物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
「レックス様、起きて! 今、ちょっと良くない状態なんだ!」
そう言って、叩き起こされた。顔を見ると、ジュリアは焦っている様子。良くない状態という言葉も考えると、ミレアル関連。
即座にブラック家に探査を入れると、カミラが多くの敵に囲まれていた。1000体ほどが、現れては消えていく。
「……この数! 姉さんが危ない!」
「レックス様、僕も……! 待って……!」
ジュリアの声を聞く前に、俺は転移していった。その先には、激しい稲光が何度も何度も繰り返されている。
敵の気配が現れては消えて、消えては現れる。稲光が起きるたびに、ひたすらに。
ただ、カミラの魔力は相当減っている。かなり良くない状況だというのは、見て取れた。
「姉さん!」
「余計なお世話なのよ、バカ弟! あたしは、やるだけよ! ……ぐっ……」
カミラは顔をしかめている。膝をつきそうにもなっている。どう見ても、限界でしかない。
「無理はしないでくれ! 俺が、どうにかする!」
「まだ、よ……!
稲光が起きて、敵の気配が一瞬で消える。1000体ほどがいるにもかかわらず、そのすべてが。
だというのに、次の瞬間にはもう敵が現れている。カミラは、ただ肩で息をしている。ついに、膝をついていた。
「姉さん……! くそ、まだ出てくるのか……!
空間を一気に斬り裂くも、討ち漏らしが出る。瞬時に次の攻撃を放つも、その間に次の敵が現れている。
俺はただ、剣を振り続けることしかできない。
「まだ、まだ……! あたしは、こんなところで……!」
「
カミラは剣を握り締めている。その剣先は、ただ震え続けるだけ。全身に力が入らないということが見て取れる。
だから、俺がやらなくちゃならない。カミラより遅くしか殺せていないのなら、もっと速度を上げるだけ。今こそ、限界を超えろ。
「はぁ、はぁ……。また、バカ弟に……!」
「
ただ無心で、剣を振り続ける。一度振り、二度振る。殺し終えたら、次の敵が現れる。
殺して殺して、ひたすらに殺し続ける。目の前いっぱいの敵を、何度も何度も。
100を超える頃には、数えることをやめた。それから、何回同じことを繰り返しただろうか。
目の前は、ただ赤に染まりきっている。もはや、川ができるのではないかというほど。死体の顔が、もう見えないほど。
何度も何度も、全力の剣を振るい続けた。もうとっくに1000を超えている気もするし、まだという気もする。数えていなければ、数も分からない。
そんなことは、もはや問題ではない。俺が気にすべきことは、後何回剣を振れるかということだけ。
カミラと同じように、膝が笑い始めた。だからといって、止まっていられるはずもない。
「バカ弟、そろそろ限界じゃないの……?」
「そんなわけ、ないだろ……! 俺は、姉さんを……!」
カミラに答えながら、また剣を振る。また、敵が現れる。繰り返し続けただけの光景が、また繰り返される。
「……そうね。あたしも、バカ弟を……。だから、あたしが……バカ弟を守る……!」
カミラは剣を握って、俺の前に立つ。通り過ぎる瞬間の横顔は、覚悟を決めたものに見えた。
遠くまで行ってしまいそうな感覚があって、思わず声が出る。
「待て、待ってくれ! 俺を信じてくれるのなら、まだ手はある!」
先に言ってから、策を考える。カミラひとりでも、俺ひとりでも、勝てはしない。なら、ふたりで協力する以外の道はない。
そうだ、協力。俺達ふたりには、まだ手があるんだ。
「……良いわ。で、あたしにどうしろっていうの?」
「合一だけ、してくれ。後は、俺が導く……!」
俺と魔力が溶け合い、カミラと魔力が溶け合う。そのふたつが混ざり合えば、俺達の合一にたどり着けるはず。
これで正解なのか、確信はない。それでも、やるしかない。
「分かったわ。……
「
カミラが合一した空間に、俺も合一を合わせる。カミラの魔力に、俺自身を編み込んでいく。すべてが溶けていくように、ゆっくりと。ただ一瞬だけを、じっと感じながら。
俺の魔力をカミラの魔力に編み込んで、ふたつの合一を導く。フィリスが俺にしてくれたことを、今度は俺がカミラに。
「なるほど、これが……!」
カミラの声が、俺の中に届いた。それで、分かった。カミラの技は、電気で空間を覆って、その中に電撃と混ざりあった斬撃を飛ばすもの。
なら、空気に闇の魔力を侵食させてカミラの魔力と混ぜてしまえば、空間を斬り続けられる。
そう。空間内にある空気のそばにいる限り、雷鳴と刃が合わさったものがすべてを斬り裂く。
これこそが。
「俺達の、
一瞬で敵が切り刻まれ、新たな敵が現れると同時に粉々になる。それが、何度も続く。敵は何をすることもなく、現れた瞬間には死ぬ。
空間に入ったものは、すべて死に絶えていった。
「さて、後はあたしたちの我慢比べね……」
「ミレアルなんかに、負けるものか……!」
カミラと抱き合うような感覚の中で、現れる敵を殺し続ける。お互いの魔力を、全力で振り絞って。
100回ほど殺し尽くした頃、敵の気配が消える。探っても、もう現れない。
合一を解いた俺達は、背中合わせに座り込んだ。地面が、赤くぬかるんでいた。それでも、立ち上がるだけの力はなかった。
「……終わった、か。姉さんの、おかげだ」
「こっちこそ、よ。バカ弟が居なくちゃ、負けていたわね……」
背中越しに、手を握られる。そっと、包み込むように。愛おしむように。だから、俺も優しく握り返した。
「いつの間にか、すごい技を編み出していたんだな……」
「結局、あんたに助けられたけどね……」
「お互い、まだまだだな……」
「そうね……」
しばらく、沈黙が走る。手のひらと背中の暖かさだけを、ただ感じていた。この温もりが、どうしようもなく胸の奥まで突き刺さってきた。
自然と、言葉がこぼれ出てくる。
「なあ、姉さん。やっぱり、俺は姉さんが居ないと……」
「そうね……。あたしも、バカ弟が居なくちゃ……」
「はは、おそろいだな……」
「まったく、バカバカしいものね……」
お互い、軽く苦笑していた。息を吸っていると、だんだん眠くなってくる。それはそうか。限界まで体力と魔力を吐き出したものな。
「レックス様、無事だったんだね!」
ジュリアたちがやってくる。俺達は、サラやシュテルに肩を支えられながら立ち上がった。他の人員は、担架らしきものを準備している。
「さてと、お風呂にでも入らなくちゃ。汗がうっとうしいったらないわ」
「俺は、まず休みたいな……」
「みんな、ふたりを運んで! 僕が警戒しておくから!」
サラたちの手によって、俺たちは担架に乗せられて運ばれる。その揺れの中で、強い眠気が襲いかかってくる。
「後でナデナデしてくれたら、全部許す」
「ジュリア、置いていかれて心配していたんですからね」
ジュリアが手伝ってくれていたら、もっとマシな勝ち方ができていたかもしれない。慌てすぎて、判断を失敗していたな。
こういう時こそ、冷静にならないといけないんだが。
「ああ、一緒に転移するべきだったな……悪い……」
「まったく、バカ弟はバカなままね……」
「次こそは、僕も一緒に戦うからね!」
そんな声を聞きながら、俺の意識は薄れていった。