物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
とりあえず、俺とエリナの戦いは成功したと言えるはずだ。取引や従属を持ちかけてくる相手が相当増えて、てんてこ舞いになりそうなほど。
誰を味方にするのか精査が必要なのだが、それでも闇魔法は役に立つ。転移やら魔力感知やらを使えば、遠くにいる相手の調査にも使えるからな。
ということで、俺の仲間は大きく増えたと言っていいだろう。問題は、それが俺の仲間でしかないことだ。
最終的には、帝国や聖国の時と同じように、誰かにリーダーを任せたい。その相手として思い浮かぶのは、ピリカくらいだ。
そして、どうやってピリカのもとでアリエス連邦を安定させるのかということだ。ピリカの味方が増えるように、立ち回りを検討しなければならない。
とにかく、当人の意思も大事だ。まずは話をするために、ピリカとイルミナと会談の場を作った。
「ピリカ、イルミナ。ふたりに相談したいことがあってな」
「なんだい? レックス様の言うことなら、なるべく聞くわよ」
「新しい技術を学ばせてくれて、高い報酬も出ておる。よほどのことでなければ、聞くぞ」
ピリカはなんだかんだで従順なんだよな。結構悪辣な手を使う割には、俺が損をするようなことをしてこない。うまく自分の立場を固めているのは感じられるが、まだ首都だけしか安定していない。
そこで、今後のための策として考えたことがある。有効かどうかも踏まえて、とにかく話を通さなければ。
「俺がいなくても成立する体制を作りたくてな。それで、イルミナの武器の販売を、ピリカを通してにできないか?」
「ふむ……。レックスとの取引は、ピリカを通さなくても良いのじゃろ?」
「レックス様を特別扱いするのは、むしろ当然だわ。そこは、心配することじゃないよ」
とりあえず、イルミナは乗り気らしい。というか、視線が俺ばかりを見ている。実際のところ、俺以外との取引はどうでもいいのかもしれない。流石に考えすぎか?
いずれにせよ、イルミナの意図は分かる。俺とのつながりを保つことで、新しい技術を手に入れやすくすることのはず。ああ、分かった。鍛冶の腕を上げること以外はどうでもいいんだ。結果的に、俺が最優先になる。そういうことだな。
となると、ピリカとの取引に関しては好きにすればいいという程度の認識なのかもしれない。
ピリカはとにかく俺を立ててくれるし、話は進みそうだな。
「なら、受けてもらえるか? 販売相手は、かなり絞ってもらいたいが……」
「心配せずとも、そう多くは生産できん。今はうちしか打てんのじゃから、当然ではあるがの」
「力を持たせる相手は、選別させてもらうよ。私だって、敵に力を与えたくないもの」
俺の心配に関しては、ふたりとも分かっているらしい。相当な性能の武器だから、流す相手は考えてほしいんだよな。
降って湧いた力に溺れるというのは、ミレアルの加護が証明している。それと同じことにはさせられない。
となると、最低限度の実力で足切りをするのは必須だろう。まあ、素材や手間からして、実力者でもなければ支払えない額にはなると思うが。
好事家が持つには、性能が高すぎる。管理を考えても、そう簡単に売れるものではない。
「それなら良いんだ。で、もうひとつ話があってだな……」
「うちにも関係する話なのじゃろ? なら、想像はつく」
「ニッカさんたちと話していたことよね? 必要性は、理解しているわ」
なんというか、ふたりとも察しが良いよな。いや、俺が分かりやすいだけなのかもしれないが。察しが良いと思う機会が、かなり多い。
まあ、よく考えたら俺の知り合いは国の上位層ばかりではある。能力が高いのは必然かもしれない。
なんだかんだで、ただの無能では成り上がることはできない。民が得するかどうかという問題はあるにしろ、足を引っ張られても勝つだけの政治的立ち回りは必要なんだ。
「まあ、そういうことだ。各国から中心人物を集めて、剣を贈る場を開きたい」
「周囲との友好の証と、力関係の提示よね……」
「どの順番で贈るかにも、気を配らねばならんわけか。うちの考えることではないの」
関係性としては、王国が最初なのは固いと思う。ただ、帝国と聖国に関してはかなり難しい。俺だけなら、当人たちに相談するという選択肢もある。ニッカに誘導されかねない危険性を考えても、価値はあるだろう。
とはいえ、そのあたりはピリカが考えるべきことになってくるはず。あまり口出ししすぎても、自立を阻むだけだ。
「イルミナに関しては、武器の性能と本数さえ満たしてくれれば良い」
「私が、式典の采配をするということだね……。気が重いわ、まったく」
うんざりした様子で、ため息をついている。だからといって、代理を立てることもできない。ピリカ以上に実権と情報を兼ね備えた存在など、連邦にはいないのだから。
とはいえ、多少の失敗は俺がカバーできる部分でもある。各国の首脳と関係を築いているのは、やはり強い。
特にニッカには要求を飲まされかねないが、それを考えても失敗を織り込んででもピリカに任せるべきだ。もっと失敗できない状況になる前に、経験を積ませておきたい。
「どうしても、他に任せられる相手がいなくてな。ピリカなら、信用できる」
「重いものを任せてくれたものだね……。その分の利益は、確かにあるのだけれど……」
「うちはうちで、光属性や無属性の検証もせねばならん。簡単とは、言えぬな」
負担に見合う利益は、きっとある。足りないようなら、俺が賄うつもりでもある。金銭そのものでなくとも、俺には価値あるものを提示するだけの環境がある。
闇魔法や魔力バッテリー、その他の人脈も。とにかく、俺の持つ手札は大きい。そのあたりで、しっかり支えないとな。
「ふたりには、俺に支払えるだけの報酬は支払うつもりだ」
「レックス様は、魔法を込めたアクセサリーを周囲に贈っているんでしょ?」
上目遣いで、ピリカは俺の方を見ている。媚びるような目に見えなくもないが、そうだとしても構わない。ニッカほど厄介でなく、相応に優秀だ。多少俺を利用するくらい、許すべき。
アクセサリーには、魔法を込めること以外にも意味があるはず。ただ、ピリカと俺の関係が明確になるのなら、それはそれで助かる。
今の連邦で、一番頂点に近い存在だ。そんな相手と仲が良いと示せる価値は、こちらにもある。
「それを贈れという話なら、構わない。ピリカが望むのなら、できるだけ早くにしよう」
「うちも頼んでいいかの。これからは、レックスの依頼を中心にするつもりじゃからの」
「助かるが……。これまでの関係とかは、問題にならないのか?」
「ただの剣なら、在庫は余っているくらいじゃ。その間に、切り替えていけばよいじゃろ」
「あれだけの剣を生み出せるのだもの。立場が変わるのは必然よね」
まあ、そうか。大事にしたい付き合いまで切ることはないだろうが、関係が変わるのは致し方ない。
言わば、地元の商店が全国規模のチェーン店になったみたいな話。地元の付き合いが切れることがあっても、おかしくはない。
イルミナが悲しんでいるのなら、申し訳なかった。とはいえ、尻尾や耳はヘタったりしていないし、問題はないのだろう。
「そうじゃな。駆け出しに売れるような剣ではあるまい。相応の実力者でなければ、話にならん」
「私が窓口になるんだもの。必然的に、力関係はまとまるわ」
連邦は、ピリカが中心になる。そうなってくれれば、俺にとっても都合が良い。俺たちは、お互いに笑みを浮かべあった。