物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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650話 見せるべきもの

 イルミナの手によって、剣は完成した。終末の剣(ラストモーメント)は、名剣と呼ぶのも軽いレベルの圧倒的な完成度を誇っている。

 ということで、これからは盟主としての役割を果たしやすくなるはずだ。ピリカが言うには、持つ武器の格が大事だとのことだったからな。

 

 まあ、それだけですべてが解決するほど単純ではないだろう。とはいえ、大きな一歩を踏み出せたのも確実だ。多くの国を巻き込む事業の取っ掛かりができたので、最低限の役割は果たしていると言える。

 

 とはいえ、まだまだやるべきことはある。連邦が安定した国になるように、手を打っていかねばならない。

 そこで、ピリカやエリナ、フィリスと相談していくことになった。

 

「レックス様の剣技を、なるべく多くの人に見せたいわね」

「単純な力としても、鉄と剣を尊ぶものとしても、レックスの剣技を見れば納得するものは多いはずだ」

 

 帝国でやったことと同じではある。芸がないと言われそうだが、まあ構わない。有効な手段であるのなら、何度も実行することが正しい戦術だ。他の人から見て面白いかどうかなど、小さなこと。

 いや、そうも言い切れないのか。ミレアルの試練をどう解釈するか次第では、新しい手を打つべきということにもなる。

 

 ただ、本当になんとなくでしかないのだが、安定さえすれば良いような気がするんだよな。ミレアルの試練における本命は、俺の強化にある。そんな気がするんだ。

 そうと考えれば辻褄が合うことは多い。まずは帝国で基本的なことを学ばせ、聖国で合一と魔道具のふたつを進歩させ、そして連邦で剣技を進化させた。

 

 要するに、俺を強化することそのものが試練ではないか。そんな考えがある。だとすれば、力を見せるというのも試練には合っているはず。

 

 つまり、俺が最後に戦う相手も想像できる。きっと、ミレアルを感心させるほどの実力を見せることが終着点。俺の魔法を容易に奪えるだけの怪物に通じる技を、生み出さなければならないということ。

 途方もない試練のように思えるが、ミレアルは達成できると信じているのだろう。だからこそ、俺を選んだ。

 

 とにかく、試練を突破できなければ未来も何もない。やれるだけのことを、全力でやるだけだ。

 まずは、連邦の民たちに力を示すこと。そこから。

 

「……対応。力を見せるには、相手が必要」

「無論、私が相手となろう。そうでもなければ、誰も受け止められはしない」

 

 フィリスの言葉に、エリナが立候補した。まあ、当然の流れだ。ネームバリューからしても実力からしても関係からしても、エリナ以外を選ぶことはありえない。

 まあ、エリナは強すぎるから困る部分もあるのだが。時間を斬るって、いまだに意味が分からない。そもそもどうやって対処すれば良いのか。

 

 エリナが勝ってしまえば、エリナを盟主に求められるんじゃないだろうか。それはエリナの望むところではないし、盟主という立場ができれば簡単には会えなくなる。

 そうなれば、やはり勝つしかない。どうにかして、勝ちを引きずり込むしかないな。

 

「今のエリナが相手なら、魔法を使っても負けかねないんだが……」

「勝ってくれればありがたいね。従うものが多数派になれば、工作で押し切りやすくなるもの」

「一度意見が傾いてしまえば、確かにそうなるか。とはいえ、少数派を押し込めすぎるのにも気をつけてほしいが」

「うっかり結託でもされたら、コトだものね。団結ができないように、しっかり分断するわ」

 

 ピリカは実利面で考えているが、俺としてはあまり無体なことをしてほしくないという気持ちもある。まあ、あくまで理想ではあるので、現実的に難しい状況でまで押し付けようとは思わないが。

 どう考えても、誰も排除しない世界というのは不可能だからな。妥協点としては、俺の仲間がそうならないラインではある。

 

 ただ、努力を放棄するというのも違う。最大限問題に向き合って、それでも無理なら切り捨てるという段階を踏むべきだ。

 とにかく、特定の種類の相手は踏みにじっていいという状況にならないようにしたい。

 

 おそらく、ピリカにも分かりやすい形で言うと、特定の職業や種族などを徹底的に軽視すれば、それらの人々が結託して治世を崩壊させる動きをしかねないということ。

 感情面を抜きにした、実利面での理由だな。差別を避けるべき理屈そのもの。

 

 まあ、今すぐに理解してもらえる話でもないだろう。こちらも、段階を踏んでいかなければ。

 

「ひとまずは、それでいいか。恨みを買いすぎないようにな」

「もちろんよ。レックス様のいない時に狙われるのは、嫌だもの」

 

 そのリスクを理解できているだけで、今は十分だ。恨みを買いすぎないように立ち回るだけで、極端に排除されるような人は減るはず。

 とりあえず、現状で選べる妥協点だろう。

 

「レックスの剣技を見れば、多くの存在が驚くだろうな」

「エリナの剣技も……。いや、そもそも見れないかもしれないな」

「レックスならば、きっと私の無速(アライブキル)にも対応してくれるんだろう?」

 

 エリナは期待したような目で見てくる。ひとまず、目の前の問題に集中しよう。どうやって、エリナの剣技を超えるか。

 とにかく、真正面からぶつかり合うのは得策ではない。速度で勝てないのなら、先手を取れるのはエリナなのだから。

 

「案はいくつもあるが……。まあ、やれる範囲でやるだけだ」

「……検証。剣の性能を確かめる上でも、大事」

「そういえば、エリナにもイルミナの剣が渡されたんだろ?」

「見事な剣よね。レックス様のも、エリナ様のも」

「レックスのものほど強力ではないにしろ、十分な性能だ」

 

 俺のものと同じように、黒い刀身が輝いている。まあ、性能は違うはずだが。俺とエリナには、決定的な性質の違いがある。その差を埋める何かになっているのだろう。

 

「……固定。魔力を吸収できないから、安定して性質を発揮するようにしている」

「つまり、常に切れ味が良くなっているということだな」

「もっと言えば、私が全力で振っても傷つかない。今となっては、貴重な武器だ」

「ああ……。俺も、全力で剣を振ったら折れたりするかもな……」

 

 以前エリナが使っていた剣も、俺が魔力を侵食させて強化していた。それを考えると、普通に打った剣では足りないのかもしれない。

 ある意味ではエリナの弱点だと言えるだろうが、模擬戦でつけるような弱点でもない。今は考えても無駄か。

 

「……耐久。魔力を込めることで、普通の金属よりも高められている」

「私は、同じ剣を持っても宝の持ち腐れになりそうだよ。剣士というのは、違うものよね」

 

 ピリカは剣をながめている。まあ、強い武器を持ったところで、素人が強くなれる範囲には限界がある。宝の持ち腐れというのも、当たらずとも遠からずといったところ。

 とはいえ、ピリカも護身用の武器くらいは持っていても良いかもしれない。魔力は侵食させているが、イルミナの武器や魔道具あたりで考える価値はある。

 

「……特別。レックスもエリナも、並大抵の剣士ではない」

「フィリスにそう言われると、私もむずがゆいな……」

「その期待に応えられるように、しっかりとした剣技を見せるとするさ」

「ふふ、私も期待しているぞ。レックスの成長がどれほどのものか、よく味わわせてもらおう」

「私は戦いの道を選ばなくて良かったものだよ。何をしているかすら、分からないんだもの」

「ピリカには、ピリカの特技がある。それは、実感しているんじゃないのか?」

 

 実際、俺にはできないことをしているからな。俺の立場を利用して、とにかく他者に意見を飲ませるのがうまい。

 派閥を作ったり弱みを握ったり根回しをしたり、本当にあらゆる手を使っている。政治家としては、かなりの才能があるんじゃないだろうか。

 

「ええ。レックス様がいなければ、知ることもなかったでしょうね」

 

 ピリカは笑顔で語っていた。巻き込んでしまったのは申し訳ないが、今後も付き合ってもらうことになるはずだ。

 そのピリカの提案で、戦うことになるんだ。後ろ盾の力を、しっかりと見せてやろう。

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