物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
とりあえず、鍛冶に関してはイルミナの協力を得ることができそうだ。魔力を込めた剣については、最悪俺の魔力を込めるだけでもいい。とはいえ、複数の国の協力を得た方が、いろいろと良い方向に進むはずだ。
まずは、一番重要なところを押さえなくてはならない。そこの話が通らなければ、続きも何もない。
ということで、聖国の代表を務めているニッカに話をすることになった。今は魔法が使えるので、通話もできる。
ひとまず、ピリカも交えて通話をすることにする。イルミナに関しては、まだ魔力の侵食をさせるほどの信頼は得られていないはず。
というか、ピリカは割と早期から受け入れてくれたんだよな。そのあたりも、助かりはするのだが。
まあ、それはいい。大事なのは、ここで話が通るかだ。俺は魔力を通していった。
「ニッカ、いま話はできるか?」
「レックスさんとのお話なら、喜んで~」
相変わらず、にこやかなトーンで話している。まあ、裏で何を企んでいるのかは分からないが。顔が見れないのは、ニッカみたいな相手だと怖さが勝つな。親しい相手だと、普通に寂しいだけではあるのだが。
「ひとまず、紹介したい相手がいてな。ピリカ、頼む」
「私は、レックス様の側近を務めているピリカよ。どうかよしなに」
「アストラ連邦でも、女を落としたんですか~? 罪な方ですね~」
さっそく、俺たちの間にくさびを打ち込もうとしてきたか? それとも、ただからかっているだけか?
いずれにせよ、ニッカのペースに飲み込まれてはならない。落ち着いて話をしていかなければ。
「レックス様は、私はどちらを選べば良いと思うの?」
ピリカは真剣な顔で聞いてきているし。もうペースを乱されている。やはり、ニッカは手強い。だが、いま焦ればそれこそ思うツボ。
俺がやるべきことは、ピリカのことをちゃんと考えているという意思表示。
「それこそ、狙う立場次第じゃないか? 俺の影響がなくなっても栄達したいのなら……」
「レックス様の愛人として見られれば、軽んじられるってことだね」
ピリカの理解で正しいはずだ。俺が強い影響力を持っているのなら、俺の名前を軽く出せる立場が強い。逆に、俺の影響力が消えた途端にすべてを失いかねない。
つまり、俺の存在を悪用しすぎればピリカは失敗するだろう。いずれ、俺はアリエス連邦を離れるつもりなのだから。
まあ、急いで結論を出すべき問題でもない。少なくとも、今すぐじゃない。まずは、ニッカとの交渉に集中しなければ。
「うふふ、かわし方がうまくなりましたね~」
「本題に入っていいか? そっちにも、利益のある話になるはずだ」
「では、喜んで~。レックスさんの、愛の証ですね~」
無視だ、無視。いちいち付き合っていたら、話が終わらない。それに、ニッカとて本気ではないのだろうし。
「鍛冶屋に頼んで、魔力を込めた金属の鍛冶を研究したいんだ」
「なるほど~。よく考えられた策ですね~」
「レックス様、この人危険だよ……。あんまり、心を許さない方が良いと思うわ……」
ピリカは尻尾を立てている。猫の獣人だということを考えると、かなり警戒しているらしい。まあ、当たり前といえば当たり前だが。ニッカをかばう理由が思いつかないくらいだ。
とはいえ、だからといって関係を断絶できるような立場の相手ではないのだが。ニッカは聖国を的確にものにしているので、とてもではないが軽んじることはできない。
「実質的に、聖国の王だからな。友好的にするのは、どう考えても必須なんだよな」
「あら~。私は、権力だけを求められているんですね~。悲しいです~」
かなり悲痛な声を出している。目の前にいたら、涙すらこぼしていそうだ。本気で言っているのかは、かなり怪しいが。
ただ、正直に言って、そのあたりの信頼はない。能力は確かだと思うし、俺には必要なタイプの仲間だとも思うが。人間的に信じてはまずいのではないかという気はする。
「本題に戻ってもらっていいか? 話が早い方が、こっちとしては助かる」
「あらあら、つれないですね~。それでいて、全体の利益をよく練っています~。成長、したんですね~」
感慨深そうな声をしているが、だからこそ疑わなければならない。俺を持ち上げて、気分よく転がそうとしている可能性もある。
ハッキリ言って、ニッカはかなり毒婦に近いところにいる。言葉の裏側を読むのは、もはや大前提だ。
「見解が一致しているか、聞かせてもらってもいいか?」
「剣が良いものになれば、他国は軽率に連邦を攻められません~。ですが、魔力を込める技術はエルフが握っています~」
そう。連邦が剣という武器を持ちつつ、その武器を支えるのは聖国という形になる。魔力バッテリーの存在を考えれば、王国も関係性の中核を握ることになるだろう。
同時に、帝国は最大の取引先になるはずだ。まだ、力こそ全てという価値観は変わりきっていないのだから。
つまり、周辺国家のバランスを取る一大事業になる。もちろん、良い剣ができればという前提はあるにしろ。
「もっと言えば、光属性や闇属性を込めるのなら。それくらいは、読めているんだろ?」
「ええ、もちろん~。ピリカさんも、察していたみたいですね~」
「しっかり話に入れということね。分かったよ。それで、どんな対価を要求するんだい?」
「もちろん、私の分の剣も打ってほしいです~。理由は、分かりますよね~?」
「表向きには、友好の証。裏向きには、エルフを無視できないという証。そういうことね」
アリエス連邦から、サジタリウス聖国の主に剣が贈られる。もちろん、ただの善意で終わるはずはない。
連邦は剣を独占することができなくなり、聖国は剣の脅威を知る。そして、ニッカはさらなる力を手に入れる。どう転んでも、ニッカが得する一手だ。
だが、断ることもできない。もっと軽い条件をと言ったところで、実物以外なら利権や技術を持っていかれかねない。
つまり、他の選択肢を選べばもっと悪くなる。そこまで分かった上で、ニッカは話を持ってきている。やはり、手強い。
「お見事です~。ですから、王国や帝国も巻き込んでしまいましょう~」
「ああ、そのつもりだ。まずはニッカの協力を得られないと、前提が満たせなかったというだけだ」
「では、人を派遣しましょう~。レックス様の転移を使って、印などを送ってください~」
「ついでに、闇の魔力を各地に侵食させておいてくれないか?」
いくつか問題もあるが、これで俺が転移する時のマーカーを設置できる。ニッカとしても、人を派遣する目的を達成できる。
今は、ニッカの打つ手を潰すべきではない。そうすれば、連邦を立て直すことが遅れてしまう。
「かしこまりました~。では、そのように~」
「レックス様、もしかして……。いえ、なんでもないわ。私は、知らない方がいいはずだよ」
ピリカは何かに気付いた顔をして、意見を引っ込めた。ニッカに利することをしていないか。そう不安がっているのかもしれない。
実際、俺の魔力を侵食するという建前で、各地を調査したり影響力を持とうとしたりするはずだ。
しっかりとピリカと話をする機会は、いずれ設けたほうがいいだろうな。