物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
家族みんなとの時間を作って、あらためて休むことの大切さを実感できた。
ということで、みんなにも休む時間を作ってほしいと思う。各所の予定を確認しながら、急ぎではない仕事を後回しにする形で時間を作ることにした。
まずは、学校もどきの生徒たちだ。緊急度の高い仕事は、一番少ないからな。流石に全員が一度に休むことはできないので、いつものメンバーからにはなるが。
その時にまず話を通したのもあって、ミルラも参加することにしてもらった。
知らない人が休みに入ったら大変だろうが、ミルラはまあ気心知れていると言っても過言ではない。
メイドたちに食事を準備してもらって、お茶会のような形になった。
みんな笑顔で食事を食べているので、正解だったみたいだ。
「みんなは、最近はあまり話せていなかったのか?」
「僕とふたりは別々だったからね。ミルラ先生も一緒だと、なんとなく懐かしいよね」
「ラナ様がいらっしゃれば、もっと懐かしくはあったと存じます」
ジュリアがちょっとだけ微笑んで、ミルラが落ち着いて続ける。
まあ、同窓会みたいな雰囲気かもしれない。とはいえ、ジュリアたちがあまり話せていなかったのなら、機会を作れたのは良かった。
3人が仲が良いことなんて、学校もどきの生徒だった時代から知っている。アストラ学園に通った時だって、よく一緒にいたのだし。
こうして思えば、俺としても仲良くしている姿が見られて満足だ。
「レックス様がいらっしゃる時点で、あらゆる場所が至高の領域に至るのです!」
「抱っことナデナデ。頑張ったご褒美」
シュテルは相変わらず狂信者じみた言動をしているし、サラはいつもと同じくおねだりをしてくる。
抱っことナデナデくらいで報酬になるのなら、安すぎるくらいな気もするが。サラの働きを考えると、部署は違えどエース格だと思って良いんじゃないだろうか。
まあ、サラは満足そうにしているのだが。とはいえ、他の要求もあるのなら聞いておくだけの価値はある。
個人的にはもっと報いてやりたいが、対外的にひいきになりすぎても結果的に良くないからな。サラくらい活躍していれば、文句は言わせずに済む。
「みんないつも通りで、なんか安心するな。とりあえず、ちゃんと休めているか?」
「私は問題ございません。レックス様のためにも、最大限の能力を発揮する義務がございますから」
「僕たちが苦しんでたら、一番苦しむのはレックス様だからね」
そういうところを分かってくれているのは、本当にありがたいんだよな。俺のためにと無理をされるのが、一番嫌だ。
みんなが慕ってくれているのが分かるからこそ、頑張りすぎないかは心配だ。
「レックス様のためならば、あらゆる困難をいといません!」
「私が休んでいるのは、レックス様が一番知っている」
シュテルみたいな感じだと、かなり無理をしそうだからな。前にも自分の才能に苦しんでいたのを知っているし、自分を追い込みかねない感じは一番大きい。
サラは余裕を持っていそうでいて、内心にいろいろ抱えていないかは気になるところだ。
なんだかんだで、俺に対してかなり献身的だからな。抱っことナデナデだけであらゆる要求に答えてくれているレベル。
そう考えると、やはり心配ではある。
「まあ、抱っことナデナデだものな。でも、それで疲れが抜けるわけじゃないぞ。シュテルも、気をつけてくれよ」
「こういうことを言うのもどうかと思うけど、心配されるのって羨ましくなっちゃうよ」
ジュリアはふたりをじっと見ている。声が上ずっているし、冗談半分本音半分といったところか。
まあ、気持ちは分かる。誰かに心配されるというのは嬉しいことだからな。モニカに甘えた時に、特に実感できた。
「だからといって無理をするのだけは、やめてくれよ? 本当にやめてくれ」
「あはは、分かってるよ。シュテルのことは、サラが面倒を見るんじゃないかな」
それはそれで、サラの負担が増えそうではあるが。とはいえ、シュテルひとりにするのも不安ではある。溜め込みがちな性格に見えるから、誰かと一緒がいいのは間違いない。
「私の方でも、仕事の量は管理させていただいてございます」
「レックス様がもっと抱っことナデナデしてくれるのなら、しっかり面倒を見る」
図々しい要求に見えて、本当にささやかな願いだからな。それこそ大金を要求してもいいだけの仕事はしているんだ。
やはり、サラの献身に甘えている部分はあるのだろう。とはいえ、だからといって頼るのをやめるのも問題がありそうではあるが。
サラはブラック家で立場が強いとは言い切れないからな。よそを相手にすれば、余計にだ。
そういう意味でも、実績を与えてやるのも大事なこと。気遣いすぎても逆効果だよな。
「もう、サラ! レックス様のご厚意に甘えるのは……」
「なら、シュテルが控えれば良い。そうすれば、私の仕事は減る」
「うっ……」
サラにジトッとした目を向けられて、シュテルは胸を抑えていた。
自覚しているのなら、どうしてあそこまで暴走してしまうのだろうか。昔は相当な常識人だった記憶があるんだが。
まあ、相当な恩を売った自覚はある。飢えて苦しんでいたところに生活も教育も与えたし、魔法だって使えるようにしたのだから。
とはいえ、それで暴走されると困る部分もあるのは事実なんだよな。だからといってシュテルを嫌いになることは、ありえないが。
「ははは、これは一本取られたな。シュテルも、加減を覚えてくれよ?」
「レックス様が、そうおっしゃるのなら……」
シュテルは渋々という様子でしかない。とはいえ、まあ何度も暴走してきたからな。致命的なミスそのものはないから、理性自体は働いているのは分かるが。
だからこそ怖いんだよな。つまり理性を持ったまま狂信者じみた言動をしていることになるのだから。どういうことだよ。
「信用されてない目だね。僕には分かるよ」
「私にも分かるけど! そこまで言わなくていいじゃない!」
「シュテル、ずっと過激。私は時と場合を選んでいる」
「ずっと抱っこばっか言ってる人に説教されるほどなの!?」
シュテルはかなりショックを受けた顔をしている。まあ、一般的に言えばサラも問題のある言動の方ではあるか。
貴族の主に、というか今は王もやっている存在に、ただの平民が気軽に抱っことナデナデをねだる。まあ、この世界の価値観ではかなりまずいのは否定できない。俺は嬉しいし受け入れているが、相手次第では打首すらあり得るレベル。
そう考えると、シュテルの言動はこの世界の常識寄りなのか? いや、まさか……。
「ま、まあ……否定はできないな……」
「レックス様が、そうおっしゃるのなら……」
「ふふ、同じセリフでございますね。しっかりと守っていただきましょうか」
「ちゃんと守ったら、抱っことナデナデ」
「それはずるいわよ! 私が我慢するんだから、ご褒美は私が……!」
サラがじっとこちらに寄ってきたあたり、本気の要求も半分はあったと思う。だからシュテルも奪われかねないと思ったということ。
なんというか、掛け合いで仲が良いのが分かるよな。俺を取り合っているのでなければ、素直に微笑ましい。
「言い出しっぺの僕も、良いことがあって良いんじゃないかな?」
「ちゃんとみんなの分は用意するよ。そもそも、減るものじゃないからな」
「では、私が要求しても構わないと存じます」
「ミルラまで!? いや、本気なら構わないが……」
ミルラだけでなく、みんなクスクスと笑っていた。
「あはは、今回はレックス様の負けだね」
完全に、その通りだ。主の威厳も何もあったものじゃないが、俺達の関係はこれで良いのだろう。
これからも、しっかりと仲良くしていきたいものだ。