物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
戦いの中で、俺達は停滞を感じていた。同じようなことを繰り返し続け、いつまで続ければ良いのかという疲弊感もある。
もちろん、弱音を吐くわけにはいかない。みんなだって頑張っているし、そもそも弱気は敗北を招くもの。
蛮勇が良いとは言わないが、負けるつもりで戦っていたら変な選択をするというものだ。
だからこそ、俺は先頭に立って前向きな姿勢を見せ続けなければならない。ブラック家の当主ということは、リーダーだ。それが引っ張っていかずして、誰が戦えると言うんだ。
それでも、内に不安を抱えているのも事実ではあった。そんな中で、ミルラとジャンに余裕がある時に時間を作ってくれと言われる。
当然、なるべく早く時間を作った。待ち合わせ場所に向かうと、すぐにミルラが頭を下げてきた。
「レックス様、申し訳ございません。何ら有効な対策を打てず……」
拳を握って震えているのが見える。声だって似たようなもの。よほど悔しいのだということは、誰にでも分かるだろう。
まあ、これまでずっと俺の期待に応え続けてきたからな。一度の失敗とも言えないことで、大きく責任を感じているのかもしれない。
とりあえずは、俺の意思を示すところからだな。まずは、ミルラの頭を上げさせた。
「ミルラ、気にしなくて良い。ジャンも、もし申し訳ないと思っているのなら……」
「分かっています、兄さん。悔やんでいたところで、現状は変わりません。打てる手を打ちましょう」
「ただ、現状で私どもにできることは、ほぼ終わったと言っても過言ではございません」
実際、そうだろうな。ミレアルの使徒に対して取れる戦術は、軍事という感じではないし。あくまで個人の戦力を叩きつけるものではある。
とはいえ、兵站を中心にまとめてくれているのは確かだろうが。
「それでお前たちが休めるのなら、悪いことではないと思うが」
「指示出しなどはあるので、完全に休むのは難しいですね。ただ、意識はしておきます」
「いざという時にレックス様のお力になれないようでは、秘書の名折れでございますから」
ああ、安易な判断だったな。ミルラやジャンほど優秀で、仕事がないという状況はありえないか。相対的には少ないとしても、普通の人からすればかなり多いに入るはず。
やはり、優秀な人員の少なさは感じるところだ。
「なら、いい。それで? 謝罪のためだけに来たとは思えないんだが」
「兄さんは話が早くて良いですね。といっても、兄さんに有用かはまだ判断できないんですけど」
「マリンさんたちとともに、レックス様が今後習得できそうな技術をまとめてまいりました」
ふむ。聞いていないから確実なことは言えないが、相当良い案が思いついたと見える。マリンたちの協力を得ているあたり、机上の空論で終わらないかも確認したかったのだろう。
やはり、ミルラたちは優秀だ。何がすごいって、優秀でありながら他者に頭を下げることに迷いがないということ。自分に足りないものを、確かに理解している。とんでもなく優秀なのに、自分の才能に溺れていない。
これほどの秘書がいるのだから、俺も幸運というものだ。
「なるほど。お前たちなりに、本気でミレアルの試練に向き合ってくれたんだな。ありがとう」
「まだ気が早いですよ。兄さんの望む結果が出せるかどうかは、分からないんですから」
「方針において、大きく二点ございます。ひとつは、魔力の収束と拡散」
「無属性の特徴そのものだな。なるほど、ジュリアを狙った理由と見るべきと考えたんだな?」
ジュリアこそが鍵であると判断したということ。もしかしたら、可能性の中の1つという扱いかもしれないが。
いずれにせよ、ミレアルの行動を見る限りでは妥当に思える。
ただ、どうやって魔力を収束するのかという問題もある。もともと、俺は割と収束に力を入れていた方ではあるからな。フィリスに教わった最初の魔法が、魔力を収束させて解放で爆発させるというものだったのだし。
とはいえ、そんな基礎だから見直す価値があるのも確かかもしれない。少なくとも、切って捨てるような意見ではないな。
「基礎的な魔力運用で発展が起きれば、魔法全体に影響しますからね。使えさえすれば、ミレアルの意図とは関係なく有用でしょう」
「ふむ。もともと、フィリスの魔法で魔力の収束はしていたが。もっとということなんだな」
「マリンさんの理論によると、圧縮させ続けることで魔力の性質が変化することがあるとのことでございます」
「同様の試験では、金を作れることも判明しました。まあ、作れる金の千倍の額が必要なんですが」
それはつまり、とんでもない圧力をかけているってことだよな。原子が金になるのって、核融合レベルのエネルギーが必要なんじゃなかっただろうか。
まあ、別の手段でどうにかしている可能性もある。ひとまず、実験レベルではできるものとして考えるだけでいい。
実際に俺ができるかという問題もあるが、合一とか斬撃を飛ばすとかに比べたら簡単そうな気もする。気がするだけかもしれないが。
とにかく、先達がいるレベルのことを実行するだけなんだから、暗闇の中を走るよりはマシだ。
「なるほどな。確かに、有用な手段かもしれない。もうひとつは、なんだ?」
「魔法の遠隔化と自動化でございます。今でも、一部はできていると存じておりますが」
「転移そのものが、魔法の遠隔化だからな。侵食も、ある意味では自動化と言えるか」
「レックス様の新たな剣や魔道具との連携も視野に入れてのことでございます」
「兄さんが魔力を送るだけで自動発動するのなら、大きく手間が省けそうですからね」
まあ、言っていることは分かる。口にするほど簡単ではないだろうが。そんなことは、ミルラたちだって間違いなく分かっている。
だが、壁を超えるレベルの進歩が必要だという考えからすると、あり得そうな話だ。
こちらも、無視できる意見ではない。魔道具やイルミナの剣を使うことを考えたら、確かに楽にはなりそうだ。
「それで、時間を選ばず襲ってくる敵に対処するという方向性か。確かに、納得感があるな」
「最終的には、兄さんに任せるしか無いんですけどね。ただ、たたき台があるだけでもマシなはずです」
「そうだな。少し、意識して訓練してみるよ。ありがとう、ふたりとも」
とりあえず、取っ掛かりだけはできた。実際にどんな形になるのかは分からないが、やれるだけやってみよう。