物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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653話 鍛冶屋の熱情

 周囲の国の代表にイルミナの剣を贈る式典のために、俺たちは動いている。

 ピリカは方々を駆け回りながら、来賓なんかの調整をしているようだ。国内における重要人物の選定もあるし、外国の誰を誘うかという問題もある。王国の主ミーアと聖国の主ニッカ、帝国のユフィは確定だろう。だが、他にも重要人物はいる。

 王国なら、妹姫のリーナ。帝国なら、宰相のロニアも。そこまで誘うのなら、聖国も誰かを誘わなければまずい。

 

 そもそも、王国や帝国だって他にも重要な立場の人間はいる。それを考えると、選定はかなり難航するはずだ。今は俺の知り合いばかり考えているが、他だって対応するべきなのだし。

 だとしても、連邦が自立するためには相談ばかりもしていられない。俺がミーアやニッカ、ユフィに相談するということは、それらの国の干渉を受けるということ。

 つまり、俺が動けば動くほど、連邦は他国に絡め取られていくことになる。少なくとも、ピリカや連邦の民から見れば。

 

 だからこそ、あまり手出しもできないでいた。そして、ピリカ本人も最低限の話しかしてこない。間違いなく、自分の立場を理解している。

 

 そういうこともあって、俺は戦力の強化に務めることにした。剣技や魔法の訓練、魔道具や鍛冶の検証。それらを実行することで、次の戦いに備える。

 というわけで、イルミナと話す機会が増えていた。

 

「のう、レックス。式典の前に、お主の転移で剣を贈ることはできるか?」

 

 当のイルミナから、そんな相談が飛んできた。式典本番でも、実際に剣は贈るはずだ。そうでなければ、式典の意味そのものが失われる。

 いや、最悪レプリカでも良いのか。実物さえ相手の手元に渡っていれば、後は周囲へのポーズに収まる。

 

 そもそも、イルミナの意図はどこにある? ちゃんとした性能の武器さえ贈ってくれれば構わないのだが。ああ、そういうことか。

 

「ああ、なるほど。実際に贈る前に、光属性やらで検証しておきたいと」

「そういうことじゃな。お主の知り合いには、単一属性も無属性もおるのじゃろ?」

 

 考えてみれば、当たり前のことだ。魔力バッテリーに込められた魔力を使っているから、いろいろな属性の魔力で検証はできているはず。

 とはいえ、個々の細かい能力なんかに合わせることは物理的に難しい。実際に使った手応えなんかを確認しながら、調整していきたいのだろう。

 

 単一属性や無属性も挙がるのだから、ちょうどいい。カミラやフェリシア、ラナみたいな圧倒的な単一属性も、ジュリアのような無属性にも対応できるということ。

 もっと言えば、彼女たちに剣を渡すきっかけにもなる。まさに、お互いに得をする取引といったところ。

 

「当人の許可は必要だろうが、俺は構わない。ここで通話してみていいか?」

「実験に付き合ってもらうことじゃし、お主の知り合いには好きに贈って良いぞ」

 

 イルミナは、かなり俺にとって都合の良いことを言ってくる。もはや貢がれていると言っても過言ではないんじゃなかろうか。

 

「気前が良いことだが……。構わないのか?」

「うちの願いは、より優れた剣を打つこと。もはや、レックスの存在が前提なのじゃ」

 

 イルミナは、俺の胸に手を当てて潤んだ瞳を向けてくる。普通なら恋愛感情か誘惑かくらいに捉えそうな顔だが、俺には鍛冶に夢中になっている姿にしか見えない。

 いや、たぶん技術を対価に求めでもすれば答えかねない怖さはあるが。まあ、俺はしない。そういう形で他人と関係を持ちたくない。

 

 それに、イルミナが心から満足する環境を整えた方が、良い武器ができるだろうし。利益だけ見ても、手を出すのは悪手だ。

 

「魔道具や闇の魔力も必要だし、か。分かった」

 

 うなずくと、ニパっと笑みを向けてきた。本当に鍛冶しか見えていないのが、よく分かる。

 

 ということで、一通りの関係者に通話していく。剣を贈る話をすると、すぐに受けてくれた。とりあえず、かなりの協力相手を手に入れたと言えるだろう。

 イルミナの方を見ると、耳をピコピコさせていた。

 

「ということだ。聞こえていただろう、イルミナ」

「レックスの声だけはの。まあ、それでも状況は伝わった。感謝するのじゃ、レックス」

 

 そう言いながら、剣を取りに向かっていた。いくつかを荷台に乗せて運んでくる。少しずつ見た目は違うが、同じような剣があった。

 見た感じ、少しだけ光り方が違うのと、あとはツバの色や形も違う。見た目だけで、どの属性かは分かりそうな気はする。それでも、一応は確認しておこう。

 

「どれが光属性に合わせた剣とか、あるのか?」

「もちろん、あるのじゃ。性能は同じようなものになるのじゃが」

 

 ということは、俺の仮説が当たっていそうだ。まあ、イルミナの指示に合わせて贈るのが最適なのだろうが。

 

「むしろ、よく同じような性能にできたな……」

「ぶつかりあった時に、魔力の性質による影響は出るのじゃ」

「ただぶつかり合うだけなら、無属性が有利になるみたいな感じか?」

 

 他には、闇魔法は五属性に強く、光魔法は闇魔法に強い。そういう魔力の性質がある。属性を多く込めるのなら、反発をすることもあるだろう。そのあたりにも対応しているということだろうな。

 

「そういうことじゃな。他の機能は、同じようなものじゃ」

「じゃあ、渡してくれ。指示された相手に、贈っておく」

 

 ということで、指定通りに剣を転移させていく。使った感触なんかを聞いて、イルミナは再び調整するという流れだな。

 ミーアやリーナ、フェリシアやラナあたりは剣士と言うより魔法使いだから、メインはカミラとジュリアになるはずだ。

 

 いずれ杖も作ってもらいたいが、それもこれも検証が終わってからになるはず。

 

「いつ見ても、レックスの転移は不思議なものじゃな」

「相当便利だが、頼りすぎる危険性もある。闇魔法が前提だからな」

「そもそも使い手が少ないと。じゃが、剣は転移できそうな気がするのじゃ」

 

 腕を組みながら、考え込んでいる様子。どうすれば実現できるのか、頭の中で動かしているのだろう。

 転移そのものは、ミレアルの手によって実現されている。ということは、不可能というわけではないはずだ。フィリスですら実現できていないのだから、相当な難題になるとは思うが。

 

 剣だけならというのも、おそらくは込めた闇の魔力が補助になるみたいな話だろうな。それなら、まあ分かる。

 というか、魔道具にも応用できるかもしれないな。後で話を聞いておこう。

 

「確かに、五属性で転移を実現しているやつもいたな……」

「誰じゃ? と聞きたいところじゃが、その顔はうちに紹介できぬ相手じゃな……」

「引いてくれるのは、助かる。お前を信頼していないわけではないのだが……」

「良いのじゃ。あれほどの技術を託されて、信頼がないなどと言うつもりはないぞ」

 

 満足気に頷いている。イルミナは鍛冶に熱心でこそあるものの、そのために極端に踏み込んでくることもない。かなり信頼されているようで、助かる。

 だからこそ、俺の側も渡せるものは渡しておきたい。マリンたち研究組とも、しっかりと連携していかないとな。

 

「ありがとう、イルミナ。まあ、いずれ知ることにはなると思うんだが」

「さて、結果次第では調整もせねばならん。まだまだ、忙しくなりそうじゃ」

 

 腕を回している。かなり気合いが入っているのが分かるので、また良いものができるはずだ。俺の終末の剣(ラストモーメント)も、とんでもない名剣だからな。魔法を使わずに斬撃が増やせたのも、あの剣のおかげなのだから。

 

「じゃあ、俺の方で意見をまとめておかないとな。みんなが強くなるのなら、俺も助かる」

「お主の依頼ならば、最優先で受ける。そのつもりじゃから、気軽に声をかけてたも」

「ああ。いずれは、俺の仲間の分は揃えたいところだな」

「忙しくなりそうじゃ。じゃが、これ以上ないほどに充実した時間になるじゃろう」

「それは何よりだ。一応言っておくが、無理だけはするなよ」

「もちろんじゃ。健康を損なっては、剣の質が下がるからの」

 

 イルミナは、本当に鍛冶に対して本気らしい。健康管理までしっかりして、剣の質を高めようというのだから。

 そんな相手だからこそ、どんな鍛冶屋よりも信頼できる。他と比較するまでもなく。

 

 この関係は、長く続けていきたいものだな。

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