物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
イルミナは、思いついたアイデアを実現するためにひたすら槌を振っているようだった。たまに顔を合わせに行くが、いつ訪ねても大きな金属音が響いているほど。
それほどの熱量を込めているのだから、成果には期待できる。どこか弾むような心を抑えながら、俺は工房へと向かう。
転移をすると、今回は金属音は聞こえてこなかった。ノックをして、すぐにイルミナが飛び出してくる。鞘に入った剣をいくつも抱えて、俺に突き出してきた。
鞘から引き抜いた薄い黒の剣は、妖しく輝いている。金属らしいきらめきと、どこか虹のようなまたたきとがあった。
「レックス、この剣に魔力を込めてみてくれぬか?」
さっそく、イルミナは話をしてくる。尻尾がブンブンと振られており、よほど興奮しているのが見て取れた。
おそらくは、完成度に相当な自信があるのだろう。さて、どのようなものなのやら。
「どれくらい込めれば良い? 全力でか?」
「ゆっくりと増やしていくのが、理想じゃな」
一定量を込めろということではないらしい。いきなり全力でもない。その2つが意味するのは、おそらくは段階的に増やすことに意味があるということ。
イルミナは鍛冶屋なのだから、すぐに性能が発揮できない武器の使い勝手くらい分かっているはず。なら、答えはひとつだ。
「なるほど。耐久なり性能なりを確かめたいんだな」
「そういうことじゃ。よろしく頼むぞ」
とりあえず、魔力を込めていく。少しずつ、輝きが深まっていくような感覚があった。おそらくは、吸収した魔力が影響を及ぼしている。何らかの効果を発揮するために、魔力を使っているというか。
その内容までは、まだ分からない。とはいえ、魔力を使う剣だということは分かった。俺の仲間たちには、向いている人が多いな。
「ふむ。魔力を吸収しているのは分かるが……」
「ここまでは、予定通りじゃな。悪くないぞ」
どんどん魔力を注ぎ込んでいくと、輝きが揺らめき始めた。それと同時に、魔力の吸収効率が落ちていくような感じがした。
限界を計っているということではあると思うが、このままでは壊れたりしないだろうか。
「そろそろ限界近い気がするが、もっと注ぎ込んでも良いのか?」
「うむ。予備は用意しておる。今回は、壊れるまで頼むぞ」
言われた通りに、だんだん魔力を増やしていく。やがて、刀身は折れて落ちていった。
「こんなところか。感覚としては、大体6割くらいだな」
「6割か……。なら、レックスの成長も考えると……」
イルミナは、小声で何やら呟いている。聞こうと思えば聞けるが、思考に没頭しているみたいだし邪魔はしない方が良いだろう。
じっと待っていると、しばらくしてイルミナは顔を上げた。
「終わったか? 次の実験に移るんだろう?」
「よろしく頼むぞ、レックス。まずは、5割ほど注ぎ込むが良い」
「分かった。……こんなところだな」
輝きを増しながら、それでも安定している。このあたりなら、うまく使える範囲のようだ。さて、どんな効果を発揮することやら。
「次はこの剣を振って……。いや待て。どうして5割を注ぎ込める?」
イルミナは、何を言って……。ああ、6割注ぎ込んだ後に5割を注ぎ込んだということは、限界を超えたと思っているわけか。
ずっと吐き出し続けるのは厳しいにしろ、魔力というのは自然回復もする。イルミナが考え込んでいる間に、十分な量はまかなえた。確かにペースは早いと思うが、魔法使いにはよくあることだ。
少なくとも、次の日には確実に満タンになっているからな。注ぎ込んだらなくなるようなら、そもそも魔法使いは戦力たり得ない。
「休憩したから、回復したんだ」
「おおう……。そうなると……。いや、まずは振る姿を見せてたも」
「分かった。なるほどな……。これは、かなりの威力だな……」
指さされた人くらいの岩に向かって振った剣は、あっさりと岩を消滅させる。そこまで勢いよく振っていないが、それでも。
腕力に頼らずに出せる威力としては、かなり破格ではある。もっと言えば、込めた魔力はほとんど減っていない。燃費の面でも、相当なようだ。
「レックスの魔法と同じように、魔力を込めれば切れ味が上がるのじゃ」
「魔力の分だけ、威力が上がるわけだな」
「ああ、そういうことじゃな。レックスならば、何だって紙切れのように斬れよう」
「ふむ。となると、魔力を持ってさえいれば、無属性魔法のようなことができると」
「そういうことじゃな。後は、耐久性と魔力効率の追求じゃ」
耐久性はともかく、もっと魔力効率を上げられるのか。今の感覚で言うと、300回くらいは振れそうな気がしたが。
どこまで効率が上がるかにもよるが、相当な兵器になるかもしれない。
「完成が楽しみだな。どの程度のものになるのか……」
「ふふ、期待して待っておるが良い。うちの腕前を、存分に味わわせてやろう」
それからしばらく、イルミナは工房にこもりっきりになっていた。そして、イルミナから通話が届く。呼び出されるままに、俺は工房に向けて転移した。
イルミナは、激しく尻尾を振り回しながら俺に剣を差し出してくる。
「完成したぞ、レックス!」
「これが……。使ってみていいか?」
闇すら飲み込みそうなくらいに真っ黒で、それでいて輝いている。矛盾しているようだが、そうとしか言いようがない。
おそらくは、闇の魔力を込めた影響だろう。それを利用して、魔力を吸収する性質を持たせているはずだ。
「もちろんじゃ。存分に使い倒すが良いぞ」
「まずは、普通に剣を振ってみるところからだな……」
広場に案内され、剣を振る。魔力を込めなくても、見上げるような岩が真っ二つになる。込めてしまえば、チリすら残らなかった。
今のままエリナが使ったとしても、普通の剣よりは数段強い。とはいえ、この剣の真価を発揮できるのは魔法使いだろうな。
「ふふ、お主の
「重ねがけは、してみて良いのか?」
「もちろんじゃ。どうなるか、よく味わうが良いぞ」
「行くぞ……。
込めた魔力とは別に、剣に魔力の刃を重ねる。共鳴するように、剣は輝き出した。そのまま振り抜くと、地面に大きなクレーターができた。
「以前とは、比べ物にならないじゃろ?」
「ああ……! 続けていくぞ。
剣を振りながら、俺自身を魔力に溶け込ませていく。地面が大きく揺れるほどの衝撃が走った。イルミナは、尻餅をついていた。
軽く頭を下げると、笑顔で手を振られる。すぐに立ち上がって、満足気に頷いていた。
「安定感が増したはずじゃ。そうは思わんか?」
「まだまだ続けるぞ……!
流れるように、剣を振る。空間が引き裂かれて、大きな風が舞った。次にもう一度振ると、遠くにあるただの石ころだけを狙って斬れた。
「うちの剣があれば、精度も上がる。どんなものじゃ?」
イルミナは、腰に手を当てて胸を張っている。それにふさわしいだけの成果が、俺の手元にあった。勢いそのまま、次の技を試す。
「これで、最後だ……!
剣に沿って魔力の刃を伸ばしながら、空間を斬っていく。大小自在に、あらゆる狙った場所を斬り裂けた。それも、ただの一撃で。
「うちの腕も、捨てたものではなかろう?」
「ああ、忘れていたな……。来い、俺の元へ!」
一度遠くに投げて、手元に転移させる。大事な機能も、実現できていた。
「これが、お主の新しい相棒じゃ。名は、
ニッコリと笑うイルミナを前に、俺は