物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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656話 師への感謝

 ひとまず、アリエス連邦でどうしてもこなすべきことは終わったと言えるだろう。イルミナの杖ができるまで待ちたい気持ちもあるが、転移も通話もできるからな。

 いざ事が起こってからなら転移が潰されかねないという問題はあるが、それを心配しても無駄ではある。どの道、杖が事前に手元に渡っていないと話にならない状況なのだから。

 

 ピリカもうまく立ち回っているみたいだし、そろそろ連邦を離れることも検討する段階に入ってきた。もちろん、手助けが必要ならやってくるつもりではあるが。

 おそらく、次の相手はリブラ教国。それに勝つためにも、連邦以外との連携も必要になってくるはずだ。

 

 最終的に誰が攻め入るのか。あるいは相手が事を起こすまで待つのか。どういう選択を取るにしても、事前に決めておくべきことが多い。

 今回は魔法を封じられたこともあるし、もしかしたら魔道具が切り札になってくれるかもしれない。あるいは、イルミナの剣かもしれないが。

 とにかく、できるだけの準備をしたい。いざという時に、勝ちきれるように。

 

 やはり、一度は王国に戻ってみるべきだろう。仲間たちとしっかり話す機会は、必ず必要になってくる。

 

 そういうこともあり、イルミナとピリカ、そしてエリナとフィリスには話を通しておいた。

 

 今は、エリナとふたりで話しているところ。なんでも、今後に関わる話があるかもしれないとのことだ。真剣に耳を傾けるつもりで、まずは話の取っ掛かりを作っていった。

 

「エリナも、イルミナには世話になっていたんだよな?」

「それなりという程度ではあるな。剣は所詮消耗品だったからな」

「ああ、確かに。普通の剣だと、そう長い期間は使えないか」

「そういうことだ。使い捨てる前提のものになるから、私は頼りすぎないようにしていた」

 

 俺には闇魔法の侵食があったから、愛剣を使うことができていた。だが、そこまでの強度を持った武器は無いか少ないかだったのだろう。

 エリナは伝説的な傭兵ではあるが、言っては何だが所詮は魔法を使えない中での伝説。今みたいに理不尽な剣技を使えるほどではなかった。ハッキリ言って、フィリスとは格が違ったのが現実。

 

 だが、今ならフィリスとも張り合える可能性が高い。イルミナの剣は、その助けになってくれるはずだ。

 となると、心配になることがある。

 

「なら、イルミナの商売を潰すことにもなりかねないか?」

「何を……。ああ、私たちが買い替えしないのかということか」

 

 前世でもあったからな。あんまりにも長持ちする電化製品なんかが、ずっと使われた結果として売上が落ちるみたいな問題が。

 だからこそ、最終的には耐久性に割くコストは低くなっていた。むしろ、壊れやすいようにしようと狙う企業すらあったほど。

 

 そういうことを考えると、剣が消耗品ではなくなると鍛冶屋は困るはずだ。

 

「ああ。あれほどの腕なのだから、しっかりと儲けてもらいたい」

「まだまだ、魔力を込める技術については発展途上なはず。レックスにも、分かるだろう」

「技術が進む限りは、新しいものに買い替える理由になると」

 

 じゃあ、ゲームみたいになるかもな。次の機種じゃないとできないことが多すぎて、新しい体験をしたければ買うしかない。

 そろそろ頭打ちが見えてきていたというのが、前世での話ではある。だから、時間制限付きにはなるのだろうが。

 次の技術が安定して開発できるのなら、買い替えは必須になる。なにせ、武器同士がぶつかりあった時に、弱い方が壊れることになるだろうから。つまり、死につながるのだから。

 

「もっと言えば、レックスが技術開発に支援してやれば良い」

「今と同じように、あるいはもっとだな」

 

 エリナはうなずく。パトロンみたいな感じで、継続的に投資をするということ。イルミナの技術を考えれば、生涯年収くらいを毎年渡しても安いはずだ。どうやって資金を捻出するかさえ解決できるのなら、かなり良い案になる。

 金銭そのものが収益になるとは限らないが、俺たちの戦力を強化できるだけで意義がある。極端な話、赤字になってでもやるべきかもしれない。

 

 なにせ、俺の敵は女神なのだから。戦力なんて、いくらあっても足りないくらいだ。

 

「もっと良い剣が手に入れば、レックスの剣技も進化するかもしれない。私は、それが楽しみでな」

終末の剣(ラストモーメント)では、複数の斬撃を放てた。それを超える剣か……」

「私たちには想像もつかない何かを、イルミナは生み出すかもしれない」

 

 エリナは楽しげに喉を鳴らしている。実際のところ、どうなのだろうな。終末の剣(ラストモーメント)の性能は、すでにとんでもないレベルだ。だから、その先は具体的にイメージできない。 

 ただ、イルミナは本職だ。もっと具体的に、俺たちが考えていないような案を持っている可能性もある。

 

「期待しすぎるのも良くないが……。できそうではあるな」

「道具に頼りすぎるのでなければ、武器の性能も実力だ。レックスも、よく分かっているはずだ」

「そうだな。闇魔法も剣技も魔道具も終末の剣(ラストモーメント)も、全部だ」

 

 ただ道具に頼るだけなら、相手が同じ道具を持った時点で優位性は消え去る。だが、俺には積み重ねてきた技術がある。そう簡単に、負けやしない。

 敵が終末の剣(ラストモーメント)を持っているという程度なら、まず勝てるという自負がある。そのあたりも、実力の証と言い切って良い。

 

 弘法は筆を選ばずとは言うものの、良い筆を使えば良い字が書けるのも事実。弘法が質の悪い筆を使って書いた字が、良い筆を使った素人より圧倒的にうまいというだけ。

 つまりだ。弘法に良い筆というのは鬼に金棒ということ。俺が終末の剣(ラストモーメント)を持ったとしても、同じことが言える。それだけの実力はあるのだと言っても、ただのうぬぼれではない。

 

 まあ、ミレアル相手に勝てるほどかといえば怪しいが。それでも、俺が圧倒的な実力を持っているのは単なる事実。そこで卑屈になる意味はない。

 

「レックスは、闇魔法に頼らずに私の剣を超えた。恐るべき成長だ」

「そういえば、これまでは魔法に頼らないと勝てなかったな……」

「ああ。私としては、魔法も実力だと考えている。だが……」

「やはり、剣にこだわりもあったのか?」

「私が教えた技術で、私を上回るものを生み出した。師の喜びというものを、強く実感したとも」

 

 エリナは唇を細めている。感慨深げな目で見てくれもした。やはり、エリナとフィリスに出会えたことは俺の大きな財産だ。そのふたりがいなければ、絶対に今ほど強くはなれなかった。

 間違いなく、今まで生き延びてこれなかった。その感謝は、本物だ。

 

「ありがとう。エリナがいてくれたから、俺はミレアルの試練を乗り越えられた。フィリスを救えたんだ」

「気にするな。報酬としては、十分以上のものをもらっている」

「なら、良いが。エリナの望みなら、何でも叶えたいくらいだ」

「言ったな? なら、いずれ叶えてもらうことにする。待っていろ、レックス」

 

 腕を組みながら、声を弾ませている。よほど機嫌がいいみたいだ。まあ、エリナの望みなら何でも叶えたいというのは事実だ。仲間を殺せとか、そういう願いは言わない人だと分かりきっているからな。

 それこそ、莫大な金を要求されても妥当なくらいだろう。本当に、俺に対しては何だって言う権利があると思う。フィリスも同じではあるが。

 

「内容については、教えてもらえないのか?」

「楽しみにしていると良い。レックスにとっても、悪くない話のはずだ」

「まあ、エリナなら無茶な願いはしてこないか。期待して待っているよ」

「ふふふ。レックスは、甘いな」

「信頼できる相手だからだよ。誰でもなわけがない」

「だからこそ、悪い女に捕まりかねない。せいぜい、気をつけておくことだな……」

 

 俺のあごを撫でながら、エリナは笑っていた。

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