物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
敵は俺達に魔法を放とうとしているが、それよりも俺達の方が早い。まずはジュリアが、収束した魔力を解放していく。
何も当たっていないにもかかわらず、圧倒的な威力が伝わってくるほど。もはや、目の前の敵には俺は必要ないかもな。そう思わされるほどだった。
「この、一撃で!
あっさりと、魔力の爆発が敵を飲み込んでいく。誰ひとりとして、抵抗することすらできなかった。
ジュリアの基本的な技ではあるものの、明らかに威力が上がっている。なにせ、ミレアルによって強化された敵でもあっさりと仕留めるほどなのだから。
倒れた敵は、恨めしそうに手を天に伸ばしていた。
「なっ……。私は、本当に捨て駒……。ミレアル様……」
あっけなく、敵の手は落ちていく。その瞬間、また敵の気配を感じる。俺達を囲むように出ていて、学校もどきを襲っている様子はない。
ミレアルは、なんだかんだで俺の弱みを突こうとはしてこない。そのあたりは、以前の敵よりもマシだと言い切れる。戦力という面では、もはや比較すらおこがましいが。
「まだまだおかわりが来るみたいだぞ! 気をつけろ!」
「油断なんてしないよ、レックス様!」
「いくぞ、ジュリア!
空間を断つ斬撃で、一気に敵を斬り捨てていく。もはや、俺に感知できる範囲なら射程という概念は意味をなさない。
仮に学校もどきを襲われたとしても、生徒には誰ひとりとして被害を出さずに敵を殺せるだろう。
「レックス様、すごい……! 僕も負けてられないよ!
まだまだ現れた敵を、ジュリアは魔力の爆発で吹き飛ばしていく。それでいて、俺に衝撃が届くようなことはない。
つまり、敵だけを正確に潰せるだけの魔力制御を実現できているということ。ジュリアの成長は、確かに感じ取れる。
それからも、現れる敵を倒し続ける。そう苦戦することもなく、最後の敵を倒し終えた。
索敵をしても、次の敵が現れる様子はない。通話に何かが引っかかるということもない。今回は、これで終わりみたいだ。
「……よし、今回は終わったみたいだな」
「レックス様、助けてくれてありがとう。そしてごめんなさい。迷惑をかけちゃったよね」
ジュリアは深く頭を下げる。不甲斐ない気持ち自体は、分かるつもりだ。自分が狙われているのに、自分では解決できない。それがどれほど苦しいか。
アリエス連邦との戦いの中で、魔力を封じられてエリナに頼ることしかできなかった瞬間。あの時と同じ気持ちを、ジュリアは味わっているのだろう。
だからこそ、慰めても無駄なのかもしれない。それでも、俺の気持ちだけは絶対に伝えるべきだ。誰かがそばにいるということが、力になってくれる。それは、俺も経験したことなのだから。
「気にするな。お前たちが傷つきそうだというのなら、絶対に助けてみせる」
「でも、僕なんかに……」
ジュリアはぎゅっと拳を握って、うつむいていく。自責の念を抱えているということが、強く伝わってくる。
だが、俺はそんな顔を見たくない。ジュリアには、いつもの元気な姿を見せてほしい。それが、俺のわがままだ。
「なんか、なんて言うな。ジュリアは、俺の大切な仲間なんだ」
「でも、結局レックス様に助けられてばかりで……」
声が震えている。無力さというのは、苦しいよな。俺にも分かる。叫び出したいような怒りと、逃げ出したいような情けなさ。それらが混ざりあって、胸の中で膨らんでいくんだ。
だが、そんな気持ちなんかに負けさせてたまるものか。今こそ、昔の俺を思い出すべき。
「そうか。なら、こう言おう。わざわざ俺が育てた時間と金を、無駄にさせるつもりか?」
「……ううん。そんなこと、させない! レックス様の、力になってみせる!」
少しだけ、立ち止まって考えていた様子。だが、もう吹っ切れたみたいだ。まっすぐな目で、俺を見ている。声にも張りがある。
まさに主人公みたいな輝きが、ジュリアを満たしている。なんて、主人公なんてくだらない肩書でジュリアを判断するつもりはないが。
だが、今のジュリアの輝きは本物だ。それだけは、間違いない。
「なら、それで良い。悔しいのなら、強くなれ。ジュリアなら、きっとできる」
「レックス様と比べたら、普通だけどね……。なんか、またすごい技を使ってるし……」
呆れたような声だ。まあ、自分でも意味が分からない技だとは思うが。とはいえ、だからといって不可能というわけではない。
ジュリアの才能と、実際に俺の剣を見た経験。その2つが噛み合えば、おそらくは。
期待のしすぎは重いとはいえ、俺としては伝えておきたい。
「ジュリアなら、きっと俺を超えられるはずだ。少なくとも、俺は信じている」
「なら、頑張らないとね。レックス様の期待に応えられないのだけは、嫌だから」
「無理はするなと言いたいが、状況が状況だからな……」
「あはは、いつものレックス様だ。悲しませることなんて、絶対にしないよ」
元気いっぱいの笑顔を見せてくれる。さっきまでの悩みは、振り切ったみたいだ。今のジュリアは、間違いなく強い。
だからといって、頼り切ることも論外だが。ジュリアと俺が協力して、共に敵を倒す。それで、いい。
「その意気だ。俺だって、もっと強くなってみせる」
「待っててなんて言えないよね。レックス様が全力で走っても、追い抜いてみせるから」
軽い口調で言っているが、だからこそ本気が伝わるというもの。ジュリアの目は、どこまでも燃え上がっている。
内に秘めた熱い決意を、ふつふつと燃やし続ける。外に出すことなんかにエネルギーを使わない。それほどの意思を持っているんだ。
なら、後は見守るだけでいい。隣に立ってさえいれば、必ず答えにたどり着くはずだ。
「流石はジュリアだ。俺達が見出した輝きを、もっと見せてくれ」
「輝きっていうのなら、レックス様の方だと思うけど……。でも、分かったよ」
「さて、シュテルたちは元気にしているか? 気配を探った限りでは、問題なさそうだが」
「レックス様の顔を見たら、いつも通りになるんじゃないかな……」
前みたいに、シュテルの狂信者っぷりを見せられたりするんだろうか。ジュリアは苦笑いをしているし、たぶんそんな感じだよな。
まあ、だからといって嫌いになることはありえないのだが。
「シュテルには、困ったものだよな……。慕ってくれる気持ちは、嬉しいんだが……」
「あれはもう、僕の手には負えないよ……」
ジュリアは両手を上げている。それはそうだ。シュテルの勢いを押し留められるのなら、もう偉業と言ってもいいだろう。
昔は礼儀正しい子だったのだが、本当にどうしてなんだろうな。
「幼馴染でもか……。なら、もうお手上げだな」
「レックス様、顔を見ていく?」
ジュリアの提案は、正直に言えば受けたい。シュテルやサラ、学校もどきの生徒たちの顔を見られれば、どれだけ良いことか。
ただ、その時間こそがみんなを危険に追いやりかねない。少しでも有効な対策を練るのが先決。
「いや、元気なら良い。とにかく、今後の対応をすぐに決めないとな」
「そっか……。ブラック家が攻められてるんだもんね……」
「ああ。お前たちにも、仕事をしてもらうかもしれない。そのつもりでいてくれ」
「任せて! レックス様のために、みんな全力を尽くすよ!」
これからまた、しばらくは休めないだろうな。だが、構わない。今回の試練も乗り越えて、またみんなで笑いあってみせる。