物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
ひとまず、集められるだけの関係者をブラック家の屋敷に集めた。学校もどきの教育や研究組の研究も、ブラック家の中でできる範囲で実行してもらっている。
おそらく、成果という意味では1割も出れば高い方だと思う。単純な効率という意味では、してもしなくてもそこまで変わらない。
だが、こういう状況では日常と同じことを少しでも保つのが大事だ。もっと言えば、これからも活動を続けるという意思を示すのも。
とにかく、現状では学校もどきや研究組に新しい成果を求めてはいない。ただ、決して見捨てないという誓いを、何よりもまず形にするというだけ。
そんなこんなで、新しいブラック家での活動が始まっていた。そうしてすぐに、使徒の反応があった。
もちろん、戦える者で向かう。どの程度の強さか知ってもらうのも、大事なことだ。
ブラック家の敷地とはいえ、屋敷の内部ではない。それだけは、まだ救いだった。
「やはり、来たか。室内に転移してこないなんて、ミレアルも配慮してくるじゃないか!」
「ふん。さっさと片付けるわよ。くだらないことに、時間を使ってらんないわ」
「レックス様のために、頑張ってみせるよ!」
「メアリの邪魔なんて、誰にもさせないんだから!」
今度の敵は、何も言わずに向かってくる。当然、反撃を仕掛ける。
「まずは、俺から!
さっそく、空間を断つ斬撃を放って遠くの敵を切り刻んでいく。とはいえ、すぐに次が補充されていく。
やはり、使徒の最大の脅威は数だな。いや、五属性使いが当たり前にいる時点で、普通の人にとっては絶望的な戦力ではあるのだが。
「バカ弟……! まったく、面白いじゃない!
カミラが雷撃そのものとなって、敵を一気に切り刻む。一瞬というのにふさわしい時間で、カミラの射程にいた敵は切り裂かれていった。
「僕も続くよ!
続いて補充された敵に、ジュリアが収束した魔力の解放をぶつけていく。爆発的に広がった魔力に、敵は叩き潰されていく。
「メアリだって、負けないの!
また現れた敵に、メアリは竜巻を放つ。岩と雷と炎が渦巻いて、敵を粉微塵にしていった。
引き続き、何度か俺達は敵に技を放っていく。それだけで、追加の敵は現れなくなった。念のために気配を探っても、他の場所に現れた様子もない。
ひとまず、剣を収めていく。
「あっさりと終わったものだな……。やはり、小手調べの段階か……」
「まったく、いつの間にあんな技を……。大したものね、ほんと」
カミラは少しだけ穏やかな目で俺のことを見ている。感心するに足る技を見せられたというのなら、それは誇らしいことだ。
とはいえ、カミラのことだから、すぐに抜かそうとするのだろうな。負けん気の強さは、よく知っているつもりだ。
なにせ、雷の一属性しか使えないにもかかわらず、俺にも通るような技を生み出した本物だからな。合一をカミラが初めて使った時に、負けすらした。
そんな人だからこそ、もっと強くなった俺を見せたいという気持ちがあるんだ。
「レックス様、本当にすごいよね。僕も負けてられないよ」
「メアリも、早く合一しないといけないの!」
ジュリアは剣を握り直しているし、メアリは両手を胸の前で握りしめている。やる気いっぱいで、何よりだ。
どうせ戦わなくちゃいけないのなら、成長につなげるくらいでちょうどいい。前のメアリじゃないが、そう思う。
ただ、気になることもあるんだよな。油断できない状況なのは、相変わらずだ。
「今回は、明確にジュリアを狙っている感じだったか……? どうも、手応えがなさすぎたな」
「レックス様に守られなくて済むのなら、気は楽だけどね。レックス様は、そうはいかないか」
ジュリアの気持ちも、確かに分かる。守られるというのは、なまじ力があるだけに苦しいんだよな。だからこそ、今回も一緒に戦ってもらっているのだし。
もちろん、俺ひとりで解決できる状況じゃないこともあるのだが。きっと、今回も誰かに手を貸してもらわなければ勝てない。ミレアルの試練が本格化してきたら、必ずそうなる。
「狙いが分かっている方が、ある意味では楽なんだよな……。いや、ジュリアが狙われて嬉しいという意味ではないが」
「分かってるよ。いろんな場所に警戒するのは、厳しいもんね」
こうして理解してくれるのは、本当にありがたい。誤解を招きかねない言い回しだったのは、自覚しているところだ。
なんというか、俺は周囲にかなり気を使われているんだよな。そのあたりも、しっかりと感謝していかないと。
俺が周囲との関係を喜べるのは、周りの人に助けられてばかりだからだ。よく、刻み込んでおくべきこと。
「あたしたちもいるんだから、そう簡単には負けないわよ。負けてたまるもんですか」
「メアリも、すぐに合一を完成させてみせるんだから!」
どちらも、目に圧がある。カミラもメアリも、やはり姉妹なんだなと感じるところ。鋭い目のカミラと人形みたいなメアリ。ツンケンしているカミラと甘えてくるメアリ。パッと見の印象は遠いが、同じ熱量と執念が伝わるというか。
戦いに挑むことを考えると、良いことではあるのだろうな。邪魔をしないのも、大事なことだ。
「みんななら、すぐにもっと強くなるんだろうな。俺も、もっと強くならないと」
「まったく、調子に乗ってくれちゃって。目にもの見せてやんないと、ね」
「レックス様が驚くくらいには、強くなりたいよね」
「フィリスさんには、負けないんだから!」
「メアリも、合一だけで満足するには早いわよ。どうせ、バカ弟のことだもの……」
「うん。剣技で魔法みたいなことができるんだから、僕たちも似たようなことをしないとね」
こうしていると、切磋琢磨の価値を感じるところだ。みんながそれぞれに近しい相手から学び競い合うことで、俺達は強くなれた。
フィリスやエリナを師として、大勢の仲間達と戦って、負けたり勝ったりして。その時間がなければ、今だって簡単に負けていたはず。
そんな仲間たちのためにも、絶対にミレアルの試練は乗り越えなければならない。その先にしか、未来はないのだから。
「似たようなことじゃ、足りないわ。分かっているんでしょう、ジュリア」
「そう、なの。メアリも、お兄様の一番になるんだから」
「誰が一番になるかは、結果が決めるでしょうよ」
「僕も、できれば一番にはなりたいからね……」
目に情念がこもっているのが、見ているだけで分かる。こういう空気への対処法は、未だに分からない。
ハッキリ誰かを選んで、それで解決するのだろうか。略奪愛に発展しないかという怖さが、少しだけある。
「は、はは……」
「相変わらず、バカ弟はバカ弟ね。ま、良いわ。見ていなさいよ」
「そうだよね。僕たちがちゃんと見てもらえるように、頑張らないと」
「お兄様が見てくれるのなら、メアリはもっと強くなれるの!」
今回は、みんな引いてくれたみたいだ。かなり助かった。軽く息を吐いてしまう。
「もちろん、みんなを見るつもりだ。大事な人達なんだからな」
だから、みんなと未来を紡いでみせる。それだけが、俺の望みなんだ。