物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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651話 最強の剣士

 俺とエリナの戦いは、大々的に布告されたらしい。戦いの場には、首都で見たこともないような顔が多く揃っている。

 観客たちは熱気を持って俺たちを見守っており、興奮しているのが分かる。

 

 様々な狙いがあり、戦いの結果によって今後も変わる。だが、今だけはどうでもいい。ただ、俺の全力をぶつけるだけだ。

 最高の師匠としてのエリナに、成長を示す。もっと言えば、勝つ。それこそが恩返しというもの。

 

 終末の剣(ラストモーメント)を構えて、俺はエリナに向かい合った。

 

「さて、やるか。俺がどれだけ強くなったか、見せてやる」

「楽しみにしている。私に届くほどの力を、見せてくれ」

 

 エリナも漆黒の剣を構えており、微動だにしない。押しても叩いても、まるで崩れそうな気がしないほど。

 やはり、エリナには圧倒的な風格がある。だが、それを打ち破ってこそだよな。笑みが浮かぶのが、抑えきれそうになかった。

 

「……用意。では、はじめ」

 

 フィリスの掛け声と同時に、俺たちは動き出した。エリナが駆け出す直前に、俺は剣を振る。

 

空破断界(アブソリュートブレイド)! 空破断界(アブソリュートブレイド)!」

 

 空間を裂く剣を、エリナはあっさりと避ける。だが、それで良い。横にステップを踏んだり、かがんだり。とにかく、俺には近づけさせていない。

 まずは、対策が成功したと言える。初手で負けるようなことは、なくなった。

 

「なるほど。私に無速(アライブキル)を撃たせる隙を与えない気か」

「当たり前だろ! わけの分からない剣技は、撃たせないに限る!」

 

 俺はひたすらに剣を振り続け、エリナはそのすべてを回避する。とにかくエリナの動きに合わせて、避ける方向に追撃を飛ばす。少しでも、動きを妨害するために。好き勝手に動かさないために。

 息つく暇もないまま、ひたすらに剣を振り続けた。

 

「そこまで連発して、体力は持つのか? レックスの手が止まった瞬間が、終わりだぞ?」

「だからって、緩めるわけないだろ! 反撃してこないのなら、このまま終わらせる!」

 

 エリナの言葉は無視して、近寄らせないためだけに剣を振り続ける。逃げと言われようが、知ったことか。

 斬られた時には、気づくこともできないまま終わっている。そんな理不尽な剣技、撃たせた時点で終わりだ。

 だったら、正面からぶつかるわけがない。つまらない試合になろうとも、撃たせはしない。

 

「ああ、正しい。私が無速(アライブキル)を撃てば、確実に斬れるだろう」

「間合いに入らせなければ、俺に無速(アライブキル)は届かない! それが、剣技の限界だ!」

 

 俺はずっと剣を振る。縦に、横に、斜めに。エリナは飛び、しゃがみ、下がる。まだ、俺の間合いのまま。

 どこまでも、我慢比べだ。疲れ切った方が、負ける。

 

「レックスの撃っている技も、剣技だろうに。だが、有効な手だ」

「そう思うのなら、もう少しくらい苦しそうな顔をしてほしいものだな!」

 

 空間を斬り裂く剣ですら、エリナには手傷すら与えられない。それほどに、圧倒的な体捌き。射程が実質無限にも関わらず、平気で避けてくる。その時点で、本来は異常だ。

 だが、それくらい当たり前に実現するのが、俺の師匠。

 

「レックスの体力が尽きるのを待ってもいいが……。それでは、面白くない!」

「来る気か、エリナ!」

 

 だとしても、俺のすることに変わりはない。相手が近づこうとするのなら、その軌道に斬撃を置いておくまで。

 エリナが俺に近づけるルートに、何度も何度も斬撃を飛ばした。

 

神速(ディレイドキル)!」

 

 するりと、俺の真正面にエリナがやってくる。圧倒的な速度を出す剣技を、移動のためだけに使ったらしい。

 俺は、ただ剣を振ることしかできない。

 

「なっ……、わずかな隙間に、潜り込んだのか!?」

「さて、どうする? これがレックスの恐れた、無速(アライブキル)だ!」

 

 エリナの動きに、全神経を集中する。わずかな揺らぎを感じて、そのタイミングでエリナと俺の間に向けて斬撃を放つ。

 

空破断界(アブソリュートブレイド)!」

 

 空間を、斬り裂いた。その中が斬り裂かれたのが、空間の歪みで分かった。なんとか、作戦は成功したらしい。

 

「なるほど。私の剣が届かないように、私たちの間にある空間そのものを斬ったか」

 

 エリナは感心したように、俺を見ている。少しは驚いてくれないと、自信が無くなりそうなんだが。

 一瞬でもズレただけで、俺はあっけなく斬り裂かれてしまうだろう。エリナが斬るタイミング以外で空間を切り裂いたとしても、間を抜けて俺に斬撃が届くだけ。

 一秒どころか、刹那のズレすら許されない。もう近づかれた以上、そんな綱渡りを続けるしかないんだ。

 

「速かろうが何だろうが、届かなければ同じだろう!」

「ああ、その通りだ。だが、レックス。何度続けられる? 私の剣が振られる一瞬に、何度合わせられる?」

 

 エリナはまた、斬撃を放とうとする。俺は全神経を、エリナの全身にだけ注いだ。頭からつま先まで、わずかな前兆動作も見逃さないために。

 今度は、腰が動くのを感じた。考える前に、体は動いていた。

 

「何度だってに、決まってるだろ! 空破断界(アブソリュートブレイド)!」

「ならば、根性比べと行こうか! 私を、超えてみせろ!」

 

 エリナは斬撃を放ち、俺はタイミングを合わせて空間を斬る。ほんの些細なミスも許されない、極限状態。

 それが続くのは、何分だろうか。数えることもせず、俺はただ剣を振り続けていた。

 

「まったく、厄介なものだ! だが、そう簡単に負けはしない!」

「隙ができたぞ、レックス! 無速(アライブキル)!」

 

 自分では、分からなかった。そんな隙をついて、エリナは俺のもとに剣を振る。確かに、このままではまずい。

 時間がゆっくりになるのを感じながら、ただ一心に剣を振るった。

 

空破絶界(アブソリュートキル)!」

 

 剣から、複数の斬撃が飛ぶ。エリナが切ろうとしていた場所ごと、いくつもの空間を引き裂いた。エリナが動けないうちに、もう一度距離を取る。

 気づけば、エリナは両手を上げていた。

 

「まさか、魔法を使わずに……。これは、私の負けか……」

「やればできるものだな……。本当に、魔力を使わずに斬撃が増やせるとは……」

 

 今までは、闇魔法を使うことで斬撃を増やしていた。今回は、おそらく終末の剣(ラストモーメント)の効果によるものだ。

 イルミナは、もしかしたらとんでもないものを作ったのかもしれない。

 

「そう遠くないうちに、無速(アライブキル)も再現されてしまうかもな」

「どうだろうな。今はまだ、手がかりすらつかめていないが」

「私も空破断界(アブソリュートブレイド)にはたどり着けていないから、お互い様だ」

 

 エリナは朗らかな笑顔を見せてくれる。そうだな。お互いに学びあって、もっと進化していければ良い。

 俺自身が強くなることも、エリナに何かを与えることも、恩返しになるはずだ。だから、俺は本気で剣に打ち込むだけでいい。単純で良いことだ。

 

「これからも、よろしく頼む。エリナの弟子として、恥じない剣を見せてやるさ」

「ああ。もう達成しているとは思うが、まだ先があるのならば見てみたい」

 

 エリナの目は、輝いているように見えた。きっと、エリナはもっと強くなる。俺も、同じように強くならないとな。

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