物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

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677話 ウェスの誇り

 私は、ご主人さまに救われました。まず最初に、命を。右腕を無くして、処分されそうになっていたところを。闇魔法で、右腕を作り出して。

 そして次に、心を。私にずっと寄り添ってくれて、大切にしてくれた。獣人だからって、少しだってバカになんてしなかった。それどころか、私を大好きだって、全身で表現してくれたんです。

 

 その恩は、決して忘れません。どんな未来が待っていたとしても、変わることなく。

 私のすべてを捧げることに、少しだって迷いなんてありません。ご主人さまが私の命を望むのなら、構いません。それだけの理由があるってことですから。

 なんて、ほんとはご主人さまと一緒に生きていくのが一番なんですけどね。でも、それだけの覚悟はあります。

 

 ご主人さまの願いは、私の願い。ご主人さまの好きな人は、私の好きな人。ご主人さまの敵は、私の敵。

 そうやって、私は生きていくんです。ご主人さまはきっと、自分の意志で生きろって言います。言っていました。けれど、私が選ぶ道だから。ご主人さまのためだけに生きたいというのが、私の意志なんです。

 

 ですから、私はご主人さまのことだけを考えて生きていけば良いんです。

 

「ご主人さま、きっと大変ですよねっ」

 

 ミレアルの使徒に、何度も何度も襲われて。そのたびに戦って。いつ襲ってくるか分からない中で、ずっと警戒しているんだと思います。

 休んでいる時だって、今この瞬間に敵が襲ってくるかもしれない。そんな不安が、顔に出ているんです。

 なんて、私だから分かることではあるんですけどね。たぶん、親しくない人ならいつもの顔だと思うでしょう。

 

 だからこそ、ご主人さまが強がっていることも分かるんです。きっと、心の奥底では泣きそうになっているはずなんです。

 

「だけど、黒曜(ブラックバレット)で敵を倒すことは難しそうです……」

 

 ご主人さまにもらった武器が弱いわけじゃないんですけど、どうしても限界はあります。私が何発も何発も正確に敵の弱点を撃てるわけじゃありませんし。

 そもそも、正確に弱点を見破る能力があるわけでもないですし。だから私には、戦いでお役に立つことはできません。

 

「ご主人さまの敵は、さっさと死んでほしいんですけどねっ」

 

 とはいえ、できもしない戦闘で足を引っ張ることはできません。以前、ご主人さまの敵に捕らえられてしまったこと。今でも忘れていませんから。

 私に必要なものは、ちゃんとご主人さまの力になれる役割。分かっているんです。

 

 そうなってくると、答えはひとつですね。

 

「やっぱり、アリアさんと協力するのが正しそうですねっ」

 

 メイドとして、ずっと一緒に仕事をしてきました。お互いのことは、よく理解しています。私たちは、お互いにレックス様のために生きているんです。

 だからこそ、レックス様にとって一番いい仕事をするために手を取り合えました。

 

 今回だって、周囲の手を借りることで、疲れたご主人さまに一番いい環境を用意することができましたから。

 

「私にできることは、メイドとしての仕事だけですっ」

 

 結局、それだけですね。良い意味でも悪い意味でも、私にはメイドしかできません。ずっと仕事をしてきて、技術を磨いてきた積み重ね。それがあるのは、メイドだけですから。

 だから、メイドとして何だってするつもりです。少しでもご主人さまのお役に立てるのなら、なんだって。

 

「夜も求められるなら、それもメイドの仕事ですからっ」

 

 私がしたいって気持ちも、無いって言えば嘘になりますけど。でも、ご主人さまが求めるものを捧げるのは当然です。

 そもそも、貴族のメイドとは手を付けられることもある仕事ですし。当然、私もご主人さまのメイドになる時点で覚悟していました。

 

 ただ、夜だけがメイドの仕事じゃありませんから。他の役割も、きっちりこなすべきですよね。

 

「食事も按摩も、ご主人さまが満足できるくらいに完璧にですっ」

 

 ご主人さまにとろけた顔をさせるくらいで、ちょうどいいんですよね。この世で一番の快楽を味わう権利を持っているのが、ご主人さまなんですから。

 私は、どこまでも技術を磨いていかないといけません。そうして初めて、ご主人さまにふさわしいメイドだと言えるんです。

 

 きっと、多くのメイドよりも優れているとは思います。アリアさん以外のメイドよりは、確実に技術があると実感していますから。

 だけど、まだ満足するには早いですよね。ご主人さまは、神にだって勝てる存在なんですから。

 

 まずは、料理を完璧にこなすところからですね。食事は人生の中心。みんな、分かりきっていることなんですから。

 

「栄養も大事ですし、味も大事なんですっ」

 

 ご主人さまの健康のために、栄養を無駄にすることなんてできません。お肉も野菜も、しっかりと染み渡るように作るものです。

 だけど、それで味が落ちるのもダメ。徹底的にこだわり抜いて、誰が食べても美味しいと言わせる。いいえ、違いますね。ご主人さまの好みに、的確に合わせてみせる。

 

「両立させてこそ、メイドってものですよねっ」

 

 給料分の仕事しかしないなんて、忠誠心が足りないんですよ。なんて、昔の私は忠誠心もないままに給料以上の仕事をしていましたけど。腕を失うくらいに。

 でも、今は違います。ご主人さまのためだけに、私は技術を磨き続けるんです。他の誰が高い給料を出してきたって、考えることすらしません。

 

 私の願いは、ただご主人さまのそばにいること。ご主人さまと、同じなんですから。

 

「たとえ時間がないとしても、最高の料理を作ってみせますっ」

 

 ご主人さまだって、よく分からない戦いに勝ってるんですから。メイドとしての仕事は、誰にだって負けられません。それでこそ、ご主人さまにふさわしい。

 私がただ最高であることが、ご主人さまの価値を増すんです。ご主人さまを着飾る衣装が、もっとご主人さまを輝かせるみたいに。

 

 だから、私は完璧なメイドになるんです。ならなきゃいけないんです。

 

「お部屋のお掃除も、お風呂の準備も、少しだって汚れを残したりしませんっ」

 

 そんなの、ただの前提条件でしかありませんよね。疲れたご主人さまに余計なことを考えさせるなんて、罪なんですから。

 寝心地が悪いなとか、ちょっと空気が悪いなとか、そんな気持ちを持って安心して休めません。

 だから、私はどこだって手抜きしません。それだけが、忠誠心の証なんです。

 

「私はご主人さまのメイドなんですっ。他の誰かに負けるだなんて、ありえませんっ」

 

 勝って当然で、負けることは大罪です。ご主人さまが許そうとも、他ならぬ私が許しません。

 誰がなんと言おうと、それが真理なんですよ。

 

「王城のメイドだろうとも、私たち以上にご主人さまをもてなせはしませんっ」

 

 私の積み上げた技術も、ご主人さまに対する理解も、他の誰かに追いつけるようなものじゃないんですから。

 ふたつを重ね合わせることで、ご主人さまのためだけのメイドが出来上がるんです。

 

 私もアリアさんも、同じ。ご主人さまを幸せにする存在であるべきなんですよ。

 

「ご主人さまのために頑張れないのなら、そんなの怠慢ですからっ」

 

 忠誠を誓う主が喜ぶために、一生を捧げる。その程度のことができない人が、多すぎるんですよね。

 だから、私なんかでもご主人さまにとって最高のメイドになれる。だって、ご主人さまに選ばれてからメイドの勉強を始めたのが私なんですから。

 メイドとしての教育をずっと受けてきて、私より劣る。そんなの、意志も努力も才能も足りないんですよ。

 

「私のすべては、ご主人さまのもの。だったら、完璧に手入れするのもメイドの役割。ですよねっ」

 

 ご主人さまの服が汚れていては、ご主人さまの格を下げてしまいます。私だって、服と同じ。

 もっと言えば、ご主人さまのお食事は美味しく食べていただくのが役割です。夜に求められるのなら、最高にとろけていただかないと。

 

「ご主人さまに、心地よく使っていただく。朝から、夜まで」

 

 私のすべてを、好き勝手にする権利があるんですよ。ご主人さまだけに、許されたこと。他の人には、想像すら許されないこと。

 勝手にご主人さまのものを奪おうだなんて、死んだ程度で許されることじゃありませんから。

 

「ふふ、ご主人さまのものだなんて、私は幸せものですっ」

 

 だから、ずっと私を使ってくださいね。

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