物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

680 / 680
679話 ミルラの自覚

 私はレックス様の秘書として、誰よりも彼を支えてきたという自負があります。レックス様がそのお力だけでは解決できないことに、私が道を作る。ジャン様と協力してのこととはいえ、他の誰にも真似はできなかったでしょう。

 

 アカデミーからマリンさんを得たのも、私がつなぎを作ったから。学校もどきの生徒たちが十分な役割を果たしているのも、私が導いたから。

 それがすべてではなく、本人の努力と才能があったことは当然認めています。ですが、私なくして達成できなかったことでもあるのは単なる事実。

 

 自分で言うのもどうかと思うのですが、彼の秘書として私以上の存在はいないと思っていました。

 

 ですが、どうやら自惚れであったようです。

 

「私にできることに、明確に限界が見えてきたようでございますね」

 

 この状況が訪れたことで、予想していたことではありました。その予想を覆すだけの働きは、私にはできなかった。

 書類を書くペンに、思わず力が入ったことが何度あったことか。

 

 理解はしています。戦略で対策できる相手ではない以上、そもそも役割が違うのだと。私の達成すべき、生活の安定。それに関しては、実現できているのだと。

 ですが、それでレックス様の右腕を名乗るにふさわしいと言えるのでしょうか。答えは、私が誰よりも知っていること。

 

 レックス様のお力になれないで、私に存在している意味など無い。誰だって、同じ考えでしょう。

 

「肉の盾をいくら集めたところで、食料を無駄に消費するだけと存じます」

 

 鉱山での採掘などに転用した人員は居ましたが、もはや期待薄。現状では、ただ使い潰す以上の意義を感じません。

 もちろん、生産性の向上というのは重要な役割だと存じております。ただ、魔道具が発展すればいずれ人員の削減はできる。

 

 技術の流出を懸念するならば、むしろ関わる人員に有象無象を選ぶべきではないのです。私の打ってきた手に、未来が無くなってきました。

 

「レックス様が新しい技を編み出すことに、期待することしかできない身……」

 

 私がミレアルの使徒を打ち破る手を打つことは、事実上不可能です。無論、新しい技になにか道を示せないか頭を振り絞りはしましたが。

 とはいえ、マリンさんの手を借りてすら戦闘面では素人と言わざるを得ません。レックス様が新しい何かを思いつく発想の取っ掛かりになれば御の字という程度でしょう。

 

 私自身がなにかの結果を出すということは、もはや自分ですら期待できないのです。

 

「おのが限界が、恥ずかしいというもの」

 

 何がレックス様の秘書でしょうか。結局のところ、私はレックス様の才覚に頼って結果を出していた存在に過ぎなかった。

 結局のところ、レックス様の能力さえあれば、他の誰かでも結果は出せたのでしょう。私と同じでなくとも、相応の結果を。

 

 それが、私の現実。

 

「ですが、レックス様のためにも腐っている暇などございません」

 

 レックス様は、私が嘆くことを望まないでしょう。立場を退くことも。であるならば、少しでも結果を出すために力を尽くすべきなのです。

 仮にレックス様のお力に頼るだけなのだとしても、ほんのわずかでも楽をしていただくために。

 

 そう。レックス様の秘書が、簡単に折れてよいはずがないのです。ブラック家という苦境で、先頭に立ち続けた方の配下として。

 

「私に打てる手を、徹底的に探るべきでしょう」

 

 私には、武力の才はない。研究に関しても、マリンさんの後塵を拝するなどという段階ですらない。せいぜい、人を使うのが他者よりうまいという程度。

 であるのならば、周囲の人間をどう使うのかに全力を尽くすべきなのです。今から戦いや研究に移ったとして、経験を積んだだけの凡人にすら劣るでしょうから。そもそも、私には魔法を使う才はありません。

 

「周囲との連携は、当然欠かせないとして……」

 

 誰の能力をどう使うかに、私の腕が問われるところです。人の心理を誘導して、交渉して、裏をかいて。それらの実行だけが、私の手札なのですから。

 とはいえ、レックス様のご友人相手に悪辣な手段は取れませんが。

 

「ブラック家の内部でも、まだできることはあるはず」

 

 本当に、現状の人員配置で最大効率を出せているのか。いざという時の備えは万全なのか。不測の事態が起こった状況で、挽回できるのか。

 どこまで人の働きに余裕をもたせ、どこまで力を発揮させるか。振り返る価値は、十分にあります。

 

 心理状態にも、しっかりと注視しなければなりません。士気を高めるために何ができるのか。不安を消すために何ができるのか。

 レックス様のお力を示すことが、中心にはなるでしょう。また頼ることになりますが、それでも総合的にレックス様の負担が減るのであればよいのです。

 

 私の能力に限界があると分かっているのなら、他者に力を借りるしかありません。たとえ主であったとしてもです。

 

「そうですね。どこまで魔道具に頼るかも、采配の余地はあります」

 

 戦力としての魔道具と、手間を削減する道具としての魔道具。そして、人間にはできないことを代替する魔道具。

 いずれにせよ、限られた資源や人員によってできる範囲での割り振りを考えねばなりません。

 

 無論、戦力に関しては削る余地はほとんどないでしょう。少なくとも、現状で優位に立てているからと言って余裕が無駄になるわけではないのです。

 そうなってくると、どこまで人員を休ませるかという観点で考えるべき。

 

 あるいは、研究者の負担軽減にすら魔道具は扱えるかもしれません。例でしかありませんが、深く睡眠ができる魔道具などがあれば。

 とにかく、一度資料を深く当たってみる価値はありますね。マリンさんたちとて、わずかな研究成果もすべて報告しているとは限りません。

 外部の人間が見ることで、別の発想が生まれる可能性はあります。

 

「王国の内部であれば、我々の派閥で統制を取ることもできる」

 

 少なくとも、ブラック家に火事場泥棒をしようという相手を潰せるだけの派閥はあります。もっと言えば、ブラック家に対する援助も。

 どの段階で何をするのか、まだ精査できる部分はあるでしょう。戦力に関しては、急ぎすぎてはよくありません。

 ミレアルの意図からして、レックス様が楽をできるとなれば、より敵戦力が増えるだけに終わる可能性もあるのです。

 

 ただ戦力が増えることを喜べるかに関しては、相当検証の余地があります。ですが、戦いが終わった後の援助に関してなら、妨害はないでしょう。

 いざという時には戦力を増やせるようにしつつ、戦後のことを考える。それが我々の采配になる。

 

「他国に関しても、大きな影響を与えられる」

 

 国主とレックス様の関係を考えれば、こちらにとって都合のいい形に誘導することもできるでしょう。だからといって、他国に負担を押し付けてしまえば本末転倒ですが。

 総合的には、我々の派閥が優位を取る形に落ち着くでしょう。

 

「それら全てをこなしたところで、ミレアルからすれば嫌がらせに過ぎないのでしょうが」

 

 過剰に使徒を送り込んでくれば、それだけで戦況はひっくり返る。私のことを殺すことなど、赤子の手をひねるよりよほど簡単。

 だからこそ、私たちにわざわざ手出しなどしないのでしょう。

 

「いえ。むしろ徹底的に嫌がらせをしましょう」

 

 盤面をひっくり返されない範囲は難しいですが、とにかく少しでもミレアルの集中を乱すこと。それができれば、戦況には優位に働くはずです。

 

「ミレアルの悪評は、どう広げていくべきでしょうか……」

 

 とにかく、ミレアル以外の敵を減らして、潜在的な味方を増やす。そうすることで、結果的に多方面から利益を得ることができるでしょう。

 経済的に優位になるだけで、魔道具の開発や人員の増員にも役立つのです。

 

「そうですね。聖国や連邦は、明確に被害者」

 

 ですから、ミレアルへの悪意を吹き込むことはそこまで難しくないでしょう。無論、何も知らぬ民衆は例外であるにしても。

 ただ、ミレアルへの信仰が迫害されるようになっても信仰を貫けるものは、そう多くない。そして、厄介な狂信者を割り出すことにも使える。悪くない手です。

 

「今となっては、ほんのわずかな効果しかもたらさないでしょう」

 

 結局のところ、ミレアルが天を落としでもすればそれで終わるのですから。私の抵抗など、虫の抵抗に等しいのでしょう。

 

「それでも、わずかでもレックス様のお力になれるのならば……」

 

 ほんのわずかだとしても、構いません。紙切れ一枚の差が、まさに紙一重の差としてレックス様の勝利につながるかもしれないのですから。

 

「ためらいません。私の全身全霊を、尽くしましょう」

 

 レックス様。あなたのためだけに、徒労だとしても人生をかけられるのです。

 ですから、ずっと私を必要としてください。それだけで、私は報われるのです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

強さを窮めたくて(作者:自堕落無力)(原作:陰の実力者になりたくて!)

 これは強さに憧れを持ったまま、短い生涯を終えた男が転生した事で今度こそ強さを窮めながら紡ぐ物語である。


総合評価:1161/評価:6.86/連載:106話/更新日時:2026年08月14日(金) 19:58 小説情報

世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件(作者:赤坂緑語)(オリジナル現代/冒険・バトル)

この世界が前世でプレイしていた悪魔とエクソシストの殺し合いで年中ヒャッハーしている鬱エロゲームの世界であると気が付いたその日、僕は恋人になってくれた彼女に告げた。▼「ごめん……別れて欲しい」▼ 彼女はこの世界を主人公と共に救うメインヒロインだと知ってしまったから。あとは主人公と一緒に何とか世界を救ってほしいと願っていたんだが――▼「逃がさないよ。絶対に、絶対…


総合評価:19741/評価:8.76/連載:96話/更新日時:2026年08月16日(日) 22:00 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:4258/評価:7.98/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

バッドエンド後にやり直した人生で、初対面のクラスメイトからなぜか激重感情を向けられている(作者:水島紗鳥)(オリジナル現代/恋愛)

あの日死んだと思っていた俺の人生には彼女しか知らない続きがあったらしい▼高校卒業式の日、受験全落ちと失恋のダブルパンチでどん底だった主人公の忍野瑛人(おしのえいと)は、痴情のもつれが原因で刺されそうになっていた同級生の一色天音(いっしきあまね)を庇って命を落とす。▼だが、気付いた時には三年前である高校入学前の春休みに逆行していた。バッドエンドだった人生をやり…


総合評価:380/評価:7.8/連載:55話/更新日時:2026年08月18日(火) 13:50 小説情報

幼少期の頃に好感度が最大値な美少女たちと色んな約束を交わしている主人公は成長した末に最強に至る。ヤンデレヒロイン、現代異能剣戦ファンタジー(作者:三流木青二斎)(オリジナル現代/冒険・バトル)

病弱な肉体のまま不遇の死を迎え、次に目を覚ませば赤ちゃんになっていた。▼普通の世界とは違い、異能レベルの剣術を扱う斬人が存在する世界で、人を脅かす化物、祅霊や、刀を使い悪事を働く妖刀師を討伐する抜刀官を目指す。▼その際に師匠の娘や義理の妹と出会い、何時の間にか将来を約束し合う仲に……。▼転生した主人公は抜刀官を目指していく。▼米 他サイトにて転生抜刀官と言う…


総合評価:2858/評価:8.29/連載:38話/更新日時:2026年03月07日(土) 16:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>