物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
私と姉さん、ふたりでレックスさんと結婚するための策は、予定通りに進んだと言えるでしょう。レックスさんは、帝国どころか聖国や連邦まで手に入れたと言っても過言ではありません。
同時にレックスさんを狙う女が増えたのも、予定通りと言えてしまいますが。分かっていたことではありますが、腹立たしい気持ちはあります。
ただ、嘆いてばかりいる余裕はありません。レックスさんは、もはや自由に誰とでも結婚できるでしょう。本妻ならともかく、側室や妾という形の事実婚であれば、本当に誰とでも。
である以上、外堀を埋める形だけではレックスさんと結ばれるには足りないでしょう。いえ、王国でかけられる圧力では足りないというのが正確でしょうか。
いずれにせよ、レックスさんの立場が大きくなりすぎたのかもしれません。私が選ばれるだけの理由を示さなければ、未来は待っていないのです。
「今の私に足りないものは、純粋な力でしょうね……」
考えた結論は、それでした。王国には、もはや侵略で影響を拡大するという手段は許されていません。そんなことをしてしまえば、肝心要のレックスさんを敵に回してしまいますから。
そうであるならば、政治的立ち回りだけでレックスさんと結ばれるための道は遠いでしょう。王としての立場を持てる姉さんならともかく、私は単なる二番手でしかありませんから。
私は、それ相応の知恵を持っているという自負はあります。凡人とは比べることすらおこがましいと。
ですが、その程度でしかない。私たちが争っているのは、世界で一番を選ぶべき領域なんです。明確に上澄みだとしても、足りないどころか勝負の土台にすら立てないんですから。
知性で私の敵となってくるのは、レックスさんの秘書であるミルラさん。研究者として最高峰のマリンさん。政治的立ち回りで強みを持つニッカさんやピリカさん。
それらと比較して、確実に上とは言い切れません。むしろ、負けることの方が多いくらいでしょう。
権力という意味でも、各国の主には勝てません。王国は強い国ではありますが、飛び抜けた差があるほどではありませんから。
私はあくまで二番手ですから、身の程というものはわきまえています。
ならば、どうやって差をつけるか。私にある残りの才能としか言えませんからね。そう、魔法です。
幸い、
ミレアルの使徒には簡単にたどり着かれていますが、練度では差があると言い切って良い。
現状では、ミレアルの使徒が持っている最大の強みは数。単体では、私に遠く及ばないのは目に見えています。
「戦略という意味では、産業を拡大も破壊もできる。もはや望むことは少ないです」
土壌も天候も作物も鉱物も、あらゆるものに干渉できるんですから。王国で何度も実験をしていますが、私がその気になれば世界を滅ぼすこともそう難しくはないでしょうね。意味がないのでやりませんが。
純粋に役立てる方で考えても、あらゆる産業の生産性を大きく拡大できる。ここは、私の明確な強みです。
ですが、
結果として、戦略的資源としての私も特別とは言い切れない。そもそも、私は大規模にできるというだけで、
国家に影響を与えるほどに大規模となると、やはり
「最後に物を言うのは、やはりただの暴力。結論としては、そうならざるを得ません」
生産を拡大したところで、私を殺すなりなんなりすれば終わる話ではありますからね。魔法の属性は確実に遺伝するものではありませんから、国家の戦略として採用することも難しい。
次代のことを一切考えなくてよいのであれば、すべて私の影響下におけば済むのですが。
となると、最終的には魔法の役割は暴力装置となっていくんですよね。
「ミレアルに勝つためにも、必ず必要になるものです」
根本的に、力で上回らければどうにもなりません。ミレアルの機嫌をうかがいながら試練を乗り越えるだけでは、簡単に土台をひっくり返されてしまいますから。
神に勝てるのかという問題は、もちろんあります。サジタリウス聖国での戦いでは、魔法を使えなくされたという報告も受けていますから。
それでも、私は強くなるしかない。私自身の優位性を活かすのであれば、実質的に選択肢はひとつ。
私たちの争いで、苦手な道を選ぶということなど許されない。そんな甘えた考えでは、ただ追い抜かれ置き去りにされるだけ。
やりたいことをするなどという生ぬるい道を選べるほど、私には余裕はないんですから。
「レックスさんは、間違いなく最強。続いて、おそらくフィリスでしょう」
姉さんやミュスカさんも、最上位帯には入るでしょうね。おそらくは、ジュリアさんも。私が同様の強さを持っているとは、確実には言い切れません。
確かに研鑽を積み重ねてきましたし、いくつも新しい魔法を生み出しました。ですが、そんな簡単な話ではありません。
昨日の自分に勝っていれば良いなどというたわごとは、所詮はただ生きている程度の凡人にだけ許される話なんです。
私は、他者に勝たねば話にならないのです。どうでもいい凡人ではなく、世界の頂点に立つような相手に。
そんな状況で、努力しただのという言い訳など、甘えと言うことすらおこがましい。結果を出せないのなら、すべてが無意味でしかない。ゴミ以下でしかないんですから。
「話を聞く限りでは、エリナですら相当危険な強さを持っている。カミラも、同様に」
エリナはそもそも魔力を持っていない獣人。それでいながら、時間を切り裂くという剣技を編み出したそう。カミラも、
転じて、私はどうか。まだ、足りない。満足することなど、もはや怠慢ですらありません。
「
それで負けるのであれば、私には努力も信念も何もかもが足りていないという証なんですから。
私より属性の少ない相手に負けることなど、もはや大罪と言っていいでしょう。もっともっと、強くならねば土台にすら立てないんです。
「ただ純粋な強さこそが、名声にもつながっていく」
そして、レックスさんとの結婚にも。なんだかんだと言っても、人間というのは奪い争う生き物なんです。弱いままでは、ただ奪われるだけ。
「知性など、暴力のおまけにすぎません。力なくして成立しないもの」
どれだけの難題を解いたところで、ナイフで刺されてしまえば終わるのが知性なんですから。それを許さないだけの力を、自分で持つか外部に委託するか。それだけの違いでしかありません。
国家が暴力によって平和を守ることで、知者は生きることが許される。そういう仕組みなんです。
「であるならば、やはり修練は止められませんね……」
これまでのように、魔力をすべて吐き出し続けるのは大前提です。魔力なんていうものは、いくらあっても足りないくらいなんですから。
「たとえ地獄のような苦しみを受けるとしても、負けるわけにはいかないんです」
魔力が尽きる時には、全身が絞り尽くされるような痛みを味わいます。それで止まるようならば、私はレックスさんにはふさわしくなれない。
それどころか、ただ痛みで満足して終わっていれば笑い話にすらなりません。
強くなり、敵に勝って初めて私の人生は意味を持つんです。ですから、魔力だけでなく、私の知性も限界まで振り絞るべき。
私の愛が本物なら、やって当然です。できて当然です。
「レックスさんだけが、私という人間そのものを必要としてくれていた。立場でも能力でもなく」
姉さんは、妹である私を愛している。他の人間は、王族であることや
レックスさんだけが、ただ私を必要としてくれていた。目の前にいる人間として、それだけで。
ならば、絶対に私はレックスさんと結ばれてみせる。他の人で妥協なんて、できるはずありません。
「だからこそ、立場も能力も必要になってしまう。皮肉なものですね」
レックスさんと釣り合いを得るためには、ただの凡人では許されないのですから。それどころか、単なる天才程度で収まっていても足りません。
世界の頂点と並び立つということは、そういうことなんです。
生まれ持った才能と、妥協なき努力。2つがそろったとしても、普通は足りない。暗闇を進むより、よほど大変なこと。
「ですが、構いません。目の前に、道は見えているのです。ただ進むだけ。なんて簡単なんでしょう」
そう。ただ進むだけ。迷いなく、まっすぐに。私のたどり着くべき場所は、分かりきっている。
「誰だってひれ伏すだけの力を、私は手に入れてみせますから」
そして、あなたにふさわしくなってみせますから。どんな障害だって、ただ粉砕してみせるだけです。
他ならぬ、レックスさんのためだけに。