物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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660話 できる限界は

 ひとまず、ブラック家にいられる間にしておきたいことが多い。というか、いくらでもある。

 家族や仲間との時間を過ごすこともそうだが、今後に向けての対応も含めてだ。戦力を拡大することもそうだし、領地の運営もそうだし、魔道具の作成もそう。

 とにかく、できる限りのことをしておきたい。ミレアルがどう動き出すか読めない以上、いつ何が起きても良いように準備しておかなければならない。

 

 まずは全体の設計を決めるためにも、軍師組と話をするのが大事になってくるはずだ。

 ということで、場を用意することにした。

 

「ジャン、ミルラ。せっかく帰ってきたんだから、細かく今後の方針を相談したい」

 

 ふたりは落ち着いた顔で俺のことを見ている。ジャンにしろミルラにしろ、頭脳労働では俺より明確に上だからな。

 とにかく、このふたりでもダメなら本当にダメだということ。そう思えるくらいには優秀だし信頼している。

 

 少しだけ考えた様子で、すぐに返事が返ってくる。

 

「どんな手を取るにしても、兄さんの力が前提になりますね。策でどうにかできる範囲は、超えています」

「もちろん、私どもも全力を尽くす所存でございます。少しでもレックス様の道が楽になるように」

 

 まあ、そうなるか。ミレアルという何でもありな敵を前にして、戦略を練ったところでという話ではある。気まぐれで全て吹き飛ばされかねない。

 とはいえ、完全にさじを投げているわけでもないようだ。俺の力が前提であったとしても、少しでも勝率を上げる策を考えてくれるらしい。

 

 おそらくは、一か八かの大勝負になるだろうな。そもそも戦力では負けている以上、奇策や博打に頼るしかない。

 その中で、少しでもマシな選択を選ぶというだけ。さて、ジャンやミルラにはどう見えているのだろうな。

 

「方針としては、大きく分けてふたつだと思う。相手の出方を待つか、こっちから攻め込むか」

「どちらにしても、ミレアルの動きが読めません。高度な連携が期待できない現状だと、どうでしょうね」

「気心が知れた相手だけで攻め込むという手もございます。軍勢を用いるのは、避けた方が良いと存じます」

 

 すぐに問題点を割り出してくれた。そうなんだよな。一般的な兵力はそもそも集めるだけ無駄という可能性が高い。

 占領する際に役に立つという考えですら、ミレアルの使徒がいつでもどこでも現れるという特性を考えたらな。

 

 となると、少数精鋭が基本になってくる。そこでまた、連携が問題になってくるわけだ。おそらくは、俺個人だけなら誰とでも組める。たとえ厄介なニッカが相手だとしても、背中を預け合うことくらいはできる。

 だが、帝国の人間と聖国の人間が組めるのか。王国ならどうか。そういうところに心配があるということ。

 

 根本的には、一般兵を使うという方針は無視して良い。もしかしたら良い手段が思い浮かぶ可能性もあるが、その案を考えている時間はないだろう。

 翌日に定期テストが迫っていて、数学の基礎から学び直すことはありえない。暗記教科に絞るしかない。そういう話。

 

「まあ、矢避けにすらならないだろうな。そんな状況で無為に犠牲を増やすのは、避けたい」

「問題なのが、勝利条件の設定です。ミレアルに勝てばいいのか、あるいは殺してはまずいのか」

「ミレアルを殺して世界が滅んでしまえば、私たちの負けでございますからね」

 

 こういうところが、ジャンやミルラの優秀さだよな。ミレアルを殺してはまずいということにたどり着くだけなら、俺でもできる。そこから勝利条件の設定という議題に移れるところだ。

 確かに、戦いでは何を目標とするかを決めなければならない。土地を占領するのか、敵対できないように心をくじくのか、資源さえ手に入れば良いのか。

 

 今回のミレアルとの戦いでは、今の3つは通用しないだろうな。通常の戦争とは別の領域で勝利を求める必要がある。

 

「手痛い打撃を与えればというのは、人員の消耗ではないだろうからな……」

「実質的に、ミレアル個人との戦いなんです。国を相手だと思えば、痛い目を見るでしょうね」

 

 国ほどの戦力を持っているかもしれないが、個人としてのフットワークの軽さが中核にある。ゲリラ的戦術にしろ暗殺者的戦術にしろ、いくらでも取れる。

 だからこそ、戦争とは違う考えが必要になってくるということ。

 

「だからこそ、気軽に攻め込まれる可能性もあると。本当に、どちらにも長所と短所があるな」

「極端な話、兄さんがブラック家を空けたタイミングで攻め込まれれば……」

 

 ジャンはその先を言わない。ミレアルに転移を潰されでもすれば、詰みだな。これまでの経験からするに、そういうただの理不尽は実行してこないだろうが。

 だからこそ、こちらも捨て鉢にならずに試練を受けようという気持ちになっている。根本的に、俺達は後手に回っているんだよな。

 

「どの道を選ぶにしても、賭けにならざるを得ないのが現状でございます」

「女神を相手にするんだから、確実な勝算がある方がおかしい。つまり、それだけの強敵ということだよな……」

「これまでの情報では、兄さんの成長を狙っていたという可能性が高いんですよね」

「であるならば、もう成長に満足しているか、まだ成長させたいかの二択で判断が変わりそうだと存じます」

 

 なるほど。もう成長に満足しているのなら、最後の戦いになるはず。まだ成長させたいのであれば、次の課題を見せてくるはず。

 いずれにせよ、相手の動きをよく観察しなければならない。どうにも、振り回されている感じがあるな。

 

「まだ不足がある場合、攻め込めば危険ということか……」

「極論、ミレアルの機嫌次第です。僕たちにできることは、戦力を最大限に発揮する動きだけですね」

「魔道具の運用や連絡体制であれば、私どもでもお力になれるかと存じます」

 

 まあ、結局は単純な結論に戻ってきたか。俺達の出せる全力を。そうするために、ジャンやミルラが動くという話。

 ミレアルの意図を的確に読むことなど、人間には不可能だ。なら、開き直るしかないのだろうな。

 

 ジャンやミルラですら有効な対策が思い浮かばないというのなら、逆に割り切りやすい。もはや策というよりは、ただ力で上回るのだと。

 

 まあ、物資の割り振りや連携なんかも必要になる。そこが、ふたりの活躍しどころなのだろうな。

 

「やはり、ミレアルの動きを待つしかないだろうか……」

「攻めても守っても、そこは同じでしょうね。逆に、ミレアルが誘導を仕掛けてくる可能性もあります」

「エルフや獣人に強い魔力が宿ったようにか。となると……」

「イルミナの武器や魔道具を、どう割り振るか。それが私どもにできる最大限でございます」

 

 俺と同じ結論が出た。とはいえ、大事なことだ。俺達の見解が一致しているのなら、本当にこれ以上の策は現状では実行できないのだろう。

 各国の仲間とどうやって連携していくか。それが、ジャンやミルラに頼るべき本質。

 

「なら、各所に連絡を取って……。これは! 使徒が、ブラック家に……」

 

 強い魔力の反応が、複数現れた。場所は、学校もどきの近く。狙われているのは、誰だ?

 いや、そんなことはどうでもいい。今すぐに助けに行かないと。

 

「すぐに対応させていただきます!」

「兄さん、行ってください!」

 

 ミルラやジャンが動くのなら、ブラック家はどうにかなる。とにかく、俺が敵を倒すことだ。よし、やってみせる。

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