物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
周囲の国の代表にイルミナの剣を贈る式典のために、俺たちは動いている。
ピリカは方々を駆け回りながら、来賓なんかの調整をしているようだ。国内における重要人物の選定もあるし、外国の誰を誘うかという問題もある。王国の主ミーアと聖国の主ニッカ、帝国のユフィは確定だろう。だが、他にも重要人物はいる。
王国なら、妹姫のリーナ。帝国なら、宰相のロニアも。そこまで誘うのなら、聖国も誰かを誘わなければまずい。
そもそも、王国や帝国だって他にも重要な立場の人間はいる。それを考えると、選定はかなり難航するはずだ。今は俺の知り合いばかり考えているが、他だって対応するべきなのだし。
だとしても、連邦が自立するためには相談ばかりもしていられない。俺がミーアやニッカ、ユフィに相談するということは、それらの国の干渉を受けるということ。
つまり、俺が動けば動くほど、連邦は他国に絡め取られていくことになる。少なくとも、ピリカや連邦の民から見れば。
だからこそ、あまり手出しもできないでいた。そして、ピリカ本人も最低限の話しかしてこない。間違いなく、自分の立場を理解している。
そういうこともあって、俺は戦力の強化に務めることにした。剣技や魔法の訓練、魔道具や鍛冶の検証。それらを実行することで、次の戦いに備える。
というわけで、イルミナと話す機会が増えていた。
「のう、レックス。式典の前に、お主の転移で剣を贈ることはできるか?」
当のイルミナから、そんな相談が飛んできた。式典本番でも、実際に剣は贈るはずだ。そうでなければ、式典の意味そのものが失われる。
いや、最悪レプリカでも良いのか。実物さえ相手の手元に渡っていれば、後は周囲へのポーズに収まる。
そもそも、イルミナの意図はどこにある? ちゃんとした性能の武器さえ贈ってくれれば構わないのだが。ああ、そういうことか。
「ああ、なるほど。実際に贈る前に、光属性やらで検証しておきたいと」
「そういうことじゃな。お主の知り合いには、単一属性も無属性もおるのじゃろ?」
考えてみれば、当たり前のことだ。魔力バッテリーに込められた魔力を使っているから、いろいろな属性の魔力で検証はできているはず。
とはいえ、個々の細かい能力なんかに合わせることは物理的に難しい。実際に使った手応えなんかを確認しながら、調整していきたいのだろう。
単一属性や無属性も挙がるのだから、ちょうどいい。カミラやフェリシア、ラナみたいな圧倒的な単一属性も、ジュリアのような無属性にも対応できるということ。
もっと言えば、彼女たちに剣を渡すきっかけにもなる。まさに、お互いに得をする取引といったところ。
「当人の許可は必要だろうが、俺は構わない。ここで通話してみていいか?」
「実験に付き合ってもらうことじゃし、お主の知り合いには好きに贈って良いぞ」
イルミナは、かなり俺にとって都合の良いことを言ってくる。もはや貢がれていると言っても過言ではないんじゃなかろうか。
「気前が良いことだが……。構わないのか?」
「うちの願いは、より優れた剣を打つこと。もはや、レックスの存在が前提なのじゃ」
イルミナは、俺の胸に手を当てて潤んだ瞳を向けてくる。普通なら恋愛感情か誘惑かくらいに捉えそうな顔だが、俺には鍛冶に夢中になっている姿にしか見えない。
いや、たぶん技術を対価に求めでもすれば答えかねない怖さはあるが。まあ、俺はしない。そういう形で他人と関係を持ちたくない。
それに、イルミナが心から満足する環境を整えた方が、良い武器ができるだろうし。利益だけ見ても、手を出すのは悪手だ。
「魔道具や闇の魔力も必要だし、か。分かった」
うなずくと、ニパっと笑みを向けてきた。本当に鍛冶しか見えていないのが、よく分かる。
ということで、一通りの関係者に通話していく。剣を贈る話をすると、すぐに受けてくれた。とりあえず、かなりの協力相手を手に入れたと言えるだろう。
イルミナの方を見ると、耳をピコピコさせていた。
「ということだ。聞こえていただろう、イルミナ」
「レックスの声だけはの。まあ、それでも状況は伝わった。感謝するのじゃ、レックス」
そう言いながら、剣を取りに向かっていた。いくつかを荷台に乗せて運んでくる。少しずつ見た目は違うが、同じような剣があった。
見た感じ、少しだけ光り方が違うのと、あとはツバの色や形も違う。見た目だけで、どの属性かは分かりそうな気はする。それでも、一応は確認しておこう。
「どれが光属性に合わせた剣とか、あるのか?」
「もちろん、あるのじゃ。性能は同じようなものになるのじゃが」
ということは、俺の仮説が当たっていそうだ。まあ、イルミナの指示に合わせて贈るのが最適なのだろうが。
「むしろ、よく同じような性能にできたな……」
「ぶつかりあった時に、魔力の性質による影響は出るのじゃ」
「ただぶつかり合うだけなら、無属性が有利になるみたいな感じか?」
他には、闇魔法は五属性に強く、光魔法は闇魔法に強い。そういう魔力の性質がある。属性を多く込めるのなら、反発をすることもあるだろう。そのあたりにも対応しているということだろうな。
「そういうことじゃな。他の機能は、同じようなものじゃ」
「じゃあ、渡してくれ。指示された相手に、贈っておく」
ということで、指定通りに剣を転移させていく。使った感触なんかを聞いて、イルミナは再び調整するという流れだな。
ミーアやリーナ、フェリシアやラナあたりは剣士と言うより魔法使いだから、メインはカミラとジュリアになるはずだ。
いずれ杖も作ってもらいたいが、それもこれも検証が終わってからになるはず。
「いつ見ても、レックスの転移は不思議なものじゃな」
「相当便利だが、頼りすぎる危険性もある。闇魔法が前提だからな」
「そもそも使い手が少ないと。じゃが、剣は転移できそうな気がするのじゃ」
腕を組みながら、考え込んでいる様子。どうすれば実現できるのか、頭の中で動かしているのだろう。
転移そのものは、ミレアルの手によって実現されている。ということは、不可能というわけではないはずだ。フィリスですら実現できていないのだから、相当な難題になるとは思うが。
剣だけならというのも、おそらくは込めた闇の魔力が補助になるみたいな話だろうな。それなら、まあ分かる。
というか、魔道具にも応用できるかもしれないな。後で話を聞いておこう。
「確かに、五属性で転移を実現しているやつもいたな……」
「誰じゃ? と聞きたいところじゃが、その顔はうちに紹介できぬ相手じゃな……」
「引いてくれるのは、助かる。お前を信頼していないわけではないのだが……」
「良いのじゃ。あれほどの技術を託されて、信頼がないなどと言うつもりはないぞ」
満足気に頷いている。イルミナは鍛冶に熱心でこそあるものの、そのために極端に踏み込んでくることもない。かなり信頼されているようで、助かる。
だからこそ、俺の側も渡せるものは渡しておきたい。マリンたち研究組とも、しっかりと連携していかないとな。
「ありがとう、イルミナ。まあ、いずれ知ることにはなると思うんだが」
「さて、結果次第では調整もせねばならん。まだまだ、忙しくなりそうじゃ」
腕を回している。かなり気合いが入っているのが分かるので、また良いものができるはずだ。俺の
「じゃあ、俺の方で意見をまとめておかないとな。みんなが強くなるのなら、俺も助かる」
「お主の依頼ならば、最優先で受ける。そのつもりじゃから、気軽に声をかけてたも」
「ああ。いずれは、俺の仲間の分は揃えたいところだな」
「忙しくなりそうじゃ。じゃが、これ以上ないほどに充実した時間になるじゃろう」
「それは何よりだ。一応言っておくが、無理だけはするなよ」
「もちろんじゃ。健康を損なっては、剣の質が下がるからの」
イルミナは、本当に鍛冶に対して本気らしい。健康管理までしっかりして、剣の質を高めようというのだから。
そんな相手だからこそ、どんな鍛冶屋よりも信頼できる。他と比較するまでもなく。
この関係は、長く続けていきたいものだな。