対応。現状では、優先順位を決めるのが大事」
「今にも潰れそうなところを優先して、もう手遅れな場所は諦めるってことだよな」
「……肯定。おそらく、手遅れな場所は少ない。ただ、覚悟は必要」
「物流が乱れていて、死人が出ないことはないだろうな……」
「……同意。それでも、見捨てないと手が足りない。根本的に、どうしようもない」
俺が10人くらい居るのなら、短期間で国中に転移のマーカーを設置することもできるかもしれないが。
とにかく、闇魔法のリソースが足りていない。仮にミュスカの手を借りるとしても、根本的な解決はできないだろうな。
そして、ミュスカの存在がミレアルにどう影響するかが分からない。邪神の関係者である以上、好かれているはずもないのだから。
結局のところ、どこに手を入れるかを選んでいくしかない。
「悲しいが、否定はできないな。魔法を使って移動しても、移動だけで数ヶ月は見るべきだろうし」
「……戦略。すべての場所に転移する必要はない。中核を押さえれば、後はある程度流れる」
「妥協点は、そこになるか。さて、ピリカたちとも相談していかないとな……」
剣を打ってもらうことも、必要になってくる。おそらく、名剣が印籠のような形になるはずだ。
さて、ひとつひとつ解決していかないとな。