物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
レックス様によって依頼された、魔道具の実戦運用。お手を煩わせないためにも、最大限の配慮をしたわ。少しだけ、先走ったことをとがめられはしたけれど。私たちを心配してのことに、文句を言うはずもないわ。
魔道具に関しては、運用の成果が多く出ていた。そして同時に多くの問題も。
最大の課題は、とにかく情報量が多すぎてひとりでは処理できないということ。敵の動きを把握しながら魔道具の状態を管理して、同時にブラック家の人員がどう動いているのかも認識しないといけない。
それら全部をひとりでこなすのは、どう考えても不可能。だけど、いきなり役割分担をしてうまくいくはずもない。
クリスさんたちに相談をすると、すぐに訓練用の機材を持ってきてくれた。事前に用意していたのか、すでに作っていたのか。いずれにしても、やはり優秀よね。
歯を食いしばりそうになっている私が、いたわ。結局、私には持っていないものが多すぎる。魔法も、軍略の才も、発明の才も。
だけど、レックス様のお役に立つためには、立ち止まってなんていられない。
訓練に向けて準備を進めて、人を配置したわ。
「訓練を開始するわよ。本番だと思って、本気でやるわ!」
「任せてください、シュテルさん!」
「各員、異常があったところから報告して!」
ひとまず、各所の状況を管理する担当、魔道具の操作をする担当、そして指示を出す私という形になった。
しっかりと頭が落ち着くように、周囲を見回す。さて、どう来るかしら。
「中庭方面、使徒の出現を確認! 北30、東20を中心に広がっています!」
座標を数字で報告されると、やはり管理が難しいわね。これは、常に表示されていても良いかもしれない。魔道具の仕組みを変更するか、あるいは地図にでも数字を書くか。
いずれにせよ、現状では厳しい。もう少し、改良が必要だわ。
「結界の射出! 動きを制御できたら、上空から一気に始末して!」
指示通りに、魔道具が動かされる。といっても、仮想のものではあるけれど。今のところは失敗もなく、順調に進んでいるわね。
とはいえ、この判断が正しいのかは分からない。まあ、今は別のことを考えてはいられないわね。
「西門方面、門の破壊をされそうになっています!」
舌打ちをしそうになって、抑えた。前回もそうだけど、とにかく報告が曖昧。情報が正しくなければ、私が正しい判断をできない。
西門に攻撃をされているという情報だけでは、どの規模の攻撃が必要なのかも分からないもの。
やはり、訓練をして良かったわね。今のまま本番を迎えていれば、致命的な失敗をしたかもしれないわ。
「数は!」
「500程度!」
その数なら、本番でも現れておかしくないわね。そうなると、ある程度の規模での破壊が必要になってくる。
選択肢は、あまり多くない。
「なら、門の仕掛けを使いなさい! 反射破壊を行うわよ!」
「建物内部に侵入あり! 他の人員は存在しません!」
同時多発的に、多くの敵がやってくる。想定すべき局面ではあるものの、大変ね。さて、建物内部に侵入者。
そうなってくると、大規模な破壊兵器は使えない。屋敷が壊れてしまえば、困るどころじゃないもの。
「電磁攻撃を使って! それが一番建物に被害が出ないわ!」
そんなこんなで指示を出しつつ、訓練を続けていった。多くの問題があったけれど、問題を洗い出せただけでも意味がある。
本番で同じ失敗をしないように、しっかりと対策をする。それこそが、訓練の意味なのだから。
「状況終了ね。ひとまず、最低限の成果はあったはずよ」
「今度は私。代替要員も必要」
「そうね。全員が休まないなんて、不可能だもの」
私かサラの余裕がある方が指揮を担当する。現状では、そのような役割。もっと代わりができる人がいればいいけれど、現状では相応の人材はいないわ。
育てるだけの余裕は、少なくとも今はない。優先すべきは、私やサラの練度を上げること。
代わったサラの動きを別の場所から確認しながら、私は一人で考えを進めていったわ。
「サラも、しっかりできているわね……」
声が震えているのが、自分でも分かった。私は、サラほど活躍できていると言えるのかしら。クリスさんやソニアさんを引き抜いたのは、サラの功績。
転じて、私は優秀な人間を引き抜いたとはとても言えない。アカデミーの職員や生徒から情報を引き抜いたけれど、注意もされた。
ジュリアは戦闘でレックス様のお力になっている。無属性という力は、他の誰も持っていないもの。実際に、レックス様の代わりに戦う局面もあったわ。
同じ学校もどきの生徒なのに、私だけが出遅れている。みんなが、先へ先へと進んでいるの。歯の奥から、高い音が鳴ったわ。
「私にしかできないことは、何かあるのかしら?」
今のところ、成果らしい成果を出しているとは言えない。レックス様には、ずっと優しくしていただいている。けれど、いつ見放されるか分かったものじゃない。
いえ、レックス様の優しさを疑うようなことはするべきじゃないわ。でも、だからといって私が無能でいて良いはずがないの。
ただレックス様を慕っている姿を見せるだけでは、何の意味もない。レックス様を素晴らしいと周囲に広めることも、十分にできているとは言えないわ。
「サラはみんなから好かれていて、ジュリアは一目置かれている」
クリスさんやソニアさんを引き抜いただけじゃない。それらは、サラが周囲から愛されているからできること。私に、同じだけの素質があるとは思えない。
ジュリアもそう。強いだけじゃなくて、周囲から尊敬を集めている。強さが理由かもしれないけれど、結果は同じ。
同じだと思っているのは、私だけなのかもしれない。サラもジュリアも、私を見下すような人じゃない。勝手に劣等感を覚えているだけ。
分かっていても、感情は抑えきれるものじゃない。胸の中で、激しく暴れ狂うだけ。
「ミルラさんやジャン様ほど、十分な策を考えられているとも言えない」
ミルラさんは、レックス様から乞われて雇われるほどの存在。私たちの先生でもある。ジャン様はレックス様の弟。カミラ様やメアリ様とは違う方向で、血族としての才能を継いでいる方。
嫉妬すべき対象ではない。分かっている。分かっているのよ。
だけど、私に何があるの? レックス様にふさわしいと、言い切れるの?
「ダメね。諦めていても、仕方ないもの。レックス様のために、少しでも努力しないと」
そう。諦めることだけは、許されない。きっと、レックス様は許してくださる。そうだとしても、私自身の魂こそが許しはしない。
命を救われて、幸せな生活をいただいて、それで依存して終わりだなんて。恥を知るべきで、生きていることを悔いるべき大罪よ。
自分を嘆いている暇があるのなら、私は少しでも成長すべき。そうですよね、レックス様。
「次は、情報の伝え方を組み上げて……」
正しく素早く、情報を伝えさせる。敵の規模や数、強さを的確に報告させる。そのために、必要な情報というものを分かっていないといけない。
サラとも相談して、しっかり組み上げるべきことよ。
「報告の方式は、まとめておいた方が良いわよね……」
個人個人で言い回しが違えば、誤認を招きかねない。であるならば、決まった形で報告させるべき。指示の出し方も、同じよね。
どんな情報を、どうやって言うか。それを形にしないと。
「どの順番で言わせるかも、課題よ」
重要度の高い順番でなければならない。どうしても瞬間的な判断が必要な時に、削れる情報はなにか。それも考えながら、整理する必要がある。
私たちが成果を出すために、妥協はできない。けれど、一瞬でも早く。いつ敵が来るかは、こちらが決められることじゃないのだから。
「少なくとも、今回の役割で失敗は許されない」
私の手柄に固執することは、論外よ。たとえサラがもっと褒められることになったとしても、絶対に。他の人の成果が認められようと、決して。
「レックス様、あなた様のために必ずや……!」
だから、あなたのために人生のすべてを捧げます。
どうか、これからもずっと……。