物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
みんなの休みを確保する計画は、家族から学校もどきの仲間、そして研究者にまで続いた。いずれは俺に関係なく休憩を仕組みとしたいところだが、まだ状況が許さないだろう。
ひとまず、今の俺にできる範囲で少しでもみんなに休んでもらうしかない。
ということで、次はメイドたちの休息を作る番。そのために、かなり予習をしておいた。
「ご主人さまが、今日はお世話してくれるんですかっ」
ウェスの言うように、今日は料理から何まで一通りのお世話をするつもり。素人が変に気合いを入れたら事故になりかねないので、とても簡単なものを予習してからだが。
方針としては、ふたつ。凝らない。カッコつけようとしない。それだけ。
今回の件で最大の失敗は、ウェスやアリアに余計な手間をかけさせること。そうならないように、変な真似をしないことが最優先だ。
「一応な。皿を割ったり肉と野菜を同じ包丁で切ったりしない限りは、任せてほしい」
「レックス様が勉強なさっていたことは、知っています。安心して見守っていますね」
ということで、用意しておいた食材を調理していく。足がつきそうなものは使い切れるように、しっかりと調整しておいた。
これで献立とかを急に変える羽目になったら、迷惑だからな。そういうところから、確実に。
予習しておいた通りに、食材を切って火を通していく。剣技の練習とかもあって、狙った通りに体を動かすことは少しも難しくなかった。
「ご主人さま、とってもお上手ですっ」
「ふたりに見せるのは恥ずかしくはあるが、まあ勝手に失敗して余計な迷惑をかけるよりはな」
「その配慮ができている時点で、気持ちは伝わってきますよ」
「ご主人さま、やっぱりとっても優しいですっ」
なんか褒められてばかりだが、顔を見る余裕もない。食材と格闘しながら、とにかくちゃんとした料理になるように気を配っていた。
味見できる段階になったらしっかり味見をして、うなずく。
これなら、人に食べさせても大丈夫だろう。アリアやウェスの料理とは比べ物にならないが、ちゃんといける。
「さ、そろそろか。焦がさないようにだけ、気をつけないとな」
最後に火加減だけ調整して、料理は完成した。まあ、肉野菜炒めとご飯とスープみたいなシンプルな料理でしかないが。
魔道具がなければ、もっと苦労していただろうな。本当に、ふたりには頭が下がる。
皿に盛り付けをして、調理に使った道具をながめる。
「とりあえず、水につけておいて後で洗えばいいか?」
「そうですねっ。最後まで、ご主人さまにお任せしますっ」
「洗い物のことまで考えてくださるとは……。正直、予想以上でした」
とりあえず、これで問題なさそうだ。なんか妙にやる気を出した旦那が結局家事を増やしたみたいなエピソード、前世でよく聞いていたからな。
俺としては、本当に休めるようにしたかった。メイドの数を増やすのが、一番早くはあるのだろうが。
とはいえ、信頼できる相手を探すのも難しい。そもそも、アリアとウェスじゃ足りないというメッセージになりかねない。
手っ取り早い解決法はないというのが実情だ。
なら、せめて今日くらいはゆっくり休んでほしい。
「手伝っているつもりで余計な手間を増やすのだけは、避けたかったからな」
「嬉しいです。レックス様の人柄が伝わってきますね」
机まで運んでいって、隣り合う席に食事を並べていく。こうして隣で食べられることは、お互いにとって良い選択のはずだ。
アリアもウェスも、俺に親しみを感じてくれている。自分で言うのは自意識過剰みたいで恥ずかしいが、間違っていないはず。
ふたりはさっそく食事を口に運んで、よく噛んでいる。顔がほころんだので、悪くなかったみたいだ。
「これ、美味しいですっ。いつもより味が濃いので、新鮮ですねっ」
「男の料理という感じがしますね。ふふ、とても良い気分です」
まあ、俺好みに近い料理ではある。というか、女子が好きそうなメニューは大体手間がかかる上に難易度が高い。初心者が変にやろうとすると、大失敗しかねなかった。
もっと慣れてくれば、ウェスやアリアの好みに合わせたくもあるのだが。今は実力が足りない。
「なら、良かった。喜んでもらえるか、不安だったんだ」
「ご主人さまがしてくれるのなら、なんでも嬉しいですよっ」
「ふふ、そうですね。私たちのために努力してくれただけで、満たされます」
まあ、俺も逆の立場なら同じことを言いそうではある。だから、素直に褒め言葉として受け取っておこう。
実際、本当に喜んでくれそうではあるんだよな。それだけの関係を築けたとは信じている。
「ところで、食べて食器を洗った後にしてほしいこととか、あるか?」
「按摩ですかねっ。モニカ様にしているの、知っていますからっ」
「良いですね。私も体験してみたいです」
そういう依頼を受けたので、まず食器を洗ってからベッドに横になってもらうことにした。
なんか俺の部屋ですることになったので、いかがわしいことみたいな雰囲気が出てきもしたが。
とりあえず、二人はベッドの上に座って俺を待っている。
「うっかり変なところに触っちゃっても、良いんですよっ」
「しないぞ!? ちゃんと本気でほぐすから!」
「事故があったとしても、それはそれで嬉しいんですけどね。なんて」
ちょっと色っぽい顔をしていた。その手の誘惑みたいで、本気で困るんだが。
ウェスが嫌いなわけではないし、そういう関係になれたなら嬉しいだろう。
だが、それとこれとは話が別。しっかりと節度を守るのが大事なんだ。
「やめてくれよ! 変な気分になったら、どうするんだ!」
「処理するのも、メイドのお仕事ですよっ」
「レックス様は当主で、私たちは独身です。お好きなように、どうぞ」
手を広げてウェルカムみたいな姿勢を取られてしまう。いや、確かにそういう関係があるのは聞いたことがあるが。
だからといって、無節操に手出しできるはずもないだろ!
「待て待て……! とりあえず、アリアからな……!」
うつ伏せになったアリアを、しっかりとほぐしていく。
時々色っぽい声も上げられて、かなり反応に困った。ウェスは笑顔で見つめてくるし、変な店みたいに思えてきたほど。
無心になるように念じつつ、俺はただ真剣にほぐしていった。
終えると、アリアは満足げに立ち上がっていた。
「ふふ、心地よかったです。ウェスさんも楽しんでいただけると思いますよ」
「ご主人さまの按摩、楽しみですっ。いっぱい、味わいますねっ」
「だから、そういうことを言うと……!」
「ふふ、レックス様には好きにする権利があるんですから」
「じゃあ、好きに真面目にさせてもらうからな……!」
特に反論もされずに、ウェスもうつ伏せになっていく。
触る前はなんかお尻を振っていたりしたのだが、さすがにマッサージに入ってからは動かなくなった。危ない行動だと分かっていたのだろう。
なんというか、メチャクチャやっていても節度を守っている人が多い。だから怒れないというか。
頑張って終えると、ウェスはため息をついていた。
「はふぅ……。 とっても、気持ちよかったですっ」
「喜んでもらえたのなら、良かった」
「疲れが抜けるって、あんな感じなんですねっ」
「想像以上に手慣れていて、驚きました」
二人とも満足してくれたみたいで、助かる。もう押せ押せにはならないみたいだし、そっちも。
やはり、からかわれていただけだったか。本当に俺が暴走したら、どうするつもりだったんだ。
「満足してくれたのなら、良かったよ。また、機会があったら頼む」
「立場が逆ですよっ。ご主人さま、ありがとうございましたっ」
アリアもウェスも、頭を下げてくれる。その後、笑顔を見せてくれた。
なんというか、俺の方が元気をもらっているくらいかもしれない。
だからこそ、少しでもみんなが楽をできるように努力をしないとな。変に意地を張らずに頼ることも含めて。