物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
僕はミレアルの使徒によって狙われていた。集団で囲まれて、武器を突きつけられながら。
なんでも、ミレアルによって選ばれた僕を連れていきたいとかどうとか。話の中身そのものに興味はなかったけれど、僕の無属性がきっかけなんだとは分かった。
それで、迷わず殺すつもりではあった。ブラック家の敷地に潜入している以上、レックス様の敵であることは明らかだったから。
ただ、すぐにレックス様がやってきて、敵を打ち破ってしまった。僕を絶対に渡さないと、強い意志で宣言してから。
結局、僕はいったん休むことになったんだけど。正直、あんまり休める気はしなかったかな。
「また、レックス様に助けられちゃったな」
僕が襲われているのについては、レックス様が魔力を検知したんだとは思う。いろんなところで、誰かが危険な目にあっているのをすぐに察知していたし。
それに、僕自身にもレックス様の魔力を侵食されているからね。だから、僕の状態はすぐに分かったってこと。
だからつまり、僕が危ないって思われたってこと。素直に戦っていたら、負けていたかもって心配されていた証。
レックス様の優しさなのは、もちろん分かっている。だからこそ、震えるくらいに悔しかったんだ。
「僕ひとりでも勝てるくらいに強ければ、それで良かったのに」
レックス様に助けてもらわなくちゃいけないくらいに、弱いってこと。せっかく無属性を持っていても、使いこなせていない。
単純な出力なら、最強。マリンさんにもレックス様にも言われたこと。それで足りていないんだから、僕の努力そのものが不足しているってこと。
レックス様に任された仕事があるなんて、言い訳にもならない。だって、レックス様はもっと大変な仕事をこなしながら強くなっていたんだから。
ブラック家の当主で、いつの間にか帝国の皇帝になっていて、それで聖国とか連邦とかでもいろいろとしていたみたいだし。
ただ毎日仕事をこなしているだけの僕なんて、比較にならないくらい忙しい。
それでも、僕はレックス様に追いつけていない。だから、真剣さが足りないのかもしれない。
本当に、僕は何をしているんだろうね。レックス様を守るって、誓っていたはずなのに。
「レックス様は、戦いなんて嫌いな人。僕は、誰よりも知っているのに」
僕たちを守るために、ずっと無理をさせている。それもこれも、レックス様が強くて手札が多いから。
無属性である以上、手札の数にはどうしても限界がある。だからこそ、せめて強さだけはレックス様に勝っていなくちゃいけないのに。
僕たちみんな、レックス様にずっと助けられてばかり。サラやシュテルも、同じこと。
それぞれの場所で力を発揮しているというのは、レックス様の慰めというわけじゃない。僕ですら、普通の人よりはよほど活躍しているという自覚はある。
だけど、誰もレックス様に釣り合っていない。右腕のジャン様やミルラさんですら。それが現実。
僕たちは、誰ひとりだって本当の意味でレックス様と助け合ってなんていない。助けられている分の方が、誰だって多い。
そんな状況に、甘えていて良いはずがない。少なくとも、僕だけは。
だって、そう。レックス様の流した涙を、忘れるはずがない。目の前で泣いていたことを。僕たちのために、泣かせてしまったことを。
「お父さんを殺させた時みたいな気持ちに、絶対にさせちゃいけないんだ」
レックス様は、僕たちと生きるために彼の父を殺した。直接は言われていないけれど、誰にだって分かること。
本人の話を聞く限り、良いお父さんではなかったんだと思う。少なくとも、レックス様の父にふさわしい善人ではなかった。
けれど、肉親なんだ。僕は違うけれど、普通は大切に思うものだよ。
たとえレックス様に憎まれたとしても、彼自身の手を汚させるべきじゃなかった。きっと、消えない傷を刻みつけてしまったんだ。
「本当は、僕が代わりに手を汚さないといけない」
お父さんの話だけじゃなくて、誰と戦うとしても。レックス様の苦しみを、少しでも軽くするために。
きっと、僕が代わりに殺したって自分を責める時はあると思う。それくらいに、優しい人だから。
だとしても、自分の手を汚すよりマシなはずだから。僕の選ぶべき道は、決まりきっているんだ。
「人を殺したって、僕の心は痛んだりしない。だからこそ、僕が……」
本当に、やるべきだったこと。
ほんと、自分を殴りつけてやりたいくらい。そんなことをしても、レックス様が悲しむだけなんだけどね。
僕が傷ついてしまえば、それ以上にレックス様が傷つく。分かっているから、変なことはできない。
だからといって、弱いままでいて良いはずがないのに。
「なんてザマだ。レックス様はいくつも新しい技を覚えて、僕だけが止まっている」
レックス様は、合一も新しい剣技も覚えた。その時間で僕ができたことは、せいぜい範囲攻撃を覚えたことくらい。
確かに便利な手札ではあるけれど、とてもじゃないけど十分とは言えないよ。
レックス様ばかりが、戦力として重要になっていってしまうんだから。
「本当は、立場が逆であるべきじゃないか」
もっともっと、僕は強くなるべきだった。レックス様に勝てるくらいに。安心して、僕に戦いを任せられるくらいに。
なんて、レックス様はきっと心配してくれるんだろうけどね。僕の強さに関係なく。
それでも、もっとできたことはあったはずだよ。心配を少しでも減らすことは、僕の義務だった。
「主に戦わせて、それで良かったの?」
答えなんて、決まりきっている。
僕はただ、レックス様に甘え続けていただけ。自由に生きることを望まれていたから、自分を追い詰めきれなかった。
限界を超えるくらいに、底まで沈めなかった。
違うね。レックス様のせいにするべきじゃない。僕自身が、甘かったんだ。
「いや、悔やんでいる場合じゃない。僕のやるべきことは、少しでも強くなること」
そう。過去を悔やんでいても、未来は変わらない。レックス様を少しでも楽にするために、僕ができること。
ただ、強くなることだけ。他の道なんて、ないよ。
「剣技でも合一でもなんでも良い。とにかく、新しい手札を……」
レックス様は、いろんな技を覚えていたんだから。僕は、ずっと成長していない。
だからこそ、とにかく何かを変えないといけない。
「いや、いま持っている技の精度を上げるのが先……?」
少しだけ立ち止まって、考えてみる。僕の目標は、レックス様の敵を倒せるくらいに強くなること。
そう。新しい技を覚えることじゃない。レックス様の役に立てるのなら、レックス様の敵を代わりに殺せるのなら、手段は何だって良い。
魔道具に頼っても良いかもしれない。シュテルやサラたちと協力しても良いかもしれない。
僕が最も優先すべきことは、レックス様のためになることなんだから。
「とにかく、なるべく訓練と実戦で磨き上げるしかないよね」
戦いもあるから、負荷の大きい訓練はできない。また甘えかとも思ってしまいそうになるけど、ここは引くべきだよね。
もし僕が失敗でもしたら、苦しむのはレックス様なんだから。僕だけが傷つくのなら、どうでもいいけれど。
レックス様のことを考えたら、無責任なことはできない。
「レックス様は、ずっと悩んでいるんだ」
戦いに、僕たちの危険に。だから、余計なことはできない。
少しでも強くならなくちゃいけないけれど、レックス様を心配させてもいけない。
難しいよね。とっても。
でも、やり遂げなくちゃいけないんだ。
「僕が代わってあげないといけないよ。そのための、無属性なんだから」
僕が特別な存在に生まれた理由があるのだとしたら、それはレックス様を支えるため。
どんなことがあったとしても、決して変わらないことだよ。
「ミレアル相手にだって、通してみせなくちゃ」
僕の魔力を。僕の技を。威力だけなら、レックス様だって超えられる。そうお墨付きを得た力なんだから。
きっと、決め手にだってできる。ただ一撃を、極め抜くだけなら。
「今はまだ、一撃の威力と範囲を上げることしかできないけれど……」
もっと先に、進んでみせる。他の誰でもない、レックス様のためだけに。
「絶対に、レックス様を苦しめさせたりしないから」
約束するよ、レックス様。
僕の魂に、誓ってみせるから。