物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私たちは、レックス様を魔道具という研究成果で支えようとしていたよ。その時に感心してもらったのは、本心だと思う。相応の成果も、出せるつもり。サラちゃんたちに準備してもらっているけど、期待はできるはず。
レックス様の魔法を目の前で見たこともあるから、少なくとも単なる机上の空論と言うだけではないと思うよ。
だから、戦力面では役に立てているはず。もちろん、完璧ではないにしても。結局のところは、レックス様たちに頼るしかないから。
まだ、魔道具だけで敵を倒しきる領域ではないかな。そんなことになったら、誰でも都市を壊せるようになりかねないけど。
レックス様が気にしていることも、分かるつもり。誰でも魔道具が使える世界は、誰でも人を殺せる世界ってことだから。
良いことも悪いこともあるっていうのが、実際のところかな。魔法の才能だけで人を測らなくなる可能性も、十分にあるから。
そもそも、魔道具自体が生活にはとても便利なものだからね。
結局のところ、私がレックス様に差し出せたものは利益だけじゃない。心配事もなんだ。ただでさえ、戦いの中なのに。
「レックス様、たぶんホントは怖いんだよね……」
たぶんというか、絶対にかも。レックス様が何を望んでいるのかは、みんな分かっているからね。穏やかな日常が何より好きで、私たちと笑い合うことを楽しんでくれる人。
そんな人が、戦いを恐れないはずがないんだ。本人が無視しているだけで、心にはヘドロのようなものが溜まっているんだと思う。
もっと言えば、レックス様が一番怖がっているのは、別のもの。
「私たちが傷つくことを、心から恐れている。私には、分かるんだ」
本当に、繊細な人。強い力を持っているのに、触れたら壊れそうなガラス細工みたい。普段なら、そういうところも親しみやすさだと素直に思えるんだけどね。
頼りないって思うことはないけれど、心配にはなるよ。いつか、心が砕けてしまうんじゃないかって。余計なお世話かもしれないけれど。
レックス様は、やっぱり私たちの年下でしかないんだよ。なのに、強いというだけでいろんなことを託してしまっているんだ。
代わりは、できない。残酷な話だけど、物理的に不可能。そこは、認めるしかないよ。
「だけど、私たち不安にならないように強がっている。とても、優しい人」
レックス様が抱えているものは、私たちの命でもある。未来でもある。それを、他の誰よりもレックス様が知っているんだ。
ひとりで抱えるには、あまりにも大きい荷物。重くて重くて、潰れちゃいそうなくらいに。私なら、きっと耐えられないこと。
ううん。私だけじゃない。きっとマリンさんにも、クリスにも、サラちゃんたちにも耐えられない。みんな、そんな重いものを抱えていられないよ。
そんなものを、レックス様に抱えさせてしまっている。情けないね、私は。
「でも、私たちは強くない。だから、守らなくても大丈夫だよとは言えないけれど……」
うつむきそうになる瞬間が、あった。一番苦しいのが誰か、分かっているはずなのにね。レックス様は、私たちの前ではずっと強がっている。不安な顔なんて、できやしない。
当たり前だよね。レックス様が不安な顔をしていたら、みんなが不安になっちゃう。それを分かっているから、ずっと仮面を被るしかないんだ。自信満々な姿が、張り付くくらいに。
それに甘えていて、本当に良いの? 答えは、分かりきっているよね。
「レックス様のために私たちができることは、魔道具を作ることだけじゃないよね」
もちろん、魔道具だって大事なんだけどね。レックス様の安全に、直接つながるものだから。私たちが活躍できれば、少しは負担が減るはずだから。
なんて言いつつ、ミレアルの出せる戦力がどれだけかにもよるんだけど。本当に無尽蔵なら、限界があるよね。
ただ、どの道同じか。本当に無尽蔵なら、勝つ道なんてないんだから。その時には、レックス様と最後まで一緒にいるだけだよ。
でも、諦めていても仕方ないよね。今は、できることを全力で。
「うん。レックス様を、抱きしめてあげたいな。きっと、心に届くから」
人肌の温もりは、心を癒やしてくれる。それを抜きにしても、私たちの気持ちそのものを喜んでくれる人だから。
私は、ためらったりしないよ。レックス様が求めるのなら、どこまでだってする。
恩人なんだ。大好きなんだ。私たちのために、ずっと頑張ってくれているんだ。それを何も返さないほど、私は恩知らずじゃないよ。
「欲望があるのなら、発散させてあげるのも良いとは思うんだけど……」
なんだかんだで、レックス様も年頃だからね。視線を感じる瞬間はあるかな。かわいいものだと思うけどね。チラチラとこっちを見ている猫ちゃんみたいで。
だからこそ、遠慮を剥ぎ取ってあげるのも悪くないとは思う。痛かったら困るけど、私が苦しんでいたら止めてくれる人だし。
うーん。だったら、もうちょっと考えた方が良いのかな? レックス様も、何も考えずに欲望に溺れた方が良い気がするし。
せっかく発散できる機会があっても、我慢させちゃうのなら意味ないよね。
「私で満足してくれるとは、限らないよね。年上だし、なのに経験もないし」
うっかり痛がったりしたら、レックス様がそういうことに抵抗を持っちゃったりしないかな。それに、失敗を経験させるのも良くない気がするし。
どうせなら、うまく行った経験をさせて自信をもたせるのが良いんだよね。だからといって、慣れるようなことはしたくないけれど。
難しい問題だよね。レックス様は、たぶん自分からは求めない。だから、こっちが押し付けることにもなりかねないし。
お茶を飲みながら、考えてみたりする。
「うーん、他の人に任せるのは……」
そもそも、レックス様と同じくらいの年だと、私と同じ問題がありそうだし。年上でも、経験が多い人は少なそうだよね。
レックス様に成功体験を積ませるという観点から言うと、適正な人はいないんじゃないかな。
「本人の意思としては、受け入れる人も多そうではあるけれど……」
というか、大半が受け入れそうだよね。クリスやマリンさんでも、求められたら受け入れると思うよ。恋愛感情ではなくても、それくらいはできると思う。
私たち、なんだかんだで貴族の生まれだからね。役割として必要な相手に尽くすくらいは、問題なくできるかな。
貴族じゃないサラちゃんたちにしたって、そっちは本気の好意がありそうだし。レックス様とも、お似合いだったりして……。
あっ、コップが揺れてる。というか、握りすぎて離れないよ。そんなに強く握るってことは……。
「ああ、そっか。胸がもやもやするのって、こんな感じなんだ」
私、嫉妬してたんだ。他の人をレックス様が抱くって想像だけで。貴族の生まれとか言っても、普通の女の子だったんだ。
好きな相手と結ばれるわけじゃないってことくらい、生まれてすぐから知っていたはずなのにね。
「少しずつ、慣れていかなくちゃダメだよね……。私の立場だと、限界はあるんだし」
そもそも、正妻になれる立場じゃない。だから、レックス様は絶対に他の人と結ばれるんだ。分かっているんだから、耐えるしかないよ。そこに文句を言っても、始まらない。
私は、レックス様と結ばれたい。好きって言ってたけど、本当に恋愛なんだ。
ああ、困ったな。思っていたより、ずっと重いかも。とてもじゃないけど、諦められそうにないよ。
だったら、少しでも好きになってもらえるように頑張るしかないよね。それと、立場も。魔道具の研究は、きっとレックス様から切り離せなくなる。とても大事な発明の、中核を握っているんだ。
……うん。私を手放すわけにはいかないよね。……いざという時の手段は、ある。
なら、急ぎすぎなくてもいいよね。レックス様が私を好きになってくれるように、尽くしていけば良い。
「それに、私の方が年上なんだもん。しっかりと、支えてあげないと」
レックス様に甘えさせられるのは、きっと余裕のある人だけだから。同じ年の人たちは、どうしてもレックス様に甘えようとしてしまう。
だから、私は特別になれる。もちろん、それだけじゃないけれど。
「これまで私を認めて、支えてくれた。その恩返しは、したいから」
アカデミーでくすぶっていて、未来を諦めそうになっていた。そんな私たちに、光をくれた。今でも忘れていない、大切な気持ち。
だから、できれば打算なんかで汚したくない。魔道具の対価なんて形で、結ばれたくはないよ。
本当に、最後の最後。どうしようもなくなった時だけ。
ごめんね、レックス様。私にも、ズルいところがあったみたい。でも、笑顔にしたいのも、本当の気持ちなんだ。
私は、自分の胸を抑えたよ。目を閉じて、しばらく。
「……うん。私は頑張れる。頑張っていける。他でもない、レックス様のために」
そして、私自身のために。レックス様を好きな私が、一番幸せになれる未来のために。レックス様と一緒に。
だから私は、いっぱい尽くすよ。オトナとして、他の子とはできないこともしちゃう。
「だから、もっと笑顔を見せてほしいな」
そのために、私はなんでもするから。
ね、レックス様。