物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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645話 剣がつなげるもの

 イルミナという鍛冶師は、エリナとピリカがすぐに見つけてくれた。ということで、会いに行くことにする。

 町外れのあたりに、イルミナの工房はある。特に夜に、大きな音がこぼれているらしい。察するに、騒音問題になりかねないから住宅地から遠くを選ばざるを得なかったのだろう。

 

 それはさておき、エリナに連れられてイルミナの工房へと向かう。一応、建物なんかは無事な様子だ。町外れだから、騒動に巻き込まれなかったのかもしれない。あるいは、武力が必要になった時に工房が壊れていると困ったのかもしれない。

 いずれにせよ、都合が良い。エリナが仕事を任せるほどの相手なら、話を通すだけの信用はある。

 

 建物に入ると、精悍な顔をした狐獣人の女がいた。とりあえず、声をかけることにした。

 

「お前が、イルミナか?」

「なんじゃ? うちをいきなり呼び捨てにするなど……」

 

 腰に吊るした俺の剣を見て、口をあんぐりとさせている。そのまま何度か口をパクパクと開いて、今度は目を白黒とさせる。

 

「私も見たことのない顔をしているぞ、イルミナ」

 

 エリナに声をかけられるが早いか、イルミナは俺のところに詰め寄ってきた。狐の耳を、ピコピコと揺らしながら。

 

「その剣、どこで手に入れたのじゃ!?」

「数打ちの剣に、俺の魔力を込めただけだが……」

「魔力を込めた!? そのようなことができるのか!? うちは、見たことがないぞ!」

 

 背伸びをしながら興奮している。確かに、普通の鍛冶屋は武器に魔力を込めたりしないか。イルミナは獣人だし、そもそも魔力を使ったことがないかもしれない。

 もっと言えば、エルフが持っている独自の技術を使ってなんとか物質に魔力を込めることに成功していた。マリンたち研究組の技術と組み合わさって、ようやく安定した運用ができるようになったほど。

 

 そもそも、闇の魔法というのは使い手が少ない。人生の中で出会うことすら稀だろう。

 

 というか、見ただけで気付いたんだな。俺は剣を振ってすらいないんだが。やはり、優秀な鍛冶師らしい。少なくとも、確かな鑑定眼を持っていることは明らか。

 エリナの紹介だから期待していたが、これは相当な当たりを引いたかもしれない。

 

「そういえば、珍しい技術だったらしいな」

「だった!? 今では珍しくないという意味か!? うちですら知らん技術が、そのように発展しておるのか!?」

「私の剣も、レックスに魔力を込められていたのだが。そう言えば、見せていなかったか」

「エリナもじゃと!? うちに見せてくれぬか!?」

 

 今度はエリナに詰め寄っている。まあ、鍛冶師として新しい技術に興味があるのだろう。熱心さも本物らしいし、イルミナに剣を打ってもらいたい気持ちが高まってきた。

 とはいえ、話が進まないのは困ってしまう。とりあえず、どうにか本題に入れないだろうか。

 

「俺の剣を打ってほしいという話だったんだが……なんか、忙しそうだな……」

「これほどの剣を持っていて、うちに何を打てというのじゃ!?」

 

 俺の剣をじっと見ながら、頭を抱えている。なんというか、面白い人だな。感情が顔や動きに出ていて、見るからにリアクションが大きい。

 まあ、それを楽しんでいる時間はなさそうだが。そもそも、あんまり良くない趣味かもしれない。

 

「一時的な代打とはいえ、盟主の役割を果たすことになったからな。名剣がほしいとのことらしい」

「確かに土台は数打ちの剣じゃが……。いや、待て。うちが打った剣に、同じ処理をすればどうじゃ……?」

 

 俺の剣を手にとって、上から下から眺めている。そして、色々と考え込んでいる様子だ。闇魔法を侵食させた剣の可能性を探っているらしい。

 少なくとも、数打ちよりは良い剣が打てるというのは大前提のように語っている。強がりを言っている雰囲気でもないし、実際に当然のことのようだ。

 

 しっかりした腕を持っているのなら、俺が思うより良い剣が生まれるかもしれない。少なくとも、ただ剣に魔力を込めただけよりも。

 

「なあ、イルミナ。少し思いついたことがあるんだが、聞いてもらっていいか?」

「何を言いたいというのじゃ!? うちはこれから、忙しくなるのじゃ!」

 

 俺の剣を、奥の方に持っていこうとしている。本当に熱心なのは、全身から伝わってくる。だからこそ、頼む価値はあるんじゃないだろうか。

 

「いや、どの金属に魔力を込めると良いのかとか、込めてから打った方が良いのかとか、色々と試してほしくてな」

「願ってもないことじゃ! お主、良いやつじゃのう!」

 

 肩をバンバンと叩いてくる。ニンマリとしながら俺を見ていて、また感情が伝わってくる。尻尾まで揺れていて、なんだか笑顔になってしまいそうだ。

 だからこそ、信用できそうではある。とはいえ、なんか会話に困ってしまうな。

 

「エリナ、その……イルミナは、剣のことしか考えていないのか?」

「否定はできない。ここまで極端とは、私も知らなかったが」

「当たり前じゃろうが! 鍛冶はうちの生業で、人生をかけてきたものじゃぞ!」

 

 胸を張りながら言っている。よほど誇りにしているのだろう。そして、新しい技術をすぐに採用する柔軟さもある。

 他の相手と比べるまでもなく、理想的な取引相手に思えてきた。その感覚は、おそらく正しい。

 

「なら、提案がある。各所に話を通さなければならないが……今は案として聞いてくれ」

「何でも聞かせてくれて良いぞ! お主なら、うちに新たな世界を見せてくれるかもしれん!」

「俺は闇の魔力を込められるというのは、前提として聞いてくれ」

「闇の魔力……闇の魔力じゃと!? お主、いったい何者じゃ!?」

 

 また目を白黒させている。今度は二度見までされた。驚いている姿は見ていて楽しいのだが、浸ってばかりもいられない。

 というか、驚いている程度で話を止めていたらキリがなさそうだ。まずは話を進めよう。

 

「話を続けるぞ……。エルフには、道具に魔力を込める技術があってな。それを、イルミナの打つ剣に使えないかという話だ」

「は……? いや、お主は何を言っておる……?」

 

 口をポカーンと開けながら、目をまん丸にしている。耳もピンと張っていて、困惑しているのがよく分かる。

 とはいえ、これで話が止まってもな。さて、どこから説明したものやら。

 

「イルミナ。レックスはサジタリウス聖国の王ともツテを持っているんだ」

「そういうことを聞いているのではないのじゃが……。いや、分かった。状況は分からぬが、とにかく新しい技術を手に入れる機会なのじゃな? もちろん、受けさせてもらおうぞ」

 

 気を取り直した様子のイルミナは、強く頷いていた。

 

 もちろん、最低でもニッカの許可を得る必要がある。できれば、他の相手にも許可を取りたいところだ。もっと言えば、協力もしてもらえるとありがたい。

 俺の剣だけでなく、仲間の剣も作ってもらえるかもしれない。もっと言えば、アリエス連邦の抱える問題をいくつか解決できるかもしれない。

 

 頭の中でいくつかの算段を思い浮かべながら、俺はイルミナに手を差し出した。

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