物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
また出撃して、俺は敵を倒す。まだ敵は弱いままで、だからこそ焦れてきた部分は否定できない。いや、みんなが危険な目にあうのは困るが。
なんというか、何をするのが正しいのかというビジョンが見えてこない。まさか、今の状況を続けているだけでいいはずもないのだし。
いったい、ミレアルは何を求めているのだろうか。分からないまま、同じような戦いを繰り返す。
今のところは、誰も苦戦していないようだ。それどころか、だんだん戦果が増しているのだという。
状況としては良いはずなのに、なぜかスッキリしない。そんな状況のまま、自室に帰る。扉を開くと、良い匂いが漂ってきた。
「ご主人さま、お食事の用意ができていますよっ」
ウェスとアリアが、食事を準備してくれていたらしい。湯気も漂っていて、出来立てに見える。まさか、ちょうど完成させたのだろうか。偶然にしては、かなり出来すぎていると思うが。
そもそも、驚いたような反応でもない。たまたまだとすれば、ちょうどいいみたいな言葉が出てきても良いはずだ。
ということは、意図して食事の時間を合わせたことになる。とんでもない話じゃないか?
「ありがとう、ウェス、アリア。というか、どうやって時間を合わせたんだ……?」
「戦況報告に合わせながら、完成の時間を調整したんです」
「疲れたご主人さまには、一番美味しい料理を食べてもらいたいですからっ」
アリアは穏やかな笑顔で、ウェスは弾けるような笑顔で語っている。つまり、各所が連携して調理時間を合わせたということ。
メイドたちも、戦況を確認するという手間をかけてまで俺のために食事を作ってくれた。
ダメだな。なんか、目頭が熱くなってきた。あまり、泣いている場合じゃない気がするんだが。
「そうか……。みんなにも、お礼を言っておかないとな……」
「今はそんな事を気にしなくていいので、食べてくださいっ」
「レックス様が元気でいることこそ、一番のお礼だと思いますよ」
まあ、食事を前に別のことを考えるというのも失礼な話か。目の前にある食事を最大限に楽しむことこそ、ウェスとアリアの気持ちに応えること。
余計なことを考えていては、それこそみんなの気持ちを無駄にしてしまう。
「ああ、冷める前にしっかりと味わわないとな。いただきます」
手を合わせて、俺は食事に手を付けていった。どれも好物で、箸が止まらない。お腹が空いているのもあって、スルスルと入っていく。
サラダは酢の効き方が万全で、さっぱりあっさりと食べられる。メインのビーフシチューは肉がガツンと突き刺さって、暴力的な味わい。
それだけでなく、デザートは甘いのにくどくなくて、いくらでも食べられそうなくらいだった。
絶品という言葉では、とても言い表せないだろう。それほどの料理を、俺が戦いを終えるのに合わせて。
もはや、王家のメイドですらアリアたちほどの技量は持っていないんじゃないだろうか。
そんなメイドに仕えられる俺は、本当に幸せものだな。笑顔が、自然とこぼれた。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ。あらためて、ありがとう」
「レックス様に喜んでいただけるのなら、それで十分です」
「ご主人さまの顔を見ていたら、それだけで満たされるんですよっ」
ふたりとも優しい顔をしてくれている。なんというか、すごいよな。メイドたちは、人生をかけて俺に尽くしてくれている。しかも、俺の喜びが彼女たちの喜びとまで言っているレベル。
確かに恩はあると思うのだが、それでできるラインを超えている気がするんだよな。少なくとも、逆の立場なら無理だと思う。
「はは、言いすぎじゃないか……? いや、嬉しいんだが」
「私たちの忠誠を軽んじていますか? なんて、冗談ですけど」
「ご主人さまだって、私たちの笑顔を見ただけで喜んでますっ」
アリアもウェスもずっと笑顔のままだから、失言だったというわけではないのだろう。とはいえ、確かに軽率な発言ではあった。
二人の気持ちを疑うような言い回しは、本当に良くない。俺の中に抱えておくべきことだったな。
それに、ウェスたちが喜んでいれば俺も嬉しいというのも確かだ。だったら、素直に受け取るのが一番だよな。
「ああ、それは確かに……。なら、納得できるか」
「レックス様は、自分を軽く見る瞬間がありますね……」
「みんな、ご主人さまのことが大好きなんですよっ」
「ああ、悪い。お前たちのことを疑うわけじゃないんだ」
「自分のことを信じていないというのが、正確なところなのでしょう」
「ご主人さまは、とっても素敵な人なんですっ。みんな、そう思ってますよっ」
ふたりは、さっきまでより真剣な目をしている。それだけ、俺に伝えたいことなんだ。実際、好きな人に自分の好意が信じてもらえなければ悲しいからな。そういう気持ちを、みんなに持たせるべきではない。
何度も似たような反省をしている気がするが、本当に改めなければな。みんなに失礼だ。
「みんなの好意を素直に受け取れなければ、問題だよな……」
「ご主人さまは、もう少し頭を空っぽにしてもいいと思いますっ」
「レックス様が元気でいることは、皆の願いですから」
「状況が落ち着いたら、みんなとゆっくり話でもしたいな……」
たぶん、それだけですべての苦労が報われると思う。仲間たちと当たり前の日常が過ごせさえすれば、他に何もいらない。きっと、闇魔法ですら。
とはいえ、そうはいかない。少なくとも、ミレアルが敵である限りは。おそらくは、その後も。親しい相手には、貴族や王族が多い。どうしても、しがらみはつきまとう。
だとしても、少しでも穏やかな日常に近づくことはできるはずだ。それが、俺のやるべきこと。
「今だって、少しくらいは許されますよっ。ね、アリアさん」
「そうですね。幸い、一時的にレックス様が離れても成立する体制になっています」
「だが……。いや、そうだな。いざという時に力を出すためにも、ゆっくりと休まないと」
みんなに頼るということも、信頼の証。不安は、今でも消えない。だからといって、俺ひとりですべてを背負うのが正解なわけじゃない。
聖国の時は、フィリスに助けられた。連邦の時は、エリナに。もっと前だって、何度でも。
だから、預けよう。俺の力が、本当の意味で必要になる時まで。
「その意気ですっ。ご主人さまが元気いっぱいになれば、みんなも元気になりますからっ」
「私たちも、レックス様のお休みを手伝わせていただきます」
染み渡るような声で言われると、なんだか眠気が襲ってきた。とはいえ、まだ食べたばかりだ。しばらくは起きていないと。
「ありがとう。なんか、思っていたより疲れていたみたいだ……」
「いろんなことを、させてもらいますねっ。さあ、ご主人さまっ」
「何からが良いでしょうか……。按摩から始めてみましょうか……」
ずずいっという音が出そうな感じで、ふたりが近寄ってきた。そのまま、軽く拘束されてしまう。といっても、ふたりでつかまれるという程度の話だが。
ただ、なんとなく逃げられない気がする。逃げようとしても、逃がしてくれないというか。
「ちょっと待て。ふたりとも、目が……」
「ご主人さま、余計な力を入れてはダメですよっ」
「その通りです。あなたが休む意味を、忘れたとは言わせません」
ふたりの言葉に頷いて、俺は力を抜いていく。
されるがままになりながら、少しずつ体が軽くなるのを感じていた。