物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
一通りみんなと休む時間を作って、より戦いへの活力を手に入れられたと思う。
まあ、ミレアルの言うとおりなら、しばらくは準備期間になるのだろうが。これまでの感じからして、俺を裏切る理由はなさそうだ。
どうにも、伴侶としたいという言葉も本音に聞こえる。だからこそ厄介ではあるのだが。
まあ、俺にできることはそう多くない。自分を鍛えつつ、あちこちを視察したり指示をしたりという程度。
あんまり口出ししすぎても邪魔になるとは思うので、最低限ではあるが。
そんなこんなでブラック家の色んな場所を見て回っていると、訓練をしているジュリアが目に入った。俺に気づいた様子のジュリアは、すぐにこちらに駆け寄ってくる。
「レックス様、今は大丈夫?」
ちょっと不安げな様子で問いかけてきた。言い回しからして、そこそこ大事な話がありそうだ。
まあ、本人的に重要という時点で聞く意味はあるな。利益だけ考えても、ジュリアは重要な戦力なのだから。
それを抜きにした俺の考えなど、今更語るまでもない。
俺は迷わずに頷いていく。
「ああ、問題ない。どうしたんだ、ジュリア」
「僕を守ってくれたお礼、まだ言っていなかったような気がして。ありがとう、レックス様」
ジュリアは深く頭を下げていく。お礼くらいは言われたような気もするが、まあこういうのは気持ちが大事だからな。
あらためてしっかり言うのも、それはそれで大事なことだ。
俺も、いろんな人にお礼を言いたくなったからな。思い出した時に言っておくだけでも、意味がある。
「気持ちは受け取るが、気にしなくて良い。逆の立場なら、同じことをしてくれただろ?」
「もちろん! レックス様のためなら、どんなことだってできるよ」
少しだけ冷たい目をしながら言っている。察するに、神殺しも含めてなのだろうな。
無理してほしくない気持ちはあるが、絶対に俺ひとりでは勝てない。ミレアルが準備しろというのだから、よほどの試練が待っているに決まっている。
それなら、しっかり頼ることがむしろみんなの安全につながるはずだ。
ジュリアだって、俺を支えようとしてくれている。その気持ちだって、無視はできない。
「だから、それで十分だ。ジュリアさえ無事でいてくれるのなら」
「確かに、逆の立場なら僕も同じことを思うかも。なら、これ以上頭を下げるのも余計かな」
「ああ。どうしてもというのなら、笑顔を見せてくれるだけでいい」
「意識するってなると、難しいかも……。思ったより、変な顔になりそう……」
ジュリアはちょっと引きつったような顔をしている。まあ、気持ちは分かる。なんというか、意識してやるのは難しいことだよな。
貼り付けたような笑顔なら簡単ではあるが、それはお互いに望むものではないのだし。
「ジュリアだって、意味は分かっているだろう? そういうのじゃない」
「確かにね。レックス様が作り笑顔だったら、逆に心配になっちゃうよ」
「ああ。だから、別の言い方をするなら……」
「一緒に楽しい時間を過ごしてほしい、で当たってる?」
ウインクをしながら言われた。もはや、俺の気持ちはバレバレみたいだ。まあ、同じようなことを何度も何度も言っているからな。ずっと付き合ってきた相手なら、当然分かっているか。
「そうだな。完璧だ。といっても、ジュリアの時間を奪うことでもあるが……」
「あはは、その先は言わせないでほしいな。分かるでしょ、レックス様」
ジュリアが俺のことを理解してくれているんだから、同じくらいは返したいところだ。
まあ、いくら俺でも分かる。ジュリアは望んで俺のそばにいてくれている。支えようとしてくれている。実際に、何度も尽くしてくれている。
最初から疑う気持ちなんてないが、まあ言葉にするのも野暮な話。
だったら、素直に受け取るのが大事だよな。俺だって、逆の立場なら同じことを思う。ジュリアと同じだ。
「……ああ。ジュリアの気持ちに対して、失礼な話だったな」
「だからといって、謝罪はいらないけどね。それも、分かるでしょ?」
そんなことよりも、もっと言うべき言葉がある。ジュリアだけでなく、みんなに伝えるべき言葉が。
俺達の関係だとしても、何度でも言って良いことだよな。というか、言うべきだろう。感謝の気持ちを忘れるような自分では居たくない。
みんなはきっと、ずっと俺を大切に思ってくれるのだろう。それにふさわしい俺であるのが、最大の恩返しだよな。
「もちろんだ。ありがとう、ずっと俺のそばにいてくれて」
「こっちこそ、だよ。本当は、僕とレックス様なんて釣り合わないんだから」
「まあ、社会的な立場としては正しいか」
「うん。レックス様だから許してくれているだけで……」
貴族であり、王でもある。そんな人間が、ただの平民を重用するのは難しいからな。俺の気持ちがどうあれ、ジュリアがただの凡人あらば引き離されていたかもしれない。
もっと言えば、俺が憑依するまでのレックスであれば、平気で無礼討ちのようなことをしていただろうな。
まあ、そんな未来は訪れない。訪れさせない。
「だが、それこそが俺の意志だ。ジュリアが大切で、信じているからこそ」
「もちろん、分かってるよ。だから、レックス様が大好きなんだからね」
「俺もだ。ジュリアがいてくれたおかげで、どれだけ幸せになれたか」
「あはは、そう言われると、恥ずかしいね」
顔を赤くして、頬をかいている。まあ、照れくさいという気持ちは分かる。俺だって、大好きだと言うことは難しくもあるからな。
どういう感情であれ、好きということを表に出すのは勇気がいること。それをしてくれたジュリアに、しっかりと返していかないとな。
だから、俺はジュリアの手を取った。
「ジュリア。あらためて、俺のところに来てくれてありがとう。そのおかげで、俺は幸せなんだ」
「僕は助けてもらっただけだよ。だから、お礼を言うのは僕の方かな」
「お互いが幸せになっているのなら、それが一番ではあるか」
「うん。僕はレックス様が一緒にいてくれるだけで、幸せだよ。だから、レックス様のために頑張るんだ」
ジュリアの目は、少しも揺れていない。それがどれほどの本気なのか、とても強く伝わってきた。
だからこそ、絶対に負けられない。ジュリアを大切にする気持ちでも、これからの戦いでも。
「そうか。一緒に、ミレアルに勝とうな。その先に、ずっと一緒にいよう」
「もちろんだよ! 嫌って言っても、遅いんだからね」
嫌なんてこと、言うどころか思うはずもない。これまで、ジュリアがどれだけ尽くしてきてくれたか。それを思えば、迷うことすら許されないレベルだろう。
まあ、自分に強制するような考えでジュリアから離れないのも、それはそれで望まれないだろうが。
そんな優しくて強いジュリアだからこそ、裏切ったりなどするものか。
「言うわけない。どんな未来が待っていたとしても、絶対に」
「なら、ずっとよろしくね。約束だよ、レックス様」
そうして、俺達は指切りをした。
暖かい手の感触が、強く俺の魂に刻まれた。