物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
レックス様が今回の試練を乗り越えて、僕たち全員にミレアルの声が届いた。
女神らしく、超然とした態度。僕たちすべてを見下ろすかのような傲慢さを感じるほど。
まあ、きっと間違っていないんだろうね。女神にとって、人間なんて小さな生き物なんだろうから。簡単に潰せる虫と大差ないのかもしれない。
それでも、レックス様を伴侶として選ぶようなことを言っていた。許せるわけがないよ。
僕たちから、レックス様を奪おうとすること。そして何より、ミレアルと結ばれてもレックス様は幸せになれないこと。
ふざけたことを言うやつだと、思ったものだよ。
結局、僕たちみんなで挑む敵ということになった。レックス様を、みんなで支えることになった。
その準備を、今は進めているところ。
「女神ミレアル……。あれが、レックス様の敵……」
そして、僕たちの敵。レックス様を自分のものにしようとして、人生を弄ぶ邪神。
試練なんてものがなければ、レックス様はとっくに自分の幸せを手に入れていたはずだよ。だって、王国の抱える問題のほとんどは解決していたんだから。
ミレアルは、結局は自分のためだけにレックス様を苦しめた。
そんなこと、許せるはずがない。
ただ、ミレアルの愛情そのものは本物なんだろうね。そうじゃなきゃ、わざわざたったひとりのために試練なんて与えない。
ミレアルは、形はどうあれレックス様への愛自体は示したんだ。
レックス様だけを、ただ見つめるように。
「なんか、僕たちと似てるような……。いや、そんなわけないか」
浮かんだ変な考えを、さっさと振り払う。少なくとも、僕たちはレックス様の幸せを願っている。あんな風に、苦しめようとなんてしていない。
レックス様の気持ちも考えずに、ただ自分の感情を押し付けるだけ。そんな存在と、僕たちが似ている? 冗談にもほどがあるというものだよ。
僕が同じ力を持っているのなら、レックス様の敵を皆殺しにしてあげるのに。罪悪感なんて覚えないように、事故みたいに。
その一点だけでも、僕たちとミレアルは比べるまでもないよ。
「確かにとんでもない力を感じるけれど……。だからこそ……!」
折れたりなんてできない。レックス様の人生を、ミレアルなんかの好きにはさせない。
どんな手を使ったとしても、絶対に打ち破るべき相手なんだ。あれだけは、認めることなんてできない。できるはずもない。
僕たちの手で、ミレアルを打ち破ってみせるんだ。どんな試練が待っていようと、関係なんてないよ。
「レックス様が技を思いつくきっかけになったくらいで、満足なんてできない」
僕の技を見て、何かを思い浮かべていた。確かに、きっかけになったんだと思う。
もっと言えば、僕が会話で引き出したからこそという部分もあるはず。だからどうしたって話ではあるんだけどね。
レックス様のお役に立てたのなら、もちろん嬉しい。けれど、本当に僕が果たすべき役割は違うものだったはず。
結果的には、レックス様の新技でブラック家のみんなが守られることになった。僕もいくらか使徒を倒しはしたけれど、それだけ。
結局は、レックス様に頼り続けてしまう。彼がいなければ、決して切り抜けられなかった。
僕はまた、レックス様に助けられただけだったんだ。
「僕自身の手で、レックス様の敵を打ち破らなくちゃいけないんだ」
いつまでも、同じことを繰り返しているだけじゃダメだよ。レックス様がいくら強いからって、頼るだけで良いはずがないんだ。
今回だって、僕がブラック家のみんなを守れるのなら良かった。ちゃんと強くなっていれば、不可能でもなかったはずだよ。
だからこそ、次はミレアルを倒す決め手を作らなくちゃいけない。僕が持っている特別で。無属性で。
「そうでなくても、ミレアルに痛手を与えるくらいの強さは絶対に必要だよ」
レックス様にとって最大の敵に対して、僕が戦力になるのは大前提。そこを満たさない限り、話にならないよ。
僕はサラやシュテルみたいに、頭や人を使って活躍する才能はない。僕にあるのは、ただ戦いの才能だけ。
そうと分かっていて、何もできないなんてこと、あって良いはずがない。
少なくとも、僕はミレアルにただ負けるわけにはいかないんだ。
「いや、違うね。今の段階で妥協することなんて、自分に許して良いはずがないよ」
そうだね。今はまだ、ミレアルを倒すことを目標に本気で突っ走るべき。
「ミレアルはわざわざ時間をよこしたんだ。その間に、ただ強くなるだけ」
全力で強くなるのが、僕の役目だよ。レックス様に、少しでも楽をさせるために。
今度こそ、レックス様に助けられるだけではいられない。僕の力で、敵を打ち破ってみせないと。
全身全霊をかけて、初めて意味がある。ううん。全身全霊をかけたところで、結果が出なきゃ意味がないんだ。
いいかげん、ちゃんとレックス様のお役に立たなきゃ。そうじゃなきゃ、なんのために生きているのか分からないよ。
「レックス様と離れてでも……いや、違うか。レックス様を悲しませるのはダメだ」
僕の目的は、レックス様を幸せにすること。それだけは、間違えちゃいけないよ。
レックス様を傷つけてまでやるべきことなんて、僕にはない。甘い判断だと言われようと、そこは曲げたりしない。
そして、きっとレックス様が見てくれている方が、僕自身も強くなれるんだ。
レックス様の手が触れるだけで、優しい笑顔を向けてくれるだけで、元気いっぱいになれるんだから。その活力を全部ぶつけるのが、きっと正解。
僕とレックス様が一緒に幸せになれる、たぶん唯一の道だから。
「僕がそばにいることを、喜んでくれると信じられる。そんな人だからこそ……」
絶対に、笑顔にしたいんだ。幸せにしたいんだ。僕の生きる意味にできるんだ。
どんな未来でもずっと大好きでいてくれると、信じていられる。それがどんなに幸せなことか、きっとレックス様だからこそ分からない。
あの人は、当たり前に誰かを愛せる人だから。僕たちみたいに、人を疑うことが当たり前の存在じゃないから。
だって、あの父親ですら好きになれちゃう人なんだから。僕たちとは、何もかもが違う。
その輝きを、決して失わせはしない。レックス様のために。何よりも、僕自身のために。
「うん。僕はどこまでだって頑張れる。そうじゃなきゃ、嘘だよ」
恩と好意と、いくつかの素敵なもの。僕がもらったものを返すには、どれだけのことをしても足りない。
そうだとしても、少しでも返したいから。何よりも、レックス様に笑っていてほしいから。
「僕は、サラとシュテルの分も強くならなくちゃいけないんだから」
サラとシュテルが戦えないのは、構わない。その代わりに、別の大事な役割を果たしているんだから。
それよりも、僕の方が足りないくらい。戦いしか能がないのが、僕なんだから。
「役割分担するのなら、その役割で飛び抜けなくちゃいけないよね」
サラやシュテルが、人を使う道で飛び抜けているように。ジャン様やミルラさんが、誰にも負けない策を生み出せるように。マリンさんたちが、とんでもない道具を作り出しているように。
僕は、とにかく強くならなくちゃいけない。ずっと、変わらない結論。
「僕の気持ちは、レックス様と同じ。ミレアルに勝って、平和な日常を……」
レックス様と、ただ穏やかな時間を過ごす。そのために、強くなるんだ。
サラやシュテルも、他のみんなも一緒に。笑い合いながら、幸せな一瞬を輝かせるために。
「そうだね。もう迷っている時間なんてない。今すぐ、動き出さなくちゃ」
僕は、ただ剣を取る。どこまでも鋭く、素早く、何だって斬り裂けるように。剣に込めた願いを、その分の魔力で貫き通すために。
「レックス様の幸せが、僕の幸せ。もう、間違えないよ」
だから、レックス様。
一緒に、幸せになろうね。