物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私はレックス様の秘書として、誰よりも彼を支えてきたという自負があります。レックス様がそのお力だけでは解決できないことに、私が道を作る。ジャン様と協力してのこととはいえ、他の誰にも真似はできなかったでしょう。
アカデミーからマリンさんを得たのも、私がつなぎを作ったから。学校もどきの生徒たちが十分な役割を果たしているのも、私が導いたから。
それがすべてではなく、本人の努力と才能があったことは当然認めています。ですが、私なくして達成できなかったことでもあるのは単なる事実。
自分で言うのもどうかと思うのですが、彼の秘書として私以上の存在はいないと思っていました。
ですが、どうやら自惚れであったようです。
「私にできることに、明確に限界が見えてきたようでございますね」
この状況が訪れたことで、予想していたことではありました。その予想を覆すだけの働きは、私にはできなかった。
書類を書くペンに、思わず力が入ったことが何度あったことか。
理解はしています。戦略で対策できる相手ではない以上、そもそも役割が違うのだと。私の達成すべき、生活の安定。それに関しては、実現できているのだと。
ですが、それでレックス様の右腕を名乗るにふさわしいと言えるのでしょうか。答えは、私が誰よりも知っていること。
レックス様のお力になれないで、私に存在している意味など無い。誰だって、同じ考えでしょう。
「肉の盾をいくら集めたところで、食料を無駄に消費するだけと存じます」
鉱山での採掘などに転用した人員は居ましたが、もはや期待薄。現状では、ただ使い潰す以上の意義を感じません。
もちろん、生産性の向上というのは重要な役割だと存じております。ただ、魔道具が発展すればいずれ人員の削減はできる。
技術の流出を懸念するならば、むしろ関わる人員に有象無象を選ぶべきではないのです。私の打ってきた手に、未来が無くなってきました。
「レックス様が新しい技を編み出すことに、期待することしかできない身……」
私がミレアルの使徒を打ち破る手を打つことは、事実上不可能です。無論、新しい技になにか道を示せないか頭を振り絞りはしましたが。
とはいえ、マリンさんの手を借りてすら戦闘面では素人と言わざるを得ません。レックス様が新しい何かを思いつく発想の取っ掛かりになれば御の字という程度でしょう。
私自身がなにかの結果を出すということは、もはや自分ですら期待できないのです。
「おのが限界が、恥ずかしいというもの」
何がレックス様の秘書でしょうか。結局のところ、私はレックス様の才覚に頼って結果を出していた存在に過ぎなかった。
結局のところ、レックス様の能力さえあれば、他の誰かでも結果は出せたのでしょう。私と同じでなくとも、相応の結果を。
それが、私の現実。
「ですが、レックス様のためにも腐っている暇などございません」
レックス様は、私が嘆くことを望まないでしょう。立場を退くことも。であるならば、少しでも結果を出すために力を尽くすべきなのです。
仮にレックス様のお力に頼るだけなのだとしても、ほんのわずかでも楽をしていただくために。
そう。レックス様の秘書が、簡単に折れてよいはずがないのです。ブラック家という苦境で、先頭に立ち続けた方の配下として。
「私に打てる手を、徹底的に探るべきでしょう」
私には、武力の才はない。研究に関しても、マリンさんの後塵を拝するなどという段階ですらない。せいぜい、人を使うのが他者よりうまいという程度。
であるのならば、周囲の人間をどう使うのかに全力を尽くすべきなのです。今から戦いや研究に移ったとして、経験を積んだだけの凡人にすら劣るでしょうから。そもそも、私には魔法を使う才はありません。
「周囲との連携は、当然欠かせないとして……」
誰の能力をどう使うかに、私の腕が問われるところです。人の心理を誘導して、交渉して、裏をかいて。それらの実行だけが、私の手札なのですから。
とはいえ、レックス様のご友人相手に悪辣な手段は取れませんが。
「ブラック家の内部でも、まだできることはあるはず」
本当に、現状の人員配置で最大効率を出せているのか。いざという時の備えは万全なのか。不測の事態が起こった状況で、挽回できるのか。
どこまで人の働きに余裕をもたせ、どこまで力を発揮させるか。振り返る価値は、十分にあります。
心理状態にも、しっかりと注視しなければなりません。士気を高めるために何ができるのか。不安を消すために何ができるのか。
レックス様のお力を示すことが、中心にはなるでしょう。また頼ることになりますが、それでも総合的にレックス様の負担が減るのであればよいのです。
私の能力に限界があると分かっているのなら、他者に力を借りるしかありません。たとえ主であったとしてもです。
「そうですね。どこまで魔道具に頼るかも、采配の余地はあります」
戦力としての魔道具と、手間を削減する道具としての魔道具。そして、人間にはできないことを代替する魔道具。
いずれにせよ、限られた資源や人員によってできる範囲での割り振りを考えねばなりません。
無論、戦力に関しては削る余地はほとんどないでしょう。少なくとも、現状で優位に立てているからと言って余裕が無駄になるわけではないのです。
そうなってくると、どこまで人員を休ませるかという観点で考えるべき。
あるいは、研究者の負担軽減にすら魔道具は扱えるかもしれません。例でしかありませんが、深く睡眠ができる魔道具などがあれば。
とにかく、一度資料を深く当たってみる価値はありますね。マリンさんたちとて、わずかな研究成果もすべて報告しているとは限りません。
外部の人間が見ることで、別の発想が生まれる可能性はあります。
「王国の内部であれば、我々の派閥で統制を取ることもできる」
少なくとも、ブラック家に火事場泥棒をしようという相手を潰せるだけの派閥はあります。もっと言えば、ブラック家に対する援助も。
どの段階で何をするのか、まだ精査できる部分はあるでしょう。戦力に関しては、急ぎすぎてはよくありません。
ミレアルの意図からして、レックス様が楽をできるとなれば、より敵戦力が増えるだけに終わる可能性もあるのです。
ただ戦力が増えることを喜べるかに関しては、相当検証の余地があります。ですが、戦いが終わった後の援助に関してなら、妨害はないでしょう。
いざという時には戦力を増やせるようにしつつ、戦後のことを考える。それが我々の采配になる。
「他国に関しても、大きな影響を与えられる」
国主とレックス様の関係を考えれば、こちらにとって都合のいい形に誘導することもできるでしょう。だからといって、他国に負担を押し付けてしまえば本末転倒ですが。
総合的には、我々の派閥が優位を取る形に落ち着くでしょう。
「それら全てをこなしたところで、ミレアルからすれば嫌がらせに過ぎないのでしょうが」
過剰に使徒を送り込んでくれば、それだけで戦況はひっくり返る。私のことを殺すことなど、赤子の手をひねるよりよほど簡単。
だからこそ、私たちにわざわざ手出しなどしないのでしょう。
「いえ。むしろ徹底的に嫌がらせをしましょう」
盤面をひっくり返されない範囲は難しいですが、とにかく少しでもミレアルの集中を乱すこと。それができれば、戦況には優位に働くはずです。
「ミレアルの悪評は、どう広げていくべきでしょうか……」
とにかく、ミレアル以外の敵を減らして、潜在的な味方を増やす。そうすることで、結果的に多方面から利益を得ることができるでしょう。
経済的に優位になるだけで、魔道具の開発や人員の増員にも役立つのです。
「そうですね。聖国や連邦は、明確に被害者」
ですから、ミレアルへの悪意を吹き込むことはそこまで難しくないでしょう。無論、何も知らぬ民衆は例外であるにしても。
ただ、ミレアルへの信仰が迫害されるようになっても信仰を貫けるものは、そう多くない。そして、厄介な狂信者を割り出すことにも使える。悪くない手です。
「今となっては、ほんのわずかな効果しかもたらさないでしょう」
結局のところ、ミレアルが天を落としでもすればそれで終わるのですから。私の抵抗など、虫の抵抗に等しいのでしょう。
「それでも、わずかでもレックス様のお力になれるのならば……」
ほんのわずかだとしても、構いません。紙切れ一枚の差が、まさに紙一重の差としてレックス様の勝利につながるかもしれないのですから。
「ためらいません。私の全身全霊を、尽くしましょう」
レックス様。あなたのためだけに、徒労だとしても人生をかけられるのです。
ですから、ずっと私を必要としてください。それだけで、私は報われるのです。