物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ひとまず、金属や魔力バッテリーなどの必要な素材は集まっていった。それと並行して、軽く転移を利用した調整も行っていく。ニッカが各地に魔力の侵食をしてくれたおかげで、だいぶ楽に実現できた。
といっても、そこまで大掛かりなことはできなかったが。盟主という立場を、まだ表には出せなかった。今のところは、気の良い商売人くらいの認識かもしれない。自分で気の良いと表現するのはあれだが、感覚としては近いはずだ。一応、物資を支援しているわけだし。
そういうことで、イルミナも動き出せている。今の段階では、獣人の多くを巻き込んだプロジェクトではない。イルミナの成果次第で、今後は変わるはずだ。
俺は定期的に様子を確認しながら、ピリカたちと協力しながら連邦の安定も目指していく。
今回もまた、イルミナのところへ向かっていった。
「どうだ、イルミナ? 順調に進んでいるか?」
「まだまだ、といったところじゃな。従来の剣よりも優れているが、それだけじゃ」
それを平然と言えるあたりで、腕のほどが分かるというもの。実際、剣の質は良さそうに見える。魔力が込められているのは確からしい。
とはいえ、イルミナ自身は不満そうだ。耳もペッタリしているし。そのあたり、分かりやすいタイプだな。
「わざわざ魔力を込めて設備を変えるだけの、飛躍的な効果は出ていないと」
「そういうことじゃな。無論、うちとてまだ止まるつもりはない」
真剣な目で語っている。まあ、新しい概念だからな。そう簡単に成果が出る方がおかしい。マリンたち研究組の働きを考えると価値観が歪みそうだが、一生をかけてようやく1つの成果というのも、そもそも何も出ないというのも珍しいことではないはず。
なんだかんだで、ひとつの発見だけでも教科書に載ったりするものだからな。もちろん、その裏には膨大な失敗があるのが前提だ。
まあ、やる気に水をさす必要もない。研究熱心なのは見れば分かるので、任せておくのが正解だろう。
「やる気があるのなら、何よりだ。それで、なにか手伝えそうなことはあるか?」
「せっかくじゃ。お主の剣技を、見せてくれるか?」
なるほど。剣ということを考えれば、剣技を参考にするのは納得できる。俺の剣技はかなり特殊だし、インスピレーションが湧くかもしれない。
それに、息抜きとしても悪くないはず。いずれにせよ、損はないな。
「分かった。ここだと、設備を壊してしまうな……」
「なら、見せられる場所まで運んでくれ。うちも、なにか閃くかもしれん」
ということで、壊しても良い町外れに向かう。工房からは遠い、また別の場所ではあるが。イルミナは少しワクワクしているようで、耳がピコピコしている。
さあ、その期待に応えるだけのものを見せないとな。結果的に、成果につながるはずだ。
「とりあえず、まずは純粋な剣技だけを見せようか」
「純粋な剣技ではないものも、あるということじゃな」
魔法を使った剣技も、イルミナの参考にはなるはずだ。これまで、純粋な剣技を前提とした剣を打ってきたはず。だからこそ、魔力の使い方を知るのは良い機会になってくれるだろう。
俺としても、イルミナに手札を見せることに異論はない。少なくとも、信じていい相手のはずだ。
「ああ。まずは、よく見ていてくれ。
ということで、まずは空間を斬り裂く剣技を放つ。これくらいなら、普通に出せるようになってきた。
自分の成長に対する満足感も、かなりある。イルミナは、目を白黒とさせて口をパクパクさせている。
「は!? いや、何が起こった!? とんでもないことをしておらんかったか!?」
「簡単に言えば、空間を斬った」
「空間を斬った!? そんなもの、斬れるものなのか!? うちは何を見ておる!?」
なんというか、初めて見るタイプの反応だ。感心を通り越して、驚きに入っているというか。フィリスにしろエリナにしろ、満足げに褒めてくれるのが普通だったからな。
後は、カミラみたいな競い合う関係の相手には鋭い目で見られたりとか。それくらいで、イルミナの反応はかなり珍しく思える。
まあ、これだけ驚いてくれるのなら見せる甲斐がある。良い発想につながってくれれば、もっと助かる。
「もう一回見せた方が良いか……?」
「一回では足りぬぞ! 見せられるだけ、見せてくれ!」
「分かった。
何度も何度も見せていると、イルミナは真剣な目で俺の剣技を観察していた。とても鋭く、何一つとして見逃さないようにという感じ。
こういう姿勢を持っているからこそ、熱意を信じられるんだよな。やはり、当たりだと思える。
「ようやく、少し見えてきたのう。なるほど……」
「忘れていないか? まだ、魔法を使った剣を見せていないんだが」
「そうじゃった! 見せてくれ! どのようなことができるのじゃ!?」
イルミナは目を輝かせているという言葉そのもの。そこまで興味を持たれると、ちょっと調子に乗ってしまいそうだ。
とはいえ、見てもらうのは大事なこと。しっかりと気合いを入れないとな。
「とりあえず、まずはこれからだな。
魔力の刃を剣に込めて、一気に振り抜く。触れたものは、跡形も残らない。この技も、かなり頑張って覚えたものだったんだよな。
エリナの剣とフィリスの魔法を融合する試みの、初めての成功例。懐かしいな。
「ふむ。魔力を剣に押し込めて……。じゃが、侵食そのものはしておらん……」
今回は、普通の反応だったみたいだ。ただ、しっかりと分析している様子。というか、すでにかなり魔力の性質を理解できているみたいだな。魔法を使えなくて、魔力バッテリーに触れたのも最近だろうに。
今の流れだけで、優秀さがまた伝わってくる。イルミナは、間違いなく本物だ。
続けて、他の技も見せていく。
「よし、次はこれだ。
剣を振りながら、俺自身を魔力に溶け込ませる。そして、ひとつの斬撃となって放つ。空間を押しつぶすように、破壊が広がっていく。
元通りになったら、イルミナが耳や尻尾を逆立てていた。
「何が起きた!? レックスが消えたと思ったら、とんでもない破壊が起きておったぞ!?」
「簡単に言えば、魔力に俺を溶け込ませた」
「溶け込ませた!? それは、どうやって元に戻っておるのじゃ!?」
「魔力を収束させながら、肉体の形を取り戻していく感じか……?」
「自分でもよく分かっておらぬことを!? レックス、恐るべしなのじゃ……」
確かに、よく考えたら怖い話だ。理屈としては、合一とはどういうものなのかは正確には分かっていない。
まあ、最先端の技術というのはそういうものな気もするが。実験結果が先で、後から理屈をつけていくというか。
「とりあえず、もう一度見るか?」
「うむ、見せてたも!」
元気いっぱいに、尻尾をピコピコさせている。なんというか、かなり可愛らしい印象を持った。明らかに俺より歳上なんだがな。
「そして、これが最後だ。
魔力で複数の刃を生み出し、同時に空間を斬り裂いていく。イルミナは、目をこすっていた。
「なぜ、同時にいくつも斬れるのじゃ! おかしいじゃろ!」
「簡単に言えば、魔力で刃を生み出しているんだ」
「それで、同時に……。ふむ、ふむ……。そうじゃ、同時!」
うつむいて考えていたのが、ぱっと顔を華やがせる。そして、俺に顔を向けてきた。
「良いことでも、思いついたのか?」
「複層構造にすれば良いのじゃ! 吸収と保存と放出を別の層で行えば! こうしてはおれん!」
イルミナは工房に駆け出そうとしている。それに、遅れないようについて行った。