物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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665話 カミラの狙い

 バカ弟は、今度はジュリアを守ろうとしているみたい。一度襲われて撃退して、あたしはまた訓練に移るだけ。

 それそのものは、極論を言えばどうでもいいわ。ジュリアたちの誰かが死んでも良いなんて言う気はないけれど、それだけ。あたしが敵を打ち破れば、解決する程度の話でしかないわ。

 

 だからこそ、問題はあたし自身がどう強くなるか。あたしの考えることは、たったひとつでいいの。

 

「バカ弟、また強くなってた……」

 

 あたしが必死で編み出した合一を超えるだけの技を生み出して。それを認められないほど、あたしは愚かじゃないわ。

 自分と相手の差を理解できなきゃ、勝つことなんてできないんだもの。これまでずっと、同じことを繰り返してきたわ。

 

 バカ弟は、剣の才でも魔法の才でもあたしを超えていた。それは、誰だって認めることでしょう。あたしだって、否定する気はない。その現実を無視していたら、あたしはたったの一度ですらバカ弟には勝てなかったもの。

 だから、才能の差がある事自体は構わないわ。なんて、剣を握る手を震わせていては説得力もないか。

 

 でも、しっかりと向き合わないとね。バカ弟が、どれほどふざけたことをしていたのかに。

 

「あれは魔力じゃない。ただの剣で、遠くを斬り裂いていた……」

 

 口が乾きそうになる感覚が、ある。理解しがたいものを見たというのが、率直な感想。だけど、現実にバカ弟はその技を撃っていた。実際に目の前にあったものを、否定なんてできないわ。

 あたしには分かる。魔法ではなく、単なる技術の産物だって。正確には、魔力で刃を作っていた部分もあったのだけれど。

 

 剣技と魔法、両方の視点を持つあたしだから分かること。バカ弟は、剣も魔法も人から外れた領域にいる。それは、単なる現実でしかないわ。

 

「どこまで、遠いのかしら……」

 

 声が、かすれそうになった。途方もない遠さに、手を伸ばすしかないように思えた。空を掴むよりも、きっと遠い。

 才能の差が残酷ということは、あたしは誰よりも知っていたつもり。けれど、つもりでしかなかった。

 

 あたしがただ空を見上げながら少しでも速く走ろうとしている時に、バカ弟は太陽に手が届く距離まで飛び上がっていた。鳥に焦がれるなんて、バカバカしい話でしかなかったのよ。

 

 歯の奥で、ひどく歪んだ音がしたわ。

 

「落ち着きなさい、カミラ。バカ弟の才能は、最初から分かっていたことよ」

 

 息を吸って、吐く。そう。バカ弟が遠い存在だなんてこと、分かりきっている。それでも、手を伸ばすと決めたのよ。

 太陽がどうしたというの。私の雷で、焦がし尽くしてやればいいのよ。できるかどうかなんて、気にする意味もないわ。

 

 バカ弟を、ひとりにはしない。あたし自身に、誓ったんだもの。

 

「思い描くの。あの剣を超える剣を。バカ弟の動きは、目に焼き付けたでしょう?」

 

 流れるように自然に、風のように鋭く。斬るべきものを、斬っていた。そう。剣が意思を持って動くよう。あたしがたどり着くべき領域は、目の前にあったのよ。

 でも、そのまま真似をするだけじゃダメ。同じことをしていても、絶対に追いつけない。もっと深く、鋭く。

 

 バカ弟が空間を斬るのなら、あたしは別のものを斬らなきゃいけないの。

 

「あたしには、何を斬れる? よく考えなさい。よく……」

 

 バカ弟が空間を斬っているのは、分かる。遠くに斬撃を飛ばすというのが、正確なところでしょう。

 そう。斬撃を遠くに届ける。なら、別の回答があるわ。距離そのものを、斬ってしまえばいいの。雷が空気の波をすり抜けるように、何かをすり抜けて。

 

 遠くに、光が見えた。太陽よりも、まだ遠いかもしれないところに。でも、確かにつかめそうな光が。

 

「そうよ。あたしには魔法もある。剣だけにこだわる必要は、ないわ」

 

 剣だけを極めようとする道は、エリナと同じ。それを選んでも、二番煎じになって終わり。自分の限界は、理解できているもの。

 ただ非効率的な手段に固執していても、仕方ないわ。効率じゃ測れない限界を超えるからこそ、効率を正しく極めないといけないの。矛盾しているようだけれど、真理のはず。

 

 あたしは、雷を使いこなす。それと剣技を組み合わせる。あたしだけにしかできないことを、してみせるだけ。

 

「電を薄く広げること……。そして、内側を読み取ること……」

 

 雷を霧のように広げることは、そう難しくはなかった。もっと精密な操作が必要な状況を、何度も経験しているのだもの。

 だからこそ、分かる。微細な雷は、中にあるすべてのものを教えてくれる。そして、雷を激しくすることで斬撃の媒体ともできる。

 

 なら、同時に雷を激しくすればいいだけ。今となっては、大して難しい話でもないわ。

 この先に、あたしの未来がある。薄くした電気でも、激しい電気でも、どちらでも良い。ただ、空間をすり抜けることさえできれば。

 

「うん。少なくとも、同時に放つ斬撃の数は超えられるわ。でも、まだよ」

 

 バカ弟と同じようなことをしただけでは、すぐに追い越されて終わりよ。合一すらも、簡単に超えられたのだもの。

 だからこそ、あたしは究極の技にたどり着かなくちゃいけないわ。雷を持つあたしだからできる、最強に。

 

「あたしの手札は、剣技と魔法。素早い動きと、鋭い雷撃と、そして薄く広げること……」

 

 近い相手は、ただ素早く斬り裂く。遠くの敵は、勢いよく貫く。その2つを同時に実行する。広げた雷で、すべてを把握しながら。

 あたしの道は、ひとつじゃない。バカ弟と似たような技と、新しい技。空間内を一気に斬り裂く技と、遠くだろうと防御を重ねようと、すり抜けて斬り裂く技。

 

 どちらを選ぶべきかなんて、バカ弟を超える考えじゃないわよね。

 

「それらすべてを混ぜ合わせたら、どうなる……? そうよ!」

 

 どこにいようと、あたしの敵をすべて斬り裂く。できるかできないかじゃない。ただ現実にすることだけが、あたしの道。

 後は、どこまで確実に斬り裂けるか。どれほどの防御を持っていようと、しっかりと殺す手段だけよ。

 

「魔法を防ぐ敵は剣で、剣を防ぐ敵は魔法で。これなら……」

 

 魔力を剣技で斬り裂いて、防御を雷ですり抜ける。どちらも同時に実行できるのなら、あたしはなんだって斬れるはず。

 そして何より、確実に斬り抜くための道筋を見出すのよ。

 

「一瞬。一瞬だけで、すべてを斬り裂けばいいの」

 

 予備動作をつかませるとか、そんなことはさせない。エリナにだろうと、絶対に避けさせない。あたしが斬ると決めた相手は、絶対に斬り捨てる。

 バカ弟とあたしの未来を邪魔するものは、何一つとして残してはおかないわ。

 

 そう。誰にも追いつけない速さで。音すらも置き去りにして。光だって、追いつけないように。

 

「雷で、あたしの剣そのものを加速させる。単純よね」

 

 後は、あたしの合一も活かせる。光を超えるまで剣を速くして、その剣と一体化する。距離を無視して、狙った相手を斬り裂く。

 言葉ほど、簡単ではないでしょうね。だからといって、諦めるはずがないでしょう。

 

「後は、その一瞬を生み出す方法……。雷があれば、簡単よね」

 

 剣を振り抜く時間さえ用意できれば、それだけで殺せるように。あたしには、その手段があるわ。

 

「光で目をくらます。影に隠れる。雷で、動きを止める。どれかひとつが通るだけでいい」

 

 他にも手段があるかもしれないわね。相手の剣を弾くだけでも良い。別の技に対処する時間を稼ぐだけでも良い。

 とにかく、一瞬だけ生み出してから斬り裂く。単純な話よね。

 

「見えてきたわ。バカ弟を超える方法。後は、形にするだけよ」

 

 合一よりも、よほど難しいのでしょう。それがどうしたというの。バカ弟は、不可能を可能にしたわ。姉であるあたしに、できないはずがない。できなきゃいけないの。

 あたしは、レックスの姉なのよ。絶対に、手放してなんてやらないわ。遠くから眺めているだけなんて、ごめんよ。

 

「よく見ていなさいよ、バカ弟……」

 

 あたしのことが目に焼き付いて消えないように、刻みつけてあげるんだから。

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