物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
襲撃に備えて、できるだけ待機する時間を増やしていた。もちろん秘書組や研究組といった仲間たちと話をする機会も用意しているのだが。
そんなこんなで、かなり忙しい時間を送っていると思う。まあ、仕方ない。
催してきたのでトイレに向かって戻ろうとすると、前にモニカの姿があった。両手を開いて、俺の方を見ている。
「レックスちゃん、こちらにいらっしゃいな」
「その呼び方は久しぶりだな、母さん。どうしたんだ?」
近寄っていったら、一度抱きしめられて手を繋がれた。そのまま歩いていって、モニカの部屋へと連れて行かれる。
今のところは、襲撃は感知していない。マッサージができるかは怪しいが、モニカと過ごすくらいなら気を張ってさえいれば問題ないはずだ。
モニカはベッドに座り込んだので、俺は近くに立っておく。
「ふふ。たまには親子としてのふれあいも大事ですわよね」
「そうだな。母さんが望むのなら、俺もそうしたい」
モニカは顔をふにゃりと緩めた。なんか、本当に少女みたいな顔に見える。若作りだとは思っていたが、とてつもない。
とりあえずながめていると、モニカは布団に入っていく。
「ほら、隣が空いていますわよ。ね、レックスちゃん」
目に力を感じたので、誘われるがままに入っていく。こんなことをして良いのだろうかという気もするが、モニカの落ち着きも大事だからな。
家族としての関係がしっかりしていれば、いざという時の力になるはずだから。
「この歳で親と一緒に布団に入るのは、恥ずかしいな……」
「いくら甘えても良いのですわよ。わたくしの可愛い子」
ゆっくりと、モニカに抱きしめられる。包みこまれるような感触があって、なんだか熱が染み込むよう。
母親のぬくもりとは、こういうものなのだろうか。そうだといいな。
「あったかいな……。こういう感覚は、いつ以来か……」
「レックスちゃんには、誰かに甘える権利があるのですわよ」
モニカから、魔力が浸透してくるのを感じた。同時に、だんだん眠気が襲いかかってくる。
とても目を開けていられなくなって、目だけを動かしてモニカを見た。
「……かあ、さん……?」
「さあ、ゆっくりとお眠りなさいな」
その言葉を最後に、俺は眠りについていった。
気付いたら、いつもと違う天井が目に入る。頭に、なんだか柔らかい感触がある。軽く寝返りを打つと、もっと柔らかいものに抱きとめられるような感触があった。
そちらを見ると、モニカの顔が見える。ああ、モニカの部屋に来ていたんだったか。
「ここは……。ああ、モニカ……」
「今度はそういう呼び方をしますのね、レックス」
ああ、そうか。モニカのことを母さんと呼んでいたんだったな。いつの間にか眠ってしまって、忘れていた。
「どうして、俺は……」
「ふふ、わたくしの愛ですわよ。ねえ、レックス」
相変わらず微笑んだまま、モニカは俺の頭を撫でてくる。それに力が抜ける感覚を味わいながら、まずは周囲の魔力を探る。
そうしたら、いくつかの知らない気配が引っかかった。
「なんか、敵の気配がないか……?」
「もう、終わりましたわよ。あなたがおらずとも、勝ったのですわ」
そう言われて、もう少し深く調査する。カミラとメアリ、ジュリアが出ていたらしい。その周りには、敵の気配がある。とはいえ、活動している感じもない。
ゆっくりと魔力が消えていくのを、遠くから感じていた。
「……確かに、みんないるな……。敵も、もう死んでいるのか……」
「ええ。レックスちゃんを休ませるために、みんな頑張ったのですわよ」
また、優しく頭を撫でられる。その温もりが、しっとりと染み渡っていく。ため息がこぼれて、後で気づいた。
「そうか……。そう、なんだな……」
「わたくしの胸に、おいでなさいな。今は、休みましょう?」
モニカに招かれるまま、胸に頭をあずける。抱きしめられて、柔らかいゆりかごにいるような感覚になった。
自然と、言葉が溢れてくる。
「ずっと、俺がどうにかしなきゃって……」
「ええ。レックスは、責任感の強い子ですものね」
「でも……俺がいなくても、勝てたんだな……」
口に出てから、気づいた。ミレアルの試練は、俺以外には絶対に乗り越えられないと思っていた。手を借りることはあっても、誰かの手で解決するなんて想像したこともなかった。
もしかして、できるのだろうか。
「カミラが追い詰められた時と、同じくらいの戦力だったそうですわよ」
「それで……。みんな、やっぱりすごいんだな……」
「ええ。レックスにだって、負けないくらいに。わたくしの子と、その仲間ですもの」
本当に、俺に負けていない。むしろ、場合によっては勝っているほどだ。ふたりでの合一は、できたのだろうか。それなしでは、俺は勝てなかったと思う。
もしかして、みんなは俺の知らない内に成長していたのだろうか。いや、当たり前か。カミラだって、新技を覚えていたんだから。
思っていたより、ずっとみんなは強かったんだ。頼る頼ると言いつつ、結局は俺より弱いと思っていたのかもしれない。
「モニカだって、俺に魔法を通したほどだもんな……」
「うふふ。レックスがわたくしを受け入れていたから、ですわよ」
まあ、モニカが相手でもなかったら、魔力は即座に拒絶していたかもしれない。そもそも、魔力を送られるほど近くで触れ合うこともなかった。
他の相手も、信頼できる仲間くらいだ。
「それも、そうではあるか……」
「ねえ、レックス。少しは安心できましたか?」
背中をトントンと叩かれながら、語りかけられる。
そう、だな。ずっと気を張っていたが、少しくらいは休んでも良いのかもしれない。
「ああ。案外、どうにかなるのかもな……」
「ふふ、顔つきが良くなりましたわよ。これでまた、頑張れますわね」
モニカの言葉で、実際に頑張る気になってくる。思ったより、ずっと力が湧いてくるような気がした。
そのきっかけは、モニカの胸の中で寝たから。つまり、睡眠不足だったのだろう。
「そうか……。俺は、疲れてたんだな……」
「ええ。母ですもの。誰よりも分かりますわよ」
ギュッと抱きしめてきてから、目を合わせてきた。顔色の違いに、気付いていたのだろうな。自分では、鏡を見る機会すら無かった。
このまま気を張り続けていたら、どうなっていたことやら。本当に、モニカを含めたみんなには助けられてしまった。
「ありがとう、母さん……。俺を、愛してくれて……」
「気にしなくて良いのですわ。あなたは、私の愛する息子。そして、愛する男なのですから」
抱きしめながら、胸を押し当てられる。今度は、男として向き合う時間なのだろう。
俺にとって、モニカは大切な母。それは間違いない。だが、少しは意識してしまっているんだな。
「はは、大変な関係だな……」
「それを、レックスは受け入れてくれるのでしょう?」
当たり前のように、モニカは微笑む。その姿は、とても輝いて見えた。
「ああ、もちろんだ。ここまでされたんだから、恩は返す」
「レックスの気持ちは、どうなんですの?」
首を傾げながら、問いかけられる。どんな意味かまでは、ハッキリとは言えない。だが、俺の返すべき言葉は決まりきっていた。
「大好きだ、モニカ……」
その言葉に返ってきた笑顔は、何もかもを溶かすようだった。