物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
学校もどきの生徒たちとの時間は、割とうまく行ったと思う。そこで、次は研究者組との時間を取ることにした。
急に話を持っていっても負担が増えるだけなので、一週間ほど前に通告してから。
それで今日話をすることになったのだが、ブラック家の中にある研究室で話をすることになった。食事は本当につまむものという形らしい。
どんな話をするかを考えながら部屋に入ると、いくつかの魔道具にも出迎えられた。
「レックス様のお題があったので、休憩できる魔道具も研究してみたのです」
椅子のようなものを指しているマリンと、隣でニコニコしているソニアにクリス。なんというか、言い回しに失敗しただろうか。
余計な仕事を増やしてしまったのなら、本当に意味がないんだが。まあ、少なくともマリンは研究が趣味で生きがいみたいな人に見えるから、寝ている時間以外は研究していてもおかしくないが。
楽しみを奪うのもそれはそれで問題ではあるものの、体を壊さないようにだけしてほしい。それさえ守ってくれれば、他に文句を言うつもりはない。研究者組は、ここからの人生で何もしないとしてもお釣りが来るくらいの活躍をしているのだから。
「休んでほしいという意図だったんだが……。なら、せめていま休んでくれ」
「ふふ、じゃあこの椅子に一緒に座ってくれるー?」
先に座ったクリスが、太もものあたりをポンポンとしていた。その仕草だと、上に座れってことになるんだが。
もはや一緒にを通り越してカップルのイチャつきじゃないか。それも、かなりアツアツのカップルだぞ。
クリスたちの距離が近いのは感じていたが、ものすごいことになっているな。
「一緒にって……いろいろとまずいだろ!」
「じゃあ、仕方ないね。別々の椅子にしよっか」
「最初からそうしてくれよ! 変に緊張しちゃったじゃないか!」
他にもあるらしいので、倉庫みたいな場所に案内されて運んでいった。みんなで椅子に座り込んで、魔道具を起動させる。
すると、椅子の背もたれなどが動き出して、背中や太もものあたりを揉みほぐし始めた。
もっと言うと、軽い電気刺激のようなものまで流れている。マッサージチェア超豪華版といった感じのものができているんだが、どういうことだ?
まあ、実際のところかなり気持ちよくはあるが。ため息がこぼれる感覚があった。
「ふぅ~。自分で使ったのは初めてですが、これは効くのです……」
マリンは顔をとろけさせているし、クリスやソニアも気持ちよさそうにしている。
なんというか、あんまり男が見て良い顔でもない気がするが。3人とも、今でもしっかり美人ではあるにしろ。
無防備な姿を直視してしまっている感じがあるので、なんか罪悪感がある。
まあ、指摘したら余計にダメになるやつだ。黙っておくのが正解。いい加減学習しているんだ、俺も。
「確かに気持ちいいな……。これは貴族にはかなり売り出せそうじゃないか?」
「レックス様こそ、仕事のことばかりだね」
「人のこと言えないんだー。お仕置きに、ギューってしちゃおうかなー」
ソニアとクリスの言葉には、まるで反論できない。休憩する時に魔道具の売り出し方を考えるのは、もはやワーカーホリックか何かじゃないだろうか。
まあ、当主で現状では国王のような立場であることを考えると、休んでいる暇がないのも分かるが。
とはいえ、それでも休むべき時には休まないとな。決戦の時に疲れて実力を発揮できませんでは、困るどころの騒ぎじゃない。
だからといって、クリスにギューッとされるべきかというと、まあ。
「それはご褒美……というと、語弊があるが……。罰とは思わないぞ……」
「あはは、レックス様ってば照れてるー」
「健全な興味もあると、安心できるよね」
からかうような顔のクリスはともかく、優しい顔で見てくるソニアはどういうことだよ。
いや、言いたいことは分からなくもないが。
「いったい、俺をなんだと思っているんだ? 普通の男子だぞ……」
「普通と言うには、実績が大きすぎるのです……」
「ま、まあ、それは否定できないが……」
「ちゃんと分かってるよ。レックス君が時々不安にもなって、普通に女の子にも興味があるんだって」
本当に慈しむような目で見てくれているから、俺を等身大の人間として見てくれていることは伝わる。
それはそれとして、不安になるのは良いとして、女の子に興味があると言われるのはちょっと気になる。
なんか、ナンパ男みたいな評価じゃないか? 俺はそういう感じではないと思うのだが。
「合っているが……。なんか、もう少し言い回しはどうにかならなかったのか?」
「こういうところは、年頃なんだねー。恥ずかしがらなくてもいいのにー」
「ふふ、ちょっと反発的なのも、可愛いよね」
本当に可愛いものを見る目をされている。まあ、年下であることを考えれば妥当ではある。あるのだが、俺には普通に前世もあるんだ。
だから、普通に年頃みたいに扱われるのは困るぞ。精神年齢が幼いみたいじゃないか。
「あんまり可愛いとは言われたくないんだが……」
「そういう態度が、可愛いと言われる原因なのです」
「うん。年頃の男の子って感じだよね」
「ちょっと早熟って気もするけどー。全体的には、そうだよねー」
くっ、追撃までされてしまっている。もはや、みんなの目には年頃の男子としか見えていないようだ。
いくら外見のことがあるからって、もうちょっと頼りになると思ってくれても良いんだぞ。ダンディは無理があるにしろ、包容力があるとか。
そんなことを自分で言ってしまえば、余計に墓穴を掘るだけ。分かっているから、反発もできない。
「それは……そうなんだが……」
「あはは、照れてるー」
「でも、なんだかんだで私たちの態度は嬉しいでしょ?」
クリスもソニアも、全力でからかってくる。いや、それが悪いと言っているつもりはないが。
とはいえ、もうちょっと尊敬してくれても良いんじゃないか? 仮にもみんなの主なんだぞ。
いや、立場を傘にきるつもりはないし、それで恩を売ろうというつもりもないが。ないが。
「否定はしないが、否定しなかったら俺がからかわれるのが大好きみたいじゃないか!」
「レックス様は、親しげに接してくる人に弱いのです」
「気を張る時間が多いのが原因みたいだよね。やっぱり、負担は多いよね」
「だからこそ、私たちの出番ってことだねー」
まあ、合っている。合っているのだが、じっくり見ながら言われると本当に困る。
もはやマリンたちには何を言われても許せそうではあるが、だからといっておもちゃにされるのが嬉しいわけじゃないぞ。いや、親しくしてくれるのは嬉しいが。
「冷静に分析するのもやめてくれないか! 聞かされる身にもなってくれ!」
「私たちを受け入れたのが最後かなー」
「そうだね。レックス様は私たちを嫌いにならないって、確信しちゃったから」
さっきまで考えていたことが、完全に見抜かれている。こうなってしまえば、何を言っても無駄だ。まさか、みんなを本気で叱責などできないのだし。
一般的な価値観で言えば失礼な部分もあるとは分かるのだが、バカにしてとかじゃないのは分かる。本当に気を許してくれているだけだからな。
だからこそ、余計に厄介という話もあるんだが。だんだん逃げ場がなくなっていないか?
「信頼の証だと思えば、嬉しいのか? ふ、複雑だ……」
「これも、クリスとソニアの親愛表現なのです。拒絶しますか?」
「するわけ、ないが……」
「じゃあ、私たちのしたいようにするね」
「レックス様に、やりたい放題だよー」
俺はもう、うなだれるしかなかった。
もはや、ソニアたちのおもちゃになるしかない。そんな運命を、静かに受け入れていくのだった。