物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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655話 依頼を重ねて

 各国の首脳に剣を渡す式典は、うまく行ったと考えていいだろう。それぞれが腹に一物抱えながら、それでもお互いの利益を守るために協力する。国同士の関係性としては、かなり理想的じゃないだろうか。

 どの道、国というのは本当の意味では仲良くできない。遠くの国じゃないのだから、余計にだ。だからこそ、他国を攻撃すれば自国の利益を損なうという状況を作れたのは大きい。

 

 そういうこともあり、イルミナにお礼を言いに向かうことにした。頼み事もしたいので、その話もあるが。

 

 工房に向かうと、イルミナは尻尾を振りながら笑顔で出迎えてくれる。さっそく、俺は頭を下げた。

 

「イルミナのおかげで、うまく話が進んだ。ありがとう」

「礼を言うのなら、うちの方じゃ。知らぬ世界を見せてくれたのじゃからな」

 

 満面の笑みで言っている。声も弾んでいるし、相当楽しかったのだろう。負担はあったのだろうが、総合的には良かったみたいだ。

 まあ、徹夜でゲームをすると苦しくもあるが楽しいが勝つみたいな感覚なんだろうな。仕事でもあるから、ノルマなんかもありはするにしろ。

 

「そういうことなら、気軽に相談できるな」

「新しい武器の話かの? レックスの発想は面白いと聞いておるぞ」

 

 フィリスやエリナあたりにでも聞いたのだろうか。今回に関しては、あまり期待されても困る。ハッキリ言って、発想としては単純極まりないからな。

 

「そこまで面白い発想でもないんだが、杖を作ってくれないかと思ってな」

「ふむ。金属で作れば、重くなるのではないか?」

 

 真剣な目で答えてくれる。真面目に検討してくれているのが、よく分かる。鍛冶屋に杖を作らせるというのがどれぐらいの話なのか、よく分かっていないからな。

 もちろん剣は作っているのは分かるが、包丁やらクワやらも許されるのかは人次第な気もする。

 

 まあ、イルミナは嫌な顔をしていないし、尻尾や耳も変な動きはしていない。不快ではないのだろうし、普通に話を進めて良い。

 

「ああ。だから空洞状の構造にするなり、木を混ぜるなりしたいところだ」

「鍛冶屋の仕事とは言い切れんが……。いや、槍などにも応用できるか……?」

 

 考え込んでいるみたいだ。槍と考えれば、確かに持ち手の部分は木だ。そのあたりの技術を流用できるのなら、必ずしも悪い仕事ではないはず。まあ、イルミナ次第ではあるが。

 

「身につけた技術に関しては、好きに応用してくれれば良い。当然の話かもしれないが……」

「いや、助かるのじゃ。他のものには渡さない特別な技法を使えと言われることもあってな」

 

 明らかに顔をしかめている。苦いものでも食べたみたいだ。察するに、貴族なんかが特別な剣を求めたみたいな感じだろうな。

 正直に言えば、独占したくはある。ただ、イルミナをブラック家で雇っているわけでもない。そこは線引きが必要なところ。

 

 できることなら、専属になってほしいくらいだ。ただ、もう剣は連邦の外交カードにもなっている。勝手な真似はできないのが実情だ。

 打つ手を間違えたとは思わないが、未練も少しはある。

 

「できれば、俺の敵には売らないでもらうと助かりはする。強制はできないが」

「ふふ、上客をひいきする程度の心は、うちにもある。安心せい」

 

 ポンポンと肩を叩いてくる。つまり、俺の敵には売らないでいてくれるのだろう。相当強力な武器だから、かなりありがたい。

 

「それは助かる。話は通してあるから、いくつかの特別な素材も渡せるはずだ。そう多くはないが」

 

 ニッカも乗り気みたいで、霊樹を調達することに成功していた。他にも帝国からミスリルやアダマンタイトも融通されるらしいし、研究組からは魔道具の技術も提供できる。まあ、すべてではないにしろ。

 それらを考えると、かなり大きなバックアップとも言える。イルミナなら、相応の成果を出してくれるはずだ。

 

 たぶん、量産する上では闇の魔力がボトルネックになる。そのあたりも、俺にとっては都合が良いな。

 

「うちの腕に、そこまで期待してくれるのじゃな。ありがたいことじゃ」

「実際、終末の剣(ラストモーメント)は最高だったからな」

「そうじゃろ、そうじゃろ。うちも傑作じゃと思っておるからの」

 

 ニンマリとしながら頷いている。尻尾も機嫌良さそうに揺れていて、かなり見ていて楽しい。

 

「だからこそ、イルミナの作る杖を見てみたいというのがひとつ」

「ふむ。もうひとつは、なんじゃ?」

「イルミナの杖なら、安心して仲間に渡せると思ってな」

 

 間違いなく、最高の性能を持っているだろうからな。それに、変なものを仕込まれたりもしないだろう。人間的にも技術的にも信頼できる相手となると、他にはいない。

 まあ、他の鍛冶屋を知らないだけだとも言われそうでもあるが。ただ、終末の剣(ラストモーメント)は俺が闇の魔力を侵食させただけの剣より性能が高い。それだけでも、腕としては相当なものだと分かる。

 

 もっと言えば、終末の剣(ラストモーメント)を超えるような性能の剣があるのなら、どこかで敵が使ってきていたはずだ。名剣として、誰かが持ち出すに決まっている。

 それがない時点で、この世界の剣の限界というものは分かる。ただ無知だからイルミナを信頼しているのではないと、心から言い切れる。

 

「そうまで信頼されると、気分が良いのう。命を預けるに足ると思われておるのじゃから。鍛冶屋冥利に尽きる」

「剣も、命を預ける道具だからな。終末の剣(ラストモーメント)になら、遠慮なく預けられる」

「うちの欲しい言葉というものを、よく分かっておる。レックスとなら、気分よく仕事ができそうじゃ」

「それは、つまり……」

「うむ。お主の仲間が使うにふさわしいものを、用意してやろうではないか」

 

 思わず、ガッツポーズをした。その姿を、イルミナはニコニコとしながら見守っている。まあ、ある意味では何より雄弁にイルミナに対する期待の度合いが分かる仕草ではあったな。

 本気で嬉しいと思っていないと、勝手にガッツポーズなんて出てこない。感情を隠せなかったのも、結果的には効果的だったか。

 

「ありがとう、イルミナ。これで、俺たちの戦力もまた強化される」

「気が早いぞ、レックス。じゃが、悪くない。頼られるということも、心地よいものじゃの」

 

 薄く微笑んでいるのが見える。尻尾もゆらゆらと揺れていて、感情が伝わってくる。俺としては好き勝手言っているくらいなので、それで喜んでもらえるのならありがたい。

 イルミナが最高の鍛冶屋であることは疑いようがないし、称賛としてはむしろ足りないくらいな気すらする。本人が喜んでいるのだから、余計なことを言うつもりはないが。

 

 それこそ、前世で言うのならノーベル賞ものの研究結果を出せているんじゃなかろうか。もっと称えられても良い存在に、好きに依頼できる。見る目がない相手には、感謝してしまうな。

 

「喜んでもらえているのなら、何よりだ。それが結果にもつながるんだから、最高だよな」

「まったく、失敗する可能性を考えておらん。じゃが、良い。うちは許す」

「失敗と言っても、最後には結果につながると信じているからな」

「そうじゃな。お主が望むのなら、最高の杖を作ってやろうぞ」

 

 イルミナは、胸を叩いて宣言していた。さて、どんなものができあがることやら。本当に、楽しみだ。

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