物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
659話 大切な家族
帝国もエルフの聖国も獣人の連邦も、一通りの問題が解決したと言っていい。もちろん完璧ではないにしても、どうしても今すぐに終わらせないといけないことは終わらせられた。
そこで、イルミナの剣や杖を手土産としつつ、一度ブラック家に帰ることにした。
おそらく、次の敵はリブラ教国。ミレアル教の総本山。間違いなく、女神ミレアルの影響は大きい。最悪の場合、全国民が使徒となってもおかしくはないほどに。
調査や対策も含めて、一度方針をまとめる必要がある。そういうこともあり、ブラック家での話し合いは大事になってくるはずだ。
ブラック家にたどり着くと、あれよあれよという間に歓迎の食事会が始まろうとしていた。ひとまずは、家族で行うらしい。
ジュリアたち学校もどきの仲間とか、マリンたち研究組とか、他の人達も参加してほしくもあった。とはいえ、まあ準備が大変だということも分かるし、みんなそれぞれに忙しくもある。無理は言えないよな。
「ご主人さま、食事の用意ができましたよっ」
「レックス様のために、特別な品を用意させていただきました」
メイドのウェスとアリアが、俺達の食事を並べていく。明らかに手慣れた動きになっていて、特にウェスの成長を感じるところだ。
ニコニコしているが、品も感じるみたいな顔。もう、一流のメイドと言って良いんだろうな。
「まったく、ミーアのやつ……。余計な気を回しすぎなのよ……」
近衛騎士だったカミラを参加させられるように、王女姉妹が気を使ってくれたみたいだ。後で感謝を伝えておかないとな。
相変わらずツンケンしているカミラだが、なんだかんだで弟の俺を大切にしてくれているよな。こうして参加してくれるし。
「あらあら、素直じゃありませんわね。わたくしは、皆で食事をできるのは嬉しいですわよ」
「お兄様、またメアリのことをかわいがって?」
母のモニカは穏やかに微笑んでいて、妹のメアリは俺に近寄ってくる。それぞれに好き勝手に話している感じではあるものの、こうして穏やかに食事ができる関係になった。
昔なら、もっと会話が弾まなかったからな。露骨に他の相手を無視したりとか、ギスギスしたりとか。
「兄さんは、相変わらず大変そうですね……。今の立場で良かったです」
まあ、こうしてジャンに同情されたりもするのだが。ほとんど俺ばかりが話しかけられていて、返事もできないくらいだからな。
モテすぎて困るというのを嫌味だと感じていたのだが、今では気持ちが分かってしまう。本当に、誰を優先するかとかで気を使うのが大変なんだよな。
うっかり変なことを言うと、全員を敵に回しかねない。好かれていても、そこは連帯されるものだ。
「では、ごゆっくりどうぞ。お食事を終えられましたら、また」
「ご家族との時間を、楽しんでくださいねっ」
アリアとウェスが一礼をしてから去っていく。メイドとしては適切な態度なのだろうが、寂しくもあるな。
まあ、ブラック家だけならともかく、他の場所ではアリアとウェスは混ざれない。立場を分けるという意味では、必要なのかもな。
もっと言えば、家族と仲が良いとは言い切れないからな。あくまで、俺が参加してほしいだけ。無理は言えないか。
「俺としては、ふたりがいてくれても良かったんだけどな……」
「うふふ、気を使ってくれたのですわよ。あまり大勢の相手も、大変ですものね?」
「ま、悪くないわ。あんまりうるさいようだと、食事がまずくなるもの」
モニカが俺をちらりと見て、カミラがそっぽを向いている。この調子なら、参加を押し切るのは良くなかったかもな。
「お兄様、一口でいいからあーんしてほしいの」
そんな事を言いながら、メアリは口を開けている。なんというか、ニヤけてしまいそうになるな。まあ、可愛い妹の前でだらしない顔なんてできないが。
「久しぶりに甘えられると、なんだか嬉しいものだな」
「都合の良い時には子供ぶるわね……。まったく、誰に似たのよ……」
「うふふ。皆がわたくしの子だと、よく分かりますわね」
カミラは冷たい目をしていて、モニカは頬に手を当てて微笑んでいる。メアリは楽しそうにしていて、悪い空気ではない。
昔なら、もっと言い合いをしていただろうな。完全に仲良しとは言えないまでも、家族としての関係は作れているはず。
嫌いなところも文句もあるが、それでもつながりは途切れない。そんな関係になってほしいものだ。
「良くも悪くも、兄さんの好かれっぷりが目立ちますね。まあ、都合は良いんですけど」
「誰がこんなやつなんかに……。余計なことを言わないでくれる?」
「じゃあ、お兄様に貰った剣はいらないの? メアリは、大切にするの!」
「それとこれとは話が別よ。性能を好き嫌いで捨てたりしないわ」
腕を組んでそっぽを向いているものの、カミラは前も俺の贈った剣を大切にしてくれていた。性能に関して、イルミナの剣に文句があるはずもない。きっと、カミラの愛剣になるはずだ。
しっかりとカミラの力になってくれれば、それで良い。
「姉さんが役立ててくれるのなら、俺は嬉しいよ」
「わたくしは、レックスと触れ合う時間を大事にしたいですわね。ねえ?」
「メアリも、いっぱい甘えさせてほしいの!」
モニカが流し目をしてきて、メアリがキラキラした目を向けてくる。あくまで俺が中心ではあるものの、仲良くはできていると言って良いのだろうか。
まあ、いずれはもっと良い関係になるはずだ。お互い、距離を詰めようとしているのは感じるのだから。
本気で嫌いなら、こうして普通に会話することすらできないはず。一歩ずつでも、進んでくれれば。
「ベタベタしちゃって、子供っぽいことこの上ないわね……」
「お兄様との時間を大切にできないなら、オトナになれなくてもいいの!」
「あらあら、メアリは良い女になりますわね。大切なことを、よく分かっていますもの」
ちょっと鞘当てっぽいことはしているが、カミラもメアリもそこまで険悪な雰囲気ではない。冗談くらいで収まりそうな範囲に見える。
モニカも穏やかにしているし、助かる。一切ケンカをするななんて言うつもりはないし、この程度のぶつかり合いなら構わない。
まあ、俺が震源地になりそうなことだけは勘弁してほしいんだが。あるいは、大岡裁きの中心とか。
なんだかんだで、みんな優しいから大丈夫だとは思う。とはいえ、ゼロとは言い切れないのが怖い。
「ふん。バカ弟を甘やかしてばかりじゃ、なっさけない男になるわよ」
「今は違うということですわよね? 分かっていますわよ」
モニカに目を合わせられて、カミラは鼻を鳴らした。俺だって、分かっているつもりだ。本気で嫌いな相手なら、カミラは無視すると。
だから、しっかりと大切にしないとな。カミラはきっと、俺と一緒に戦ってくれるのだから。
「姉さんに恥じない弟でいられるように、頑張るつもりだ」
「好きにすれば? あたしも好きにするだけよ」
「メアリも好きにするの! お兄様、またメアリに魔力をちょうだい?」
「うふふ、愛されていますわねえ。誇らしいですわよ、レックス」
カミラは俺の言葉を否定しないし、メアリは甘えてくれるし、モニカは優しく包みこんでくれる。
ブラック家に転生した時はどうなることかと思ったが、今では感謝しているくらいだ。
「こんな家族を持てたことは、俺の自慢だ。これからも、よろしく頼む」
「兄さんの助けになれるのなら、それで十分です」
「また変なことになったら困るだけよ。ま、今は許してあげるわ」
「お兄様、大好きなの!」
この家族と一緒に、必ず最後まで乗り越えてみせる。そして、また今みたいな時間を過ごしてみせるさ。