物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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676話 アリアの手段

 メイドとして、私にはレックス様の生活を快適にするという使命があります。ウェスさんも、間違いなく同じ意見ですね。

 だからこそ、私たちは仕組みを作りました。他の部署とも連携をして、レックス様が少しでも休めるようにするために。

 皆さん、快く協力してくださりました。というよりも、率先して活動してくださったくらいです。

 

 私たちの主が慕われていることは、自分のことのように誇らしくあります。

 その結果として、レックス様が何をしていても帰ってきた時には休める体勢を作れたのです。食事も風呂も、レックス様が望むままに。

 

 実践して、本人には驚かれましたね。目を丸くしていて、つい笑いそうになってしまったのは内緒です。レックス様は、面白い反応を返してくれそうではありますが。

 とはいえ、今回も同じだとは限りません。顔を見ていて、感じたこともありました。

 

「レックス様は、無自覚なところで負担をためていそうですね……」

 

 穏やかな時間を過ごしたいと語った時、こぼれ落ちるような口調でしたから。そうしたいという欲求すら、抑え込んでいた。

 もちろん、理由は分かります。ブラック家が苦境に陥っていて、楽しいことをすることに罪悪感があるのでしょう。

 

 ですが、何をはばかることがあるのでしょうか。レックス様がいなければ、早晩ブラック家は滅んでいたでしょう。今も生きていたか怪しい人が、私を含め大勢います。

 それを救ったのですから、多少の損害を出したところで当然の権利でしかありません。

 

 などと言って、レックス様が納得するはずもありませんが。難しい課題ですね、本当に。

 

「ブラック家におけるレックス様の敵は、皆さんと協力して排除できましたが」

 

 かつてレックス様を追い落とそうとした親戚たちは死にました。それ以外にも、レックス様に気づかれないように動いてはいましたから。

 とはいえ、どうしてもレックス様に害をなそうとする存在以外は、穏当な形で排除しましたが。

 

 基本的には、他領にいい仕事があるという情報をつかんだと誤認させておいて、そこに向かわせるという形でしたね。

 より良い条件の場所を自分で見つけたと思えば、勝手に奮起するものです。隠しているふりをした情報を、自分の手で発見したと誤解したまま。

 

 他の手としても、せいぜいがあらゆる仕事を奪い去って、達成感の全てを消し去るという程度ですし。命も奪っていなければ、危害も与えていない。ずいぶんと穏当な手段を選んだものです。現当主に反発するものなど、死んでもおかしくないというのに。

 

 とはいえ、それも今となっては打てる手ではありません。

 

「女神が敵となると、私にできる対策はほとんどありませんからね……」

 

 人間関係で手を打って、どうにかなるものではありませんから。私の能力で対応できる範囲を超えています。

 現実的に、私は戦力たりえません。レックス様たちが戦うのを、祈りながら見ているしかないのです。

 いえ、見ているですらありません。待っているだけ。ですが、仕方ありません。物理的な限界があるのです。言い訳でもなく、単なる現実。

 

「やはり、私ひとりでできることには限界がありますね」

 

 ですから、誰かの力を借りなければなりません。カミラ様やジュリアさんに戦ってもらい、マリンさんたちに魔道具を作ってもらい、ミルラさんたちに戦術を考えてもらう。

 素人が余計な口や手を出して成功するものでもありません。何もしないことこそが、私にできる最大の貢献。

 

 ただし、それは皆の職責に口や手を出さないということ。少しなら、できることもあるのです。

 現実として、レックス様の休みを手に入れることはできたのですから。

 

「立ち回りとしては、レックス様の周囲と協調することでしょうか」

 

 皆が力を発揮できるようにという側面もありますが。それよりも大事なことがあります。

 

「少しでもレックス様の負担を減らすためにも、競い合っている場合ではありません」

 

 私たちがレックス様を奪い合っていれば、それだけ負担をかけるということですから。少なくとも、今の状況でしていて良いことではありません。

 仲間たちでしっかりと協力することこそ、私たちの本当にするべきこと。レックス様を落とすという点で見てすらです。

 

 だからこそ、今はその考えを含めて情報を共有する必要があります。誰かが抜きん出ることを許さない。いえ、違いますね。皆が総合的に得をするように立ち回るべきなのです。

 

「いっそのこと、時間に余裕がある相手から順番にけしかけましょうか」

 

 レックス様の望みは、明らかです。大切な人と、穏やかな時間を過ごすこと。言葉として出ていることでもありますし、本心そのものでもあるでしょう。

 力を振るうことそのものへの喜びは、無いとは思いませんが。それよりも優先すべきことは、レックス様の中ではハッキリしていますから。

 

 自分にとって大切なものを、正しく理解している。素晴らしいことです。かつての私は、失敗しました。ブラック家に求めるものを、見失っていたのです。

 それに気づかせてくれた恩人に、少しでも報いる。私のすべきこと。私のしたいこと。

 

「体の関係でも持てば、少しは安らいでくださるでしょう」

 

 レックス様にも欲求があることくらい、見ていれば分かります。視線の動きだって、隠せてはいませんから。だから、ニッカさんを紹介することが面白いと思ったのですし。あの豊満な肉体を前に、どんな反応をするのかと。

 結果としては、大きく振り回されることになったようですが。ただ、彼女は好意的な相手こそ振り回したくなる性質のエルフです。気に入られたのは、間違いないでしょうね。

 

 フィリスさんから聞く限りでは、何度も照れていたようです。それも、私の正しさを後押ししていますね。

 

「レックス様は周囲に好意を持っていますから、多少は押し付けるくらいでちょうどいいはずです」

 

 嫌いな人に強引に迫られれば、それは不愉快でしょうけれど。好ましい相手であるならば、むしろ魅力的に感じるものです。そこまで想ってくれるのだと。

 それに、レックス様は色恋の面では奥手ですからね。本人から手を出す未来は、あまり見えません。

 

 ハッキリ言えば、ヘタレとも言えるのでしょう。ですが、年頃だと思えば可愛らしいものですよね。

 

「とはいえ、行為で失敗した場合の問題もあるんですよね……」

 

 レックス様の周囲には、経験がない人も多いですし。そうなってくると、お互いに行為に詳しくないまま実行することになりかねません。

 周囲で経験者が見守ることも、それはそれで年頃には苦しいでしょうし。

 やはり、ただ行為に走るだけではいけませんね。

 

「結果的に自信を失うことになれば、大きな問題ですし」

 

 レックス様の心としても、戦力としても。ですから、軽率なことはできませんね。やはり、考えておいて良かったです。

 ですが、行為を利用するという方向性自体は、悪いものではないように思います。逆に言えば、成功させてしまえば大きな自信につながるでしょう。

 

「ふむ。手ほどきのためにも、モニカ様との協力が必要でしょうか」

 

 レックス様の母君として、5人を生んでいるのですから。相応に経験もあるということ。やはり、そういう方から教わるというのが大事でしょうね。

 誰が結ばれるとしても、成功させるために手を打つのは当然のことです。

 

「いきなりモニカ様をけしかけるのは、流石に関係性としての負荷が大きいでしょうし……」

 

 レックス様は、母として接してきたわけですからね。いきなり異性として見るのは、かなり厳しいでしょう。そもそも、一般的には禁忌でもありますし。

 ですから、前段階として誰かを挟むというのは必要でしょう。モニカ様が納得するかどうかという問題もありますが。

 

「結論を焦りすぎてはいけませんね。まずは、もっと穏当な接触からでしょうか」

 

 口づけでも、体を触らせることでも。それくらいなら、私でも問題なく実行できるでしょうし。おそらく、他の方でも問題ないでしょう。

 

「直接的な行為にまで進まずとも、抱き合うだけでも安らぐと聞きますし」

 

 私たちの女としての価値は、レックス様にとっては高いもの。それは、見ていれば分かります。ですから、いらないものを押し売りする心配はありません。

 そうですね。段階を踏んでというのが良いでしょう。レックス様の望む速度にも、近づけますから。

 

「按摩は効果的だったようですから、悪くないですね……」

 

 ですが、いつかは。

 私も、乳を出せるようにならねばならぬのですから。いずれ、乳母となるために。

 

 そのためにも、よろしくお願いしますね。

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