物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
レックスの母としての顔も、わたくしの一側面。彼を女として愛しているわたくしですが、それでも腹を痛めて生んだ子だという気持ちもあるのです。
ですから、健やかに育つことを望むもの。ただ幸せであることを願うもの。
ミレアルによってブラック家が襲われて、レックスは明らかに疲弊していました。自覚はしていないでしょうが、眉間にシワが寄ることも増えたのです。
それどころか、食事をしながら考え事をしている時すら。レックスの心が休まる瞬間など、どこにもなかったのでしょう。
ですから、わたくしが動いたのです。アリアの策に乗っかって、もっと進めるために。
幸い、皆は容易く協力してくれました。レックスの負担を、誰もが理解していたということ。そのために動くほどに、慕われているということ。
母として、誇らしいものでした。当然、わたくしの行動は決まっておりました。
レックスに魔力を浸透させて、そこから眠りにいざなう。襲ってきたミレアルの使徒たちは、ブラック家一丸となって打ち破ったのです。
ミルラやジャンが戦術を練り、マリンやソニアやクリスが魔道具を作り、サラやシュテルが指揮する。それらをアリアやウェスが食事などで支える。
そして何より、カミラとメアリ、そしてジュリアが戦い抜く。
結果として、わたくしたちはレックスの安息を勝ち取ったのです。そしてわたくしは、レックスの信頼を。
「ふふ、レックスは無防備にわたくしを受け入れてくれましたわね」
わたくしから送られる魔力に対し、無抵抗でしたもの。レックスほどの実力があれば、対策など容易。それでも簡単に眠らせることができたのですから、どれほどの信頼を受けているかは明らか。
母として、しっかりとレックスを大事にしてきた甲斐がありましたわね。半分ほどは、わたくしが支えられもしましたが。
レックスからも、大好きと言われてしまいましたもの。恋愛感情とは、言い切れないでしょう。それでも、今は十分。
好意さえあるのならば、接触も容易。触れ合いながら、だんだんと距離を縮めていけばよいのです。
「カミラたちの奮起も、噛み合いましたわ。いい流れですわね」
レックスばかりに戦わせられないと思う心。守られているだけで満足できないという意志。そして何より、愛する男のために人生すべてをかけようとする執着。
やはり、カミラもメアリもわたくしの娘ですわね。本当に愛する男のためなら、なんだってできるのですから。
わたくしと同じように、血の繋がった相手を心から愛する業もある。あらゆる面から見て、血ですわね。
結局のところ、血は水よりも濃いということ。これも因果であるというのなら、面白いことです。
「わたくしたちは、やはり協力せねばならぬのでしょう」
お互いにレックスを奪い合っていては、共倒れするのがさだめ。レックスの好みが周囲の輪を大切にする存在であることを抜きにしても、争うのは愚かなこと。
ミレアルという共通の敵に対して、そしてレックスの未来という守るべきもののため、手を取り合う他ないのです。
そして、誰もがそれを理解している。レックスは、本当に見る目がありますわね。彼が愛するものたちは、確かに愛する価値のある存在でした。
レックスがいるからこそ、歪んだ想いを抱えながら協調できるのです。まさに、王の器というもの。
「レックスが安心できる環境を作って、わたくしたち全員が勝つ」
結局のところ、全員が結ばれるように協力するのが最適解なのです。レックスの負担を考えても、好意を考えても。出し抜き合って蹴落とし合う女など、レックスの好みではないのですから。
自分の好意を押し付けるだけでなく、相手の好意を狙って稼ぐ。それができる立派な女ばかり、よく取り揃えたものです。
どう言い繕っても、愛とは奪うものなのです。大切な人の意思を、時間を、心を、体を。
であるならば、奪えるだけに満たす必要もあるのです。ただ乾ききった砂漠から、水は奪えない。水を枯らす愚か者は、レックスの周囲にはいませんもの。
ならば、水源を皆で大事に共有するのが正しき道というもの。
「そもそも、母が妻になることなどあり得ません。愛人がせいぜいですもの」
正妻はおろか、手続きをすることすらできないでしょう。式典など、もってのほか。どうあがいても、側室の立場すら手に入れられない。
わたくしが妻の座を狙うのは、ただ無謀で愚かな道でしかありません。
「であるならば、妻たちを取り仕切る役割を得るのが常道」
レックスの妻は、多くなるでしょう。いえ、そうすることになります。各国との立場、ブラック家の利益、逃がしてはならない才能。
それらを考えた上で、誰と縁を結ぶか。必要な相手全員というのが、解なのです。
レックスとて、誰かを選ぶことに苦しみを覚えるでしょう。押し付けられた結婚にも。ならば、絆を紡いだ者たちで囲い切るというのが最大限の幸福につながるのです。
そして、血縁関係が生きる場でもあります。ブラック家の人間として、母として、立ち回ることができる。
「レックスの未来も、幸福も、わたくしの勝利もすべてをつかみとる。それが、策略というもの」
どうあがいても、妻たちはわたくしを軽んじることなどできないのです。レックスとの関係が良好な母親なのですから。
レックスと私を遠ざけようとすれば、何よりもレックスこそが嫌悪感を持つ。そうと分かっていて、わたくしを排除などできないのです。
そして同時に、妻同士に派閥ができようともわたくしを無視できない。妻すべてに影響力を持たせられる唯一の女は、わたくしになるでしょう。
たとえ妻の座を得られずとも、最終的にわたくしが勝つ仕組みなのです。
「アリアも似たようなことを考えているようですけれど、格が違いますわよ」
妻どうしの関係が悪くなれば、わたくしが間を取り持ちましょう。女を抱くことに疲れたら、ただ抱きしめて差し上げましょう。
わたくしは、ただレックスが困ることを排除するだけ。ただ、レックスの目の前で。
「レックスは、いずれわたくしと安心を関連付けるでしょう」
困ったことがあれば、わたくしに相談する。疲れた時には、わたくしに甘えたくなる。もっと言えば、わたくしの顔を見た瞬間に安らぐというのが理想です。
だからこそ、丁寧に丁寧にレックスの安心を作っていきましょう。怖いことなど、何もないように。
「そう。わたくしが動けば安心できるという状況を作り続ければ」
わたくしが、勝つ。出し抜くために他の女を排除するなど、レックスが相手と考えれば三流でしかない。
愛する男が何を求めているのか知って、的確に差し出す。そうすれば、やがてわたくしに溺れる。
ただ鞘当てをするだけが女の戦いだと思っているのなら、甘いのです。
「母として甘やかし、女として男を満たす」
レックスが疲れた時には、抱きしめましょう。男としてしたいことを、なんでも成功させてあげましょう。経験というのは、こういう時に使うものです。
生娘には取れぬ戦術というもの。わたくしが、明確に先んじられること。
「わたくしが、レックスに男としての自信を授けるのです」
レックスがどれだけ下手であったとしても、わたくしが上手になるように導く。ひとつひとつ、確かに成功させていく。
だんだんと自信を持って、他の女と愛を深める。成功すればするほど、わたくしが優位に立つ。
誰のおかげでレックスが満たされているのか。他ならぬレックスこそが、正しく理解するのですから。
「レックスは、わたくしに感謝するでしょう。自覚的に、返そうとするでしょう」
その恩返しでも、しっかりと喜びましょう。そして、もっと恩を授けていきましょう。返しきれないほどに、多くを。ただひたすらに、積み上げましょう。
いずれ、レックスは恩に押しつぶされるかもしれませんわね。なんて、ね。
「ですが、レックスに強く刻まれた成功体験こそが、わたくしへの依存を深めるのです」
わたくしに相談さえすればうまくいく。だんだんと、私好みに手ほどきすることもできるでしょう。どう立ち回っても、わたくしが勝つ。
ひとつの策で多くの狙いを果たしてこそ、意味のある策と言えるのです。
「女として立ち回ってきた手管は、小娘に真似できるものではありませんわ」
誰にどうすれば、男として満たされるか。レックスの周囲で一番知っているのは、わたくし。その優位を活かさずしてどうするのか。
レックスを狙う女も、逆らえませんわよ。わたくしが居れば、より深くレックスと愛し合えるのですから。
「これが、女の戦い方というものですわよ」
戦うなど、それこそ三流のすること。争おうと思った頃には、もう決着がついている。それでこそ、一流の策略というものです。
わたくしを敵として見ている時点で、勝負の土台にすら立てていない。それを、いずれ思い知るでしょう。
「レックスの幸せを作ることで、幸せとわたくしを結びつけてあげますわ」
ですから、存分に幸せにしてあげますわよ。
わたくしの愛であなたを満たして、ね。