物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう   作:maricaみかん

684 / 684
683話 母として女として

 襲撃に備えて、できるだけ待機する時間を増やしていた。もちろん秘書組や研究組といった仲間たちと話をする機会も用意しているのだが。

 そんなこんなで、かなり忙しい時間を送っていると思う。まあ、仕方ない。

 

 催してきたのでトイレに向かって戻ろうとすると、前にモニカの姿があった。両手を開いて、俺の方を見ている。

 

「レックスちゃん、こちらにいらっしゃいな」

「その呼び方は久しぶりだな、母さん。どうしたんだ?」

 

 近寄っていったら、一度抱きしめられて手を繋がれた。そのまま歩いていって、モニカの部屋へと連れて行かれる。

 今のところは、襲撃は感知していない。マッサージができるかは怪しいが、モニカと過ごすくらいなら気を張ってさえいれば問題ないはずだ。

 

 モニカはベッドに座り込んだので、俺は近くに立っておく。

 

「ふふ。たまには親子としてのふれあいも大事ですわよね」

「そうだな。母さんが望むのなら、俺もそうしたい」

 

 モニカは顔をふにゃりと緩めた。なんか、本当に少女みたいな顔に見える。若作りだとは思っていたが、とてつもない。

 とりあえずながめていると、モニカは布団に入っていく。

 

「ほら、隣が空いていますわよ。ね、レックスちゃん」

 

 目に力を感じたので、誘われるがままに入っていく。こんなことをして良いのだろうかという気もするが、モニカの落ち着きも大事だからな。

 家族としての関係がしっかりしていれば、いざという時の力になるはずだから。

 

「この歳で親と一緒に布団に入るのは、恥ずかしいな……」

「いくら甘えても良いのですわよ。わたくしの可愛い子」

 

 ゆっくりと、モニカに抱きしめられる。包みこまれるような感触があって、なんだか熱が染み込むよう。

 母親のぬくもりとは、こういうものなのだろうか。そうだといいな。

 

「あったかいな……。こういう感覚は、いつ以来か……」

「レックスちゃんには、誰かに甘える権利があるのですわよ」

 

 モニカから、魔力が浸透してくるのを感じた。同時に、だんだん眠気が襲いかかってくる。

 とても目を開けていられなくなって、目だけを動かしてモニカを見た。

 

「……かあ、さん……?」

「さあ、ゆっくりとお眠りなさいな」

 

 その言葉を最後に、俺は眠りについていった。

 

 気付いたら、いつもと違う天井が目に入る。頭に、なんだか柔らかい感触がある。軽く寝返りを打つと、もっと柔らかいものに抱きとめられるような感触があった。

 そちらを見ると、モニカの顔が見える。ああ、モニカの部屋に来ていたんだったか。

 

「ここは……。ああ、モニカ……」

「今度はそういう呼び方をしますのね、レックス」

 

 ああ、そうか。モニカのことを母さんと呼んでいたんだったな。いつの間にか眠ってしまって、忘れていた。

 

「どうして、俺は……」

「ふふ、わたくしの愛ですわよ。ねえ、レックス」

 

 相変わらず微笑んだまま、モニカは俺の頭を撫でてくる。それに力が抜ける感覚を味わいながら、まずは周囲の魔力を探る。

 そうしたら、いくつかの知らない気配が引っかかった。

 

「なんか、敵の気配がないか……?」

「もう、終わりましたわよ。あなたがおらずとも、勝ったのですわ」

 

 そう言われて、もう少し深く調査する。カミラとメアリ、ジュリアが出ていたらしい。その周りには、敵の気配がある。とはいえ、活動している感じもない。

 ゆっくりと魔力が消えていくのを、遠くから感じていた。

 

「……確かに、みんないるな……。敵も、もう死んでいるのか……」

「ええ。レックスちゃんを休ませるために、みんな頑張ったのですわよ」

 

 また、優しく頭を撫でられる。その温もりが、しっとりと染み渡っていく。ため息がこぼれて、後で気づいた。

 

「そうか……。そう、なんだな……」

「わたくしの胸に、おいでなさいな。今は、休みましょう?」

 

 モニカに招かれるまま、胸に頭をあずける。抱きしめられて、柔らかいゆりかごにいるような感覚になった。

 自然と、言葉が溢れてくる。

 

「ずっと、俺がどうにかしなきゃって……」

「ええ。レックスは、責任感の強い子ですものね」

「でも……俺がいなくても、勝てたんだな……」

 

 口に出てから、気づいた。ミレアルの試練は、俺以外には絶対に乗り越えられないと思っていた。手を借りることはあっても、誰かの手で解決するなんて想像したこともなかった。

 もしかして、できるのだろうか。

 

「カミラが追い詰められた時と、同じくらいの戦力だったそうですわよ」

「それで……。みんな、やっぱりすごいんだな……」

「ええ。レックスにだって、負けないくらいに。わたくしの子と、その仲間ですもの」

 

 本当に、俺に負けていない。むしろ、場合によっては勝っているほどだ。ふたりでの合一は、できたのだろうか。それなしでは、俺は勝てなかったと思う。

 もしかして、みんなは俺の知らない内に成長していたのだろうか。いや、当たり前か。カミラだって、新技を覚えていたんだから。

 

 思っていたより、ずっとみんなは強かったんだ。頼る頼ると言いつつ、結局は俺より弱いと思っていたのかもしれない。

 

「モニカだって、俺に魔法を通したほどだもんな……」

「うふふ。レックスがわたくしを受け入れていたから、ですわよ」

 

 まあ、モニカが相手でもなかったら、魔力は即座に拒絶していたかもしれない。そもそも、魔力を送られるほど近くで触れ合うこともなかった。

 他の相手も、信頼できる仲間くらいだ。

 

「それも、そうではあるか……」

「ねえ、レックス。少しは安心できましたか?」

 

 背中をトントンと叩かれながら、語りかけられる。

 そう、だな。ずっと気を張っていたが、少しくらいは休んでも良いのかもしれない。

 

「ああ。案外、どうにかなるのかもな……」

「ふふ、顔つきが良くなりましたわよ。これでまた、頑張れますわね」

 

 モニカの言葉で、実際に頑張る気になってくる。思ったより、ずっと力が湧いてくるような気がした。

 そのきっかけは、モニカの胸の中で寝たから。つまり、睡眠不足だったのだろう。

 

「そうか……。俺は、疲れてたんだな……」

「ええ。母ですもの。誰よりも分かりますわよ」

 

 ギュッと抱きしめてきてから、目を合わせてきた。顔色の違いに、気付いていたのだろうな。自分では、鏡を見る機会すら無かった。

 このまま気を張り続けていたら、どうなっていたことやら。本当に、モニカを含めたみんなには助けられてしまった。

 

「ありがとう、母さん……。俺を、愛してくれて……」

「気にしなくて良いのですわ。あなたは、私の愛する息子。そして、愛する男なのですから」

 

 抱きしめながら、胸を押し当てられる。今度は、男として向き合う時間なのだろう。

 俺にとって、モニカは大切な母。それは間違いない。だが、少しは意識してしまっているんだな。

 

「はは、大変な関係だな……」

「それを、レックスは受け入れてくれるのでしょう?」

 

 当たり前のように、モニカは微笑む。その姿は、とても輝いて見えた。

 

「ああ、もちろんだ。ここまでされたんだから、恩は返す」

「レックスの気持ちは、どうなんですの?」

 

 首を傾げながら、問いかけられる。どんな意味かまでは、ハッキリとは言えない。だが、俺の返すべき言葉は決まりきっていた。

 

「大好きだ、モニカ……」

 

 その言葉に返ってきた笑顔は、何もかもを溶かすようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

幼少期の頃に好感度が最大値な美少女たちと色んな約束を交わしている主人公は成長した末に最強に至る。ヤンデレヒロイン、現代異能剣戦ファンタジー(作者:三流木青二斎)(オリジナル現代/冒険・バトル)

病弱な肉体のまま不遇の死を迎え、次に目を覚ませば赤ちゃんになっていた。▼普通の世界とは違い、異能レベルの剣術を扱う斬人が存在する世界で、人を脅かす化物、祅霊や、刀を使い悪事を働く妖刀師を討伐する抜刀官を目指す。▼その際に師匠の娘や義理の妹と出会い、何時の間にか将来を約束し合う仲に……。▼転生した主人公は抜刀官を目指していく。▼米 他サイトにて転生抜刀官と言う…


総合評価:2860/評価:8.29/連載:38話/更新日時:2026年03月07日(土) 16:13 小説情報

死に別れENDばかりのゲームに転生しました。(作者:超高校級の切望)(オリジナルSF/冒険・バトル)

前世で大好きだったゲームに転生したよ。大好きだけどさ………この世界に転生したいとは思わないのよ。人死にすぎるだろこの世界。せめてチートくれチート。


総合評価:11811/評価:8.43/連載:42話/更新日時:2025年01月03日(金) 18:00 小説情報

世界の為に推しとの恋愛を諦めようとしたらヤンデレ化された件(作者:赤坂緑語)(オリジナル現代/冒険・バトル)

この世界が前世でプレイしていた悪魔とエクソシストの殺し合いで年中ヒャッハーしている鬱エロゲームの世界であると気が付いたその日、僕は恋人になってくれた彼女に告げた。▼「ごめん……別れて欲しい」▼ 彼女はこの世界を主人公と共に救うメインヒロインだと知ってしまったから。あとは主人公と一緒に何とか世界を救ってほしいと願っていたんだが――▼「逃がさないよ。絶対に、絶対…


総合評価:19747/評価:8.76/連載:96話/更新日時:2026年08月16日(日) 22:00 小説情報

夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~(作者:サッドライプ)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

或いは異世界転移して閉じ込められた遺跡ダンジョンで意味深に封印されていた眠り姫を勝手に脳内彼女にしていちゃこらする妄想電波を毎日垂れ流していたら実は意識があったので全部聞かれていた話。▼「はい♪あなた様が言っていた恋人同士の睦み合い、全部ぜーんぶやりましょうね!!」「え゛」▼脱出不可能なダンジョンに放り出されてモンスターとバトるか可愛い美少女を眺めるかしかや…


総合評価:6094/評価:8.77/連載:52話/更新日時:2026年08月19日(水) 06:31 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:4269/評価:7.98/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>