物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
レックス様に、魔道具の運用を任されることになった。きっかけは、私がブラック家に誘ったソニアさんとクリスさん。
心配そうな顔をしてレックス様は頼んできたけれど、状況が状況だから何をしても危険なのは変わらない。
そもそも、私は以前の戦いで敵陣に侵入したりもした。敵の強さは違うとは言えど、命がけなのは同じ。
私にとっては、失敗すれば殺される任務でしかない。もちろん、レックス様は闇魔法を使って全力で守ろうとしてくれるだろうけど。それはそれ。
根本的な問題として、敵に転移が使える時点で本当の安全なんてない。私が寝ているところに転移されれば、それだけで終わり。
だからといって、今更ブラック家から離れるつもりはない。そもそも、離れたところで狙われない保証はない。
結論としては、魔道具の運用を実行することにした。レックス様の手を借りずにどこまでできるのか、自分たちを試すためにも。
幸い、成果は上々と言ってよかった。少なくとも、今回は被害を出さずに勝てた。
その結果をまとめた資料を作って、ソニアさんたちに報告に向かう。そうすることで、魔道具がより改善されていくはず。
「サラちゃん、報告を聞かせてくれるんだよね?」
「基本的には、戦術には問題はないはず」
「良かったー。これで成果が出なかったら、困っちゃったよー」
クリスさんは、ほっと息をついている。明るい顔をしているけれど、不安はあったはず。私たちの命に関わることでもあるし、レックス様の役に立てるかどうかも大きい。
結局のところ、私たちはレックス様で繋がっている。あの人が私たち全員を同じように大切にしているのが分かるからこそ、協力していられる。
クリスさんやソニアさんが嫌いなわけじゃない。むしろ、人間性は好ましい。能力については、明確に尊敬している。
けれど、私たちはレックス様の限られた時間を奪い合う関係でもあるから。今はそんな事を言っている場合じゃないけれど、いずれは突き当たる問題。
余裕のない状況だとしても、争い合うのが人間。それは、私たちはよく知っていること。食料がわずかな中で、手柄を求めて足の引っ張り合いをしていた村人のことを忘れてはいない。
それが原因で、村は余計に飢えることになった。そして、争いは続くばかりだった。
今は、少なくとも表向きは協力できている。ブラック家は、とても良い環境。失うくらいなら、死んだ方がマシと思う瞬間も多いくらいには。
だから、私は全力を尽くすだけ。レックス様の敵を打ち破るために、人生をかけるだけ。
「転移の再現も、かなり順調。少なくとも、異変は出ていない」
「それなら、人での実験にも近づいてきたかな?」
「できたなら、レックス様に楽をさせられるよねー」
二人は明るい笑顔で話している。魔道具で転移を使えるようになれば、戦術の幅も個々の役割も大きく広がる。
クリスさんの言うように、レックス様に楽をさせるということも大事。ブラック家では、レックス様の負担が大きすぎる。転移も通話も戦闘も、レックス様がいてこそ成立している状況だから。
現状では、技術の進歩を待つしかない。歯がゆくはあるけれど、私たちの能力を考えれば妥当なこと。
「動物での実験には、進んでも良いはず。これが魔道具の状態」
私が転移実験に使った魔道具を渡すと、すぐにソニアさんがいろんな角度から光を当てたりしながら観察していく。
真剣な目であれもこれも確認して、頷いていた。
「ふむふむ。確かに、欠けたり劣化したりは見当たらないね」
「ありがとう、サラちゃん。しっかりまとめてくれたんだねー」
「ナデナデと抱っこのため。妥協はしない」
「そっかー。じゃあ、次の機会にもよろしくねー」
ソニアさんたちへの報告を終えて、私は自室に戻って休憩に移る。まだ寝る時間までに余裕はあるから、少しだけ考え事も。
レックス様は、休憩を相当大事にしている。実際、休むことで能力が上がったのは実感できていた。
検証した限りだと、徹夜を重ねて何時間も何時間も働き続けるより、むしろしっかり眠って最小限の時間だけ働いた方が成果が大きいくらい。
一番大きいことは、疲れによるミスが大幅に減ること。その挽回に時間を使わなくてよくなる。
そして、働いているつもりでボーっとしている時間が減ること。計ってみた限りだと、本気で集中できている時間はどちらでも大して変わらない。むしろ、睡眠不足だと減るくらい。
そうなれば、みんなしっかりと寝ることを義務付けられた。過剰な働き方は、むしろ責められるくらい。
とはいえ、休憩中でも頭を回してしまうものではある。それは、みんな同じみたいだった。
「とりあえず、動きの確認。それと、反省点も」
魔道具の運用は初回に近い。以前にも最低限の運用はしたけれど、ここまで本格的に組み合わせて使うことはなかった。
一連の流れとして魔道具を運用するために、指示出しのための専用の魔道具が作られていたほど。私やシュテルも、それを活用していた。
画面に魔道具が撮影した状況を映し、それぞれの魔道具の状態も映し、すべてを私たちの入力によって動かす。
最終的には、学校もどきの仲間も含めて、報告要員と指示要員、そして実行担当に分けることになるはず。
現状では、私とシュテルの連携でこなしていた。それでは、複数個所を同時に襲撃された時には頭が回りきらないことも分かった。
魔道具の性能や使い方に関しても、しっかりと手順を組み上げる必要がある。誰でも運用ができるように。
「やはり、真正面からのぶつかり合いは得策ではない」
相手が格下であれば、話は別。ただ、ミレアルの使徒は当たり前のように
状況を考えるだけで、分かること。
「魔道具の出力だけでは、防御で耐えられてしまう」
個人だけなら貫けるということも、分かりはした。防御を許さなければ潰せることも。結界の中で潰す戦術は、比較的早期に対応された。
だから、敵も対策を打ってくる前提で策を考えなければならない。
「今回は地面から攻めたけど、慣れれば対応されるはず」
常に下に防御を貼るだけで、対処できてしまうこと。防御ごと貫くには、地面の下は制約が多い。地盤を破壊するようなことになれば、大規模な被害が出る。
ひとまず今回は有効だったけれど、次も通用するという前提でいるのは愚かなこと。
「死角という意味では、空も手段。転移が使えるのなら、実現可能」
落ちる力も加算されるから、威力という面ではより効果的なはず。それに、地面と空に常に防御を貼るのは難しいはず。それをできるのならば、全身に防御を張り続けるだけで終わるのだから。
すべての策に対応されたとしても、それで終わりじゃない。今度は駆け引きに持っていくこともできるはず。
だからこそ、しっかりと手札を増やして運用法を考えていくのが大事。
「遠距離からの攻撃も、ひとつの解。速度を出す魔道具も、あったはず」
気づかれないくらい遠くから攻撃できれば、常に周辺への警戒を強要できる。そう多くは撃てなかったとしても、駆け引きという面ではかなり重要。
「ウェスさんが持っているものを真似すれば、いける」
かなり危険な兵器になりそうではあるけれど、きっとそこまでしなくては勝てない。だから、遠慮はできない。
ウェスさん本人が戦うのは、もう難しい。そうなってくると、運用の仕方も変えるべきだから。
それに何より、ウェスさんにはメイドが似合う。レックス様を支えて、笑顔でいるのが。
だから、戦いについては私が考えれば良い。
「うん。次も倒せるように、頑張るだけ」
頷いて、次の考えに進めていく。
「私の考えた戦術が使えるのなら、レックス様にとっての重要性も増す」
打算ではあるし、今回の策には直接関係しない。それで誰かの足を引っ張ってしまえば、本末転倒。レックス様を危険にさらすことは、私の望みではないから。
私は、レックス様と幸せに過ごしたいだけ。そのためにできることは、全部する。
「妾を目指すためにも、立場を上げておくのは得しかない」
それに、ハッキリ言って適正が高い人もそう多くない。レックス様を利用しようとしている人も、いなくはないから。
私の立場を上げることは、結果的にレックス様のためにもなる。自分で言うのもどうかと思うけれど、私は多くの学校もどき関係者よりは優秀で忠誠心も高いから。
「まずは、次の計画を練らないと」
レックス様が勝つことも、レックス様に気に入られることも。片方をないがしろにするわけじゃなく、しっかりと相乗効果を目指す。
穏やかな日常が好きな人が、レックス様。だから、これはちゃんと主を想ったことでもある。
「ナデナデも抱っこも、私が一番。他の人は、それより下」
もう、確定している事実。私が懐に入り込み続けることで、ナデナデや抱っこと言えば私という領域になった。
だから、私の策は順調に進んでいる。その点に関しては、言うことはない。
「レックス様は、もう何も考えずに抱っこしてくれる」
いつものこととして、癖になっている。嫌がるとか好ましいとかを抜きにした、単なる日常。意識するまでもなく、勝手に私を抱っこしてナデナデしてくれる。
それが、どれほどの優位であることか。
「後は、少しずつ要求を強めていけば」
最終的には、私が抱かれることにつながる。今でも大切にしてくれるけれど、関係を持てば特別になれる。それは、レックス様の態度から明らか。
より親しければ親しいほど、大切にする人だから。平等を意識してはいるけれど、しっかりと感情もある。だから、そこを利用する。
「未来のためにも、最大限の成果を出す。そこから、次の段階」
もちろん、まずはミレアルに勝たなきゃいけないけれど。その隙間に、私の欲望も滑り込ませる。
これが、私の愛。
レックス様には、誰よりも伝わるはず。