物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
696話 役割の意義
女神ミレアルは、最終決戦のために準備期間を与えてきた。その間にできることを全力でこなすのが大事。
とにかく、俺たちの力を結集するしかない。余計ないがみ合いなんてしていれば、まず勝てない。万全の状態ですら勝ち目があるか怪しいほどの敵なのだから。
当面の方針としては、これまでの争いで受けた被害を立て直すこと。特に被害が大きいのは俺たちの住むレプラコーン王国なので、まずはそこから。
ということで、王女姉妹と話をすることにした。まずは現状を理解して、そこから方針を立てるという流れのために。
時間を取って、ふたりに通話を飛ばす。
「ミーア、リーナ。とりあえず、王国が現状抱えている問題を聞かせてもらえるか?」
「親世代が多く死んでしまったせいで、継承できていないものが多いのよね」
まあ、大規模な戦いが何度もあったからな。農民ですら兵卒として死んだ可能性はある。ミーアやリーナはそのあたりをよく知っているのだろう。
というか、実際に大勢の現役世代が死んでいるから問題が起きているのだろうが。
つまり、普通なら国が潰れてもおかしくない状況ではあるんだよな。
「職にあぶれた子供も多いというのが現状です。食料生産を私の魔法で解決したので、短期的に大きく雇用が減ってしまったんですよね」
リーナみたいに、魔法で大抵の問題を解決できなければということでもあったのだが。
食料生産を魔法でどうにかできるのなら、それだけで多くの問題が解決できる。生存権さえ確保されていれば、案外人間というのは鈍感なものだからな。
これが死人が出るレベルの飢えが広がっていれば、間違いなく暴動が起きていたのだろうが。起きていなかったとしても、国は立ちいかなかっただろう。
「まあ、確かに妥協点ではあるか。大きな食糧不足が起きるよりはマシだし」
「そういうことだわ。職にあぶれた子供という程度で、そこまで死んでいないのは救いよ」
なら、まあ立て直しはできる範囲なのか。魔法がなければ、普通に国として詰んでいてもおかしくなかった気もするが。
やはり知っている人から聞いてみるものだ。思った以上に深刻ではあったが、リカバリーもできそうに思える。
「急場の対策としては、良かったようだな。ブラック家だと、そのあたりが見えづらくてな……」
「邪神関連の被害は、ほとんど受けていないものね。ミレアルの対策も必要だったのだもの」
王国は、良くも悪くも王派閥と敵対派閥で被害の具合が違いすぎる。まあ、敵と味方で被害の差が大きいのは当たり前ではあるが。
そのあたりは、俺もかなり敵兵を殺していたからな。もう少し控えていればと思わなくもないが、だからといって他の手段があったかは怪しい。
そもそも、後悔したところでどうにもならないからな。現状から何ができるか考えるのが先だ。
「慰め合っていても仕方ありません。それに、現状は必ずしも悪くありません」
リーナとも気が合うようだ。まあ、最悪ではないだろうな。そもそも国の土台が崩壊するというような破滅的なレベルではない。リーナの魔法あってのものではあるが、まああるんだから構わない。
後に問題を先送りしている部分もあるにしろ、とにかく後先よりもミレアルの試練を乗り越えるのが先だ。その判断は、誰でも変わらないはず。
ひとまず、なにか案を出したいところだ。
「親がいずに職にあぶれているということは、教育する機会でもあるということか?」
「そういうことね。レックス君の学校もどきのようなことを、私たちでも実行したいの」
なるほど。短期的には犯罪を減らせて、長期的には人材が増えるということ。もともと、学校もどきも似たような思想で始めたものだからな。
まあ、主人公を敵に回したくなかったという理由もあったとはいえ。
結果論ではあるが、相当なファインプレーだった。ジュリアやサラ、シュテルみたいな生徒が直接成長したこともある。それだけでなく、ミルラを教師役として連れてきたのが秘書組が生まれたきっかけだし。
もっと言えば、研究組とのつながりもできた。あの一件から、とてもどころではない大きな成果が出ている。
同じほどの成果は期待しすぎだろうが、似たような効果は期待して良いはずだ。
「現状では、多くの拠点を作ることはできません。そうなってくると、レックスさんの転移も重要になります」
「なるほど。仕組みづくりも含めて、こちらからも人員を出さないといけないようだな」
「大変なのは分かるけれど、手を貸してくれると助かるわ。お願い、レックス君」
ミーアに頼まれたが、まあ基本的には受ける方向性で進めたい。というか、俺がいないと成立しないっぽいからな。
それで、学校もどきの人材から教師役というか指揮役を出したいところ。
せっかく俺たちにはノウハウがあるんだから、似たような失敗は避けたいし。車輪の再発明をしているほどの余裕はない。
「レックスさんが奴隷を集めた時と似たような手段になると思います」
魔道具工場を作って、そこで働く人員を集めた時の話だな。雇い主がいなくなった奴隷を転移させて、工場で雇う形になった。
同じように、孤児たちを探して転移させて、教育していくということ。
「分かった。拠点を作っておいて、転移で運んで教育をする。その流れでいいってことだよな?」
「ええ。魔法さえあれば、そう時間はかからないもの。レックス君さえ良ければ、すぐにでも動き出せるわ」
リーナあたりが建物を作ってしまえば、多くの手間をカットできる。公共事業のように雇用を生めないのは問題ではあるが、まあ今となっては時間をかけていられない。
とにかく、現状では速度が大事になってくるはずだ。10年を準備期間にかけられるとは思えない。そうなってくると、土台から固めている余裕はないんだから。
場当たり的な対処にならざるを得ないのは、状況を考えると仕方ないな。
「ところで、どんな教育をするんだ?」
「現状では、魔道具を作るための作業ですね。とりあえず手を動かせるのが強いかと」
なんか、思っていたのと違った。学校というより、職業訓練かもしれない。
だが、確かにそうなるか。ミレアルの試練までに環境を整える必要があるのだから、一から教育している時間はない。
「……まあ、現状ではそれが妥協点にはなりそうか」
「不満があったら、言ってくれていいのよ?」
ミーアから聞かれてしまった。不満というほどの不満ではないというか、納得はしているのだが。
まあ、ここで答えない方が不誠実だ。素直に言っておこう。
「いや、教育というからには、しっかりと生き方を教えるのかと思ってな」
「サラちゃんやシュテルちゃん、ジュリアちゃんみたいな子がいても、役人の枠はそう多くないもの」
確かに大事なことだ。そもそもホワイトカラーの仕事がそんなにないんだよな。となると、教育を受けたところでという話になる。
せっかく覚えたことのほとんどを使わないのなら、教育が結果的に歪みになりかねない。
高度な学習をしたのなら、単純作業なんかを嫌うかもしれないし。その観点でも、妥当か。
「ああ、それもそうか。高度な教育を受けても、それを活かす仕事がないんだな?」
「そういうことです。ですから、手に職をつけるという意味でも、ミレアル対策という意味でも、適切かと」
「分かった。なら賛成だ。そもそも仕事もないのに高度な教育をしても、お互い不幸になるだろうしな」
「じゃあ、こちらでは準備を進めておくわね!」
とりあえず、方針は決まった。さて、誰に頼むのが良いだろうか。話を聞きながら、しっかりと考えないとな。